この記事は過去に書いた判例など、まとめたものになります。
いろんな記事に散らかっている判例をまとめました。
○横断歩道を横断する自転車には38条による優先権はない。
○横断歩道を横断しようとする自転車には38条の優先権はないものの、「歩行者がいないことが明らか」ではなければ前段の減速義務はある。
○前段の減速義務は、結果的に横断しようとする歩行者がいなかったことをもって免除されない。
○横断歩道を横断する自転車は日常的にいることから横断歩道の前に自転車がいた場合、自転車に乗ったまま横断することは予見可能。予見可能な事故は回避する義務がある。
○予見可能なことから、自転車がいたら70条に基づき減速して警戒する義務がある。
◯自転車に優先権が無くても、車のドライバーは事故を起こせば過失運転致死傷罪に問われる
対歩行者の判例はこちら。
Contents
- 1 38条と自転車の関係
- 2 38条1項前段についての誤解
- 3 判例によるケーススタディ
- 3.1 横断歩道を横断しようとする自転車に対し、38条1項前段の減速義務はあるか?
- 3.2 38条の義務が無くても、予見可能として有罪にした判例
- 3.3 横断歩道を横断した自転車を、優先道路の進行妨害とみなした判例
- 3.4 信号機がなく、同程度の幅員の交差点にて横断歩道を横断した自転車
- 3.5 歩行者用信号機に従って横断する自転車と38条の関係性
- 3.6 歩道が「自転車通行可」の場合に、横断歩道の扱いが変わるか?
- 3.7 横断歩道・自転車横断帯が赤信号の場合における38条の適用
- 3.8 執務資料に掲載された判例
- 3.9 自転車にみえて歩行者扱いになる「小児用の車」
- 3.10 横断歩道・自転車横断帯がある場所で、横断歩道を横断した自転車に対する38条の優先権
- 3.11 自転車横断帯を通行する自転車の注意義務
- 3.12 横断歩道を横断する自転車に課された注意義務
- 4 自転車は乗ったまま横断歩道を横断してもいいのか?
- 5 38条とその他の関係性
38条と自転車の関係
道路交通法38条1項の解釈ですが、以下の関係性について優先させるものになります。
・自転車横断帯を横断しようとする自転車
このように解釈する理由ですが、横断歩道の定義は「歩行者の横断の用に共する部分」(2条1項4号)、自転車横断帯の定義は「自転車の横断に共する部分」(2条1項4号の2)とあり、横断歩道ー歩行者、自転車横断帯ー自転車の関係性についてのみ優先権を定めています。
これ、歩行者には付近に横断歩道がある場合には横断歩道を使う義務を(12条1項)、自転車には自転車横断帯を使う義務を定めている(63条の6、7)ことから、義務を果たす横断を保護するためにこのように解釈します。
道路交通法38条1項は、「横断歩道又は自転車横断帯(以下・・・「横断歩道等」という)に接近する場合には当該横断歩道等を通過する際に当該横断歩道等によりその進路の前方を横断しようとする歩行者又は自転車(以下・・・「歩行者等」という。)がないことが明らかな場合を除き、当該横断歩道等の直前で停止することができるような速度で進行しなければならない。この場合において、横断歩道等によりその進路の前方を横断し、又は横断しようとする歩行者等があるときは、当該横断歩道等の直前で一時停止し、かつ、その通行を妨げないようにしなければならない。」と規定しているが、これは、自転車については、同法63条の6において、自転車の自転車横断帯による横断義務を定めていることに照応するものであって、自転車が、自転車横断帯の設けられていない交差点の横断歩道上を走行して横断する場合には当てはまらない
大阪地裁 平成25年6月27日
