こういう事故は、ちょっとした事故態様の違いによって話が変わるのでなかなか難しいところ。
27日午前、合志市の市道で転倒したバイクがダンプカーにはねられる事故がありました。この事故でバイクを運転していた女性が死亡しました。
27日午前9時ごろ、合志市竹追の市道で、渋滞していた車道横を菊陽町方面に進行していたバイクがダンプカーの左側を通過した後に車道側に転倒し、はねられたということです。
合志市で転倒したバイクがダンプカーにはねられ女性死亡【熊本】(TKUテレビ熊本) - Yahoo!ニュース27日午前、合志市の市道で転倒したバイクがダンプカーにはねられる事故がありました。この事故でバイクを運転していた女性が死亡しました。 27日午前9時ごろ、合志市竹追の市道で、渋滞していた車道横を菊
ダンプカーが進行していたのか停止していたのかによっても話が変わるし、被害者が転倒した地点がどこなのかによっても話が変わりますが…
すり抜けする2輪車を予見して注視する義務はあるか?
あくまでも両者進行中の前提になりますが、このような判例があります。
先ず検察官は本件被告人に側方注意義務が発生する前提となる事実として、被告人が走行していた車線と左側歩道との間に約1mの通行余地があり、同通行余地を二輪車等が走行することが十分予測できたことを指摘する。
しかし、側方注意義務が発生するのは、自車を左折あるいは右折させる場合または自車を従来の進路から左あるいは右に寄せて進行しようとする場合が典型であり、そのほか、自車前方を走行している二輪車等の側方を追抜きあるいは追越しする場合にも側方注意義務が発生すると考えられるが、そのような状況がなく、単に自車を直進進行させているにすぎない場合には、運転者としては、自車後方などから進行してきて自車と並進するにいたった車両については、原則としてその車両の運転者が自車との接触・衝突など生じないような安全な方法で進行してくれることを信頼すれば足りるのであって、運転者が単に自車の側方を二輪車などが通行することを抽象的に予測していたとしても、そのことから直ちに側方注意義務は発生しないと言うべきである。そうすると、検察官の主張する前記事実は被告人の側方注意義務を発生させる根拠となる事実としては不十分なものと言わざるを得ない。
そして、本件の場合、前記認定の本件事故前後の状況によれば、被告人は自車を左折させようとしていたものでも、また左へ幅寄せしようとしていたとも認められず、単に自車を進路にそって直進進行させていたに過ぎないのであり、また本件事故前被害車両が被告人車両の前方を走行していたとも認めることができないこと前示のとおりであるから、原則として被告人に側方注意義務は発生しない場合であったと言うことができる。
ただ本件の場合、前記認定のとおり、被告人は<3>の地点から<4>の地点あたりを走行する間、左側へハンドルを切って自車を左へ寄せつつ進行したのであるから、これを側方注意義務発生の根拠となる左への幅寄せと認めて被告人に側方注意義務を発生せしめることができないかという疑問もあるので、この点について付言しておくと、本件の場合被告人が自車を左側へ寄せて進行させたのは、別紙1のとおり、自車の走行している車線自体が、若干左へ曲がりながら交差点先に続いていたからであって、いわば従来の走行車線上を走行するために自車を左へ寄せながら進行したものである。そして、一般に直進車両が左へわん曲する走行車線にそって進行する場合、車両自体は従来の位置から左へ寄った位置へ移動せざるをえないのであるが、そのことによって後方から進行してくる車両との接触等が生じる具体的危険が認められる状況がなく、単に自車を車線にそって進行させるにすぎない場合においては、そのことから自車の左側方の安全を確認すべき注意義務が生じるとは考えられない。そして、本件の場合、前記認定のとおり、被告人走行の車線とその左側の歩道との間には、約1.1mの幅の路側帯(検察官のいうところの通行余地である。)があり、証拠によれば、被害車両の車幅は約0.64mであるから、右路側帯は被害車両程度の二輪車であれば十分通行が可能な間隔を持つものであって、その様な路側帯の横の車線を進行している車両の運転者としては、車線に沿って左へ寄りながら進行する場合においても、自車を車線から左へ逸脱させるような進行をしない限り、直ちに自車の左側方に対する注意義務が発生するとは認めることができず、本件の場合、証拠によれば、本件事故が発生した<6>の地点は、被告人走行車線の内側であり、そうすると、被告人は自車の走行車線を逸脱するような進行をしてはいなかったものであるから、被告人に側方注意義務を科すことはできないというべきである。鹿児島地裁 平成元年12月21日
第3 過失の有無についての検討
1 前記第2の1のとおり,本件道路は,交通頻繁な国道で,西側に防音壁が設置され,その西方に歩道が整備されていることからすると,歩行者や自転車の通行が想定されていないものと認められる。
