こちらの話の続きです。
10月10日に開催した「良好な自転車交通秩序を実現させるための方策に関する有識者検討会」によると、やたらと「自転車を追い越し、追い抜きする際の話」が出てきます。
「自転車の右側方を通過する自動車等と自転車の接触事故を抑止するための措置を講じる必要性」という文言も出てますが、警察庁は何を検討しているのでしょうか?
自転車を追い越し、追い抜きする際の話
こちらは有識者会議の資料6から。
https://www.npa.go.jp/koutsuu/kikaku/bicycle/kentokai/02/siryou06.pdf
まずは、過去1年間で、自転車を運転中に「自動車と接触したことがある」又は「自動車と接触しそうになったことがある」と回答した者を対象にしたアンケート結果から。
「自動車と接触する(接触しそうになる)直前に気になったこと」がアンケート内容です。
「隣の自動車に横から距離を詰められた」が最も多い。
いわゆる幅寄せですね。
自動車と接触したことがある自転車運転者の4割以上が「隣の自動車に横から距離を詰められた」経験があるとしています。
次に、単路(歩道を除く。)を同一方向に直進する自動車等対自転車事故件数の推移(自転車の接触部位別)。
同一進行方向なので、追い越し又は追い抜きということになると思いますが、自転車の右側面に接触した件数が平成25年で2005件(40%)、令和4年で1325件(53%)。
つまり、件数自体は減ってきているものの、構成比率は上昇傾向。
逆に減ってきているのは「自転車の前面」に対する接触になりますが、これをどう捉えるのかはよくわかりません。
単に今までは「自転車が前方不注視」で自爆的に突っ込んでいたのが減ったのか、それともクルマの無理な割り込み的進路変更が減った結果なのか?
どちらも衝突部位は「自転車の前方」になりますが、平成25年で1234件(25%)なのが令和4年で292件(12%)となり、件数、構成比率ともに減少。
最後に愛媛県の独自条例の紹介になっています。
愛媛県の独自条例では、こうなっています。
自動車等の運転者に対し、自転車の側方を通過するときは「1.5メートル以上の安全な間隔を保つ」か、道路事情等から安全な間隔を保つことができないときは「徐行する」ことを呼びかける
まあ愛媛県の独自条例では「歩道逆走禁止」もありますが…
警察庁は「自転車の右側方を通過する自動車等と自転車の接触事故を抑止するための措置を講じる必要性」としていますが、具体的な政策は示されていません。
業務上過失致死傷罪の判例では
業務上過失致死傷罪(過失運転致死傷罪)の判例で、二輪車を追い越し、追い抜きする際の側方間隔がどのように扱われてきたのかについては何度も書いてますが、こんな感じです。
裁判所 | 二輪車の動静 | 車の速度 | 側方間隔 | 判決 |
広島高裁S43.7.19 | 安定 | 40キロ | 約1m | 無罪 |
東京高裁S45.3.5 | 安定 | 30キロ | 1~1.5m | 無罪 |
最高裁S60.4.30 | 不安定 | 約5キロ | 60~70センチ | 有罪 |
高松高裁S42.12.22 | 傘さし | 50キロ | 1m | 有罪 |
東京高裁 S48.2.5 | 原付二種 | 65キロ | 0.3m | 有罪 |
仙台高裁S29.4.15 | 酒酔い | 20キロ | 1.3m | 有罪 |
札幌高裁S36.12.21 | 安定 | 35キロ | 1.5m | 無罪 |
高松高裁S38.6.19 | 子供載せ | – | 約42センチ | 有罪 |
仙台高裁秋田支部S46.6.1 | – | 45キロ | 20~40センチ | 有罪 |
白河簡裁S43.6.1 | 安定 | 40キロ | 70センチ | 無罪 |
大阪地裁S42.11.21 | 55キロ | 1m | 有罪 | |
金沢地裁S41.12.16 | ふらつき | 30キロ | 1m | 無罪 |
広島高裁S32.1.16 | 安定 | 10キロ | 50センチ | 無罪 |
大阪高裁S44.10.9 | 酒気帯び蛇行 | 40キロ | 1m | 有罪 |
中には側方間隔1.2m開けたけど起きた非接触事故について民事の賠償責任を認めたものもありますが、刑事責任となると首をかしげるようなものがあるのも事実。
道路交通法上、側方間隔に関する規定がないことから個別に判断するしかありませんが、以前から書いているように明確な規定にした方が良い。
ただし若干疑問なのは、
速度差のある自動車等と自転車が通行空間を共有するためには、自転車の安全な通行を確保することが必要
あくまでも構造分離ではなく、シェア空間の前提で「対策が必要」と語っているようにも取れる。
そして「事故件数は減ったジャマイカ!?」というところから、「自転車ナビラインを描きまくった我々の勝利」みたいな雑な結論に向かう気なんじゃなかろうか?という疑いもあります。
警察庁はあくまでも規制に関する部門なので、道路構造の主体ではありませんが、まさかの「自転車ナビライン、万歳!」に向かうとビミョーなわけで、自転車ナビラインはいいとしても「その先」を考えてもらわないと厳しい。
具体的に挙げるならば、規定の明確化になるわけですが。
しばらく警察庁の動きを注視したほうがいいのかもしれません。
2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。
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