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車間距離の問題?前方不注視?

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こういうのは車間距離の問題だったのか、単に前方不注視なのか具体的な状況はわかりませんが、

ついでなので車間距離の話と、判例の価値の話の二本立てを。

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車間距離は何のために課すのか?

車間距離の保持は26条に規定されています。

(車間距離の保持)
第二十六条 車両等は、同一の進路を進行している他の車両等の直後を進行するときは、その直前の車両等が急に停止したときにおいてもこれに追突するのを避けることができるため必要な距離を、これから保たなければならない。

さて、古い判例ですがこのようなものがあります。
判例は東京高裁 昭和45年8月31日、業務上過失致死被告事件です。

 

まず、事故の態様。

被告人は昭和(略)頃普通乗用自動車を運転し、墨田区向島五丁目先道路(車道幅員17.6mの通称水戸街道)を言問橋方面から四ツ木橋方面に向い、時速約45キロで先行する幌付普通貨物自動車に追従し約8mの車間距離を保つて進行し、同所の交通整理の行なわれていない交差点にさしかかつたのであるが、先行車が減速して急に左方へ進路を変更したので、先行車を見ながらブレーキを踏み、前方を見ると先行車が進行して行つた右側すなわち自車の進路の直前に、自転車に乗つて道路を左から右に横断すべく進行中の被害者(当時80歳)を発見したので更に強くブレーキを踏んだが、既に至近距離であつたために間に合わず、自車前部右側の同人及び自転車に衝突させて転倒させよつて頭蓋内損傷により死亡するに至らせたものである

先行車との車間距離を8m、時速45キロで進行していたところ、

先行車が急に減速して左に進路変更した。被告人はブレーキを踏んだが、そもそも先行車が減速&進路変更した理由は横断自転車との衝突を回避するためだったわけです。


被告人は横断自転車に気がついて急ブレーキを掛けたところ、間に合わずに衝突。

 

一審は先行車との車間距離を保持せずに進行した過失として有罪。
そして東京高裁の判断はこちら。

道路交通法第26条第1項所定の車間距離保持の義務は、車両等が同一の進路を進行する他の車両等の直後を進行する場合においては、その直前の車両等が急に停止したときにおいてもこれに追突することを避けることができるため必要な距離をこれから保たなければならないとするものであつて、急停止をする先行車との関係における追随車の義務を規定したものであり、本件のように先行車がその前方を横断中の車両等との衝突を避けるため急に進路を変えて進行した場合にその横断車両等との関係において衝突等の事故の発生等を防止するため右追随車に課せられたものではないと解すべきであるから、本件における過失の有無を右車間距離保持の義務の観点から論ずるのは相当でないといわなければならない。しかして、本件現場交差点附近は、歩行者の横断、車両の転回が禁止されている場所であつて、車両等の運転者においてその進路を横断する歩行者、車両等があることを予想して運転する必要は必ずしも高くはない道路であるから、むしろ道路を横断しようとする自転車等軽車両の側において交通の安全に十分な注意を払わなければならないところ本件被害者は高齢にも拘らず自転車に乗つて同所の道路を横断し始め、これを発見した先行の貨物自動車が急停止または減速徐行して被害者を避譲横断させる余裕はなく左に急転把して進行することにより辛くもこれとの衝突を避けることができたほど唐突に先行車の進路直前に飛び出したものと認められるのであつて、このような事態は、先行車に追随進行する車両運転者の通常予見し難いところであるからかかる事態をも予見して事故の発生を防止すべき注意義務を負うものではないといわなければならない。されば被告人にかかる事態の予見可能性があることを認めてこれを前提として業務上過失致死の責任を問うた原判決は、事実を誤認し、法令の適用を誤つたものといわなければならず、この誤りが判決に影響を及ぼすことは明らかであるから論旨は理由がある。

 

東京高裁 昭和45年8月31日

車間距離保持義務はあくまでも先行車との衝突を避けるために課された義務だから、急な横断自転車を避けるためのものではないとして無罪。

 

これですが、道路交通法違反(車間距離保持義務違反)は成立します。
道路交通法上の車間距離保持義務は、先行車が突如速度ゼロになった場合にも衝突を回避できる距離を求めているので。

