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結局、横断歩行者との距離は何メートル必要なのか?一時停止義務の基準と判例を検討。

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ちょっと前にこんな件がありましたが、

この件は「一時停止義務違反」(38条1項後段)と考えられます。
実際のところ、歩行者との距離が何mなら一時停止義務があるのか?について検討します。

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横断歩行者等妨害等違反

まず、38条1項前段は「横断しようとする歩行者が明らかにいない場合以外」には減速して横断歩道に接近する規定。
今回の焦点は38条1項後段です。

(横断歩道等における歩行者等の優先)
第三十八条 (前段省略)この場合において、横断歩道等によりその進路の前方を横断し、又は横断しようとする歩行者等があるときは、当該横断歩道等の直前で一時停止し、かつ、その通行を妨げないようにしなければならない。

「進路の前方」とは何を意味するかになりますが、このように解釈されます。

「その進路の前方」とは、車両等が当該横断歩道の直前に到着してからその最後尾が横断歩道を通過し終るまでの間において、当該車両等の両側につき歩行者との間に必要な安全間隔をおいた範囲をいうものと解する

 

福岡高裁 昭和52年9月14日

「横断する歩行者」と「横断しようとする歩行者」に対し一時停止&妨害禁止。
警察の基準はおおむねこんな感じです。

進路の前方を横断する歩行者 進路の前方を横断しようとする歩行者
車体幅+1.5m 車体幅+5m

ポイントになるのは「進路の前方を横断しようとする歩行者」がいるときにも一時停止義務がある点。
警察の基準だと「進路の前方を横断しようとする歩行者」はおおむね5mです。

 

ところで、警察の基準はおおむね5mとして裁判所的には法律上は記載がない警察の基準に縛られる理由もない。
裁判所はこのように判示しています。

右38条1項後段の規定は、車両等の運転者に対して、当該横断歩道により右の範囲を横断し又は横断しようとする歩行者があるときは、その直前で一時停止するなどの義務を課しているものと解される。そして、右の範囲すなわち歩行者との間に必要な安全間隔であるか否かは、これを固定的、一義的に決定することは困難であり、具体的場合における当該横断歩道付近の道路の状況、幅員、車両等の種類、大きさ、形状及び速度、歩行者の年齢、進行速度などを勘案し、横断歩行者をして危険を感じて横断を躊躇させたり、その進行速度を変えさせたり、あるいは立ち止まらせたりなど、その通行を妨げるおそれがあるかどうかを基準として合理的に判断されるべきである。原審において検察官は「進路の前方」の範囲を約5mと陳述しているが、これは、この程度の距離を置かなければ横断歩行者の通行を妨げることが明らかであるとして福岡県警察がその取締り目的のため一応の基準として右の間隔を定めていることを釈明したものと解され、必ずしも「進路前方」の範囲が5m以内に限定されるものではないのであつて、この範囲は具体的状況のもとで合理的に判断されるべき事柄である。

 

福岡高裁 昭和52年9月12日

警察の基準が5mですが、裁判所としては5m以内に限定していない。

 

これを踏まえて実際の判例を見ていきます。

判例による検討

結構勘違いしやすいのは、「一時停止」と「通行妨害禁止」は別の要件になっていること。

(横断歩道等における歩行者等の優先)
第三十八条 (前段省略)この場合において、横断歩道等によりその進路の前方を横断し、又は横断しようとする歩行者等があるときは、当該横断歩道等の直前で一時停止しかつその通行を妨げないようにしなければならない

ほとんどの判例は一時停止義務違反ですが、たまに一時停止後に発進する際に通行妨害した事例もあるので分けて考えます。

 

車両が一時停止しなかった判例

まずは車両が一時停止しなかった判例から。

判例 歩行者との距離 車両の速度 違反の成否
京都地裁H13.8.24 1.5m 20キロ 違反
福岡高裁S52.9.12 2~2.5m 30キロ 違反
大阪高裁S54.11.22 片側一車線の道路にて中央まで来て立ち止まった歩行者 8~10キロ 違反
東京高裁S42.10.12 1.5~2m 20キロ 違反※