第三十八条 車両等は、横断歩道又は自転車横断帯(以下この条において「横断歩道等」という。)に接近する場合には、当該横断歩道等を通過する際に当該横断歩道等によりその進路の前方を横断しようとする歩行者又は自転車(以下この条において「歩行者等」という。)がないことが明らかな場合を除き、当該横断歩道等の直前(道路標識等による停止線が設けられているときは、その停止線の直前。以下この項において同じ。)で停止することができるような速度で進行しなければならない。この場合において、横断歩道等によりその進路の前方を横断し、又は横断しようとする歩行者等があるときは、当該横断歩道等の直前で一時停止し、かつ、その通行を妨げないようにしなければならない。
警察庁の説明はこちら。
自転車に乗り横断歩道を横断する者は、この規定による保護は受けません。
法の規定が、横断歩道等を横断する歩行者等となっており、横断歩道等の中には自転車横断帯が、歩行者等の中には自転車が含まれまれているところから設問のような疑問を持たれたことと思いますが、法38条1項の保護対象は、横断歩道を横断する歩行者と自転車横断帯を横断する自転車であって、横断歩道を横断する自転車や、自転車横断帯を横断する歩行者を保護する趣旨ではありません。ただし、二輪や三輪の自転車を押して歩いているときは別です。
つまり、あくまでも、法の規定(法12条、法63条の6)に従って横断している者だけを対象にした保護規定です。
道路交通法ハンドブック、警察庁交通企画課、p2140、ぎょうせい
つまり38条1項の読み方はこうなります。
「又は」
38条1項前段は減速義務(速度調節義務)とされ、横断歩道や自転車横断帯に向かう車両は、それぞれ横断しようとする歩行者や自転車がいないことが明らかではない限りは一時停止できるような速度に落とす義務を定めています。
38条1項後段は、実際に横断しようとする歩行者等がいるときには一時停止する義務を定めています。
38条1項前段についての誤解
38条は横断歩道を横断しようとする歩行者がいるときには一時停止する規定だと思っている人が多いですが、根本的にはビミョーに間違いです。
38条1項前段の解釈を間違えている人が多い。
✕「横断しようとする歩行者がみえたら減速し一時停止」
○「横断しようとする歩行者がいないことが明らかな場合以外は全て減速し、歩行者がいないことが明らかになれば減速義務が解除。歩行者がいたらそのまま一時停止」
ケーススタディしたほうがわかりやすいです。
例えばこの横断歩道で検討します。
道路左側は隠れた階段と歩道があります。
道路右側は歩道になっており、見渡せる状況です。
信号機がない横断歩道の50m手前には菱形の横断歩道の予告標示があります。
まず最初に菱形を見かけた地点。
この状況では右側の歩道に歩行者がいるかいないかは見えますが、左側は見えません。
従って「横断しようとする歩行者が明らかにいない」とは到底言えませんので減速します。
さらに進んだ地点でも、同様に左側は見えませんので減速し続けます。
ここまで進んで左側を確認したとき、「横断しようとする歩行者が明らかにいない」ことを確認したら減速義務が解除されます。
もし横断しようとする歩行者がいたら、そのまま一時停止します。
「急に止まれない」と言う人がいますが、それは減速義務を怠った結果に過ぎません。
38条の基本は、前段の減速義務にあります。
本来、このように横断歩道の左右がブラインドされた場所では、徐行レベルまで落として確認してから進行するのが筋です。
判例によるケーススタディ
以前、横断歩道を横断しようとする自転車に対しては38条1項の義務がないことは判例を多数紹介しています。
今回はまとめ方を変えてケーススタディにします。
横断歩道を横断しようとする自転車に対し、38条1項前段の減速義務はあるか?
