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信頼の原則は失敗なのか?成功なのか?

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こちらで挙げた判例。

 

信号無視した歩行者に対し38条1項の義務があるか?
信号無視した歩行者に対し、38条1項の義務があるか?という話を頂いたのですが、 38条1項の義務 38条1項の義務は「横断歩道での歩行者優先」ですが、1項には信号の有無が書いてなくて、2項以下に赤信号除外が規定されているので1項は赤信号無視...

 

読者様
読者様
つまりは、基本的に歩行者等の交通弱者にあっては、ある程度はやりたい放題…と言うことでしょうか?
飲み屋があるのだからそこから酔っ払いが信号なんぞクソ喰らえで出てくるのもあらかた予見できるよね?
って、判例ですよね?
じゃあ、コンビニがある。ちょっと民家がある。そんな時でもそこに人が住んでいるのが予見できるのだから、そこは車両側が気をつけなさいな、と。
でも、まわりにコンビニも民家もなーんもないようなところなんて、そもそも人なんて住んでも無いしフラフラ移動することもない。そんな場所でしか安心して運転出来ないと言うことでしょうか?高速道路だけ、みたいな。
交通法規、もう少しどうにかならんもんでしょうかね。自転車で違反しても、車の免許の有無を調べるわけでもないし、あれじゃ、赤キップ渡しても大した効果はないような気がします。

上の記事で挙げた判例については、どちらかというと

 

「青信号だからと油断しないでちゃんと前方注視していれば発見できたでしょ」

 

が正解だと思います。
同じく信号無視した被害者との事故判例として、徳島地裁 令和2年1月22日判決がありますが、こちらについては被告人が被害者を発見可能な位置から急ブレーキを掛けても回避不可能として無罪。

 

なので、不可能を強いる話ではありません。

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信頼の原則

信頼の原則はこのように定義されます。

行為者は、他者が適切な行動に出ることを信頼して行動してよく、他者の予想外の不適切な行動によって生じた法益侵害については、その行為者は過失責任を問われないとする法理

最高裁が信頼の原則を認めたとされる最初の事例を見ていきます。

 

この判例は交差点を右折中にエンストして停止。


交差道路の右側から進行してきた2輪車が、交差点内でエンストしている被告人車の前を通過しようとして対向車線に進出したところ、右側を確認しないまま進行した被告人車と衝突した事故(業務上過失傷害)。

一審、二審ともに有罪判決ですが、最高裁は以下の理由から福岡高裁に差戻します。

ところで、このような場合、右Bのように、右側方から本件交差点に進入してくる車両の運転者は、交差点の中において被告人の車が右折の途中であることが一見して明らかであるから、道路の右側部分にはみ出し、被告人の車の前方を右側に出て進行するようなことは、決してしてはならず(道路交通法17条、35条、37条参照)、たとえ被告人の車が一時停止したため通りにくい場合であつても、進行方向の左側に進み、徐行もしくは停止して進路の空くのを待つべきであり、また、被告人の車は、一時停止したけれども、歩行者の速度に等しい時速約5キロの低速で再び進行を始めていたのであるから、右側方から進入する右Bの車両としては、あえて道路の右側に進出して通過しなければならない事情はなかつたものと認められる。
しかるに、関係証拠を総合すれば、右Bは、交差点を直進するにあたり、あらかじめ被告人の車が右折途中であることを認めていながら、被告人の車がエンジン停止したのを、軽卒にも、自分に進路を譲るため一時停止してくれたものと即断し、被告人の車の前方をあえて通過しようと企て、被告人の車が再び動き出したのに、なおハンドルを右に切つて、約5mないし8mの至近距離から突如中央線を越え、時速12、3キロ以上の速度で道路の右側部分にはみ出したため、被告人の急停車も及ばず、遂に衝突したものであることが認められる。してみれば、本件衝突事故は、主として右Bの法規違反による重大な過失によつて生じたものというべきであり、このように被害者の過失が本件事故の原因となつていることは、原判決も認めているところである。
しかし、進んで、原判決が説示しているように、被告人にも過失があつたかどうかを検討してみると、本件のように、交通整理の行なわれていない交差点において、右折途中車道中央付近で一時エンジンの停止を起こした自動車が、再び始動して時速約5キロの低速(歩行者の速度)で発車進行しようとする際には、自動車運転者としては、特別な事情のないかぎり、右側方からくる他の車両が交通法規を守り自車との衝突を回避するため適切な行動に出ることを信頼して運転すれば足りるのであつて、本件Bの車両のように、あえて交通法規に違反し、自車の前面を突破しようとする車両のありうることまでも予想して右側方に対する安全を確認し、もつて事故の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務はないものと解するのが相当であり、
原判決が強調する、被告人の車の一時停止のため、右側方からくる車両が道路の左側部分を通行することは困難な状況にあつたとか、本件現場が交通頻繁な場所であることなどの事情は、かりにそれが認められるとしても、それだけでは、まだ前記の特別な事情にあたるものとは解されない。
そして、原判決は、他に何ら特別な事情にあたる事実を認定していないにかかわらず、被告人に本件業務上の注意義務があることを前提として、被告人の過失を認めた第一審判決を是認しているのであるから、原判決には法令の解釈の誤りまたは審理不尽の違法があり、この違法は判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、原判決を破棄しなければ著しく正義に反するものと認める。

