下記質問を頂きました。
・片側一車線では進路変更が該当しない
・追い越しの規定ではウインカーを出せとは書いてないからお願いベース
・同一車線内で右や左に寄るときにウインカーを出す義務はなく、完全な間違いで拡大解釈
・路上駐車を避けるために少し反対車線に出る程度からウインカーは不要
これは本当に合っているのでしょうか。
教習所や他のサイトで説明している内容とあまりにも違う気がします。
ちょっと見てみましたが、これは根本的な理解を欠いた人が作った解説としか言えませんね。
全部間違いです。
進路の変更とは
ウインカー(合図)は53条に規定されていますが、
第五十三条 車両(自転車以外の軽車両を除く。次項及び第四項において同じ。)の運転者は、左折し、右折し、転回し、徐行し、停止し、後退し、又は同一方向に進行しながら進路を変えるときは、手、方向指示器又は灯火により合図をし、かつ、これらの行為が終わるまで当該合図を継続しなければならない。
「進路」とは何なのか?
これについては多数の判例で既に確立した解釈があります。
「進路」とは、当該車両の幅に相当する道路の部分であり、車両(自転車を含む。)は、他の車両通行帯に進行方向を変える場合のみならず、同一車両通行帯内であっても、みだりに進路を変更することは禁止されている(道路交通法26条の2第1項)。
福岡高裁 令和2年12月8日
例えばこれ。
同一車線内でも自転車とクルマは「別の進路」にいることになります。
こちらは同一車線、同一進路上。
下図のように、左折前に左側端に進路を変えるのも「進路の変更」なので合図履行義務があります。
繰り返しますね。
「進路」とは、当該車両の幅に相当する道路の部分であり
福岡高裁 令和2年12月8日
そりゃ、例えば左カーブを進行中に中央線とクルマの距離が10センチ変わったみたいな状態にまで合図履行義務があるとは解釈できませんが、車体幅を越えて位置を変える際は「進路の変更」に該当し、同一車線内だろうと進路の変更をする際にはウインカーを出せというのがルール。
なのでこれ。
・追い越しの規定ではウインカーを出せとは書いてないからお願いベース
・同一車線内で右や左に寄るときにウインカーを出す義務はなく、完全な間違いで拡大解釈
・路上駐車を避けるために少し反対車線に出る程度からウインカーは不要
仮に切符を切られなかったとしてもたまたまに過ぎませんし、事故が起きた際には合図不履行はまあまあの過失になります。
民事も、刑事(過失運転致死傷)も。
道路交通法違反としてたまたま検挙されなかったから義務がないわけでもないし、判例を見ていれば、こんなヤバい解釈ではないことは明らか。
なんでこの動画がこんな間違い解釈をしているかですが、県警本部なんかに聞くからですよ。
県警本部に聞くのが必ずしも間違いとは思わないけど、あの人たちは間違って説明することは多々あるので、解説書や判例など複数検討しないと間違う。
しかも「その警察官が違反とは取らないで見逃すか」という基準で説明しちゃうことすらあるので、法解釈とはズレが出るケースすらある。
というよりも、この人はなんで自信満々に「拡大解釈」と言い切るのか知りませんが、判例や解説書とは明らかに違う。
たぶん、2輪車のことなんか全く頭にないから、同一車線内で2輪車と4輪車が別の進路になる可能性を理解してないのだろうし、同一車線内でも「進路の変更」が起きることを理解していない。
「進路」とは、当該車両の幅に相当する道路の部分であり、車両(自転車を含む。)は、他の車両通行帯に進行方向を変える場合のみならず、同一車両通行帯内であっても、みだりに進路を変更することは禁止されている(道路交通法26条の2第1項)。
福岡高裁 令和2年12月8日
こんな間違い解説を鵜呑みにしたら、2輪車はバタバタ死ぬと思いますが。
進路の概念
例えば38条1項。
第三十八条 車両等は、横断歩道又は自転車横断帯(以下この条において「横断歩道等」という。)に接近する場合には、当該横断歩道等を通過する際に当該横断歩道等によりその進路の前方を横断しようとする歩行者又は自転車(以下この条において「歩行者等」という。)がないことが明らかな場合を除き、当該横断歩道等の直前(道路標識等による停止線が設けられているときは、その停止線の直前。以下この項において同じ。)で停止することができるような速度で進行しなければならない。この場合において、横断歩道等によりその進路の前方を横断し、又は横断しようとする歩行者等があるときは、当該横断歩道等の直前で一時停止し、かつ、その通行を妨げないようにしなければならない。
38条における進路の前方とは、「車体幅+安全側方間隔」と解釈されますが、「進路」とは車体の幅を意味し、38条は「横断歩行者の保護」である趣旨を考えて車体幅+安全側方間隔と解釈される。
「その進路の前方」とは、車両等が当該横断歩道の直前に到着してからその最後尾が横断歩道を通過し終るまでの間において、当該車両等の両側につき歩行者との間に必要な安全間隔をおいた範囲をいうものと解する
福岡高裁 昭和52年9月14日
進路の前方 | 進路の前方を横断しようとする歩行者 |
車体幅+1.5m | 車体幅+5m |
「進路」とは車体幅を意味することは多数の判例で明らかなので、同一車線内だろうと道路進行方向に対して車体幅を越えて位置を変える際は合図履行義務を負う。
それが仮に10センチでも合図が必要か?と聞かれたら違うだろうけど、路上駐車車両をパスするために「進路を変えるとき」や、右左折する前に「左側や中央に寄るとき」等、当たり前に合図履行義務があるのでご注意を。
義務の有無と、違反として切符を切るか(現場警察官の裁量権)は別問題。
けどまあ、先日の件もそうだけどさ、
警察に聞いても間違った解釈を伝授されることはあるし、県警本部の解釈が間違っていたことを再検討して改めてもらったことも多々あるので、
疑問があるときに、警察本部に聞くのではなく解説書(複数)と判例複数から合理的に正解を導いたほうがいいですよ。
なお、合図車妨害(25条3項、34条6項)からみても、
第二十五条
3 道路外に出るため左折又は右折をしようとする車両が、前二項の規定により、それぞれ道路の左側端、中央又は右側端に寄ろうとして手又は方向指示器による合図をした場合においては、その後方にある車両は、その速度又は方向を急に変更しなければならないこととなる場合を除き、当該合図をした車両の進路の変更を妨げてはならない。
「進路を変更しようとして合図」なので、この時点でも動画の説明は間違いだし、合図車妨害に関する判例のどれをみてもこの方の説明は否定される。
進路の変更とは、道路進行方向に向かって車体幅が移動することだと既に確立している解釈なので、車線内だろうと進路の変更は起こるし合図履行義務を免れない。
無論、私が書いている内容にしても疑問があるときには批判的に検討して、解説書や判例を見たほうがよい。
それこそ「某府警本部」なんて、「横断歩道を渡ろうとする自転車も38条1項の対象」と言われた人もいるし、神奈川県警なんて7月1日から電動キックボードは「玩具」だと説明したりする。
ちなみにこちらの件。
電動キックボードについての記事に対しGoogleから「アダルトサイト」だと警告を受けましたが、読者様に指摘され納得。
神奈川県警曰くオモチャですよね?
電動のオモチャ、そういうことなんでしょう。google的にw
そういやそうでしたね笑。
神奈川県警のせいでした。
警察本部なんかに聞いても正しい回答になるかは未知数なので、だからみんなテキトーになるのかもしれません。
それこそ↓も間違いはいくつかありますし。
2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。
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