道路交通法26条1項の「先行車が急に停止したとき」とは、先行車が制動機の制動力によつて停止した場合のみならず、制動機以外の作用によつて異常な停止をした場合も含むとした原判決の判断は相当である

 

最高裁判所第二小法廷 昭和43年3月16日

車間距離保持義務違反と被害者との衝突は無関係という話から無罪にしてますが、民事で無過失にはならないでしょう。

個人的にはこの判断、ちょっと疑問が残るのですが、車間距離保持義務を単に先行車との衝突を避けるためだけと解するか、判例のような状況では後続車は横断者の存在を察知できないのだから(死角)、そのような状況にも備えて安全のために課された義務とも解釈できるような気がしないでもない。

 

まあ、こういう判例を見るとワケわからん事故を起こしたくないと思って車間距離をあける方向になりそうだから、無罪か有罪かは他人の問題に過ぎないのかもしれません。
イヤですよね。
事故を起こしたくないと思うのは当たり前の話。
民事でも過失がつくし。

判断は正当なのか?

個人的にはこの判例、一審の通りで車間距離保持を怠った過失としても良かったのではないかと思いますが、何が言いたいかというと判例だから必ず正しいなんて話はないこと。
この判例については理由の一つとして歩行者横断禁止と車両の転回禁止の規制があったことも挙げてますが、

歩行者の横断、車両の転回が禁止されている場所であつて、車両等の運転者においてその進路を横断する歩行者、車両等があることを予想して運転する必要は必ずしも高くはない道路であるから

道路交通法違反が成立することと、業務上過失致死傷(過失運転致死傷)が成立することは別問題とは言え、車間距離を保っていたら事故を回避できた可能性が残る。
なので東京高裁 昭和45年8月31日判決についてはやや疑問が残ります。
ただし、名古屋高裁 昭和34年4月6日判決も似たようなケースにおいて道路交通取締法違反は成立するが業務上過失致死は成立しないという趣旨の判示をしているので、あくまでも車間距離保持義務違反の問題と、過失運転致死傷の過失は別と捉えている。

本件のごとく、自動車の運転者が自己に先行する自動車に追従する場合、先行の自動車が急に停車するような場合には、これに追突する危険があり、また、道路を横断しようとするものが、先行する自動車の通り過ぎたのに安心し、追従する自動車の進行してくるのに注意を怠り突然側方から、その進路前面の路上に現れ、そのため追従する自動車がこれと衝突するようなことも往々あることであるから、先行する自動車との間に相当な間隔を保たないで、これに追従する自動車の運転者は、このような危険の発生を予見すべき注意義務のあることは、もちろんである。車馬が他の車馬に追従するとき、交通の安全を確保するために必要な距離を保つべきものと規定した前示道路交通取締法施行令22条の規定もまた、かかる危険を予防するために設けられた趣旨と解すべきものである。

 

しかしながら、先行する自動車が通行人に衝突し、これを路上に転倒させて轢圧し、そのまま同所を通過したため、転倒した人が追従する自動車の進路前面路上ににわかに出現し、その結果、同自動車がこれと衝突したり、または、これを轢圧するというようなことは、全く稀有の事態に属するものであるから、追従自動車の運転者に対し、かかる事態の発生することまでもこれを予見すべき注意義務があるものと解し、これを回避するために先行する自動車との間に特段の間隔の保持を要求するがごときことは、この種の運転者に対して、いたずらに、過大な注意義務を課すものというべく、相当でない。従つて、先行自動車に追従して自動車を運転する者が、右の稀有の事態の発生を予見せず、そのため先行車との間に必要な間隔を保つて運転しなかつたとしても、注意義務の懈怠があつたのということはできない。

 

名古屋高裁 昭和34年4月6日

クルマは急に止まれない

「クルマは急に止まれない」とよく言われますが、急に止まれないから車間距離をあける義務を課したり、横断歩道に接近する際には減速義務を課したりするなど予め「急に止まれない」という状況自体を防いでいるはず。

 

「急に止まれない」のはその通りなので、急ではなく止まれる仕組みにしているはずなんですが。

 

車間距離不保持って、要は自分から事故回避可能性を消しに行くような愚行と思うけど、車間距離を保って走行しているとなぜか割り込んでくるクルマもいるし、不思議ですよね。
「オマエのために確保したスペースではない」と言いたいところですが…


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