こういう事故は絶えない。
事故があったのは、上天草市松島町阿村の国道266号の交差点です。警察によりますと3日午後5時40分頃、大矢野方面に直進していた軽自動車が、自転車で道路を横断していた近くに住む無職、岡野弘さん(81)をはねました。岡野さんは頭を強く打ち、約4時間後に搬送先の病院で死亡が確認されました。
現場は信号機や横断歩道のない交差点で、岡野さんは軽自動車から見て右から左に道路を横断していたということです。警察が事故の原因を調べています。
自転車で交差点を横断中の81歳男性 軽自動車にはねられ死亡(KKT熊本県民テレビ) - Yahoo!ニュース3日、上天草市で、自転車で道路を横断していた81歳の男性が軽自動車にはねられ死亡しました。
事故現場はこちらですが、
若干注意が必要なのは、事故現場交差点の直近にも交差点があり、横断歩道があること。
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義務と注意義務
事故のイメージはこうでしょうか。
被害自転車が②交差点の交差道路から進入したのか、それともメイン通りの右路側帯から横断したのかは定かではないので割愛。
交差道路から進入した場合は優先道路の進行妨害禁止(36条2項)、メイン通りの路側帯から横断した場合は正常な交通を妨害するおそれがあるときは横断禁止(25条の2第1項)になりますが、中身は同じなのでわける必要はないかと。
問題なのはクルマがいかなる義務を負っていたか。
指定最高速度は50キロですが、クルマの破損状況からすると指定最高速度を超過していた可能性もあるけど何とも言えない。
一応、手前の横断歩道に対する減速接近義務(38条1項前段)があるのですが、
横断歩道左右の見通しが激悪とまではいかないので最徐行義務まではないにしろ、相応に減速していたなら被害自転車の挙動を発見して事故を回避できた可能性は残りますね。
もちろん、減速接近義務(38条1項前段)は「横断歩道を横断しようとする歩行者」に対するものなので、横断歩道外を横断した自転車に向けたものではありませんが、法文上は「横断しようとする歩行者が明らかにいない場合」に課される。
なのでそれが自転車だろうと、横断歩道外だろうと結果論に過ぎないとも言えますが、このくらい横断歩道から外れていると刑事/民事ともに減速接近義務(38条1項前段)は考慮されないかと。
考慮されないことと義務の有無は別問題なので、指定最高速度を遵守し、減速接近義務(38条1項前段)を遵守しながら前方左右を注視していたなら事故の回避可能性は高まったかもしれません。
なにせ、被害者は「右⇒左」に横断なので。
やるべきことを全てこなして事故が起きたのか、何か怠って事故を起こしたのかではだいぶ差がありますが、事故とは無関係な義務をこなしていればたまたま回避できた可能性はある。
結果論で捉えない
自転車が優先道路の進行妨害禁止(36条2項)、もしくは正常な交通を妨害するおそれがあるときは横断禁止(25条の2第1項)を遵守して、左右を確認してから横断していれば事故が起きていないという意見もその通り。
ただまあ、相手の挙動がどうであれ、自分の義務を帳消しにするわけじゃないので、自分がやるべきことを粛々とこなすしかないのよね。
ちなみにこれ、民事の基本過失割合はこうなります。
優先道路通行車 | 自転車 | |
基本過失割合 | 50 | 50 |
高齢者修正 | +10 | -10 |
計 | 60 | 40 |
仮に自転車が横断歩道を通行したなら自転車に-5%になりますが、民事の過失割合ってどちらが悪いかの指標ではなく、公平(平等ではない)に責任分配した結果に過ぎない。
数値化すると義務感が薄れる気がする。
このように判示されている判例もあります。
ところで、(2)で述べたような、本件マンションのスロープで危険なスケートボード遊びをし、しかも、間近に迫っている加害車両に気付くことなくスロープを滑り降りた亡被害者の落ち度と、(3)で述べた被告の落ち度とを単純に比較するならば、被告の主張するように、亡被害者の落ち度の方がより大きいと言えるだろう。
しかし、交通事故における過失割合は、双方の落ち度(帰責性)の程度を比較考量するだけでなく、被害者保護及び危険責任の観点を考慮し、被害者側に生じた損害の衡平な分担を図るという見地から、決定すべきものである。歩行者(人)と車両との衝突事故の場合には、被害者保護及び危険責任の観点を考慮すべき要請がより強く働くものであり、その保有する危険性から、車両の側にその落ち度に比して大きな責任が課されていることになるのはやむを得ない。特に、被害者が思慮分別の十分でない子供の場合には、車両の運転者としては、飛び出し事故のような場合にも、相当程度の責任は免れないものというべきである。
平成15年6月26日 東京地裁
よく「◯◯が悪くなるのはおかしい」みたいな意見を見かけますが、そもそも民事の過失割合ってどっちが悪いか?なんて概念でもないのよね。
自転車は優先道路を横断する際に確認して横断すべきだし、クルマはこのケースでいえば直前の横断歩道に対し減速接近していれば事故回避できたかもしれない。
ただまあ、道路状況と直前の横断歩道の存在、被害者が右⇒左に横断したことを考えると、加害者の速度や前方左右注視に疑問が残ります。
ちなみに交差点安全進行義務(36条4項)ですが、これは安全運転義務(70条)の交差点特別規定な上、他条の違反が成立する際には適用しない趣旨(最高裁判所第二小法廷 昭和46年5月13日)。
何ら具体性がない規定なのですが、指定最高速度超過があるときは最高速度遵守義務違反(22条)が成立するものの安全運転義務違反は成立しません(熊本地裁 昭和61年11月17日)。
具体的にスピードがどれくらい出ていたかはわかりませんが、直前の横断歩道の存在を考えると適切速度だったのか疑問が残ります。
生活道路の法定速度が30キロになる施行令改正案が出てますが、本来は生活道路での見通しが悪い交差点の徐行義務等を考えると、わざわざ30キロだと決めなくてもその程度になるもの。
「生活道路の法定速度が30キロになる」ばかりが注目され、他条の話が薄れているように感じるので事故防止に役立つのか疑問がありますが、今回の事故についてもたぶん横断歩道を歩いて横断していても事故になるような速度だったのではないか?と疑問が残ります。
あともう一つ。
この停止線は横断歩道の停止線ではなく、横断歩行者優先時の一時停止位置は横断歩道の直前になります。
菱形マークと停止線がやたら近いのが「変」に思えますが、いまだにこの停止線の存在意義はわかりません。
2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。
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