ちょっと前になりますが、このような報道がありました。
田村政喜裁判長は「直ちに救護措置を講じなかったと評価することはできない」として、懲役6月とした一審長野地裁判決を破棄し、無罪を言い渡した。
事故を巡っては同年、過失運転致死罪で男性の有罪判決が確定。長野地検は22年、男性が男子生徒の救護前、飲酒の発覚を免れるため口臭防止用の商品を買いにコンビニへ行ったことが救護義務違反に当たるとして、再度起訴した。
田村裁判長は、男性がコンビニに立ち寄った時間は1分余りで、その後男子生徒を発見して人工呼吸などをしたことから、「道義的には非難されるべきでも、救護の意思を失ったとは認められない」と判断した。
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イマイチ判然としない報道ですが、一審判決文がありましたのでそもそもの争点を確認しました。
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争点は「直ちに」
二審判決文がわからないのですが、やはり一審での争点は道路交通法72条1項にある「直ちに」でした。
第七十二条 交通事故があつたときは、当該交通事故に係る車両等の運転者その他の乗務員(以下この節において「運転者等」という。)は、直ちに車両等の運転を停止して、負傷者を救護し、道路における危険を防止する等必要な措置を講じなければならない。この場合において、当該車両等の運転者(運転者が死亡し、又は負傷したためやむを得ないときは、その他の乗務員。次項において同じ。)は、警察官が現場にいるときは当該警察官に、警察官が現場にいないときは直ちに最寄りの警察署(派出所又は駐在所を含む。同項において同じ。)の警察官に当該交通事故が発生した日時及び場所、当該交通事故における死傷者の数及び負傷者の負傷の程度並びに損壊した物及びその損壊の程度、当該交通事故に係る車両等の積載物並びに当該交通事故について講じた措置(第七十五条の二十三第一項及び第三項において「交通事故発生日時等」という。)を報告しなければならない。
「直ちに」については、読めばわかるように「車両等の運転を停止して」のみに掛かるのではなく、「負傷者を救護し」にも掛かっています。
一審の事実認定。
・被告人はフロントガラスが蜘蛛の巣状にひび割れたことから(事故の認識)、事故現場から約95.5m離れた地点で停止。
・被告人は被害者を約3分探したが、靴などは発見できたが被害者を発見できなかった。
・通行人から「救急車呼びましたか?」などと声を掛けられたが、その時点では通報しなかった。
・被告人は飲酒運転を隠すためにコンビニに向かいタブレットを購入。その間に通行人が被害者を発見し通報。
・通行人が警察に通報している間に戻ってきた被告人は、被害者の人工呼吸などをした。
要は72条1項前段の「直ちに」の解釈。
古い判例ですが、後段の「直ちに」について以下の判例があります。
右報告が果して道路交通法72条1項後段所定の報告をした場合にあたるかどうかについて案ずるに、右にいう「直ちに」とは、同条1項前段の「直ちに」と同じくその意義は、時間的にすぐということであり「遅滞なく」又はというよりも即時性が強いものであるところ、同条1項前段の規定によれば交通事故であつた場合、事故発生に関係のある運転者等に対し直ちに車両の運転も停止し救護等の措置を講ずることを命じているのであるから、これと併せてみると同条1項後段の「直ちに」とは右にいう救護等の措置以外の行為に時間を籍してはならないという意味であつて、例えば一旦自宅へ立帰るとか、目的地で他の用務を先に済すというような時間的遷延は許されないものと解すべきである。
蓋し同法が右報告義務を認めた所以は、交通事故の善後措置としては、先ず事故発生に関係のある運転者等に負傷者の救護、道路における危険防止に必要な応急措置を講ぜしめるとともに、これとは別に人身の保護と交通取締の責務を負う警察官をして負傷者の救護に万全の措置と、速やかな交通秩序の回復につき適切な措置をとらしめるためであるから、現場に警察官がいないときの報告も、時間を藉さず直ちになさねばならないからである。
大阪高裁 昭和41年9月20日
「時間的にすぐ」「遅延なく」というのが救護義務における「直ちに」ですが、一審の長野地裁はコンビニに向かい「飲酒運転発覚回避行動」を取ったことを「救護義務の遅延」と判断して救護義務違反を認定。
そして二審の判決文は不明ですが、報道ではこのようになっています。
田村政喜裁判長は「直ちに救護措置を講じなかったと評価することはできない」として、懲役6月とした一審長野地裁判決を破棄し、無罪を言い渡した。
事故を巡っては同年、過失運転致死罪で男性の有罪判決が確定。長野地検は22年、男性が男子生徒の救護前、飲酒の発覚を免れるため口臭防止用の商品を買いにコンビニへ行ったことが救護義務違反に当たるとして、再度起訴した。
田村裁判長は、男性がコンビニに立ち寄った時間は1分余りで、その後男子生徒を発見して人工呼吸などをしたことから、「道義的には非難されるべきでも、救護の意思を失ったとは認められない」と判断した。
22年11月の地裁判決は、コンビニに立ち寄ったことで救護の措置を遅延させたとして有罪を言い渡していた。
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「直ちに」の判断が一審と二審で割れた形になります。
一審で被告人側は、「東京高裁 平成29年4月12日判決」を引用していますが、この判例は救護義務、報告義務ともに無罪(危険運転致死は有罪)。
救護義務及び報告義務の履行と相容れない行動を取れば、直ちにそれらの義務に違反する不作為があったものとまではいえないのであって、一定の時間的場所的離隔を生じさせて、これらの義務の履行と相容れない状態にまで至ったことを要する
東京高裁 平成29年4月12日
一審の長野地裁は「飲酒運転発覚回避行動」としてコンビニに向かった時点で救護義務よりも飲酒運転発覚回避行動を優先させた、つまり「救護義務及び報告義務の履行と相容れない状態に至った」と判断。
二審判決文が不明なので憶測になってしまいますが、「飲酒運転発覚回避行動」としてコンビニに行った点を「遅延」と捉えた長野地裁、「救護の意思を失ったとは認められない」とした東京高裁、というところなのでしょうか。
最高裁に上告を検討しているみたいな報道もありますが、個人的には「飲酒運転発覚回避行動」の時点で「直ちに」ではないと解釈する方が妥当な気がします。
争点がどこにあるのか
報道を見ると争点は道路交通法72条1項前段の「直ちに」の解釈なんだろうなと思ってましたが、争点は「直ちに」の解釈です。
フロントガラスが蜘蛛の巣状にひび割れて事故が起きたことを認識し、被害者の靴などは発見できたが被害者を発見できないまま、通行人が「救急車呼びましたか?」という問いかけにも通報せずにコンビニに向かい飲酒運転発覚回避行動を優先した。
これが「直ちに負傷者を救護し」に該当するのかという点には疑問しかありませんが、被害者の捜索を中断してまで飲酒運転発覚回避行動を優先したことが時間的場所的に短いとしても、だいぶ疑問が残ります。
上告するのかはわかりませんが…
ちなみにこの件、既に「過失運転致死罪」は有罪で確定してます。
ちょっと特殊な経緯から、一つの事故について三回目の裁判(それぞれ罪状が違う)になってまして、一度目が過失運転致死(有罪)、二度目が速度超過(公訴棄却)、三度目が救護義務違反。
2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。
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