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なぜそうなる妨害運転。無処罰は妥当なのか?

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ちょっと前に、自転車が危険な追い越しをされたと話題になっていましたが、

 

自転車への危険追い越し、法の不備では?
定期的に似たような事案がTwitter上に上がりますが、 法の不備なのか? 警察の怠慢なのか? 自転車への危険追い越し この場合、追いついてから「わずかに」進路を変えているので追い越しとみなせますが、 (追越しの方法) 第二十八条 4 前三...

 

正直なところ、こうなると思ってました。

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執拗性とは?

妨害運転罪(道路交通法117条の2の2第1項8号)はこのように規定しています。

第百十七条の二の二
八 他の車両等の通行を妨害する目的で、次のいずれかに掲げる行為であつて、当該他の車両等に道路における交通の危険を生じさせるおそれのある方法によるものをした者

「他の車両等の通行を妨害する目的」とありますが、いわば目的犯。
自動車運転処罰法の危険運転致死傷罪にも同様の表現がありますが、

(危険運転致死傷)
第二条
四 人又は車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の直前に進入し、その他通行中の人又は車に著しく接近し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為
五 車の通行を妨害する目的で、走行中の車(重大な交通の危険が生じることとなる速度で走行中のものに限る。)の前方で停止し、その他これに著しく接近することとなる方法で自動車を運転する行為

危険運転致死傷罪を創設した当時の説明で、「通行妨害目的には積極的意図が必要で未必的な認識では足りない」という説明がなされている。
ただし後述しますが、確定的認識については言及していない。

 

妨害運転罪の中には「28条4項」が含まれますが、

(追越しの方法)
第二十八条
4 前三項の場合においては、追越しをしようとする車両(次条において「後車」という。)は、反対の方向又は後方からの交通及び前車又は路面電車の前方の交通にも十分に注意し、かつ、前車又は路面電車の速度及び進路並びに道路の状況に応じて、できる限り安全な速度と方法で進行しなければならない。

「できる限り安全な速度と方法で進行しなかった」=危険な追い越しとも言えますが、法は「危険な追い越し」(28条4項の違反)と「妨害する目的での危険な追い越し」(28条4項の違反による妨害運転罪)を分けている。
「できる限り安全な速度と方法で追い越ししなかったこと」(119条1項6号)と「妨害する目的でできる限り安全な速度と方法で追い越しせず、交通の危険を生じさせるおそれのある方法だったこと」(117条の2の2第1項8号)の区別をどうするのか?という話になります。
どちらも故意の処罰規定。
そもそも、どちらも危険な追い越しであることには変わりないわけですが、法は両者を区別している。

 

28条4項違反の故意とは、先行車を認識していれば足ります。

執拗性というのは、要は「妨害する目的」について積極的意図の有無を分ける明確な基準ということ。

○武田国務大臣 今回の改正で創設することとしておる妨害運転罪は、その要件として、御指摘のように、他の車両等の通行を妨害する目的を規定をいたしております。これは、例えば、単に先を急ぐため他の車両の前に割り込んだような事例を処罰対象から除外し、処罰対象を真に危険かつ悪質なものに限定するために規定したものであります。
この目的につきましては、個別の事案に応じて、ドライブレコーダーや防犯カメラの映像、現場に残されたタイヤ痕、車両の損傷状況、目撃者、被害者及び加害者の供述などのさまざまな証拠に基づいて、加害者の具体的な運転態様等のさまざまな事実を明らかにしつつ、立証することになろうかと思います。

 

第201回国会 衆議院 内閣委員会 第15号 令和2年5月29日

 

妨害運転罪の判例自体まだ少ないですが、

・警音器を執拗に鳴らし接近を繰り返したクルマの事例(秋田地裁 令和3年5月26日、神戸地裁 令和3年1月7日等)
・自転車のひょっこりさん(さいたま地裁 令和3年5月17日)

 

どれも「執拗に」違反行為を繰り返した事例。
ひょっこりさんについても、何度もやってましたもんね。

 

