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横断「歩行者」に過失はつくか?

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こちらについて質問をいただいたのですが、

刑法上(道路交通法)は、以下について疑いようはないかと。

進路の前方を横断する歩行者がいたにもかかわらず、一時停止しなかった(38条1項後段)

救護義務違反(72条)や過失運転傷害罪(自動車運転処罰法5条)についてはみてもわからないので判断しようがない。

 

さてこのような状況に対して、民事の過失割合はクルマが100%なのか?という話ですね。

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さあ。

事実と、事実から容易に推認できることのみにしますね。

結構勘違いする人は多いけど、民事でいう「過失」って道路交通法違反のみならず不注意も含みますが、

(不法行為による損害賠償)
第709条
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
(損害賠償の方法、中間利息の控除及び過失相殺)
第722条
2 被害者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の額を定めることができる。

横断歩道での対歩行者事故の場合、歩行者過失は基本的にはゼロです。
ただし歩行者が容易に接触や衝突を回避可能なのに怠った場合には過失相殺します。

 

見た印象ですが、

①クルマが歩行者の前を通過する直前に、歩行者が左側を確認している(車両が停止しないことを理解している)。
②衝突部位がクルマの後部であり、歩行者が左側を確認してから接触までにタイムラグがある。
③歩行者が過去に同様の事故に遭った映像をアップしている。

これらは過失相殺の対象になり得ます。

 

ちょっと前にも書いたけど、

 

「自転車を押して歩く人」が自転車と衝突した場合の過失割合。
自転車を降りて押して歩く人は歩行者(道路交通法2条3項2号)ですが、自転車を押して歩く人の注意義務という点で、ちょっと珍しい判決があります。 自転車を押して歩く人の自転車と、自転車に乗った人の自転車が衝突した事故です。 自転車を押して歩く人...

 

なぜにこれで「歩道上を自転車を押して歩く人」に30%の過失をつけたかというと様々な理由がありますが、そのうちの一つは「接触部位が加害車両の後輪」という点もあります。

 

目の前を通りすぎて行く車両は、歩行者からみれば加害車両の前輪がまず通過し、ついで後輪が通過する。
なので目の前を通過する車両があるのに歩行を継続したという点は過失(不注意)になるので、過失相殺の対象になり得ます。

 

過去に同様の事故に遭った経験があるのであれば、予見できないとは当然言えなくなるし、同種事故に繰り返し被害に遭った経験がある場合には過失相殺の要素にされるのは珍しくもない。

 

ただまあ、民事の話は当事者間の私法関係でしかない。
根本的なところでいえば、38条1項後段の義務を果たせば何も起きないわけで。

不思議に思うのは

こういう事故が起きたときに、「歩行者には違反がない!」と力説する人がいますが、そりゃ見ればわかるように刑法に抵触するような違反行為は見られない。

 

民事で争うのは違反ではなく過失ですよ。

 

横断歩道上の事故について、令和になってからも歩行者に過失があれば過失相殺してますが、

状況 高齢者等 歩行者過失
広島高裁S60.2.26 横断歩道前で車両の状況を確認し、すぐに横断せずタバコに火をつけ確認せず横断開始 10%
神戸地裁H8.5.23 夜間、小走り 高齢者 5%
大阪地裁R2.9.25 昼間、直前横断 10%
東京地裁S46.4.17 左折時 ※20%
東京地裁S46.1.30 青信号で横断 20%
大阪地裁H28.2.3 死角 高齢者 5%
京都地裁 S48.1.30 夜間、横断歩道で四つん這いで探し物 70%
東京地裁S54.2.1 青色の表示中に本件道路の横断を開始し、センターラインの約3.5m手前付近で青色点滅の表示に変わつたが、極めて遅い歩調で横断し続け、センターライン付近で赤色の表示に変わつたが、なお従前どおりの歩行を続け、センターラインを少し越えた付近で本件車両用信号が青色信号と変わり、その後6秒程度歩行し続けた 40%

※東京地裁昭和46年4月17日判決は、二審で無過失になったかのような要旨あり(判決文不詳)。

 

道路交通法違反は道路交通法に抵触すれば違反になるし、民事については過失について争うのだからそもそも判断する基準が違うのよ。
そしてそもそも、38条1項を遵守すれば民事の話なんて浮上することはないのだし(事故が起きない)、こんだけ見通しがいい道路で「歩行者に気がつかなかった」なんて言い分が通るわけもない。

 

単にそれだけの話ですが、普段からこういう動画をネット上にアップしていればいざというときには不利になりかねないので(そういう判例は普通にあります。何回も同じ事故態様を経験していたら…以下略。)、私はやらんな~としか思わないですね。
まあ、この距離感と見通しで止まらないクルマがいることに驚きますが。

 

ちなみにこの人を当たり屋呼ばわりする人とかいますが、当たり屋ならきちんと大怪我するので違うと思いますよ。

 

なお、「横断歩道で歩行者が当たり屋になることはない」みたいな珍説がありますが、それも全くあり得ない。
現に、自転車横断帯を横断中の自転車が事故に遭った件について、自転車が当たり屋の疑いが強いとして無罪(過失運転致傷)にした判例(和歌山簡裁 平成28年7月25日)とかありますし、それとこれは別問題なのよ。
なお、過失がないから無罪なのであって、当たり屋か否かはそれを補強した程度。
当たり屋といっても様々な態様があるわけで、道路交通法の義務とはまた別問題。

 

道路交通法の義務違反と、過失運転致死傷罪の成立と、民事の過失割合はそれぞれ別枠だし評価基準も違うし、それこそ業務上過失傷害罪は有罪なのに民事の過失は0%(無過失)とかそんな判例もあるわけで、道路交通法が全てみたいな法体系にはなってないのよ。
それこそ道路交通法違反がなくても過失運転致死傷罪が有罪になることはありうるし、過失運転致死傷罪が無罪だけど民事の過失割合は100%になるなんてこともありうる。

 

逆に道路交通法違反があっても加害者過失割合が0%になることもあるわけで、そもそも視点が違うのだから当たり前。

 

しかしまあ、このタイミングで止まらないなんてある意味凄いわ。


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