 

最高裁判所第三小法廷 昭和41年12月20日

※17条は左側通行義務、35条は「交差点先入優先」(昭和46年削除)、37条は2項の「既右折車優先」(昭和46年削除)。

 

要は右折途中なのが明らかな車両を見ているのに、センターラインを超えて右折車の前を通過しようとすることは予見できない。
だから被告人としては「特別な事情がない限り」は被害者が法規を守ることを信頼してよいけど、「特別な事情」を認定しないまま有罪にした高裁判決は違法だから高裁に差戻して審理させるとしたわけです。

 

しかも最高裁は信頼の原則を否定する「特別な事情」に当たらない例まで示している。

被告人の車の一時停止のため、右側方からくる車両が道路の左側部分を通行することは困難な状況にあつたとか、本件現場が交通頻繁な場所であることなどの事情は、かりにそれが認められるとしても、それだけでは、まだ前記の特別な事情にあたるものとは解されない。

結局、被害者が異常な行動をすることは「特別な事情がない限り」予見する義務はないというのが信頼の原則です。

 

こちらで挙げた判例については、ちゃんと前方注視していれば信号無視した歩行者を発見可能だからちゃんとやれ的な意味に受けとるべきかと。

 

信号無視した歩行者に対し38条1項の義務があるか?
信号無視した歩行者に対し、38条1項の義務があるか?という話を頂いたのですが、 38条1項の義務 38条1項の義務は「横断歩道での歩行者優先」ですが、1項には信号の有無が書いてなくて、2項以下に赤信号除外が規定されているので1項は赤信号無視...

 

信頼の原則は必要か?

最高裁が信頼の原則を認めて以降、昭和40年代の判例を見ると両者が混在している印象です。

・信頼の原則を過大評価しちゃっている判例
・厳格に過失認定する判例

例えば信頼の原則を過大評価しちゃっていると思われる判例。

 

○東京地裁 昭和47年3月18日

被告人 被害者
制限速度40キロ、中央分離帯がある道路を時速70キロで進行。同乗者が購入したスポーツ新聞を覗きこんで前方不注視 「歩行者横断禁止」の道路を横断

検察官は、自動車運転業務従事者としてはかかる場合この衝突を避けるため、右自動車の速さにつき前記の指定最高速度を守り、かつ、右自動車の進路前方を注視して、そこを左から右に横断する歩行者の存否を確認していなければならないと主張するが、以上の歩行者横断禁止区間内で前記の如き二本の分離帯の間を走行している車両の運転者はその車両の進路前方を横切る歩行者があるかも知れないということまで予想していなければならないということはできない(このことは、前記の南東側分離帯が前記のように一部途切れていることやここを通行する車両の最高速度が前記のとおり公安委員会によつて40キロメートル毎時と定められていることによつて影響されない。けだし、分離帯の中断は分離帯の北西側から南東側に移る車両のためにあるものに過ぎず歩行者のためにあるものではないし、また指定最高速度はこの場合車両の進路前方における車両との衝突を防止するためのものに過ぎず歩行者保護のためのものではないからである。)。

 

すなわち、前記の二本の分離帯の間を走行する車両の運転者としては、歩行者が南東側歩道から北西側歩道に移る際にはかならず前記二本の横断歩道のうちのどれかを利用するのであつて、これを利用しないで前記のガードレールをまたいで、かつ、歩行者横断禁止を無視して、横断歩道以外の部分で車道を横切るものはないであろうと信頼していればたりるというべきである。従つて本件の場合被告人にはその運転する自動車の進路前方を横切る(または、横切ろうとしている)歩行者の存在を予見すべき義務はないのであり、従つて、(進路前方の車両に対する関係ではともかく)かかる歩行者に対する関係では前方注視義務も指定最高速度遵守義務もないといわなければならない。そうだとすれば、被告人がもし前方注視をしていたならば被害者の姿を(右転把または制動により回避しうる地点で)現認しえたとしても、またもし被告人が前記の指定最高速度を遵守していたならば前記衝突を回避することができたとしても、そのことは被告人に前記衝突についての過失責任を負わせる根拠とはなりえないものというべきである。

