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歩道→横断歩道に進行した自転車と左折車の関係に「信頼の原則」は適用されるか?

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道路交通法のバイブル的存在といえば執務資料(野下解説)ですが、執務資料に掲載されている判例にこれがあります。

自転車の運転者が道路を横断するにあたって横断歩道を利用する場合には、自転車に乗ったまま疾走し、飛び出すような形で横断歩道を通行することは厳にしてはならないというべきであって、自動車運転者はこのような無謀な横断者はないものと信頼して運転すれば足りる。

東京地裁 昭和47年8月12日

これは左折車と、歩道→横断歩道を進行した自転車の刑事判例ですが、いわゆる信頼の原則を適用したもの。
以前も書いてますが、今の時代に信頼の原則を適用して注意義務を緩和するのはムリがある。

自転車と横断歩道の関係性。道路交通法38条の判例とケーススタディ。
この記事は過去に書いた判例など、まとめたものになります。 いろんな記事に散らかっている判例をまとめました。 横断歩道と自転車の関係をメインにします。 ○横断歩道を横断する自転車には38条による優先権はない。 ○横断歩道を横断しようとする自転...

ところで、同じように左折巻き込み事例で信頼の原則は適用されているのでしょうか?(あくまでも横断歩道を通行していた自転車に限定します)

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他判例の立場

左折巻き込み事例の刑事判例をいくつかピックアップします。

判例 事故態様 信頼の原則 判決
東京高裁S57.8.25 被害者は歩道→横断歩道を進行 否定 有罪
東京高裁S56.6.10 被害者先行。左折直後に右に進路変更し横断歩道を進行。 否定 有罪
大阪高裁S62.5.1 被告人はガードマンの指示に従って左折し、横断歩道を進行した自転車と衝突 肯定 無罪
東京地裁H15.12.15 横断歩道を進行した自転車と左折車の衝突 話題にすらならず 無罪

信頼の原則は、被告人の注意義務を緩和するもの。

被害者または第三者が適切な行動を行うことを信頼できる場合、それによって生じた損害について、行為者は一切の責任を取る必要はないという原則

被害自転車が横断歩道を通行した事故(左折巻き込み)については、基本的に信頼の原則は否定されます。
大阪高裁の判例については、ガードマンが左折OKだと指示したことを信頼してよいか?なので事案が違う。
東京地裁平成15年の判例については、無罪にした理由は「被告人が被害者を視認できたとする証明がないこと」なので信頼の原則とは無関係。

 

じゃあこれは何なの?となるわけですよ。

自転車の運転者が道路を横断するにあたって横断歩道を利用する場合には、自転車に乗ったまま疾走し、飛び出すような形で横断歩道を通行することは厳にしてはならないというべきであって、自動車運転者はこのような無謀な横断者はないものと信頼して運転すれば足りる。

東京地裁 昭和47年8月12日

東京地裁 昭和47年8月12日判決の自転車は小学生で、認定された自転車の速度は時速9キロです。
つまりは徐行。

信頼の原則を誤適用したのでは?

昭和40年代頭に最高裁が信頼の原則を認めて以降、昭和40年代には信頼の原則を乱発したかのような判例も残ってます。
例えば、「歩行者横断禁止」の標識がある道路で、被告人は指定最高速度40キロのところ時速70キロで進行し、しかもスポーツ新聞を読みながら運転して横断歩行者に衝突。
東京地裁はなぜか信頼の原則を適用し無罪に。

被告人は右自動車を北東方の入谷方面から南西方の上野駅前方面に向かつて走行させていたが、そこは東京都公安委員会がそこを北東方の入谷方面から南西方の上野駅前方面に向かつて通行する車両の最高速度を40キロメートル毎時と定めているところであるのに、被告人はそのときそこで右自動車を約70キロメートル毎時の速さで走行させており、かつ、右自動車の助手席に同乗していたAの購入したスポーツ新聞の競馬予想記事について同人と話をかわしたり、その新聞をのぞきこんだりして右自動車の進路前方を注視しておらず、従つて右自動車の進路前方における横断歩行者の存否を確認していなかつたところ、そのとき被害者が右自動車の進路前方(南西方)を左から右に(南東方から北西方に)横断歩行しようとしており、被告人は以上の前方不注視のためこれに気づくのが遅れ、被告人がこれに気づいたときには右自動車は被害者の手前(北東方)約9メートルの地点を約70キロメートル毎時の速さで走行していたため、どうするいとまもなく、右自動車の車体が被害者の身体に衝突し、そのため同人がはねとばされて路上に転倒し、その結果(略)死亡するに至つたものであり、以上の事実は〈証拠〉によつて明らかである。