38条は横断歩道を横断しようとする歩行者と、自転車横断帯を横断しようとする自転車を優先する規定。
横断歩道を横断しようとする自転車がいる場合に38条1項前段の減速義務があるのか?という疑問があります。
これについてですが、前段の義務は「横断歩道を横断しようとする歩行者が明らかにいないと言い切れるまでは減速」という規定ですので、そもそも自転車がいる、いないは関係ありません。
「歩行者が明らかにいない」と言い切れない状況下では減速義務が発生します。
以下、判例を4つ挙げます。
東京地裁 平成21年3月3日(民事)
この判例は横断歩道を横断する自転車と、交差点を右折した車の事故です。
被告は、被告車を運転して横断歩道の設置された本件交差点を右折するに当たっては、前方及び側方の条件に十分注意した上で、進路の前方を通過しようとする歩行者がないことが明らかな場合を除き、当該横断歩道の直前で停止することができるような速度で進行しなければならない義務がある(道路交通法38条1項前段参照)にもかかわらずこれを怠り、漠然と右折したために、横断歩道上を進行していた原告自転車を発見するのが遅れ、原告自転車との衝突を回避することができず、本件事故を惹起した過失があるというべきである(なお、原告は、被告に道路交通法38条1項後段の規定する横断歩道の直前での一時停止義務がある旨主張するが、本件交差点に自転車横断帯は設置されていないことに加え、原告は自転車から降りて押して歩いていたものではないことに鑑みると、被告に上記義務は生じないものと解される。)。
東京地裁 平成21年3月3日
あくまでも38条1項前段は「歩行者がいないことが明らかな場合以外は全て減速」なので、自転車の存在は関係なく減速義務が発生します。
かつ、横断歩道を横断する自転車に対しては38条1項後段の一時停止義務はないと判示しています。
ただし、車両には安全運転義務(70条)があるため、事故が起きると車の過失が大きくなります。
あとそもそもですが、交差点を右左折する車両は、右左折が完了するまで徐行義務があることをお忘れなく(34条1項、2項)。
東京高裁 平成22年5月25日(刑事)
こちらの判例は横断歩道を横断した自転車と車が衝突した事故です。
被告人は過失運転致死傷に問われています。
進行道路の制限速度が時速約40キロメートルであることや本件交差点に横断歩道が設置されていることを以前から知っていたものの、交通が閑散であったので気を許し、ぼんやりと遠方を見ており、前方左右を十分に確認しないまま時速約55キロメートルで進行した、というのである。進路前方を横断歩道により横断しようとする歩行者がないことを確認していた訳ではないから、道路交通法38条1項により、横断歩道手前にある停止線の直前で停止することができるような速度で進行するべき義務があったことは明らかである。結果的に、たまたま横断歩道の周辺に歩行者がいなかったからといって、遡って前記義務を免れるものではない。もちろん、同条項による徐行義務は、本件のように自転車横断帯の設置されていない横断歩道を自転車に乗ったまま横断する者に直接向けられたものではない。しかし、だからといって、このような自転車に対しておよそその安全を配慮する必要がないということにはならない。
東京高裁 平成22年5月25日
あくまでも横断歩道を横断する歩行者に向けた優先規定ですが、前段の減速義務は「歩行者が明らかにいないと言い切れないなら減速義務あり」。
最終的にたまたま横断しようとする歩行者がいなかったからという結果論で減速義務がなくなるわけではないため、時速55キロで横断歩道に向かったことは過失として評価されています。
なお、横断歩道を横断する自転車は「予見可能」として有罪です。
なお、自転車に乗ったままの人は道路交通法上は車両として扱われます。
そのため、横断歩道の前で自転車に跨がったまま待つ人に対しては38条1項前段の減速義務があると解釈することはちょっと厳しい。
歩行者に対する減速義務はあるため、「横断しようとする歩行者が明らかにいない」と言い切れない状況では減速義務があります(38条)。
また、38条の義務がなくても横断歩道手前にいる自転車が横断開始することは「予見可能」なため、減速して様子を見る注意義務はあります(この場合70条による注意義務の一部と考えられます)。
