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横断歩道での自転車事故、刑事、民事、行政の視点。

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こちらで書いた件ですが、

定期的に上がる事故映像。横断自転車の問題と、横断歩道に接近する車両の注意義務の話。
この映像は頻繁にアップされる気がするのですが、 この人って事故原因を解説しないので、毎度のようにおかしな方向に話が流れるのがオチ。 歩行者でも轢いている これってクルマは38条1項前段(減速接近義務)の違反なので、自転車だろうと歩行者だろう...

 

https://twitter.com/YukariAkiyama48/status/1759699613022667118

 

これ、書いたように双方の義務違反はこうなります。

クルマの義務違反 自転車の義務違反
法条 38条1項前段(減速接近義務違反) 25条の2第1項(横断禁止)
具体的内容 対向車の停止により見通しが悪い横断歩道だから最徐行して注意する義務 車両として横断する以上、左右の確認をして妨害しないようにする義務

刑事責任、民事責任、行政処分の視点はそれぞれ違います。

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刑事、民事、行政の違い

刑事、民事、行政はそもそも目的が違うので視点が違うのは当たり前ですが、イメージとしてはこうなる。

意味合い
刑事 被告人が過失(不注意)によって他人を死傷させたことに刑罰を課す
民事 起きた損害について補填し、負担割合は公平的見地から相殺する
行政 事故を防ぐために課していた道路交通法の各義務違反に点数を課し、免許の効力をコントロールする

上のような事故って、各処分ごとに意味合いが違う。

過失
刑事 横断歩道があるのだから横断歩行者や自転車が横断することが「予見可能」なのに、減速することなく漠然進行した過失
民事 優先道路通行車と非優先道路通行自転車の過失割合50:50から、自転車が横断歩道を通行した分として-5%
行政 安全運転義務違反(70条)と、付加点数(専ら以外)

刑事、行政

まず刑事と行政から。
刑事責任としては「横断歩道があり横断歩行者や自転車がいることが予見可能なのにもかかわらず、漠然進行した過失」。
要は38条1項前段(減速接近義務)相当の過失。

進行道路の制限速度が時速約40キロメートルであることや本件交差点に横断歩道が設置されていることを以前から知っていたものの、交通が閑散であったので気を許し、ぼんやりと遠方を見ており、前方左右を十分に確認しないまま時速約55キロメートルで進行した、というのである。進路前方を横断歩道により横断しようとする歩行者がないことを確認していた訳ではないから、道路交通法38条1項により、横断歩道手前にある停止線の直前で停止することができるような速度で進行するべき義務があったことは明らかである。結果的に、たまたま横断歩道の周辺に歩行者がいなかったからといって、遡って前記義務を免れるものではない。もちろん、同条項による徐行義務は、本件のように自転車横断帯の設置されていない横断歩道を自転車に乗ったまま横断する者に直接向けられたものではない。しかし、だからといって、このような自転車に対しておよそその安全を配慮する必要がないということにはならない

東京高裁 平成22年5月25日

行政処分の場合、38条は横断歩道を通行する自転車に向けたものではない以上、38条違反ではなく安全運転義務違反(70条)と付加点数になります。

民事

次に民事責任。
民事責任は双方の不注意を公平的見地から相殺する(民法722条1項)のですが、民事の考え方ではあくまでも優先道路(交差点内にセンターライン、36条2項)がある交差点での事故と捉えます。

 

優先通行車と非優先道路通行車の過失割合50:50から、横断歩道通行分として自転車過失を-5%にする。

信号機のない交差点で非優先道路を走行する自転車とその左または右の優先道路から出てきた車の事故の過失割合 - 交通事故お役立ち手帳
信号機のない交差点で非優先道路を走行していた自転車とその左または右の優先道路から出てきた車の事故の過失割合を調べることができます。

これ勘違いして「自転車過失は10%」とかいう人もいますが、それは右左折巻き込みタイプの場合。
交差点での過失割合をベースにし、横断歩道通行分として「-5%」にするのが民事過失割合の考え方です。
なぜ横断歩道を通行すると「-5%」になるかというと、歩行者に向けた注意義務があり(要は38条1項)、それを怠った分を自転車に有利に修正するから。

自転車が横断歩道上を通行する際は、車両等が他の歩行者と同様に注意を向けてくれるものと期待されることが通常であることの限度で考慮するのが相当である。

平成30年1月18日 福岡高裁

優先道路に付属した横断歩道自転車事故の場合、判例はこんな感じ。

判例 自転車過失 修正要素
福岡高裁H30.1.18 30% 高齢者
大阪地裁H25.6.27 15% 小学生、クルマは制限速度超過
東京地裁 H28.11.1 30% ブレーキとアクセルを踏み間違え
名古屋地裁 R4.9.30 50% 夜間