前方不注視のまま制限速度を30キロオーバーで進行していた状況です。

検察官は、自動車運転業務従事者としてはかかる場合この衝突を避けるため、右自動車の速さにつき前記の指定最高速度を守り、かつ、右自動車の進路前方を注視して、そこを左から右に横断する歩行者の存否を確認していなければならないと主張するが、以上の歩行者横断禁止区間内で前記の如き二本の分離帯の間を走行している車両の運転者はその車両の進路前方を横切る歩行者があるかも知れないということまで予想していなければならないということはできない(このことは、前記の南東側分離帯が前記のように一部途切れていることやここを通行する車両の最高速度が前記のとおり公安委員会によつて40キロメートル毎時と定められていることによつて影響されない。けだし、分離帯の中断は分離帯の北西側から南東側に移る車両のためにあるものに過ぎず歩行者のためにあるものではないし、また指定最高速度はこの場合車両の進路前方における車両との衝突を防止するためのものに過ぎず歩行者保護のためのものではないからである。)。

 

すなわち、前記の二本の分離帯の間を走行する車両の運転者としては、歩行者が南東側歩道から北西側歩道に移る際にはかならず前記二本の横断歩道のうちのどれかを利用するのであつて、これを利用しないで前記のガードレールをまたいで、かつ、歩行者横断禁止を無視して、横断歩道以外の部分で車道を横切るものはないであろうと信頼していればたりるというべきである。従つて本件の場合被告人にはその運転する自動車の進路前方を横切る(または、横切ろうとしている)歩行者の存在を予見すべき義務はないのであり、従つて、(進路前方の車両に対する関係ではともかく)かかる歩行者に対する関係では前方注視義務も指定最高速度遵守義務もないといわなければならない。そうだとすれば、被告人がもし前方注視をしていたならば被害者の姿を(右転把または制動により回避しうる地点で)現認しえたとしても、またもし被告人が前記の指定最高速度を遵守していたならば前記衝突を回避することができたとしても、そのことは被告人に前記衝突についての過失責任を負わせる根拠とはなりえないものというべきである。

 

東京地裁 昭和47年3月18日

この判例については当時現職の裁判官が「ショックを受けた」と論評しているものもありますが、今の時代にこんな信頼が許されるわけもなく、しかも別件(歩行者横断禁止)では東京高裁が信頼の原則を否定。

本件事故は、歩道と車道との区別はあるが、右に説明した車輛等と歩行者との共用道路において生じ、前記のとおり、被害者たる歩行者に過失があつたにもせよ、被告人には、歩行者の通行を予測し得る車輛等と歩行者との共用道路において自動車運転者としての基本的注意義務である前方注視を怠つたのであるから、前記信頼の原則を適用して被告人に過失がないとすることはとうてい許されない

東京高裁 昭和42年5月26日

「歩行者横断禁止」と責任。
読者様から質問を頂いたのですが、「歩行者横断禁止」の規制がある道路で、禁止規制を破って横断する歩行者と事故が起きた場合は過失責任がどうなるの?という話。 民事責任でいうなら、「歩行者横断禁止」の場所で歩行者が横断して事故になった場合、歩行者...

これらからすると、東京地裁 昭和47年8月12日判決で示された「信頼の原則」はそもそも誤適用したのではないか?とすら思うし、比較的似た東京高裁判決でも信頼の原則が否定されていることを考えると、あまり意味がない判例なのかと。

 

いかなる努力をしても視認不可能だから無罪とか、ガードマンの誘導に従って左折したから信頼の原則を適用というならわかりますが、昭和40年代ってたまにこういう判例があるのよね。
どちらにしてもこの判例は執務資料くらいにしか載ってなくて、警察庁の「実例判例集」にも掲載されていない程度のものですが、比較的似た東京高裁S57.8.25で信頼の原則が一蹴されていることからもあまり意味がない。

 

執務資料最大の難点は、意味がない判例を載せていること。
たまに判例が古いので…

 


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