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自転車用ヘルメットの法的な定義はない。

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自転車ヘルメットの努力義務が「全年齢」に拡大されて2ヶ月ちょっと経ちました。

(自転車の運転者等の遵守事項)
第六十三条の十一 自転車の運転者は、乗車用ヘルメットをかぶるよう努めなければならない。
2 自転車の運転者は、他人を当該自転車に乗車させるときは、当該他人に乗車用ヘルメットをかぶらせるよう努めなければならない。
3 児童又は幼児を保護する責任のある者は、児童又は幼児が自転車を運転するときは、当該児童又は幼児に乗車用ヘルメットをかぶらせるよう努めなければならない。

私自身、ママチャリに乗るときには必要性を感じないので被りませんが、ロードに乗るときには被ります。

 

ただまあ、だいぶ「努力義務」を勘違いしている人がいるのが事実。
そして「そのヘルメットでは法的に認められない」などと珍説を語る人も。

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乗車用ヘルメットの定義はない

オートバイや原付用ヘルメットについては、道路交通法施行規則9条の5に基準が定められていますが、

(乗車用ヘルメット)
第九条の五 法第七十一条の四第一項及び第二項の乗車用ヘルメットの基準は、次の各号に定めるとおりとする。
一 左右、上下の視野が十分とれること。
二 風圧によりひさしが垂れて視野を妨げることのない構造であること。
三 著しく聴力を損ねない構造であること。
四 衝撃吸収性があり、かつ、帽体が耐貫通性を有すること。
五 衝撃により容易に脱げないように固定できるあごひもを有すること。
六 重量が二キログラム以下であること。
七 人体を傷つけるおそれがある構造でないこと。

施行令、施行規則ともに「道路交通法63条の11の乗車用ヘルメットの基準」は規定がありません。
法律上の基準がないので「法的に認められたヘルメット」自体が存在せず、逆にいえば「法的に認められないヘルメット」という考え方がおかしい。
認める、認めないと線引きする法律がないのだから。
63条の11は「努力する義務」を定めたに過ぎないので法律を守る、守らないという部分についても被ってないから守ってないとは当然言えない。

 

努力義務とは何ら法的義務や法的効果を発生させないし、そもそも「自転車の乗車用ヘルメット」の定義すらない。
なので「法的に認められない」というのも、そもそも「認められる」「認められない」という発想自体が的外れでしょう。

 

ところで、民事責任上ではヘルメットの有無が関係する可能性はあります。

民事責任上のヘルメット

民事責任は加害者と被害者間における「当事者間の私法関係」なので、当事者同士が同意するなら50:50が相場の事故を100:0にしても構いません。
どこかの日本国は、ある事件について「認諾」することで裁判を強制終了させてましたもんね。

 

ところで、ヘルメットの有無が民事責任上関係する可能性は今後ゼロではありません。
この考え方は損害拡大防止義務違反というもので、要は「ヘルメットを被っていれば頭部の損害が小さかったよね?」という発想から過失相殺するもの。

 

古くは、原付のヘルメットが努力義務だった時代にヘルメットの有無から過失相殺した判例があります(大阪高裁 昭和63年9月30日)。
ただし同判例については、人身損害部分のみをノーヘルにて過失扱いし、物損部分には過失扱いしていない。
これはある意味では当たり前で、物損部分についてはヘルメットの有無が関係しないからかと。

 

自転車ヘルメットの「努力義務化」は、事故時の過失割合に影響するか?判例から検討。
自転車ヘルメットの「努力義務化」によって、事故に遭った際にノーヘルが過失になる可能性があるという報道がいくつか出ています。 実際のところ既にいくつかの自治体では「ヘルメットの努力義務」が定められていますが、判例から検討してみます。 ノーヘル...

 

自転車については、今年4月以前は幼児等に「努力義務」がありましたがノーヘルを過失とはしていない。

児童・幼児の保護責任者に対し、なお、道路交通法63条の11(本件事故当時は平成25年法律43号による改正前の同法63条の10)は、努力義務として、当該児童・幼児のヘルメットの着用を定めているにすぎないし、本件事故当時、児童・幼児の自転車乗車時のヘルメット着用が一般化していたとも認められないから、ヘルメットを着用していなかったことを不利に斟酌すべき過失と評価するのは相当でない

 

神戸地裁 平成31年3月27日

結局のところ、民事責任上の過失とみなすかについても「一般化していたかどうか?」を判断基準にする。
法律上努力義務として明記されていても、それが一般化していたかどうかが判断基準。

一応、自転車のノーヘルを過失扱いにした判例もあるにはありますが、ロードバイクだったことが考慮されている可能性があるので現時点では「例外的」かと。

 