 

東京地裁 昭和47年3月18日

今の時代にこんな判決が出るとは思えませんが、同じく「歩行者横断禁止」の道路を横断したことで起きた事故について、東京高裁 昭和42年5月26日判決は、前方注視していれば回避可能だったのだから信頼の原則の適用はないとしています。

大多数の道路は、歩車の区別がある場合でも、歩行者が車道を横断するなどの方法により、自動車その他の車輛と歩行者との通行に共用されており、かかる共用道路における交通の安全のためには、歩行者に比してより大きな交通の危険を発生させる可能性がある自動車運転者に歩行者よりも大きな注意義務が課せられるものと解するのを相当とし、自動車運転者がかかる共用道路における予測可能な歩行者の通行につき前方注視その他の注意義務を尽くさないで事故を発生させたときには、右の原則は、その適用がないものと解すべきである。本件についてみると、本件事故は、歩道と車道との区別はあるが、右に説明した車輛等と歩行者との共用道路において生じ、前記のとおり、被害者たる歩行者に過失があつたにもせよ、被告人には、歩行者の通行を予測し得る車輛等と歩行者との共用道路において自動車運転者としての基本的注意義務である前方注視を怠つたのであるから、前記信頼の原則を適用して被告人に過失がないとすることはとうてい許されないのである。

 

東京高裁 昭和42年5月26日

たまに信頼の原則をゴリゴリに適用し過ぎている判例もあるのが昭和40年代。
東京地裁 昭和47年3月18日判決については、30キロの速度超過でスポーツ新聞を覗きこんで前方不注視なのに信頼の原則というのはだいぶ無理がありますが、理由は不明ながら控訴せずに判決が確定しています。

 

被告人がやたらと信頼の原則を主張している判例もあるし、無理筋に信頼の原則を認めている判例もあるのがややこしいところ。

 

さて。
信頼の原則は被告人の注意義務に制限をかけるような役目です。
「信号無視して横断する歩行者を予見して徐行しろ」というのはちょっと無理があるわけで、最低限の範囲では信頼の原則がないと成り立たないけど、逆に信頼の原則に甘えてやるべき注意を果たさなくなることもある。

 

例えば左折前には「できる限り左側端に寄って」(34条1項)ですが、まだ寄れるのに寄らないまま左折巻き込み事故を起こして「し、信頼の原則ガー!」となる。
左側端1.9m開けたまま左折したことで起こした事故についても↓

 

 

普通車の左折前「左側端寄せ」。
さて、ここらへんで紹介している判例については、ほとんどが大型車の左折事故です。 普通乗用車の左折前「左側端寄せ」についての判例を。 左折巻き込み事故 判例は福岡高裁宮崎支部 昭和47年12月12日。 まず事故概要。 先行するクルマは交差点の...

 

やるべきことをしないまま信頼の原則に逃避することは許されないとしています。

 

道路交通法34条1項が交差点における左折車に所謂左寄せ義務を課した所以は、原判決の説示するとおりで、その車両が左折しようとするものであることを同法53条で命ぜられた左折の合図をするだけでなく、その車両の準備的な行動自体により他の車両等に一層よく認識させようとするためであることは明らかなところ、前示被告人の車の長さ、本件交差点の角切りなど考慮に容れれば、技術的にA路進行中にその左側端に車を寄せることを困難ならしめる事情は証拠上全く認められないのである。そうすれば原審公判廷において通常A路の左側端まで1mの間隔をとっておけばゆうに本件交差点を左折しうると自認している被告人が、本件交差点に進入するまで約40mの距離を、何らの支障もなく、もっと左に寄せうるのにA路の左側溝まで自車の車幅を越える約1.9mもの間隔を保持したまま直進した以上、その間に他の車両が自車とA路左側端の中間に入りこむおそれのあることは交通常識上当然に予想すべきであり、そのため自車左側ならびに左後方に対する安全確認をつくした後でなければ、本件交差点において、容易に左に転把すべきでなかったといわざるをえない。
ところで、被告人が二回にわたり車内バックミラーにより後方確認したことは前記のとおりであるが、該ミラーの映写範囲は後部の窓をとおすもので、窓両側の車体部分により死角を生ずるものであることは、敢て実験実測を経るものではなく、被告人自身原審公判廷においてこれを肯認自覚しているのであるから、自車左側ならびに左後方に対する確認は、道路運送車両の保安基準44条が示すように、運転者席において左の外側線上後方50mの間にある障害物を確認できるために設置を義務づけられている車外サイドミラーによらなければ充分でないのに、被告人がこれを利用した事跡は全くない。もとより被害者も後続車の運転者として一般的に前車の動静に注意を払い、これが左折合図をして減速したときは、これとの接触を避けるべく適宜徐行等の措置に出づべき義務があることはいうまでもないが、前記の如く約40mの長さにわたって道路左側溝まで約1.9mの間隔を保持し、左に寄るなど左折の準備態勢を示さずに直進し続ける被告人の車を見て、そのまま本件交差点を直進通過するものと思いこんだのは無理からぬとことであるから、被害者に対し、被告人の左折合図に早く気づかなかった落度は責めうるにせよ、道路交通法34条5項に違反する無謀運転であると決めつけるのは失当であり、ましてやかかる落度を根拠にして、自ら可能なる左寄せ義務をつくさず、未だ適切な左折準備態勢に入っていなかったことを論外におき、いわゆる信頼の原則に逃避して過失責任から免脱することの許されないことは、原判決の正当に説示するとおりである。論旨指摘の最高裁判所の判決は技術的に左寄せ進行が困難な状況のもとにおいて、できる限り道路の左側によって徐行している先行車と無謀運転とされてもやむを得ない後続車の運転者との衝突事故に関するもので、本件とは事案を異にしている