自転車に乗ったまま横断歩道を横断することは「予見可能」なため、事故を起こせば過失運転致死傷罪になるため、結局は減速して様子をみたり、時によっては自転車を先に横断させて事故を回避することが必要になります。
交差点を右左折する車両は38条とは関係なく右左折が完了するまで徐行義務があります(34条1項、2項)。
神戸地裁 平成16年4月16日(刑事)
こちらも横断歩道を横断した自転車と車が衝突した事故です(業務上過失致死)。
石垣で横断歩道の見通しが悪かったため、38条1項前段の義務を怠った過失があるとしています。
38条1項前段の減速義務は「横断しようとする歩行者が見えたら減速」ではなく、「横断しようとする歩行者が明らかにいないと言い切れない時は全て減速」ですから。
前記2で認定した事実を前提として,被告人の過失の有無を検討する。車両等の運転者は,「横断歩道等に接近する場合には,当該横断歩道等を通過する際に当
該横断歩道等によりその進路の前方を横断しようとする歩行者や自転車がないことが明らかな場合を除き,当該横断歩道等の直前で停止することができるような速度で進行しなければならない。」(道路交通法38条1項)ところ,前認定のとおり,本件交差点は前記石垣のため見通しも悪かったのであるから,被告人に本件横断歩道の直前で停止することができるような速度で進行しなければならない注意義務があったのにこれを怠った判示の過失の認められることは明らかというべきである。
なお,被告人は,被害者が飛び出してきた旨主張するが,被害者が本件交差点の南側道路から一時停止することなく交差点に進入してきた旨の主張であるとすれば,本件事故の直前,一時停止の白線付近で自転車にまたがって止まっている被害者の姿を目撃した旨の信用性の十分な前記証人Cの証言に照らし理由のないものであるし,前認定のとおり,被告人車両が②地点から衝突地点(③地点)までの約13.5メートルを進行する間に被害者は自転車で約1.5メートル進行しているに過ぎないから,被害者の自転車が急な飛び出しといえるような速度で本件交差点に進入したものでないこともまた明らかである。
神戸地裁 平成16年4月16日
横浜地裁 令和元年10月17日(民事)
この判例は横断歩道を横断しようとする自転車に対し、直接的に38条を適用しています。
一般的には38条ではなく、予見可能性から注意義務違反とするかと思いますが、減速して警戒すべきだったという結論については同じなので参考までに。
ア(ア)被告Y1は、本件道路に入ってすぐに、本件歩道を同一方向に進行している原告自転車の存在を左前方に認識し得たのであり、しかも、前方には横断歩道があって標識も立っていたのであるから、原告自転車の動静を注視するとともに、原告自転車が本件横断歩道を横断する可能性が明らかにないとはいえない状況であった以上は、道路交通法38条1項により、横断歩道等の手前で停止することができるような速度まで被告車両を減速させるべきであった。それにもかかわらず、被告Y1は、これを怠り、原告自転車がそのまま歩道を直進するものと考えて、漠然と被告車両を時速約50キロメートルもの速度のまま走行させて本件事故を生じさせたものであり、衝突がまさに横断歩道上で生じていることや、道路交通法38条1項にもかかわらず被告車両を一切減速させなかった点が著しい過失と評価できることを踏まえると、本件事故における被告Y1の過失は相当に大きいというほかない。
(イ)しかしながら、他方で、本件事故については、Bにおいても、本件横断歩道での横断を開始する前に本件道路を走行してくる車両の有無を十分確認すべきであったのにそれを怠り、しかも、同(イ)及び(ウ)の衝突状況から推認されるように、走行してきた被告車両の直前に飛び出たという点(直前横断)に落ち度があり、これらの点は一定の範囲で過失割合において考慮せざるを得ない。
(ウ)そして、上記(ア)及び(イ)で指摘した事情を考慮すると、本件事故については、Bの過失を15パーセントとみて過失相殺するのが相当である。
イ(ア)以上に対し、原告らは、被告Y1が道路交通法38条1項にもかかわらず本件横断歩道の直前で停止できるような速度まで被告車両を減速させなかった点を過失割合において斟酌した場合、Bの過失はゼロになると主張する。
