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なぜ、「某書」では道路交通法27条について自転車も対象にしているのか。

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まあまあどうでもいい話をします。

 

道路交通法で有名な解説書といえば執務資料ですが、27条(追いつかれた車両の義務)について軽車両も対象のように書いてあります。

 

やっと理由が見えてきました。

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執務資料がその見解をとる理由

簡単にいえば、27条の解説の最後にある「大阪高裁 昭和43年4月26日判決」の影響だと思う。

 

この判例、執務資料だと自動車が自動車に追いつかれた話になっていますが、真相は「自転車が」自動車に追いつかれた話です。
おそらく、何らかのミスで「自転車」と書くべきところを自動車と間違えたのかと。

 

これの判決文を入手したのですが、簡単にいえばこう。

 

・片側3mの狭い橋にて、左側端を通行していた自転車をクルマが追い抜きした。
・追い抜きする際に、自転車とクルマが接触した。
・一審は有罪。
・「先行する自転車には27条2項の義務があるから橋の手前で一時停止や徐行をしなければならなかったのだから、被告人は無罪」と主張して控訴。

 

こうした流れから出た判例なんですが、27条2項は昭和39年改正前にはなかったわけ。
昭和39年以前には軽車両も進路避譲義務の対象でしたが、39年改正にて1項に加速禁止義務を新設し、旧27条を27条2項に改編した。

 

なので、この判例は昭和39年改正以降の判例になりますが、自転車についても27条の義務を認めているわけで、だから執務資料はその見解を採用しているのかと。
なぜ判決文の引用を間違えているのかは不明ですが、複数の本で「自転車」だと書いてあるのが真実。
判決文は「自動車による業務上(重)過失致死傷事件に関する刑事裁判例集」(最高裁判所、昭和47年)から。

 

被告人が対向車との接触を避けようとしてハンドルを少し左に切って進行したために、自車の左側の橋上左側端を進行していたAの自転車の進路の幅をさらに狭める結果を招き、その右ハンドル先端部に自車左側後輪前フェンダー付近を接触させて、自転車を前にはねて橋を渡り切った路上に転倒させ、右事故に基づく急性硬膜下血腫により死亡させたものと認めることができる。そして前記認定のような場合、自動車運転者である被告人としては、自転車の発見とともに警音器を十分吹鳴してAに警告を与え、橋の手前で同人を避譲させたうえで自車が先に橋を進行するか、狭い橋上での追い抜きを差し控えて自転車が橋上を通過し従来の幅員の広い道路に出た後にこれを追い抜くようにし、あえて狭い橋上での追い抜きをするにおいては狭い橋上で自動車と自転車が並進する態勢となるから、接触するおそれがないようにその動静に注意し、交通の安全を確認して進行すべき業務上の注意義務があったといわなければならない。しかるに、被告人は、橋の手前でA操縦の自転車が橋上に進入しようとしているのを認めながら、これに十分な警告を与えず、その避譲を確認しないで、漠然同一速度で進行し、狭い橋上で自転車と並進してこれを追い抜く態勢となり自車後部車体がまだ橋を通過し終わらないうちに対向車を認めてハンドルを少し左に切ったため自車左側後輪前フェンダー付近を自転車に接触させ、そこで初めてAが倒れかかるのをバックミラーで認めたというのであるから、追い抜きの際の前記注意義務を尽くしたものということはできない。

 

所論は、道路交通法27条2項(控訴趣意書に37条2項とあるのは27条2項の誤記と認める)の規定を援用し、A操縦の自転車は橋の手前において被告人運転の自動車に追いつかれたのであるから、一時停止または徐行して被告人運転の自動車に進路を譲るべき義務があり、被告人としては自転車が一時停止等して進路を譲ってくれるものと信頼して自らは停止等の処置をとらずに運転を継続しても注意義務違反の過失がないというので、この点について検討するに、道路交通法27条2項は、速度の速い車両に追いつかれた車両に対し進路を譲るべき義務を課し、狭い道路での交通の円滑を図ることを目的としているのであって、車両を運転する者がこれを遵守しなければならないことはいうまでもない。しかし、狭い道路で自転車が自動車に追いつかれた場合、自転車を操縦する者としては、追いついてきた自動車の大きさを十分確認することができないために、そのまま道路左側端に寄って進行を継続しても、道路中央との間にその自動車が十分通過し得る余地があると判断して進行することが考えられるから、むしろ、追いついて来た自動車の運転者において、まず前記認定の注意義務を尽くして進行すべきであって、右道路交通法27条2項の規定は、狭い道路で速度が速い車両がおそい車両に追いついた場合、その動静を無視してそのままの速度で追い抜きにかかり接触事故をおこしてもなんら責任がないという趣旨であるとはとうてい考えられない。このことは道路交通法28条3項により追越ししようとする車両は前車の速度及び進路並びに道路の状況に応じて、できる限り安全な速度と方法で進行しなければならないとされていること、また、同法70条により車両等の運転者は、道路、交通及び当該車両等の状況に応じ、他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転しなければならないとされている規定の趣旨から推しても十分うかがえるところである。ことに本件のように、片側幅員約3mの小橋にまさに進入しようとする自転車を認めた場合、自転車を操縦するAが急に狭くなっている橋上道路の進路に注意を奪われ、追いついてきた自動車があってもこれに対する注意が十分にできないまま橋上に進入することが考えられるのであるから、被告人運転の自動車がわずかに早く橋上にはいりうる場合においても、被告人としては、自転車の動静に注意を払い、無事に橋上を通過し得られるかどうかについて、その安全を確認したうえで進行すべきである。そうだとすれば、自転車を操縦するAにおいて被告人運転の自動車に進路を譲るべき義務があったことを前提として被告人に過失の責任がないとする右所論は採用することができない。してみると、被告人は自転車を追い抜くに際し、その避譲を確認する等安全を確認しないで追い抜きにかかり、車体が橋を渡り切らないうちに対向車を認めて左に転把して自転車の進路をさらに狭めた点について過失があったと認めざるを得ない。