最後の名古屋地裁R4.9.30判決以外はクルマの過失を増やす修正がありますが、名古屋地裁 R4.9.30判決は基本過失割合を50:50とし、横断歩道通行で自転車過失を-5%、夜間修正で自転車過失を+5%として結局50:50。

 

東京地裁 H28.11.1判決は最後にクルマがブレーキとアクセルを踏み間違えた分を自転車に有利に修正してますし、大阪地裁H25.6.27判決は著しい高速度と小学生であることを自転車に有利に修正。

 

○東京地裁 平成28年11月1日判決

被告は、本件交差点を直進するにあたり、本件交差点には横断歩道が設けられていたのであるから、適宜速度を調節し、本件横断歩道を横断する歩行者等の有無及びその安全を確認しながら進行すべき自動車運転上の注意義務があるのにこれを怠り、本件横断歩道上を右方から左方に向かい横断してきた原告車に衝突直前まで気づかず、ブレーキペダルを踏むべきところを誤ってアクセルペダルを踏み込んで原告車に被告車前部を衝突させて原告車もろとも原告を路上に転倒させ、原告に傷害を負わせた。

 

他方、原告にも、交通整理が行われていない交差点に進入する際に、交差道路が優先道路であるときは、当該交差道路を進行する車両の進行を妨害しないよう注意して進行すべき注意義務があるのにこれを怠った過失が認められる。
そこで過失相殺について検討すると、原告が横断歩道上を進行していたこと、本件事故の時間帯は夜間であったが、横断歩道については感知式オーバーハングが設置され、横断歩道上がライトで照らされていたこと、被告が衝突時にブレーキペダルではなくアクセルペダルを踏み込んだことなどの本件事故態様や現場の状況に照らし、双方の過失の内容、程度を考慮すれば、原告の過失割合については30%と認めるのが相当である。

 

東京地裁 平成28年11月1日

あくまでも55:45をベースにし、さらに修正要素があれば修正する。

原告が①横断歩道上を進行していたこと、②本件事故の時間帯は夜間であったが、横断歩道については感知式オーバーハングが設置され、横断歩道上がライトで照らされていたこと、③被告が衝突時にブレーキペダルではなくアクセルペダルを踏み込んだことなどの本件事故態様や現場の状況に照らし

たぶんこんなイメージなのかと。

クルマ 自転車
優先道路基本過失割合 50 50
自転車の横断歩道通行分 +5 -5
夜間 0 0
ブレーキとアクセルの踏み間違い +15 -15
70 30

夜間の場合、横断自転車に+5%にするのが通例。
しかし「夜間であったが、横断歩道については感知式オーバーハングが設置され、横断歩道上がライトで照らされていたこと」とあるので修正要素にしてないのかと思われます。

 

○大阪地裁 平成25年6月27日

認定事実によれば、本件事故の主要な原因は、被告が、本件交差点を通過する際に、本件横断歩道が設置されていたにもかかわらず、減速、徐行等を行わず、指定最高速度を越える速度で進行したこと、進路前方、左右の安全を十分に確認しなかったことにあるというべきである。

 

しかし、他方、被害者は、自転車を運転して、優先道路である東西道路を横断するにあたって、東西道路の西行車線のみならず、東行車線を走行してくる車両の有無及びその安全を確認して横断すべきであったといえるところ、本件事故の態様からして、被害者が、東行車線に進入する前に同車線上の接近車両の有無等の安全確認をしなかったものと推認されるのであり、しかも、西行車線が渋滞し、本件交差点内まで車両が連続して停止しているため、東行車線走行車両からの見通しがよくない状況にあったものであり、加えて、被害者は、自転車を運転して、歩行者の歩行速度よりも速い速度で横断したものと解されるのであって、これらの点は、本件事故における、被害者の落ち度と評価できる。この点は、被告車の車高如何によって、左右されるものとは解されない。

 

原告らは、本件事故当時、横断歩道上に歩行者がいなかったから、被害者は、横断歩道上を自転車で走行することが法的に許されていた、自転車で横断歩道上を通行することは日常よく見かけられる光景であることなどから、被害者が横断歩道上を歩行していたのと同様に評価すべき旨主張する。確かに、道路交通法施行令2条では、信号機による人の形の記号を有する灯火がある場合には、それによって、横断歩道を進行する普通自転車を対象とする趣旨の規定がある。しかし、本件交差点では、前記認定のとおり、信号機による交通整理は行われていないのであって、事案を異にするものであるし、これをもって、自転車を歩行者と同視すべきことには、直ちにつながらないというべきである。