・大阪高裁S54.11.22判決の状況

このように横断歩道上を横断しようとしてその中央付近手前まで歩んできた歩行者が、進行してくる被告人車をみて危険を感じ、同歩道の中央付近手前で一旦立ち止まったとしても、横断歩道における歩行者の優先を保護しようとする道路交通法38条の規定の趣旨にかんがみると、右は同条1項後段にいう「横断歩道によりその進路の前方を横断しようとする歩行者」にあたるというべきである。

そして、同女が横断歩道上の前記地点で立ち止まったとしても、前記認定のような当時の状況に徴すると、同女の後方からさらに横断者のあり得ることが予想される状況にあったのであるから、自動車運転者である被告人としては、同女の姿を認めるや直ちに、右横断歩道の手前の停止線の直前で(仮に、被告人が同女の姿を最初に発見した時点が、所論のように被告人車の運転席が停止線付近まで来たときであったとしても、事理は全く同様であって、その時点で直ちに)一時停止し、横断者の通行を妨げないようにしなければならなかったのである。

 

大阪高裁 昭和54年11月22日

 

・東京高裁 昭和42年10月12日判決の場合(当時は「進路の前方」ではなく「道路の左側」だった点に注意)

右法条にいわゆる「横断しようとしているとき」とは、所論のように、歩行者の動作その他の状況から見て、その者に横断しようとする意思のあることが外見上からも見受けられる場合を指称するものであるが、論旨第一点において説示したとおり、老人が横断歩道で立ちどまつたのは、そのまま横断すれば危険であると考え、その安全を見極めるためにしたものにすぎず、横断の意思を外見上明らかに一時放棄したものとはいえないから、この場合は、前記法条にいわゆる「横断しようとしているとき」に該当するものというべきである。そこで右主張もまたこれを容れることができない。論旨は理由がない。

 

東京高裁 昭和42年10月12日

 

車両が一時停止後、通行妨害した判例

次に車両が一時停止後、通行妨害した判例を。
こちらはほとんど判例がありません。

判例 歩行者との距離 歩行者の挙動 違反の成否
東京地裁H28.2.18 約1m 歩行者を立ち止まらせた 違反

こちらは一時停止後に通行妨害した事案なので「一時停止義務」は果たしたけど「妨害禁止義務」に違反したもの。
妨害禁止義務については必ずしも歩行者との距離が問題になるわけではないのですが、1mの距離なら歩行者が危険を感じて立ち止まるのは当然かと。

東京高裁 昭和42年10月12日についての補足

上で挙げた東京高裁 昭和42年10月12日判決についてですが、当時の規定が今とは異なります。

昭和38~42年(旧71条3号) 昭和46年以降
歩行者が横断歩道により道路の左側部分(当該道路が一方通行となつているときは、当該道路)横断し、又は横断しようとしているときは、当該横断歩道の直前で一時停止し、かつ、その通行を妨げないようにすること。 横断歩道等によりその進路の前方を横断し、又は横断しようとする歩行者等があるときは、当該横断歩道等の直前で一時停止し、かつ、その通行を妨げないようにしなければならない。

現在は「進路の前方」ですが、昭和46年以前は「道路の左側部分(当該道路が一方通行となつているときは、当該道路)」でした。
これにより差があるか?というと、基本的にはあまり差がないです。

 

昭和46年に「進路の前方」に変更した理由は、例えば片側三車線道路の場合。

昭和46年改正以前は「道路の左側部分を横断し、横断しようとする歩行者」に対して一時停止と妨害禁止義務がありました。
歩行者が横断歩道上の「道路の左側部分」にいる限りは「道路の左側部分を横断する歩行者」に該当してしまい、範囲が広すぎて自車の前を既に横断した歩行者も「左側部分を横断する歩行者」になってしまいました。

 

二車線の一方通行道路なんかだと、歩行者が自車の前を既に横断したとしても、横断歩道上にいる限りは「道路の左側部分(当該道路が一方通行となつているときは、当該道路)を横断する歩行者」になってしまい解釈上不都合が多かったために「進路の前方」に変更したので、片側一車線道路とかでは昭和46年改正前後では差がないのですが、一応条文上は差があるので注記しておきます。