 

大阪高裁 昭和43年4月26日

謎は多い

昭和39年改正以前は進路避譲義務に軽車両が含まれていましたが(旧19条、27条)、改正時に「優先順位(旧19条)」から「政令で定める最高速度」に変更したことから、軽車両には進路避譲義務がなく18条1項(左側端通行義務)を果たせば足りるというのが条文解釈かと思いますが、改正後の判例においても進路避譲義務の対象だと裁判所が認めたことから、執務資料もそれにならっているんじゃないかと。

 

出版社に確認したところ、当該部分は令和4年11月発行「18-2訂版」で既に訂正済みだそうな。
なので当該判例については、「自転車」が正解です。

 

どちらにせよ、追い越し、追い抜きする後車が危険負担すべきというところには変わりないのですが、おそらく執務資料の記述の理由はこの判例なんだろうなと思われます。

 

なお、警察庁交通企画課の「道路交通関係実例判例集」では27条に関する判例はこれしか掲載されていません。
昭和42年に反則金制度が導入されて以降、道路交通法違反を争った判例は少なく、しかも27条2項は過失運転致死傷罪の注意義務にはなり得ない。
なので27条2項について争った判例はほとんどない。

 

この判例があるから27条2項は軽車両も対象になる…とは思いません。
そもそも18条1項を遵守している限り、譲る余地なんてないのです。

 

なおこの判例、以前書いた最高裁決定でも少し触れましたが、

 

自転車の追い越しや追い抜きを「差し控えるべき注意義務」。
以前こちらで書いた内容についてなんですが、 昭和60年4月30日 最高裁判所第一小法廷決定では、「追い抜きを差し控えるべき業務上の注意義務があつた」としています。  なお、原判決の認定によると、被告人は、大型貨物自動車を運転して本件道路を走...

 

「追い抜きを差し控えるべき注意義務」に触れた判例の一つです。
他にも2輪車を追い抜き、追い越しする際の注意義務についての判例を大量に見つけてきたのですが、個人的な感想としては、側方間隔を法で明記しない限りはいつまで経っても変わらないと思う。
上のリンク先にある広島高裁判決は側方間隔50センチ、速度10キロで無罪ですが、警察庁交通企画課の実例判例集には掲載されてます。

 

いまだに「至近距離通過ガー!」という動画がアップされては発狂しての繰り返しですが、道路交通法違反に問えるものと問えないものがあるのが現実。
結局、法の不備とみるしかないし、変えないと変わらないのよ。

 

けど、ひどい控訴理由ですよね。
「避けない自転車が悪いヨ!」と主張して、当たり前のように一蹴されている。
一つ解釈の参考になるとしたらここ。

狭い道路で自転車が自動車に追いつかれた場合、自転車を操縦する者としては、追いついてきた自動車の大きさを十分確認することができないために、そのまま道路左側端に寄って進行を継続しても、道路中央との間にその自動車が十分通過し得る余地があると判断して進行することが考えられるから

ミラーがないですし、後ろからきた車両の大きさは把握しようがない。
27条の義務があるかないかは別として、この説示についてはまあそうだなと。
そういう意味では、ミラーの装備義務がない自転車に進路避譲義務を課したところで無意味だし、左側端によって通行している以上に何か特別なプレイを求めることにムリがあると思う。

 

進路避譲義務って、「追いつかれたこと」を認識できなければ義務が発生する余地がないわけで、ミラーがあることが前提じゃないとそもそもムリです。
なので特定小型に課すのもなんか違う気がしますが、結局、18条1項に従っている以上は何も譲れるモノがないのでしょうね。


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