これを言う人ってよく見かけるけど、さて正解でしょうか?不正解でしょうか?
道路交通法 第20条(車両通行帯)
第3項「(前略)この場合において、追越しをするときは、その通行している車両通行帯の直近の右側の車両通行帯を通行しなければならない。」
この条文を作文した人は、このとき、「ただし自転車を追い越すときを除く」の文の入れるのを忘れちゃったんですね。
— 加藤直之(スタジオぬえ)SFイラストを描いてます。 (@NaoyukiKatoh) January 30, 2023
根本的な勘違い
まあこういう意味ですよね。
確かに道路交通法を読む限り、この方の意見は正解なように思える。
第二十条
3 車両は、追越しをするとき、第二十五条第一項若しくは第二項、第三十四条第一項から第五項まで若しくは第三十五条の二の規定により道路の左側端、中央若しくは右側端に寄るとき、第三十五条第一項の規定に従い通行するとき、第二十六条の二第三項の規定によりその通行している車両通行帯をそのまま通行するとき、第四十条第二項の規定により一時進路を譲るとき、又は道路の状況その他の事情によりやむを得ないときは、前二項の規定によらないことができる。この場合において、追越しをするときは、その通行している車両通行帯の直近の右側の車両通行帯を通行しなければならない。
つまり、これが違反になるかのように読み取れます。
ただまあ、ここからが根本的な勘違い。
車両通行帯は規制標示なので、公安委員会が車両通行帯だと意思決定した片側二車線以上の道路のみが車両通行帯(交通法4条、2条1項7号、令1条の2第4項、標識令等)。
車線境界線(区画線)を車両通行帯(規制標示)とみなす法律もないし(交通法2条2項、標識令7条)、実態としては自転車が通行可能な道路に車両通行帯なんてほぼ存在しない。
車両通行帯が存在するのは、基本的に以下のみ。
・進行方向別通行区分
・進路変更禁止
など「上乗せ規制がある場所」
例えば幹線道路の国道16号相模原。
車両通行帯があるのは、イエローラインで進路変更禁止規制と進行方向別通行区分が描いてある「交差点手前のみ」。
それ以外の片側三車線部分は車両通行帯としての意思決定がされておらず(確認済み)、「車両通行帯がない道路」になってしまう。
片側三車線ですが、この道路には車両通行帯はありません。
ごくまれに「上乗せ規制」がなくても車両通行帯になっている場合もあるけど、ほぼ全てのケースで上乗せ規制がない場所には車両通行帯が存在しない。
なので、これって違反にならないのよね。
「車両通行帯(上乗せ規制)」がない限りは。
もちろん側方間隔が足りない危険な追い越しや追い抜きについては、28条4項もしくは70条の違反になります。

