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自転車なのに歩行者扱いになる「小児用の車」についてひたすら検討してみた。

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ほとんどの人が知らない道路交通法として、幼児が乗る自転車は「小児用の車」(法2条3項1号)になり歩行者扱いになります。

道路交通法2条1項11号が「小児用の車」を軽車両から除外し、同条3項1号が「小児用の車を通行させている者」を歩行者とした所以を考えるのに、同じく自転車の類型に入るものであつても、「小児用の車」にあたれば、これに乗つて進行している者は歩行者とされ

福岡高裁 昭和49年5月29日

ほとんどの人は知らないでしょう。
自転車に乗りながらも歩行者扱いになる唯一の例外なので、小児用の車に乗る子供が横断歩道を渡ろうとしていたら一時停止義務(38条1項)があります。

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小児用の車には定義がない

小児用の車については少なくとも昭和22年の「道路交通取締法」からありますが、小児用の車について明確に定義されたことはありません
1972年(昭和47年)に警察庁が示した指針はこれ。

○小学校入学前まで(6歳未満)の者が乗車している自転車
○車体が6歳未満の者が乗車する程度の大きさ(車輪がおおむね16インチ以下
○走行、制動操作が簡単で、速度が毎時4ないし8キロメートル程度以下のもの

小児用の車については昭和54年7月の「月刊交通」にて、警察庁交通企画課の中澤氏が書いた論文があります。
東京高裁 昭和52年11月30日判決(民事)と福岡高裁 昭和49年5月29日判決(刑事)から考察したものですが、著者の私見として3、4歳くらいまでとしている。

小児の意義については、既述のように、その文言自体からは明らかにされていないが小児用の車とされることに疑問がないとされる「三輪車」の形状、使用目的等にかんがみて、3、4歳と考えることが妥当ではなかろうか。そのように考えると専ら、3、4歳くらいまでの子供が使用することを目的とした形状のものであることが要求されよう。

 

「小児用の車の意義について」、月刊交通、警察庁交通企画課 中澤見山、東京法令出版、1979年7月

この論文では小児用の車を検討するにあたり、以下の観点に分けています。

ア 保護客体説
イ 車体説 (1)形状説
(2)機能説

警察庁の指針はこの三点を意識していると考えられます。

○概ね6歳未満(保護客体説)
○16インチ以下(車体の形状説)
○操作が簡単で時速8キロ以下(車体の機能説)

保護客体説

保護客体説は、「小児用の車」として軽車両から独立させて歩行者扱いにしている理由を「専ら小児の保護」と解釈し、さらに14条3項と71条2号で児童や幼児を特別に保護する趣旨から、「小児用の車」については14条3項でいう「幼児(6歳未満)」と同視すべきという説。

(目が見えない者、幼児、高齢者等の保護)
第十四条
3 児童(六歳以上十三歳未満の者をいう。以下同じ。)若しくは幼児(六歳未満の者をいう。以下同じ。)を保護する責任のある者は、交通のひんぱんな道路又は踏切若しくはその附近の道路において、児童若しくは幼児に遊戯をさせ、又は自ら若しくはこれに代わる監護者が付き添わないで幼児を歩行させてはならない
(運転者の遵守事項)
第七十一条
二 (略)、又は監護者が付き添わない児童若しくは幼児が歩行しているときは、一時停止し、又は徐行して、その通行又は歩行を妨げないようにすること。

ただしこの説の弱点はもし「小児」と「幼児」が同じだというなら、「幼児用の車」と規定すべきという点。
明らかに分けている上に、裁判所がこのような考え方には立っていない。

 

○福岡高裁 昭和49年5月29日判決(刑事)

道路交通法14条3項において、「児童(6歳以上13歳未満の者をいう。以下同じ。)……幼児(6歳未満の者をいう。以下同じ。)……」と規定し、「児童」および「幼児」について定義をしているけれども、同法2条1項11号および同条3項1号にいう「小児用の車」、またその「小児」については何らの定義を与えていないのである。

 

もつとも「小児用の車」または「小児」という用語が社会的に熟した言葉であるかというに、当審で取り調べた、自転車商Cの検察官に対する供述調書および当審証人D(長崎県警察本部交通指導課長)の供述によると、自転車メーカーは通例直径16インチ以下の自転車を「幼児用自転車」、直径16インチをこえ、24インチ以下のものを「子供用自転車」と称しているが、「小児用の車」ないし「小児用の自転車」という呼称は使用されていないことが認められ、他方、一般に「小児」という言葉も極めて多義的ないし限界が不明確であることは公知の事実である。

 

従つて、「小児用の車」または「小児」という文言自体からその内容を明らかにすることはできない。

 