しかしながら、上記(ア)のとおり、本件において道路交通法38条1項が適用されるのは原告自転車が本件横断歩道を横断する可能性が明らかにないとはいえない状況であったからであるが、他方で、Bが手信号などで右折を予告していたことをうかがわせる事情はなく、原告自転車が右折して本件横断歩道を横断することが予見しにくい状況であったことからすると、減速しなかったという事情について、Bの過失をゼロにするほどまでに重大なものと評価することは出来ない。
(イ)一方、被告らは、Bがなんら予兆なく直角に近い形で右折して横断を開始したと主張し、Bの過失は上記ア(ウ)よりも大きいと主張する。
しかしながら、自転車が瞬時に直角に方向転換することは困難であり、この点で被告らの上記主張は前提に疑問があるが、その点をおくとしても、交通事故における過失割合の程度は、時間的経過の中で把握すべきであり、上記ア(ア)のとおり、原告自転車の右折は何らの予兆がないものとはいえず、したがって、原告自転車の走行態様は、上記ア(イ)のとおり直前横断として評価すれば足りるというべきである。
横浜地裁 令和元年10月17日
他の判例では、横断歩道を横断しようとする自転車に対し38条の適用がないため、「歩行者がいないか確認してないから」38条1項の減速義務を怠ったとしてますが、車の運転者は予見可能な事故を防止する義務を負います。
なので減速して警戒すべきという結論自体は変わりません。
38条の義務が無くても、予見可能として有罪にした判例
38条1項の規定は横断歩道を横断する自転車に対する優先権を与えていません。
しかし自転車が横断歩道を横断することは一般的なことなので、予見可能として有罪にした判例があります。
東京高裁 昭和56年6月10日(刑事)
この判例は赤信号で停止していた状態から、先行自転車と後続車が左折進行。
自転車が左折進行と同時に右に進路を変えて横断歩道を横断した結果、事故に至った事例(業務上過失傷害罪)。
道路交通法12条1項は横断歩道がある場所での横断歩道による歩行者の横断を、また、同法63条の6は自転車横断帯がある場所での自転車横断帯による自転車の横断義務をそれぞれ定めているので、横断者が右の義務を守り、かつ青色信号に従って横断する限り、接近してくる車両に対し優先権が認められることになるのであるが(道路交通法38条1項)、本件のように附近に自転車横断帯がない場所で自転車に乗ったまま道路横断のために横断歩道を進行することについては、これを容認又は禁止する明文の規定は置かれていないのであるから、本件被害者としては横断歩道を横断するにあたっては自転車から降りてこれを押して歩いて渡るのでない限り、接近する車両に対し道交法上当然に優先権を主張できる立場にはないわけであり、従って、自転車を運転したままの速度で横断歩道を横断していた被害者にも落度があったことは否定できないところであり、被害者としては接近して来る被告車に対して十分な配慮を欠いたうらみがあるといわなければならない。しかしながら自転車に乗って交差点を左折して来た者が自転車を運転したまま青色信号に従って横断歩道を横断することは日常しばしば行われているところであって、この場合が、信号を守り正しい横断の仕方に従って自転車から降りてこれを押して横断歩道上を横断する場合や横断歩道の側端に寄って道路を左から右に横切って自転車を運転したまま通行する場合に比べて、横断歩道に接近する車両にとって特段に横断者の発見に困難を来すわけのものではないのであるから、自動車の運転者としては右のいずれの場合においても、事故の発生を未然に防ぐためには、ひとしく横断者の動静に注意をはらうべきことは当然であるのみならず、自転車の進路についてもどの方向に進行するかはにわかに速断することは許されないのであるから、被告人としては、被害者の自転車が同交差点の左側端に添いその出口に設けられた横断歩道附近まで進行したからといって、そのまま左折進行を続けて◯✕方向に進んでいくものと軽信することなく、同所横断歩道を信号に従い左から右に横断に転ずる場合のあることをも予測して、その動静を注視するとともに、自車の死角の関係からその姿を視認できなくなった場合には右横断歩道の直前で徐行又は一時停止して右自転車の安全を確認すべき注意義務があるものといわなければならない。
昭和56年6月10日 東京高裁
業務上過失致死傷や過失運転致死傷は、予見可能な結果を回避せずに事故を起こした場合に成立します。