 

道路交通法38条1項は、「横断歩道又は自転車横断帯(以下・・・「横断歩道等」という)に接近する場合には当該横断歩道等を通過する際に当該横断歩道等によりその進路の前方を横断しようとする歩行者又は自転車(以下・・・「歩行者等」という。)がないことが明らかな場合を除き、当該横断歩道等の直前で停止することができるような速度で進行しなければならない。この場合において、横断歩道等によりその進路の前方を横断し、又は横断しようとする歩行者等があるときは、当該横断歩道等の直前で一時停止し、かつ、その通行を妨げないようにしなければならない。」と規定しているが、これは、自転車については、同法63条の6において、自転車の自転車横断帯による横断義務を定めていることに照応するものであって、自転車が、自転車横断帯の設けられていない交差点の横断歩道上を走行して横断する場合には当てはまらないものというべきである。従って、自転車運転者としては、付近に自転車横断帯のない横断歩道上を横断する際には、自転車を降りて横断するのでない限り、横断歩道を通過しようとする車両に対して、歩行者と同様の絶対的な保護が法的に認められているとはいえない。また、自転車で横断歩道上を通行するという光景は日常よく見かけられるものであるとしても、それをもって、落ち度と評価することが妨げられるものとはいえない。

 

大阪地裁 平成25年6月27日

過失割合は自転車が15%ですが、おそらくはこんなイメージ。

クルマ 自転車
優先道路基本過失割合 50 50
横断歩道通行分 +5 -5
小学生 +5~10 -5~10
著しい高速度 +20~25 -20~25
85 15

冒頭の事故については修正要素がありそうな気がしないので、55:45か、やや自転車側有利に修正するかどうかでしょうか。

要はどの見地で見るか次第

刑事過失は主に38条1項前段(減速接近義務違反)になるし、行政処分は70条(安全運転義務違反)になるし、民事過失は優先道路がある交差点をベースにしながら相当の過失を比較検討し相殺する。

 

まあ、全部バラバラになります。

 

で。
こういう動画があるときに「どっちが悪いか?」という話ばかりになりますが、刑事には過失相殺なんて考え方がないわけで、「どっちが悪いか?」というのは民事の考え方です。
要は世間の考え方のほとんどは民事の話をしている。

 

民事過失割合の話をしている人に刑事責任の話をしても噛み合わないのは当たり前で、違う土俵の話でしかないのよね。
それこそ、民事責任上は横断歩道を通行する自転車に優先権がない以上、「歩行者に向けた注意義務(38条相当分)」はたった5%しか考慮されない。
もちろん上の大阪地裁判決のように制限速度を超過したスピードならさらに修正されますが、民事責任上はあくまでも非優先道路通行自転車が、優先道路通行車を妨害した扱いをベースにする。

 

「どっちが悪いか?」なんて話をするよりも、双方の立場に立って「何を怠ったか?」の話をしないと、いつまで経っても事故の予防にはならないと思いますが、どっちが悪い論はみんな大好きですよね。
この事故については、道路交通法の義務ベースでいえば自転車のほうが妨害した扱いでしかないけど、パワーバランスを考慮すれば両者の過失がほぼイーブンくらいでしょう。
民事過失も55:45が基本ですし。

 

ただまあ、責任としてクルマの運転者は有罪(過失運転致死傷罪)になり、行政処分もある。
それぞれすべきことをする、としか言い様がない事故です。

 

刑事、行政、民事はそれぞれ目的が違うし仕組みが違うのでこうなりますが、それこそ行政処分なんて一番具体性がない「安全運転義務違反」になるわけで、何をどう怠ったのかすら不明な違反にしかならない。
交通事故統計で安全運転義務違反ばかりになるには理由がありますが、

なぜ?自転車の「対歩行者事故」の大半が安全運転義務違反になる理由。
ちょっと前に読者様から質問を頂いていたのですが、詳しい内情はわからないので「たぶん」として回答します。 安全運転義務違反を適用する理由 まず、 これはその通り。 安全運転義務違反は、あくまでも他の具体的規定ではまかないきれない部分を補完する...

道路交通法違反(行政処分)と、刑事過失の認定、民事過失相殺の認定はそもそも全て目的も意味合いが違うので、全てバラバラにすらなりうる。
なので何を主体に話をするかで見解が違うのも当然かと。

 

そもそも刑事訴訟の仕組みが「被告人が悪いか?」を決めるものではなく、「どっちが悪いか?」を決めるものと勘違いしている人がいたりするのでビックリしますが…加害者が無罪になれば被害者が有罪になると思っている人すらいるので話が噛み合うわけもない。

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