そこで、飜つて、道路交通法2条1項11号が「小児用の車」を軽車両から除外し、同条3項1号が「小児用の車を通行させている者」を歩行者とした所以を考えるのに、同じく自転車の類型に入るものであつても、「小児用の車」にあたれば、これに乗つて進行している者は歩行者とされ、従つて、歩道等(同法10条1項参照)と車道の区別のある道路においては歩道等を通行しなければならず、右区別のない道路においては道路の右側端に寄つて通行しなければならない(同法10条1、2項)のに対し、「小児用の車」にあたらなければ、軽車両とされ、従つて、歩道等と車道の区別のある道路においては車道を通行しなければならず、かつ道路(右区別のある道路においては、車道)の中央から左の部分を通行しなければならないのである(同法17条1、3項、2条1項8号)。

 

ところで、道路交通法は、道路における危険を防止し、その他交通の安全と円滑を図ることを目的としているから(同法1条)、同法2条1項11号および同条3項1号の定める「小児用の車」ないしこれにいう「小児」の意味づけは右目的に即して、すなわち当該種類の自転車自体のもつ機能効用および他に与える危険性と右自転車を使用する年令の者の安全性および他に与える危害性との双方から定められなければならない

 

側車のつかない、直径22インチの本件二輪自転車は、大人用の直径26インチの自転車に近い速度をもち、かつ惰力行進をするから、同車が人車等に衝突すると一般の歩行者が危害を受け、また当該自転車の運転者自身にもたらされる危険も大きいので、これを防止するために機械式ブレーキが設置されているし、そのような性質、機能に徴し一般の歩行者の安全と交通の円滑を図るため歩道等と車道の区別のある道路においては車道を通行させ、かつ道路(右区別のある道路においては、車道)の中央から左の部分を通行させるのを相当とするのである。

 

もつとも、右の二輪自転車が道路交通法にいう軽車両、従つて車両として扱われることになると、歩行者として扱われる場合に比し、一般歩行者が受ける危険は減少する反面、その運転者自身の受ける危険が増すことになるわけであるけれども、この種の自転車は小学校中学年(3、4年)の児童が使用し、本件でも現実に当時9歳8か月の小学校4年の児童が使用していたのであるから、同人らは、通常有する健康な体力と学校および家庭で受けた交通の危険に関する訓戒、訓練とにより、道路の状況により同車を押して歩行者として進むか、これに乗つて車道で運転するかどうかを判断する能力はあり、またこれを車道で運転する際に伴う危険発生を避けるに必要な注意をするだけの弁識能力も備えていると解されるのである。

 

以上の理由から本件二輪自転車は、道路交通法2条1項11号および同条3項1号にいう「小児用の車」にはあたらず、同法にいう「軽車両」にあたると解するのが相当である。

 

福岡高裁 昭和49年5月29日

福岡高裁判決によると、幼児については14条3項に6歳未満と規定があるのに、「小児」については明確ではないとして幼児=小児という見解には立っていない。

 

○東京高裁 昭和52年11月30日判決(民事)

5歳7ヶ月の子供が直径40センチ(18インチ)の自転車に乗り事故に遭ったもの。

右認定の被害者の子供用自転車は大人用の自転車に比し小型で速力も遅いとはいえ歩行者より格段に早い速度をもちかつ惰力でも相当の距離を進行するものであるから、その機能からいっても歩行者とは異なる取扱いが相当であり、殊に道路交通の上で歩行者に生ぜしめ得る危険は歩行者が惹き起す危険に比すれば格段に大きく、その運転者は歩行者と同一には論じられないといわねばならない。したがって右認定の被害者の子供用自転車は道路交通法第2条第1項第11号および同条第3項第1号所定の小児用の車には該当せず、軽車輛として取り扱われるべきものであって(運転者の被害者が当時5歳余であり、また右認定の被害者の自転車のような自転車が一般に幼児用自転車と称して販売されているとしても、これらの事実はもとよりこの判断を左右するものではない。

 

東京高裁 昭和52年11月30日

こちらも「幼児用自転車」として販売されていることは判断材料とはせず、他害性の面から歩行者より格段に早いスピードとして軽車両と認定している。

車体説

車体説とは、車体の形状(主に車輪径)に着目するか、車体の機能としてスピードを出せるのか?に着目したもの。

 

警察庁(1972年)の指針では「16インチ以下」(形状説)と「走行、制動操作が簡単で、速度が毎時4ないし8キロメートル程度以下のもの」(機能説)の両面を満たすように求めているように見えますが、実際の判例からするとこうなる。

 

判例 年齢 自転車サイズ・速度 裁判所の判断
東京高裁S52.11.30 5才7ヶ月 ハンドル高80センチ、車輪直径40センチ 軽車両
東京地裁S53.12.14 4才11ヶ月 補助輪付幼児用自転車(7、8キロ) 小児用の車(歩行者)
岐阜地裁H19.3.9 6才2ヶ月 16インチ 軽車両
東京高裁H26.12.24 6才 18インチ 軽車両
福岡高裁S49.5.29 9歳8か月 22インチ 軽車両※
浦和地裁S57.3.31 7才8ヶ月 16インチ 自転車

