こちらの最終回です。
スイスの今と昔
まずおさらいから。
以下、1977年9月の「人と車」(全日本交通安全協会)からの引用や抜粋になります。
・当時のチューリッヒには3705箇所の横断歩道があり、年間600~700件の歩行者事故が起きていた。
・当時のスイスでは歩行者が優先権を得るには、手で合図するか、横断歩道に足を踏み入れるかして、横断の意思を行動によって示さなければならないルールだった。
・今のルールを見る限り、歩行者が合図する義務はない。
・「モルモット歩行者」を使い5パターンの行動を取らせた。
パターン | 停止率 | 通過率 |
1 | 0% | 100% |
2 | 0% | 100% |
3 | 0% | 100% |
4 | 20% | 80% |
5 | 31% | 69% |
歩行者のルールである「合図」(具体的には手挙げ)や横断歩道に足を踏み入れただけでは停止率が0%。
この実験ですが、チューリッヒ警察とチューリッヒ応用心理学研究所の共同で行われたようですが、それぞれの結果に対し心理学的な考察を入れてます。
書きませんので、くどいですが気になる方は直接読みましょう笑。
最も停止率が高かったのはパターン5。
横断歩道の縁石線まで歩いていき躊躇いがちに横断歩道に足を踏み入れて、車のほうを向いて手を挙げて合図する
その上で。
一番最初の記事でも書いたように、現在のスイスのルールをみても歩行者の合図義務はむしろ削除されています。
パターン5に対する解釈としてこのように書いてあります。
手による合図とともに横断歩道に足を踏み入れることによって、運転者への意思伝達がさらに強化される。すなわち、このような意思表示は、切迫した危険(横断歩道に走り込むかもしれないという危険)を暗示するので、運転者の決意に影響を及ぼしていることが認められる。
「横断歩道で運転者は一時停止するか」、人と車、全日本交通安全協会、1977年9月
けど、その後ルールとしては「歩行者の合図」を削除している。
結局のところ、歩行者側にルールを定めたとしてもドライバーは「無視する」ということがデータ上明らかになった以上(停止率0%)、歩行者の問題ではなく運転者へのアプローチで解決したとしか思えませんが、その後の具体的なアプローチは不明です。
おそらくはこれを自覚させていったのだと思いますが。
運転者といえども一たん駐車すればたちどころに歩行者になるということ
「横断歩道で運転者は一時停止するか」、人と車、全日本交通安全協会、1977年9月
パターン4だけでも18000件超の調査数なので、それぞれ同じくらい調査したとすると9万件以上になるんですよね。
チューリッヒ市内だけの調査なのに。
JAFは…おっとやめときますね笑。
推測するに
根拠がない推測になりますが、交通の方法に関する教則から「手挙げ横断」が削除されたのが1978年。
上の調査結果が日本の雑誌で公開されたのは1977年。
無関係とも思えず。
全日本交通安全協会というのも、元々は警察庁の所管だったみたいだし。
それはさておき、結局のところスイスは「歩行者側の合図義務」では解決しないとわかり、合図義務よりも運転者へのアプローチで解決したのだろうと読み取れます。
停止率0%連発するくらいですから…
そもそも交通の方法に関する教則から「削除された経緯」が不明という時点でまあまあ驚きなんですが、なぜ新設したか、なぜ削除したかの経緯って結構大事だと思うんですね。
その時代になぜ新設し、なぜ削除したかのかがわからないままだと、同じことを繰り返すだけになる可能性があるので。
それこそ「自転車税を導入しろ!」という人は、昭和33年に自転車荷車税が廃止された経緯を考えなよと言いたいし、歴史からみないとわからないことは多々あります。
そういや、「道路交通法38条1項は横断歩道が赤信号でも義務がある」などと寝惚けた発言を繰り返した人は、理解できたのかな?
あえてツッコミ入れなかった視点もいくつかありますが、そもそも彼、信頼の原則を理解してないところに無理がある。
ということで、スイスの今と昔でした。
詳しくは1977年9月の「人と車」(全日本交通安全協会)をどうぞ。
2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。
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