いきなりですが質問です。
指定最高速度が40キロの道路にて時速90キロで直進するオートバイと、一時停止後に右折するために交差点に進入したクルマが衝突しました。
過失割合はどうなるでしょうか?
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大幅な速度超過直進車と右折車が衝突
この場合、法条競合と安全運転義務を無視して双方の義務を考えるとこうなります。
○直進オートバイ
・最高速度遵守義務(22条)
○右折車
・一時停止かつ交差道路の進行妨害禁止(43条)
・右折時徐行義務(34条2項)
・優先道路の進行妨害禁止(36条2項)
・右折時の直進車進行妨害禁止(37条)
右折車は直進オートバイの進行妨害禁止なので直進オートバイが優先権を持つことは明らかですが、浦和地裁 平成2年2月16日判決が下した過失割合はこちら。
直進オートバイ | 右折車 |
100 | 0 |
こういう類型って判例タイムズなどにも掲載されてないので必ずこうなるわけではありませんし、個別に考えるしかありませんが、浦和地裁 平成2年2月16日判決は自賠法3条但し書きから右折車の賠償責任を否定。
さて、状況を見ていきましょう。
裁判の内容ですが、直進オートバイが大ケガして重大な後遺障害が残ったとして、自賠責保険の既払い分1600万を控除した約2億円を求めて右折車側を提訴したもの。
仙波町方向から南田島方向に通ずる川越市道を進行して本件交差点に差しかかり、本件交差点を狭山市方面に右折するため、別紙図面①地点に一時停止し、先ず右方を見たところ、約200m先に普通自動車を認めたのみで、左方には何も認めなかったので、時速約5キロメートルで前進し、別紙図面①と②の中間やや②寄りの地点で更に右方を確認したところ、右方には、第一通行帯約135m先に普通自動車の前照灯の明かりが、第二通行帯約148m先に自動二輪車の前照灯の明かりを認めたものの、相当距離があったので危険を感じなかったのに対し、左方には、約55m先に走行してくる普通自動車を認めたので、別紙図面②の地点で停止の措置をとり、別紙図面③の地点で左前部が中央分離帯の切れ目にかかる状態で停止し、左方からの前記車をやり過ごし、再び自車を発進させようとした矢先、時速約90キロメートルの高速度で走行してきた原告車が右側ドア付近に衝突したものであることが認められる。
原告は、右折車の進行状況について、右折進行するに当たり左右の安全を確認しないで突然右国道に進入したと主張するが、原告の右主張を採りえないことは前記認定のとおりである。
(中略)
原告は、指定速度を40キロメートルも超過する時速約90キロメートルの高速度で、しかも前方不注意のまま漫然と進行するという過失をおかしたため、本件事故を回避できなかったことは前記事実関係から明らかである。
ハ また、(証拠省略)を併せれば、被告は被告車の運行に関し、注意を怠っておらず、被告車には、何らの構造上の欠陥及び機能の障害はなかったことが認められる。
4 結論
そうすると、本件はまことに不幸な出来事であるが、被告には、自動車損害賠償保障法第3条ただし書の免責事由があることになる。
三 むすび
以上の次第で、原告の本訴請求はその余の点について判断するまでもなく理由がないから、本訴請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第89条を適用して、主文のとおり判決する。
浦和地裁 平成2年2月16日
要は右折する際に全ての注意義務を果たしていたのに、暴走直進オートバイが突っ込んできたという話。
自賠法では無過失を主張する側が無過失の立証責任を負いますが(自賠法3条但し書き)、右折車は無過失の立証をして裁判所が認めたため、全責任は直進オートバイにある形になります。
そもそも勘違いしやすいポイントですが、直進車の優先権ってあくまでも適法な速度内か、適法な速度からせいぜい20キロ超過くらいまでと解釈されているので、右折進行車は超高速度直進車を予見すべき注意義務を負わない(特別な事情がある場合は別)。
きちんと注意義務を果たしていたなら、右折車側が免責になることもあり得るのですが、現実的には右折車側にも何らかの注意義務違反がある場合が多いのでなかなか免責までは難しいのかもしれません。
なかなか難しいのは
例えばこうした事故について報道されるときには、一時停止したかしてないか?直進車の速度は何キロか?なんて具体的な話は報道されない。
単に直進車と右折車が衝突したという事実のみが報道されて「右折車が悪い」「右折車が一時停止してないだろ」と決めつけられてしまうのがオチ。
きちんと注意義務を果たしていたのに避けられない事態が発生した場合、無過失を立証すれば賠償責任が免除されることがありますが、当然のように示談交渉で無過失がまとまるはずもないので裁判になります。
ただまあ、大幅な速度超過なのに優先権を主張できると勘違いする人もいるのが実情。
例えば37条における優先権はこのように解釈されます。
道路交通法37条1項は車両等が交差点で右折する場合(以下右折車という)において直進しようとする車両等(以下直進車という)の進行を妨げてはならない旨定めているが、右規定は、いかなる場合においても直進車が右折車に優先する趣旨ではなく、右折車がそのまま進行を続けて適法に進行する直進車の進路上に進出すれば、その進行を妨げる虞れがある場合、つまり、直進車が制限速度内またはこれに近い速度で進行していることを前提としているものであり、直進車が違法、無謀な運転をする結果右のような虞れが生ずる場合をも含む趣旨ではないものと解すべきである。
富山地裁 昭和47年5月2日
優先道路や道路外から右左折合流なども同じような考え方で、暴走直進車は優先権を主張できる立場にはない。
この場合、注意義務を尽くしたから無過失なわけですが、過失割合がどうのこうのは所詮は結果論。
結果が発生する以前の注意義務を果たせとしか言えないよね。
2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。
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