※一審は「小児用の車」としたものの、二審は軽車両と認定。

 

警察庁が示した車体の形状や機能から判断しているわけではないし、小児用の車として認められたのは東京地裁S53.12.14(民事)の補助輪付幼児用自転車くらいしかない。

Wikipediaには浦和地裁S57.3.31判決で、7才8ヶ月が乗る自転車が「小児用の車」と認められたと書いてあります。
同判決をみると、確かに「原告の主張」は「小児用の車と認めるべき」とありますが、裁判所の判断は自転車として過失相殺しているので、Wikipediaの記述は誤りかと

これらを見る限り、警察庁の指針は裁判所には全く関係ないことになる。

結局「小児用の車」とはなんなのか?

少なくとも昭和22年には規定されている「小児用の車」について、70年以上経った現代でも明確な基準すらないというのが日本の道路交通法らしい気がします。
小児用の車として認めるかどうかは裁判所次第だし、私が知る限りは東京地裁S53.12.14(民事)の補助輪付幼児用自転車(4才11ヶ月)のみ。

 

これらを踏まえて、警察庁交通企画課の中澤氏が「3、4歳くらいまで」としているようにも取れますが、いまだ明確な基準はありません。

 

この件って、「小児用の車の通行区分の問題」と、「他者から見た歩行者性」に分けることができます。
道路交通法上、13歳未満の自転車は歩道通行が可能(63条の4第1項2号)。
なので歩行者扱いされようと、自転車の立場だろうと歩道通行は可能なのであまり深いことを考える必要もない。
仮に自転車扱いされたとしても歩道通行時には徐行義務があるので、通行区分の問題が生じる可能性はない。

歩行者扱いになる「小児用の車」であれば、例えば横断歩道を渡ろうとしていたら車両側には一時停止義務があります(38条1項)。
そもそもの話、大人が子供相手にこんな感じだとみっともないというか、ちっちゃい奴だなぁと思ってしまう↓

管理人
管理人
小児用の車は歩行者だから一時停止するけど、小学生の自転車は小児用の車じゃないから一時停止しないぜ!

ちっちゃい奴だなぁ、と。
私見では、このあたりは十分「小児用の車」と言える気がしますが、法令上明確ではない以上、大人としては「広く捉えて」子供を保護するのが筋と考えます。

まあ、昭和22年以来、何ら明確ではないまま続くルールってどうなんだろと疑問はあります。
「6歳未満の自転車は歩行者」と一律に定めてしまうと、対歩行者事故が起きたときには歩行者対歩行者の事故になるなど不都合もあるのでちょっとややこしい。

 

明確にすべきなのか、不明確なままのほうがいいのかは謎ですが、子供相手に張り合う大人はシンプルにみっともない。

 

事故が起きたときの民事責任で揉めることは時々ありますが、「小児用の車」で検索しても判例はほぼ出てきません。

 

けど、例えばこの子。

自転車扱いなら左側通行義務だし、歩行者扱いなら右端通行義務(例外あり)。
真逆になるからややこしいけど、大人がガタガタ言うよりもとりあえず優先保護すべきと考えるのがよろしいかと。
間違っても「逆走だぞゴルァ!」みたいなのはやめてくださいね。

 

ちなみに13歳未満、70歳以上の自転車は「自転車の立場として」歩道通行できるけど、歩行者扱いされるわけではありません。
小児用の車については全く知られていない道路交通法ですが、知られていないと同時に議論も進んでいない。
曖昧に濁すのが日本らしさなのかもしれませんが、そもそも小児用の車を軽車両扱いにしなかった理由は、自転車の歩道通行が禁止されていた昭和45年以前でも歩道通行可能にすることがメインの目的だったようです。
小さな子供に車道を走らせるのはムリがあるから軽車両から分離していたと古い解説書にもあります。

「小児用の車」とは、乳母車や小児用の三輪車または自転車等をいうが、これらの車が軽車両から除かれているのは、通行区分として歩道を通行させることの方が適当と考えられたからである。

宮崎清文、条解道路交通法、1961(昭和36年)、立花書房

その意味では、現行法では13歳未満の自転車は歩道通行可能ですし、本来の意味を失っているような気もします。
個人的には「横断歩道での優先権」と関わるので重要と考えますが、裁判所的にはほとんど認めてこなかったのも事実。

自転車と横断歩道の関係性。道路交通法38条の判例とケーススタディ。
この記事は過去に書いた判例など、まとめたものになります。 いろんな記事に散らかっている判例をまとめました。 横断歩道と自転車の関係をメインにします。 ○横断歩道を横断する自転車には38条による優先権はない。 ○横断歩道を横断しようとする自転...

ちなみにWikipediaって誰が書いているのか不思議ですが、紛らわしい内容や間違いが多いのでなんとかならないもんでしょうか…
浦和地裁判決も、裁判所的には認めていないようにしか読めない。

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