 

福岡高裁宮崎支部 昭和47年12月12日

信頼の原則に安易に逃避してやるべきことをしないなんてケースもあれば、裁判所がやたらと信頼の原則を認め「過ぎて」しまっているケースもあるわけで、なかなか難しい。

 

考え方として、2つの意見があるわけで↓

①とにかくクルマが注意していれば、被害者に落ち度があっても事故の多くは回避できるから安易に信頼の原則を認めるべきではない。
②被害者と言えど法規を遵守していれば事故の多くは防げたのだから、信頼の原則をガンガン適用して被害者側への注意喚起をすべき。

どっちが正しいというよりも、みんなやるべきことはちゃんとやれやくらいにしか思ってないのですけどね。
個人的には。
なので、冒頭の件。

読者様
読者様
基本的に歩行者等の交通弱者にあっては、ある程度はやりたい放題…と言うことでしょうか?
管理人
管理人
車両運転者は、歩行者がある程度無茶な行動をすることを予見する義務があると思いますが、予見不可能な事態、回避不可能な事態まで有罪にするようなことはありません。
被害者側がやりたい放題になるという考え方は好きではありませんが、現実的には車両運転者の方がはるかに大きな注意義務を負うと考えるしかありません。

たぶん、信頼の原則がもたらした副作用って、本来は注意していれば回避可能なものを回避不可能だと安易に考えてしまう点。

 

例えばこれ。

https://twitter.com/HOSOMI_SHOKAI/status/1641761610300801025

子供が横断するのは予見可能だし、子供たちから見て道路左側を気にしているものの右側を全く確認していない。
子供の注意能力なんてそんなもんです。
このような場合、「直前横断」が違法なことは間違いないとはいえ、右側を確認しないまま横断することは予見可能。
なので判例の立場でいうと、車両運転者は直ちに減速し、しかも全く見ていない右側を注意させるためにクラクションを鳴らすべき注意義務を負う(大阪高裁S48.10.30判決、東京高裁S39.3.18判決等)。↓

 

歩行者の直前横断…回避不可能なのか?
うわー、という感想しかありませんが… ちょっとだけ解説。 見ればわかる直前横断 この場合、道路交通法13条1項でいう「直前横断」。 (横断の禁止の場所) 第十三条 歩行者等は、車両等の直前又は直後で道路を横断してはならない。ただし、横断歩道...

 

しかし「信頼の原則」を使い「歩行者が直前横断するような危険な行為をしないことを信頼していいはずだ!」という主張に繋がる面もあって、なかなか難しい。
そういう意味では運転者の注意を下げた可能性もある。
ちなみに古い解説書等をみると、弱者側にも交通法規遵守を徹底させる意味でも信頼の原則は必要としているものもありますが、信頼の原則を導入したことがどの程度影響したのかはわかりません。

 

安易に「どう考えても回避不可能」と考えがちになりかねないし、かといって信頼の原則を全く認めないと不可能を可能にしろというケースも出てしまう。
なので信頼の原則が適用されるのは「予見不可能な異常事態」に限定しているのかと。

行為者は、他者が適切な行動に出ることを信頼して行動してよく、他者の予想外の不適切な行動によって生じた法益侵害については、その行為者は過失責任を問われないとする法理

「他者の予想外の不適切な行動」の基準は、違反か否かという単純な話ではなくて、違反の中でも通常あり得ないような行動に限定しているのだと思う。

 

なお、無罪になったとしても民事過失割合には影響しないので、民事責任が無過失になることはマレです。


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