謎の道路交通法改正
昭和46年の道路交通法改正時に、区画線を規制標示とみなす規定(交通法2条2項、標識令7条)が出来たのですが、
・歩道がない場合の車道外側線(区画線)→路側帯線(規制標示)
これら2つが規定されてます。
昭和46年改正では、国会議事録や当時の警察庁の説明では以下も予定していたことがわかります。
しかしなぜか車線境界線を車両通行帯とみなす改正だけが見送りに。
この理由を調べても、イマイチいい資料はありませんでした。
まあ、昭和45年に自転車の歩道通行が解禁されるなど当時の状況から推測されるものはありますが。
自動車専用道路の場合は原則として車両通行帯になってますが、道路管理者と公安委員会の調整ミスがあるとこうなる。
さいたま簡易裁判所は,平成23年4月21日,「被告人は,平成20年11月18日午後4時35分頃,埼玉県三郷市栄1丁目386番地2東京外環自動車道内回り31.7キロポスト付近道路において,普通乗用自動車(軽四)を運転して,法定の車両通行帯以外の車両通行帯を通行した。」旨の事実を認定した上,道路交通法120条1項3号,20条1項本文,4条1項,同法施行令1条の2,刑法66条,71条,68条4号,18条,刑訴法348条を適用して,被告人を罰金6000円に処する旨の略式命令を発付し,同略式命令は,平成23年5月7日確定した。
しかしながら,一件記録によると,本件道路は,埼玉県公安委員会による車両通行帯とすることの意思決定がされておらず,道路交通法20条1項の「車両通行帯の設けられた道路」に該当しない。したがって,被告人が法定の車両通行帯以外の車両通行帯を通行したとはいえず,前記略式命令の認定事実は,罪とならなかったものといわなければならない。
そうすると,原略式命令は,法令に違反し,かつ,被告人のため不利益であることが明らかである。
最高裁判所第二小法廷 平成27年6月8日
この手の公安委員会の指定漏れは時々報道でも出ます。
埼玉県警は20日、県内の交差点3か所で、原付きバイクが「2段階右折」をしなかった違反342件について、正式な手続きを経ないまま摘発していたと発表した。
県警交通規制課によると、道路交通法で原付きバイクは、片側3車線以上の道路を右折する際などには2段階右折をしなければいけない。ただ、県警が交通取り締まりを実施する際には、県公安委員会の決定を受けた上で、現場の規制を行う必要がある。
しかし、和光市と新座市にある計3か所の交差点で、県公安委の決定がないまま、原付きバイクの2段階右折について取り締まりを実施していたことが、昨年8月頃に判明。この3か所では記録が残る2012年以降、342件を摘発していた。
正式手続きせず、原付きバイクの「2段階右折」342件を摘発【読売新聞】 埼玉県警は20日、県内の交差点3か所で、原付きバイクが「2段階右折」をしなかった違反342件について、正式な手続きを経ないまま摘発していたと発表した。 県警交通規制課によると、道路交通法で原付きバイクは、片側3車線以上
民事の場合、原告と被告の双方が「車両通行帯」だと主張すれば、車両通行帯だという前提で判決に至ります。
これは裁判のルールなので、本来は車両通行帯がなくても当事者間で争いがなければそのまま認定されるから。
争う場合には、「車両通行帯がある」と主張する側に立証責任があります。
なお車両は車両通行帯の設けられた道路においては、道路の左側端から数えて1番目の車両通行帯を通行しなければならない(道路交通法20条)が、本件道路について、車両通行帯(同2条1項7号)が設置されていることを示す証拠はない(車線境界線は、直ちに車両通行帯になるわけではない)し、右折を予定していたことを踏まえると、ただちに左側寄り通行等の規制に反していたともいい難い。
そうすると、被告において第2車線を走行していたこと自体に何らかの過失を見いだすことも困難といえる。
名古屋地裁 平成26年9月8日
一般道でひたすら第二車線を通行しても通行帯違反にならない理由は、そもそも車両通行帯がないから。
自転車が第1通行帯の外側(路肩側)を走っても問題にならない理由は、そもそも車両通行帯ではないからなんですよね。

ちなみに下記の「直進時に第1車線で右寄り」を通行可能な理由は、交差点手前までは車両通行帯がないので左側端通行義務があるものの(18条1項)、交差点手前30m程度は進行方向別通行区分(車両通行帯)があるから。
車両通行帯があるなら、20条1項により第1通行帯の中なら位置の指定がない。
都合よく捉えるか?改正を目指すか?
車両通行帯の話って都合よく捉えるだけのしょうもない人もいますが、道路交通法って自転車には圧倒的に不利に作られているわけで、改正を目指す方向じゃないと変わらない。
昭和46年改正時に、なぜ車線境界線を車両通行帯とみなす改正だけが見送りになったのか、そこに何らかの問題があると思うのですが、当時の国会議事録や警察庁の資料をみても車線境界線を車両通行帯とみなす改正を目指していたことが伺えます。
頓挫した理由についてはイマイチ明確な資料はありません。
追い越し時の側方間隔にしても、判例上は目安が確立しているにもかかわらず、現実としては事故が起きない限りは問題にすらならない。

なぜなのかについてもなんとなく理由は見えてきましたが、控えます。
アホルールとアホ運用の中で自転車に乗れば、そりゃトラブルが起きたら大変ですよ。
なので冒頭の件。
そもそも、「片側複数車線≠車両通行帯」な上、上乗せ規制がない場所に車両通行帯があること自体が極めてマレ。
なので車両通行帯が「ない」以上、隣の通行帯から追い越しするルールも適用されない。
上乗せ規制がなく車両通行帯になっている場合もありますが、調べた範囲では
中央分離帯があり、道路外に右折不可能な道路の一部でマレに車両通行帯になっている
たぶんこんな感じ。
マニア以外には分からない状況になっているのが道路交通法のダメなところ。
警察官でも、「交通規制課」の人は理解していても、「交通指導課」になるとあやふやになっていたりする。
マニア以外には分からない状況になっている時点で、一般市民に密接であるはずの道路交通のルールとしては破綻しているとしか思えませんが。
車両通行帯の有無にかかわらず、安全な追い越しをしてほしいのは全自転車乗りの要望です。
近い、被せ、著しい高速度などで追い越しや追い抜きしたら、安全なわけがない。
適切な側方間隔、被せない、十分な減速が必要なのは現行規定からも明らかなのに、ザル法とザル運用がね。

2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。
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