結局、「積極的意図」について警察も検察もまだ慎重になっているような気がしますが、そもそも、妨害運転罪ではない「追い越し違反」自体も成立しないと解釈する警察の姿勢に問題があるように感じます。

 

「できる限り」なんて規定にするから、具体的事故が発生しないと動かない。
ザル法とザル運用のダブルパンチなので、こうなる。

 

なお、当該事案については妨害運転罪として十分成立しうるとは思いますが、こんなのでも不起訴。

東名高速道路を走行中に車の前に相次ぎ割り込んで停車し、3台の車を妨害したとして、道交法違反(あおり運転・著しい危険など)の疑いで神奈川県警に逮捕されたさいたま市の無職男性(57)について、横浜地検は28日、不起訴処分にした。理由は明らかにしていない。

 

東名であおり運転、車3台妨害疑いの男性不起訴 横浜地検(カナロコ by 神奈川新聞) - Yahoo!ニュース
東名高速道路を走行中に車の前に相次ぎ割り込んで停車し、3台の車を妨害したとして、道交法違反(あおり運転・著しい危険など)の疑いで神奈川県警に逮捕されたさいたま市の無職男性(57)について、横浜地検

執拗に停止させ「妨害目的なのは明らか」ですが、起訴するしないは検察官の独占主義ですので。
この国の妨害運転罪とは、いつ成立するのやら。

 

なお、「通行を妨害する目的」については以下の判例があります。

 

これらの事実に照らすと,被告人が,車体の半分を反対車線に進出させた状態で走行し,C車両を追い抜こうとしたのは,パトカーの追跡をかわすことが主たる目的であったが,その際,被告人は,反対車線を走行してきている車両が間近に接近していることを認識していたのであるから,上記の状態で走行を続ければ,対向車両に自車との衝突を避けるため急な回避措置を取らせることになり,対向車両の通行を妨害するのが確実であることを認識していたものと認めることができる。
ところで,刑法208条の2第2項前段にいう「人又は車の通行を妨害する目的」とは,人や車に衝突等を避けるため急な回避措置をとらせるなど,人や車の自由かつ安全な通行の妨害を積極的に意図することをいうものと解される。しかし,運転の主たる目的が上記のような通行の妨害になくとも,本件のように,自分の運転行為によって上記のような通行の妨害を来すのが確実であることを認識して,当該運転行為に及んだ場合には,自己の運転行為の危険性に関する認識は,上記のような通行の妨害を主たる目的にした場合と異なるところがない。そうすると,自分の運転行為によって上記のような通行の妨害を来すのが確実であることを認識していた場合も,同条項にいう「人又は車の通行を妨害する目的」が肯定されるものと解するのが相当である。
3 以上からすると,被告人には,対向車両の通行を妨害する目的があったということができるから,その目的を肯定して,被告人に刑法208条の2第2項前段の危険運転致死罪の成立を認めた原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りはない。

 

東京高裁 平成25年2月22日

「積極的意図」と「確定的認識」では差がないことを指摘している。

 

いわゆる逆走については、同様に解する判例があります。

本件事故当時、対向車線には相応の交通量があり、被告人がこれを認識できなかったというような事情も窺えない。そうすると、被告人は、対向車線に自車を進出させれば、対向車の通行を妨害することになることは当然認識していたというべきである。
(中略)
このような場合、被告人は、自らの運転が、対向車両に自車との衝突を避けるため急な回避措置を取らせることになり、対向車両の通行を妨害するのが確実であることを認識していたものと認め

 

熊本地裁 令和元年12月20日

なので、「積極的意図」が立証困難でも「確定的認識」さえ立証出来れば済むのかなと考えますが、そもそもの「追い越し違反」すら認定できないあたりが残念としか。

そういや

以前、バスに幅寄せされたとかで騒いでいた人にしても不起訴だそうですが、そもそも暴行罪の適用にしても解釈を理解していない人もいるし、この国における自転車の未来は暗い。
検察は明らかに「確実に有罪にできる事件」を選んで起訴しているから、有罪率99%以上という奇跡的な数字を達成する。
無罪になりうる事件は起訴してない。