そんな扱いなので「法的義務」であるはずの「左側通行義務(17条4項)」ですら「自転車同士は五分五分だ!」なんて判決に至るわけですが…
確かに、逆走する自転車はよく見かけますよね。
いまだに左側通行が「一般化」してない扱いなのもどうかと思うけど。

足踏み式自転車においては、左側通行が徹底されているとはいえない現状であること、足踏み式自転車においては通常速度がそれほど速くないことから、自己の進路上に対向する足踏み式自転車が存在したとしても、停止や回避の措置により衝突を回避することは極めて容易であることなどを考慮すると、本件道路のような狭路で自転車が正面衝突した場合、過失割合は、基本的には五分五分と考えるべきである。

 

大阪地裁 平成28年9月16日

「徹底されていない」→一般化されていない→逆走自転車と順走自転車が衝突しても五分五分になるという摩訶不思議な民事責任。
ヘルメットについても同様に、「一般化していたかどうか?」が判断基準になると考えられるのですが、仮にですよ。

 

何らかの機関が認定したヘルメットと、そうではないヘルメットがあるとして、事故に遭ったときに「被害について」どれくらい差が出るのかについて立証できなければ、非認定ヘルメットだからと過失にすること自体が困難でしょう。

 

法的には「自転車ヘルメット」の基準がない以上、「法的に認められたヘルメット」なんてものはないし、逆に言えば「法的に認められないヘルメット」もない。
基準がないので認めようもないし、認めないという判断すらできない。
そもそも努力義務なので守る、守らないもない。
民事責任上も今のところは関係ない可能性がかなり大きい。

 

むしろなぜ、「法的に認められない」などと間違った認識を広めるのか不思議です。
法的に認められたヘルメット自体が存在しないにもかかわらず。

 

一部の自転車保険では、認定ヘルメットを被っていた場合に有利に扱う規定があるらしいけど、それは保険会社と契約者間の私的契約なので契約者が有利に扱うことを希望するなら認定ヘルメットにすればよい。

イマイチ理解しがたい

ヘルメットの必要性については人それぞれ考える問題なのですが、「自転車ヘルメットの基準」については何ら法律上の規定がないのに、「法的に認められる」「法的に認められない」などと語る人のセンスは理解しがたい。

 

しかし、このように「存在しない法的基準」を使って「法的に認められないヘルメット」と認定しては非難する人すらいかねないので、そういう意味では面倒ですな。

 

ところで、自転車用ヘルメットとして何らかの機関が認定したものと、何ら認定していないものではどの程度「性能差」があるのかはわかりません。
一般的な感覚としていえば、何らかの機関が認定した「自転車用ヘルメット」のほうが防御性能は高そうな気がしますが。

 

けど、「法的に認められた」とか「法的に認められない」などとミスリードするのはちょっと違うだろと思うのです。
単純に防御性能に差がある話ならまだわからなくもないが、法律上何ら基準がない以上は「法的に認められたヘルメット」もない。
なぜインターネット上ではおかしな論調が広まるのか理解しがたいですが、自転車用ヘルメットってそもそも万能ではないしかぶっていたら無敵の人になるわけもない。

 

「過失になるからヘルメットをかぶる」みたいに考えるのはそもそも的外れだと思っていますが、必要性を感じた人が必要性に応じたヘルメットをかぶればいいだけでしょう。
ヘルメットについては「法的な線引き」が存在しない以上、認められるも認められないもないのだから。

 

ただまあ、自転車に乗るために新たにヘルメットを買うなら、当然「自転車用」をオススメします。
家にたまたま違う目的のヘルメットがあってそれを被るというなら、それは好きにすればよい。
わざわざ今さら、自転車に乗るために工事現場用ヘルメットを買う理由もないし。


コメント

  1. カモがネギしょってる より:

    たしか自転車用の規格はありますよね。そうでなければSGマークとか付けられないと思いますし。用途に適さないヘルメットは被害を拡大させることもあるので、身を守るためなら専用のものを被るべきですよね。ちなみに、頭の側面を打つ事故は危険性が高いのですが、ママチャリはスポーツバイクと比べて、乗車姿勢なのか、自転車の構造の問題なのか、頭の側面を強打するパターンが多いみたいです。

    • roadbikenavi roadbikenavi より:

      コメントありがとうございます。

      法的な定義がないだけで、業界的な基準はあるというところでしょうか。
      ちなみにですが、専用品がベストなことはもちろんですが、専用品を買うのはちょっと…と思いつつも家に「非専用ヘルメット」があったからそれで代用しようみたいな状況があったとして、非専用ヘルメットだから非難されるのも違うんじゃないか?という趣旨です。
      わざわざ非専用ヘルメットをこれから買いにいくならどうかと思います。

      たまたま家にアメフト用ヘルメットがあったから代用しよう…みたいな人がいるのかはわかりませんが笑。
      そういうヘルメットと専用品はどれくらい差が出るのかはわかりません。

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