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「進路を譲る」の「進路」って何?

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こちらの続きです。

 

道路交通法27条2項の判例。
以前書いたこちらについて質問を頂いたのですが、 ということなので。 みんな大好き「追いつかれた車両の義務」ですよね。 札幌地裁 平成6年4月15日(民事) この判例は民事ですが、事故の態様。 原告が、昭和(略)、被害車両を運転し、北海道千歳...

 

道路交通法27条2項(追いつかれた車両の義務)では「できる限り道路の左側端に寄つてこれに進路を譲らなければならない」としていますが、一時停止義務があるかないか?というのは争いがあるところ。

 

そしてイエローのセンターラインにおいてはこのような判例が残っている。

なお、被告らは、原告の運転行為は、「追いつかれた車両の進路避譲義務違反」として、道路交通法27条2項に違反する旨主張するが、本件のように追越しのための右側部分はみ出し禁止の規制のある道路においては、反対車線にはみ出て追越そうとする場合には右規定は適用されないと考えるのが相当である。

 

札幌地裁 平成6年4月15日

そもそも「進路」とは何を指すのでしょうか?
そして判示された内容は妥当なのでしょうか?

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道路交通法における「進路」

道路交通法で「進路」という表現はいくつか出てきますが、追い越しの定義(2条1項21号)や進路変更の禁止(26条の2)、横断歩行者等妨害(38条1項)などに出てきます。

二十一 追越し 車両が他の車両等に追い付いた場合において、その進路を変えてその追い付いた車両等の側方を通過し、かつ、当該車両等の前方に出ることをいう。
(進路の変更の禁止)
第二十六条の二 車両は、みだりにその進路を変更してはならない。
2 車両は、進路を変更した場合にその変更した後の進路と同一の進路を後方から進行してくる車両等の速度又は方向を急に変更させることとなるおそれがあるときは、進路を変更してはならない。
(横断歩道等における歩行者等の優先)
第三十八条 (前段省略)この場合において、横断歩道等によりその進路の前方を横断し、又は横断しようとする歩行者等があるときは、当該横断歩道等の直前で一時停止し、かつ、その通行を妨げないようにしなければならない。

これら「進路」は全て同じ意味になります。

「進路」とは、当該車両の幅に相当する道路の部分であり、車両(自転車を含む。)は、他の車両通行帯に進行方向を変える場合のみならず、同一車両通行帯内であっても、みだりに進路を変更することは禁止されている(道路交通法26条の2第1項)。

 

福岡高裁 令和2年12月8日

38条1項では「進路の前方を横断し、又は横断しようとする歩行者等があるときは」とありますが、「進路の前方を横断する歩行者」は車体幅+安全側方間隔1.5m(18条2項)、「進路の前方を横断しようとする歩行者」は車体幅+5mとなる。

進路の前方を横断する歩行者 進路の前方を横断しようとする歩行者
車体幅+1.5m 車体幅+5m

あくまでも「進路」とは車体の幅を意味します。
これについては各種解説書で同様。

「進路」とは、道路を進行している車両について、その車両が左右に方向を変えないで直進した場合におけるその車両の幅に相当する道路の部分、いいかえるならばその車両が道路の状況に即して近い将来において進行するであろう道路上のコースのことである。

 

宮崎清文、注解道路交通法、立花書房、1966

よく、「車線の変更」と「進路の変更」を混同する人がいますが、同一車線内でも進路の変更は起きますし、同一車線内でも進路の変更をする際には合図履行義務があります。

「進路を譲る」とは

進路とは車体の幅を意味しますが、27条2項における「進路を譲る」とは何なのか?

 

文字通りに解釈すると、自分の車体幅に相当する道路の部分を後続車に譲るという意味になります。
そして譲る方法として「できる限り左側端に寄る」と指定されている。

 

疑問なのは、停止しようと走行しようと、左側端に寄ったことにより譲った「進路」は変わらないこと。
なので一時停止義務を負うという考え方がイマイチわからない。

これ以上「車体の幅」を譲れと言われても、まさかトランスフォームしてスリム化できるわけもない。

 