そもそも争う場所がない

横断歩行者等妨害等違反については、そもそも争う場所がないという問題もあります。

 

本来は検挙の後に検察官に送致され、起訴・不起訴が決まり、起訴されたら有罪か無罪かが確定する話ですが、青切符制度は反則金を支払えば検察官に送致しない簡易システムです。

 

つまり反則金を払わなければ検察に送致されますが、ほとんどが不起訴。
起訴されないと裁判にならないので争う場所がない。
そして行政訴訟法では「点数取消訴訟」は認められておらず、「運転免許取消(停止)処分取消訴訟」か「ゴールド免許交付請求訴訟」になりますが、あまりに面倒でやる人もあまりいない。

 

私自身、交通違反ではありませんが行政訴訟をしてますが、判決確定まで2年半以上。
自力で裁判してますが、仮に誰かが報酬をくれるなら200万くらいくれないとわりに合わない程度に大変です。

 

ギリギリで争うよりも、警察に違反認定されない運転方法をしたほうが精神衛生的にもいいんじゃないかと思いますが、もちろん事故を起こすのは論外。
警察の基準通りに裁判所が違反認定するわけではないので冒頭の件は争える余地がないわけではないと思いますが、労力を考えたら全くわりに合わないとしか。

 

なお、上の京都地裁判決ではこのような文言があります。

原告は、本件右折の際、本件横断歩道の直前付近で一時停止しており、しかも、その時点で、本件歩行者との距離は少なくとも5メートルあることを確認した上で発車し、本件歩行者の進路前方の本件横断歩道を通過したものであると主張する。そして、原告は、その本人尋問においても、同趣旨の供述をし、本件横断歩道の直前で一旦停止した際、すでに、その手前の本件横断歩道を東から西へ女性が2人横断して通過した旨も供述する。
しかし、原告の上記供述によると、原告が本件横断歩道の直前で一時停止した際、本件横断歩道を本件歩行者よりも先に横断した女性2人と本件歩行者との間隔がすでに約5メートルあったことになるところ、前記女性2名は、対面信号が青色に変わった時から本件横断歩道を横断し始めた可能性もあり、上記のような間隔となった具体的状況が不明であるといわざるを得ない。また、原告が主張するような状況であったならば、むしろ、横断歩道の直前であえて一時停止をする理由はなく、そのまま通過するのが通常とも考えられる。

 

京都地裁 平成13年8月24日

原告の主張では一時停止した際に横断歩行者との距離が5m以上あったから進行したと主張してますが、仮にこの態様なら原告が横断歩道を通過する際には歩行者との距離が5m以下になるわけで。
裁判所的には5mにこだわっているわけではないのかと。
ただしこの判例、そもそも「一時停止した」という原告の主張を認めておらず、一時停止しなかったことになっています。

 

とりあえず警察の基準は5mですし、

義務としては5m範囲に入るときは一時停止&妨害禁止。
なお、5m範囲でも全く違う方向に歩く歩行者や、全く違う方向を向いている歩行者は「横断しようとする歩行者」には該当しません。

右法条にいわゆる「横断しようとしているとき」とは、所論のように、歩行者の動作その他の状況から見て、その者に横断しようとする意思のあることが外見上からも見受けられる場合を指称するものである

 

東京高裁 昭和42年10月12日

同法38条1項にいう「横断し、又は横断しようとする歩行者」とは、横断歩道上を現に横断している歩行者等であるか、あるいは、横断歩道等がある場所の付近において、当該横断歩道等によって道路を横断しようとしていることが車両等運転者にとって明らかである場合の歩行者等、すなわち、動作その他から見て、その者が横断歩道等によって進路を横断しようとする意思のあることが外見上明らかである歩行者等のことをいうと解するのが相当である。

 

東京地裁 令和元年12月19日

「外見上明らか」には横断歩道に向かって歩く人も含まれます。

明確な基準がないから不満を持つ人が出てくるのかもしれませんが、そもそも、横断歩道直前で「速すぎる」ケースが多いから事故るんじゃないですかね。
減速していれば事故には至らないケースがほとんどでしょう。

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