この判例では、横断歩道を横断する自転車には38条の優先権がないものの、横断歩道を横断する自転車は予見可能として有罪。
車は自転車に対して強者になるため、予見可能な事故は防ぐ義務があります。
東京高裁 平成22年5月25日(刑事)
こちらの判例は横断歩道を横断した自転車と車が衝突した事故です(上で挙げた判例と同一です)。
被告人は過失運転致死傷に問われています。
前方左右を十分に確認しないまま時速約55キロメートルで進行した、というのである。進路前方を横断歩道により横断しようとする歩行者がないことを確認していた訳ではないから、道路交通法38条1項により、横断歩道手前にある停止線の直前で停止することができるような速度で進行するべき義務があったことは明らかである。結果的に、たまたま横断歩道の周辺に歩行者がいなかったからといって、遡って前記義務を免れるものではない。もちろん、同条項による徐行義務は、本件のように自転車横断帯の設置されていない横断歩道を自転車に乗ったまま横断する者に直接向けられたものではない。しかし、だからといって、このような自転車に対しておよそその安全を配慮する必要がないということにはならない。
自動車運転者としては、同法70条による安全運転義務があるのはもちろん、交通の実情を踏まえた注意義務が求められるのは当然である(所論は、道路交通法上の義務と自動車運転過失致死罪における注意義務を同一のものと理解している点で相当でない。すなわち、信頼の原則が働くような場合はともかく、前者がないからといって、直ちに後者までないということにはならない。)そして、自転車は、対歩行者との関係では交通強者であるものの、対自動車との関係では交通弱者であってなお多くの自転車が歩行者と同様に自転車横断帯の設置されていない横断歩道を利用して横断しているのが交通の実情である。
東京高裁 平成22年5月25日
この判例では道路交通法38条1項の義務は横断歩道を横断しようとする自転車に向けていないことを明確にしつつも、横断しようとする歩行者がいないことが明らかと言える程度に確認していたとは認められないとしています。
かつ、横断歩道を横断する自転車は多い実情を踏まえると「予見可能」。
予見可能なことに対する注意義務を怠ったとして有罪にしています。
横断歩道を横断した自転車を、優先道路の進行妨害とみなした判例
福岡高裁 平成30年1月18日(民事)
こちらの判例は信号機がない横断歩道を横断した自転車と、車道を進行する車が衝突した事故です。
一審(福岡地裁平成29年5月31日)は車が進行していた道路が優先道路だとして自転車:車=3:7の過失割合と認定。
一審の事実認定からイラスト化するとこんなイメージなのかと思われますが、交差道路の角度や横断歩道の位置関係はよくわかりませんでした。
なのであくまでもイメージ(細部に間違いがある可能性)。
控訴人らは、Aが本件横断歩道手前で一度自転車から降りた後、再び自転車に乗って横断しているところ、自転車に乗らずにそのまま自転車を押して横断した場合(横断歩道を横断中の歩行者と扱われる。)とではわずかな差しかなく、また、被控訴人は、横断歩道の手前で大幅に減速する義務及び一時停止すべき義務(道路交通法38条1項)があるにもかかわらず、減速せずに進行していること、本件事故現場が商店街の道路であること等に照らせば、Aの過失は0パーセントと評価すべきである旨主張する。
しかし道路交通法は歩行者と軽車両である自転車を明確に区別しており、自転車を押して歩いている者は、歩行者とみなして歩行者と同様の保護を与えている。(同法2条3項)のに対し、自転車の運転者に対しては歩行者に準ずるような特別な扱いはしておらず、同法が自転車に乗って横断歩道を通行することを禁止しているとまでは解せないものの、横断歩道を自転車に乗って横断する場合と自転車を押して徒歩で横断する場合とでは道路交通法上の要保護性には明らかな差があるというべきである。
また、道路交通法38条1項は、自転車については、自転車横断帯(自転車の横断の用に供される道路の部分・同法2条1項4号の2)を横断している場合に自転車を優先することを規定したものであって、横断歩道(歩行者の横断の用に供される道路の部分・同法2条1項4号)を横断している場合にまで自転車に優先することを規定しているとまでは解されず、むしろ、本件の場合、Aは、優先道路である本件道路進行車両の進行妨害禁止義務を負う(同法36条2項)ことからすると、過失相殺の判断にあたっては、原判決判示のとおり、自転車が横断歩道上を通行する際は、車両等が他の歩行者と同様に注意を向けてくれるものと期待されることが通常であることの限度で考慮するのが相当である。
