転回禁止なのに転回するクルマが事故を起こした場合、転回禁止なのに転回するクルマが悪い!となりそうなもの。
対向車が時速120キロで迫ってきて事故が起きた場合にはどのように考えるのでしょうか?
「転回禁止なのに転回」と「120キロ対向車」が非接触事故
判例は名古屋地裁 平成4年2月14日。
事故の概要です。
5 ところで、亡被害者は、17歳から18歳の男女3名の同乗した原告車を運転して、本件県道の第三車線を南西側の豊橋港方面から北東側の往完町方面に向けて時速100キロメートルないし120キロメートル前後の速度で走行し、本件事故現場付近に至つた。
6 一方、被告は、同じ時刻ころ、一名の同乗した被告車を運転して、亡被害者とは逆に、本件県道の往完町方面から豊橋港方面に向かう路線の第三車線を走行して、本件事故現場付近に至つた。
7 被告は、転回禁止との交通規制がなされていることは知つていたが、反対方向に向かうため、本件開口部において、一時停止をして南西方面から進行してくる車両を一瞥した後、右回りに転回し、対向路線の第二車線に進入した。
8 亡被害者は、100メートル前後手前で本件開口部に被告車の前部が現れたのを認め、いつたんハンドルを左に切つて進路を第二車線に変更したが、被告車が転回して原告車の進路に進入してきたことから、被告車との衝突を避けるため、40数m手前で再びハンドルを右に切り、第三車線に戻るとともに急制動の措置をとつた。
9 原告車は、被告車が転回を終えるのとほぼ同時にその右側を通過したが(原告車と被告車は、全く接触していない。)、高速で右のような急転把・急制動の措置をとつた結果、自車の制御能力を失つて左斜め前方に滑走し、路外に逸脱して店舗に突入した。
過失割合はこちら。
原告車(速度超過) | 被告車(転回禁止違反) |
55 | 45 |
ほぼ半々の過失割合になっています。
転回禁止なのに転回することは当然違反ですし(25条の2第2項)、大幅な速度超過についても当然違反。
両者の過失が競合した結果としか言えません。
右に認定した事実によれば、被告は、本件県道において、同所が転回禁止場所とされているにもかかわらず、しかも、反対方向から直進進行する車両との安全を十分に確認することなく、転回し、原告車の進行を妨害したものであるから、本件事故の発生につき過失があると判断される。
これに対し、被告は、本件においては転回可能な時間的余裕が十分にあり、亡被害者が制限最高速度を守つて走行していたならば本件事故は発生しなかつたはずである、と主張する。しかしながら、自動車の運転者としては、本件事故当時における本件県道のように、比較的交通閑散な幅員の広い直線道路においては、制限最高速度をある程度上回る速度で走行する車両のあり得ることを当然に予測して行動すべきである(右のように制限最高速度を遵守しない車両の運転者に応分の過失が認められることは、これとは別個の問題である。)ところ、本件証拠によれば、被告が転回のため本件開口部において一時停止をした時点においては、原告車との距離は、93.9m(乙2の1)ないし127.5m(乙2の2)程度であり、これは、被告において予測すべき範囲内にあつた時速70キロメートルで走行する車両を例にとれば、4.8秒ないし6.6秒で走行し得る距離であるから、被告が転回した場合には、反対方向から直進進行する車両の正常な交通を妨害するおそれが十分にあつたといわなければならない。まして、本件県道は、転回禁止との交通規制がなされていた(低速度でなされる転回は、右折に比して直進車の進行を妨げる危険が大きく、本件県道は、交通量の多い幹線道路であることから、このような転回を禁止する規制がなされているものと推察される。)のであるから、被告としては、仮にも反対方向から直進進行する車両の進行を妨害することのないよう、その動静を十分に確認する必要があつたのに、被告は、本人が自認するとおり、これを一瞥しただけで、当然、原告車が進行してくる前に転回を終えることができるものと考え、転回に及んだものであるから、過失責任を免れないというべきである。
しかし、他方、亡被害者においても、比較的交通が閑散であつたとはいえ、制限最高速度を時速50キロメートルないし70キロメートルも上回る時速100キロメートルないし120キロメートル前後の速度で本件県道を走行していたものであり、このような非常識な速度でいわゆる暴走をしていたことが、原告車の制御能力が失われて本件事故が発生するに至つた大きな原因の一つであることも明らかであるから、亡被害者の側にも、本件事故の発生につき被告のそれに劣らない過失がある。
名古屋地裁 平成4年2月14日
結果論で考えない
こういう事故が仮に報道されたら、インターネット上では得意の「どっちが悪い論」が始まってぐちゃぐちゃになるのがお決まりのパティーンでしょうけど、「事故を防ぐ」という観点でいえば、双方ともにやることをちゃんとやれとしか言い様がない。
転回禁止なのに転回してどうするんだ?というのもそうだし、制限速度の二倍以上で走ればそりゃ事故るわとしか言えません。
結局、事故った後の結果論についてグダグダ語っても事故の防止にはならなくて、双方やるべきことをちゃんとやれとしか言えませんね。

2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。
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