なお、40条に緊急車両の優先が規定されていますが、40条2項には追いつかれた車両の義務と同様の表現があります。

(緊急自動車の優先)
第四十条 交差点又はその附近において、緊急自動車が接近してきたときは、路面電車は交差点を避けて、車両(緊急自動車を除く。以下この条において同じ。)は交差点を避け、かつ、道路の左側(一方通行となつている道路においてその左側に寄ることが緊急自動車の通行を妨げることとなる場合にあつては、道路の右側。次項において同じ。)に寄つて一時停止しなければならない。
2 前項以外の場所において、緊急自動車が接近してきたときは、車両は、道路の左側に寄つて、これに進路を譲らなければならない

道路交通法を制定した直後の条解道路交通法(宮崎清文、立花書房、1961)では「たたし、交差点やその附近における場合と異なり、一時停止する必要はない」と明言している。
宮崎清文氏は警察庁の人で道路交通法の制定の主人公みたいな人です。

 

40条2項を根拠に「緊急車両のパトカーが来たときに左側端に寄っただけだとダメだろ?一時停止しないと。だから追いつかれた車両の義務も一時停止義務があるんだ」と語る人がいますが、そのまま走り続けたら交差点が来てしまうわけで(小道があっても道路交通法上は交差点)、40条1項の問題から交差点に入る前に一時停止するだけ。

 

追いつかれた車両の義務とは意味が全く違う。

 

なお、昭和35年以前の道路交通取締法では、旧令24条3項にて「進路を譲るために道路の左側に寄らなければならず」としていて、この時代の解説書をみても一時停止という文言は一切出てきません。

24条
3 前項の合図があったことを知った場合において、前車が後車よりも法第16条第1項および第2項の規定による順位が後順位のものであるときは、前車は、後車に進路を譲るために道路の左側によらなければならず、その他のときは、追越を妨げるだけの目的をもって後車の進路を妨げる行為をしてはならない。

 

道路交通法27条「追いつかれた車両の義務」は「徐行や一時停止義務」を負うのか?
ちょっと前の続きです。 27条2項「追いつかれた車両の義務」は徐行や一時停止義務を負うのか?という話がありますが、ちょっとこれについて掘り下げてみます。 なお、話は長いので興味がない人はスルー推奨。 (他の車両に追いつかれた車両の義務) 第...

 

車両幅を譲れという話になりますが、現実問題として片側一車線の道路においては18条1項ですら機能していない。
18条1項ではクルマについて、「軽車両通行分の左側端をあけて左側に寄る」とされてますが、現実的には左側端寄りと左側寄りは重なる。

 

18条1項により軽車両通行分の左側端を開けて左側に寄った結果、センターラインをはみ出したら本末転倒なわけで、

現実には「左側端寄り」と「左側寄り」は重なることが多い。

27条2項では18条1項に従う義務を免除してクルマなども左側端に寄ることを求めていますが、すでに左側端に寄って通行している分にはそれ以上譲る「車体幅」は存在しないことになります。
まさか瞬間的に滅亡しろというわけではないし。

 

追いつかれた車両の義務が一時停止義務を負わない根拠の一つとして、昭和39年改正があります。
昭和39年までは軽車両も追いつかれた車両の義務の対象でしたが、「優先順位の優劣」(旧18条)から「政令で定める速度の優劣」(令11条)に変更した結果、軽車両が脱落。

 

昭和35~39年

(進路を譲る義務)
第二十七条
車両(道路運送法第三条第二項第一号に掲げる一般乗合旅客自動車運送事業又は同条第三項第一号に掲げる特定旅客自動車運送事業の用に供する自動車(以下「乗合自動車」という。)及びトロリーバスを除く。)は、車両通行区分帯の設けられた道路を通行する場合を除き、第十八条に規定する通行の優先順位(以下「優先順位」という。)が先である車両に追いつかれ、かつ、道路の中央との間にその追いついた車両が通行するのに十分な余地がない場合においては、道路の左側に寄つてこれに進路を譲らなければならない。優先順位が同じであるか又は後である車両に追いつかれ、かつ、道路の中央との間にその追いついた車両が通行するのに十分な余地がない場合において、その追いついた車両の速度よりもおそい速度で引き続き進行しようとするときも、同様とする。
(通行の優先順位)
第十八条 車両相互の間の通行の優先順位は、次の順序による。
一 自動車(自動二輪車及び軽自動車を除く。)及びトロリーバス
二 自動二輪車及び軽自動車
三 原動機付自転車
四 軽車両

昭和39年改正時には「軽車両の並進」が禁止になりましたが、軽車両は元々「左側端寄り通行」なわけ。
なぜ並進が許されていた時代に追いつかれた車両の義務が必要だったかというと、追いつかれた際に並進を解除して進路を譲る必要があったためと考えられます。

