ちょっと前に違法停車により惹起された事故について損害賠償責任を認めた判例を紹介しましたが
違法駐停車ではないものの、適法駐車車両が事故を誘因したとして損害賠償責任を認めた判例があります。
適法駐車でも損害賠償責任を負う事例
判例は名古屋地裁 昭和61年1月31日。
事故の態様です。
Aは、A運輸所有の普通貨物自動車を運転し、平谷村方面から稲武町方面に向けて片側一車線の国道153号線を走行中、本件事故現場付近に差しかかつたところ、同車前方は同車にとり右に急カーブしている道路であり、且つ同カーブ入口付近に被告Y1運転の被告Y観光バス株式会社(以下被告会社という。)保有の大型乗用自動車及び被告Y2運転の被告会社保有の大型乗用自動車が右A車の進行車線上を同車の進路を塞ぎ、且つ同車の前方の見通しを妨げる状態にて駐車していたため右A車は対向車線側の進行を余儀なくされ、折りから対向してきたC運転の自動二輪車と衝突し、Cを即死させたものである。
右カーブの入口付近に観光バス2台を駐車していたのに対し、Aが観光バス2台を追い越すために対向車線にはみ出て進行したところ、対向してきたオートバイと衝突した事故です。
本件事故は右Aが被告Y1車、被告Y2車の右側を通過するに際し、道路中央線を越えて対向車線を進行し、進路前方の安全確認を怠つた過失により、C車の発見が遅れたため惹起されたものということができるが、本件事故現場付近道路は駐車禁止規制こそなされていないものの、前記のとおり、急な右カーブになつており、右A車進行方向からも、右C車進行方向からも見通しが不良であり、被告ら車両が駐車すればその車体右側側端から道路中央線まで約1mしか残らないこと等から、被告Y1車、同Y2車の本件事故現場付近駐車も、右Aの前記過失を誘発助長したことにより、本件事故の原因をなしており、被告らは被告ら車両の本件駐車が本件事故現場道路の前方の見通しを妨げ、24m位以上にわたり右A車の対向車線進行をやむなくすることは当然予測し、又は予測可能な状態にあつたものと認められるから、本件事故は、被告Y1、同Y2車の本件駐車と相当因果関係があり、同事故は、被告Y1車、同Y2車の過失ある運行によつて発生したものということができ、また被告会社は被告Y1、同Y2の使用者としてかかる場所方法による駐停車を避けるよう被告Y1、同Y2を指導・監督すべき注意義務を怠つたことが認められる。
(中略)
前記認定の事実を総合すると、本件事故における右Aらと被告らの各負担部分は右A・A運輸合計82%、被告Y1、同Y2各4.5%、被告会社9%と認めるのが相当である。
名古屋地裁 昭和61年1月31日
駐車しているバスを追い越して対向車線にはみ出て進行したAが82%、残り18%は駐車していた観光バス及びバス会社の負担という判断です。
ポイントになるのは、駐車自体は違法ではないこと。
おそらく曲がり角から5m以上離れた位置という意味だと思いますが、見通しが悪いカーブ手前にバス2台を駐車すれば、バスを追い越すためにはかなりの距離を対向車線にはみ出て通行することになるわけで、「予測可能な事態」として相当因果関係を認めています。
このような判例が多いのか?
この事件ですが、原告は保険会社です。
被害者に弁済した保険会社が求償権を代位取得した上で直接的な加害者と、駐車していたバス(会社)を訴えた判例。
おそらくですが、被害者が直接「駐車していたバス」を訴える可能性はあまりないことだと思います。
理由は、直接的な加害者を訴えれば済む問題で、被害総額の分配については被害者的には関係ないからだと思いますが(被害者が得る損害賠償は変わらないので)、違法駐停車が間接的に事故を誘因しても損害賠償責任を負う可能性はあるし、適法な駐停車であったとしても、事故の一因になったなら損害賠償責任を負う可能性があるというところでしょうか。
急カーブの手前、しかもバスのように車体が長い車両2台だったことが大きな要因でしょうけど、損害賠償責任を負うかどうかと、駐停車が違法か適法かは別問題と言えます。
2輪車乗りとしては、駐停車車両を追い越す目的とはいえ気軽に対向車線にはみ出て進行されたら困るんですけどね。
逃げ場がないので。
2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。
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