 

側方間隔に具体的数値規定がないこと自体に問題があるんですよと以前から書いてますが、いつまでも同じことの繰り返しにしかならないのですよ。
現行法の枠組みでは。

 

この件についてはいろいろと思うところはありますが、起訴は検察官の独占権な上、刑罰規定が重い妨害運転罪の適用には慎重にならざるを得ない。
なお、当該事案については妨害運転罪の適用にすべきとは思いますが、そもそも、妨害運転罪ではない追い越し違反として

「できる限り安全な速度と方法で追い越ししなかったこと」(28条4項の故意犯、119条1項6号)

すら適用しない点に問題があるのであって、妨害運転罪以前の問題。

 

これらで認められた「業務上の注意義務違反」って、そのまま道路交通法違反として適用しても問題ないはずなんだけどな。

 

○刑事責任

裁判所 自転車の動静 車の速度 側方間隔 判決
広島高裁S43.7.19 安定 40キロ 約1m 無罪
東京高裁S45.3.5 安定 30キロ 1~1.5m 無罪
最高裁S60.4.30 不安定 約5キロ 60~70センチ 有罪
高松高裁S42.12.22 傘さし不安定 50キロ 1m 有罪
東京高裁 S48.2.5 原付二種 65キロ 0.3m 有罪
仙台高裁S29.4.15 酒酔いふらつき 20キロ 1.3m 有罪
札幌高裁S36.12.21 安定 35キロ 1.5m 無罪
高松高裁S38.6.19 子供載せ 約42センチ 有罪
仙台高裁秋田支部S46.6.1 45キロ 20~40センチ 有罪
福岡高裁S47.11.13 自動2輪車 40キロ 1m 無罪
東京高裁S33.3.5 左側端に砂利が堆積 17キロ 70センチ 有罪

※これらは側方間隔のみで有罪、無罪にしたわけではない。
1m+減速と解釈している判例や、フラツキ自転車には1.3mでも足りないとした判例など。

 

自転車への側方間隔はどれくらい空けるべき?判例を検討。
先行する自転車を追い越し、追い抜きするときに、側方間隔が近すぎて怖いという問題があります。 これについて、法律上は側方間隔の具体的規定はありません。 (追越しの方法) 第二十八条 4 前三項の場合においては、追越しをしようとする車両(次条に...

 

あとはどこまでしたいか?

今回の方がどのように警察と交渉したのかは知りませんが、こういうのって判例を一緒に提示すると警察的にも無視できなくなるので、追い越し、追い抜き時の側方間隔に関する判例をいくつかと、上で挙げた「通行妨害目的」の東京高裁判例でも一緒にするだけでも対応は変わります。

 

東京高裁S48.2.5や仙台高裁秋田支部S46.6.1判決あたりですかね。
どこまでしたいか?については人それぞれ違うと思うのですが、残念ながら警察が渋るのは普通だし、犯罪捜査規範がどうのこうの言ったところで変わらない。
普通に根拠を提示すりゃ、当初「お断り」だった案件も受理されるもんですよ。

 

ただし、検察が起訴するかについては別問題。
なので、労力を掛ける価値があるかないかは人それぞれ判断が違うだろうけど。
なお、民事のほうがむしろハードルは高いと思われます。
因果関係の立証が難しいので。

 

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けど、「通行妨害目的」のために「執拗性」を条件に挙げているのは、目的犯と通常の違反を区別するために「積極的意図」が必要だとした立法府や裁判所の見解なので、警察なりには間違っているわけではない。
たぶん、法解釈上、警察庁から指示が出ているとかでしょうし。
警察がそこから一歩踏み出せるかどうかでしかないのですが、一歩踏み出せるようにしてあげるかどうかなんだよね。


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