現在、軽車両には追いつかれた車両の義務が課されていませんが、仮に追いつかれた車両の義務として一時停止義務があるとした場合。

追いつかれた原付 追いつかれた自転車
左側端に寄って一時停止? 左側端のまま進行可能

仮に追いつかれた車両の義務として一時停止義務があるとした場合、原付は追いつかれたら左側端に寄って一時停止し、自転車は左側端のまま進行可能という意味不明な状態に陥る。

 

そう考えても、追いつかれた車両の義務は左側端に寄ることのみが義務で、一時停止義務まで負うわけではないと解釈したほうが辻褄が合います。

イエローのセンターラインの意義

イエローのセンターラインは昭和46年改正時に登場したもの。
この規定の趣旨は、右側通行(主に追い越し)を原則禁止することで右側通行に関わる事故発生を減らすことにありますが、停止車両をパスするために右側通行することは禁止されていません。

 

ただし、本来の趣旨は右側通行の全てをやめてもらうところにあり、古い解説書を見ると路側帯を通行する歩行者と離隔する目的で右側にはみ出すこともダメと書いていたりする。
その場合、警音器吹鳴と徐行により右側にはみ出すことなく左側通行で安全を確保すべきと。

 

もちろん、追い越しのための右側はみ出しは禁止されています。

これらを踏まえると

これらを踏まえると、こうなります。

 

・「進路」とは車体の幅を意味する。
・「進路を譲る」には本来、一時停止を伴わない
・イエローのセンターラインは、右側通行を極力無くしたい趣旨

 

これらからすれば、下記判示は妥当だと思う。

なお、被告らは、原告の運転行為は、「追いつかれた車両の進路避譲義務違反」として、道路交通法27条2項に違反する旨主張するが、本件のように追越しのための右側部分はみ出し禁止の規制のある道路においては、反対車線にはみ出て追越そうとする場合には右規定は適用されないと考えるのが相当である。

 

札幌地裁 平成6年4月15日

仮に追いつかれた車両の義務が一時停止を伴うとしても、イエローラインの趣旨は右側通行を極力無くしたいもの。
停止してまで先に行かせるために右側通行するというのは、制定趣旨からしてもビミョーですし札幌地裁の判示は真っ当な内容と捉えていいでしょう。

 

まあ、地裁民事判例なので強い意味までは持ちませんが、そもそも追いつかれた車両の義務に関する判例ってほとんど見当たらないのが実情。
一つの参考にはなるかと思います。

 

ところで、道路交通法違反については昭和42年に反則金制度を導入した関係からそもそも判例が少ないのですが、道路交通法の解釈の多くは業務上過失致死傷、過失運転致死傷の中で示されてきました。
追いつかれた車両の義務については過失運転致死傷の注意義務にはなり得ない(遵守しなかったことで他人がケガすることがあり得ない)。

 

なので判例も少なく、思い当たるだけだと7件程度です。
そしてジュネーブ条約でもたったこれだけ。

 

12条1項
運転者は、行き違うとき又は追い越されるときは、自己が進行する方向に適応した側の車道の端にできる限り寄らなければならない。
12条2項(b)
追い越されるときは、自己が進行する方向に適応した側の車道の端にできる限り寄り、加速しないでいること

そもそも追いつかれた車両の義務を語ろうとすれば、昭和20年代の道路交通取締法、大正時代の道路取締令まで遡らないと意味がわからないと思うし、当時の解説書や改正史、改正理由まで調べないと全く理解できないと思いますが、なぜ追いつかれた車両の義務に熱狂する人がいるかというと「邪魔なヤツがドイてくれる夢のようなルール」だと勘違いしているからじゃなかろうか?
そもそもの起源は「追い越しの」安全と円滑を目的としているので。

 

そして追いつかれた車両の義務に熱狂する暇があるなら、横断歩行者等妨害(38条)や歩行者妨害(17条2項)に熱狂したほうがいいと思う。
むしろこれらのほうが奥が深い。

道路交通法27条「追いつかれた車両の義務」は「徐行や一時停止義務」を負うのか?
ちょっと前の続きです。 27条2項「追いつかれた車両の義務」は徐行や一時停止義務を負うのか?という話がありますが、ちょっとこれについて掘り下げてみます。 なお、話は長いので興味がない人はスルー推奨。 (他の車両に追いつかれた車両の義務) 第...


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