また,本件事故現場の第1車両通行帯は幅約3.8m,被告人車両は幅約2.49mであるから,被告人車両が第1車両通行帯の中央を走行した場合,被告人車両の左側面と外側線との幅は約0.6m,これに外側線と縁石までの幅約0.7mを併せても約1.3mである。証拠によれば,実際に,被告人車両と車両諸元が同一の大型貨物自動車を本件道路の第1車両通行帯に置き,被告人に本件事故時の走行状況を再現させて,同車両左側面と縁石との通行余地の幅を計測したところ約1mであり,自転車(28インチのロードバイク)に乗車した警察官に,同通行余地を走行させたところ,時折その着衣等が大型貨物自動車側面に接触するなど,安全走行が極めて困難な状況であったこと,本件道路の第1車両通行帯を通行する標準的な大型貨物自動車等を任意に抽出,調査したところ,車両左側の通行余地は約1mであったこと,本件道路を通過するロードバイクライダーを抽出し,第1車両通行帯を時速約35kmで走行する大型貨物自動車の左側通行余地1mの条件で,同車両の左側を追い抜いたり接近したりするか聞き取り捜査をしたところ,いずれの対象者も否定したことが認められる。
これらの事実からすると,被告人において,本件道路の第1車両通行帯を走行するに当たって,走行中の被告人車両左側面と縁石との間のわずか約1mの隙間を左後方から自転車等が進行してくることを予見して,その進路を妨害しないよう留意して進行すべき注意義務があるとはいえない。
2 また,検察官は,被告人が,ハンドルを的確に操作して適正に進路を保持することなく,被告人車両を本件道路の左端に寄せて走行させた旨主張し,被告人はこれを否定しているところ,被告人があえて被告人車両を左端に寄せる理由は見当たらない。本件擦過痕に基づき,被告人車両が本件道路の左端に寄って第1車両通行帯外側線付近で被害者自転車に衝突したとするEの見解が採用できないことは,前記第2の3のとおりである。
なお,証拠によれば,本件道路は直線道路ではあるものの,わずかに左に湾曲しているため,第1車両通行帯の中央付近を走行するためには,本件事故現場の南方でやや左にハンドルを操作する必要があり,意図的に車体を寄せるつもりがなくても,車体が左右に振れることは十分あり得る。
一般に,自動車運転中に走行車線内で車体が若干左右に振れることは不可避であり,走行車線からはみ出すような場合はともかく,走行車線内で走行位置が若干左右に振れたことをとらえて,ハンドルを的確に操作し進路を適正に保持しなかったということはできない。被害者自転車においても,被告人車両同様,走行中に車体が若干左右に振れることは避けられないと
ころ,本件道路のように第1車両通行帯の外側線と縁石との幅が狭い場所を走行する際には,もとより被害者自転車のハンドルや被害者の身体が外側線から第1車両通行帯内にはみ出すことになるため,被告人車両が殊更左に寄らなくても,被害者自転車が被告人車両左側面と接触してしまう可能性は否定できない。
以上によれば,結局のところ,そもそも被告人がハンドルを的確に操作して進路を適正に保持することなく被告人車両を本件道路左端に寄せて走行させた事実は認められず,仮に,走行中に被告人車両の車体が若干左に振れたために本件事故に至ったとしても,被告人に結果回避義務違反があったとはいえず,被告人に過失は認められない。
名古屋地裁 平成31年3月8日
要は道路の形状に応じてまっすぐ進行している以上、左側に1m程度の空間があったとしても側方を注視してすり抜けを予見して注意する義務はないという判断。
追い越しでも追い抜きでも基本的には後車が注意する義務があるわけで、左折するときや進路を変えるときなど以外には注意義務はないとしている。
ところが、先行車が停止中から発進する場合は別。
上記2つの判例はどちらも「進行中」の事例ですが、冒頭の報道ってダンプカーが渋滞で「停止」していたのか、進行していたのかわかりません。
大型車の左側をすり抜けしてもろくなことにならないし、左側に数メートルの余地があるとかなら別ですがオススメし難いですよね。
もちろん、事故のちょっとした態様の違い次第でダンプカーの過失ありと判断されることもあるのですが、そのあたりは報道からはわかりません。
民事の責任
民事の責任については、事故態様がわからないと何とも言えないところ。
参考までに、上で挙げた名古屋地裁判決の民事をみると、自賠責保険は「無責事故」扱いになっているので自賠責保険からは支払いがありません。
ただし民事一審は無過失の立証がないとして人身損害の賠償を認め(物損は「過失の立証がない」として否定)、民事二審は違う事故態様を認定して加害者過失80%。
刑事と民事で全く違う事故態様が認定されるのもどうかと思うけど、刑事と民事はそもそも目的が違うので珍しくもない。
刑事では「ロードバイクが追い抜きした」だし、民事では「ロードバイクが追い抜きされた」になるのでなかなかややこしいですが…
刑事事件としてはこのような事故態様の下で過失を争い、
民事事件で認定された事実はこう。
ちょっとした事故態様の違いで話が変わるし、報道内容が正しい保証もありませんが、すり抜けしていいことなんてほとんどないのよね。
2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。
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