さらに、一般に、交差道路の車両の通行量が多いことにより交差点を通過する車両の注意義務が加重されるとは解されないことからすると、本件事故現場が商店街の道路で横断自転車の通行量が多かったとしても、それにより被控訴人の注意義務が加重されると解するのは疑問である。この点を措くとしても、本件道路は、車道の両側に約2メートル幅の歩道(一部は路側帯)が整備された全幅が12メートルを超える片側1車線(一部は2車線)の県道であり、車両の交通量も比較的多いこと等を考えると、幹線道路に近い道路であるというべきであって、通常の信号機による交通整理の行われていない交差点における交差道路からの進入車両等に対する注意以上に、特に横断自転車等の動向に注意して自動車を運転すべき商店街の道路とはいえない。
平成30年1月18日 福岡高裁
福岡高裁は一審を支持し控訴棄却しました。
横断歩道上を横断する自転車について「進行妨害」としています。
なお、本件は被害者(自転車)が高齢者なため、高齢者修正で5~10%入っていると思われます。
大阪地裁 平成25年6月27日(民事)
信号機がない横断歩道を自転車に乗ったまま横断して起きた事故です。
なお、裁判所の認定では車が通行していた道路が優先道路(道路交通法36条2項)としています。
詳しくはこちらをどうぞ。
信号機がなく、同程度の幅員の交差点にて横断歩道を横断した自転車
名古屋地裁 平成22年3月19日(民事)
この事故は信号機がない同程度の幅員の道路が交わる交差点で、自転車が横断歩道を横断して起きた事故です。
横断歩道を横断したことを理由に、原告(自転車)に有利に捉えるべきとの主張をしていますが、認めませんでした。
被告には、本件交差点を進行する際に、本件交差点周辺の歩道等を進行してくる自転車等の有無及びその動向に全く注意を払わずに前方不注視のまま進行した過失があると認められ、他方、原告にも、本件交差点を横断する際に左右から進行してくる車両の有無等の安全確認を十分に行わなかった過失があると推認されるから、本件交差点の状況や被告の走行態様を併せ考慮すると、本件事故における過失割合は、原告二割、被告八割とするのが相当である。なお、原告は、本件自転車が横断歩道上を進行していたことを原告に有利に考慮すべき旨主張するが、四輪車は、自転車が自転車横断帯を横断し、又は横断しようとするときは、当該自転車横断帯は直前で一時停止し、かつ、その通行を妨げないようにすべき義務を負う(道路交通法38条1項)が、自転車が横断歩道を横断し、又は横断しようとしている場合においても上記と同様の義務を直ちに負うものとは解されないから、本件自転車が横断歩道上を進行していたことを被告の過失の加算要素とすることは相当でないというべきである。
名古屋地裁 平成22年3月19日
歩行者用信号機に従って横断する自転車と38条の関係性
平成20年に道路交通法施行令が改正され、歩行者用の人形信号機に従って自転車が横断歩道を横断できるようになりました。
これにより、信号機がある横断歩道では自転車が優先されるのではないか?と疑問を持つ人もいたのですが、以下の判例があります。
神戸地裁 令和元年9月12日(民事)
この判例は歩道から横断歩道を歩行者用信号機に従って、「横断歩道から外れた部分」を横断した判例です。
歩行者用信号機に従って横断歩道を横断する自転車についての判示があります。
道路交通法上、自転車は軽車両に該当し(同条2条1項11号)、車両として扱われており(同項8号)、交差点における他の車両等(同法36条)との関係においても、車両に関する規定の適用により、四輪車や単車と同様の規制に服する(自転車の交通方法の特例が定められているものは除く。)。交差点を左折する四輪車にもその進行にあたっては前方を確認すべき注意義務があることは当然であるが、歩行者用信号規制対象自転車であっても、横断歩道では歩行者が横断歩道により道路を横断する場合のような優先的地位(同法38条1項)は与えられておらず、また、他の車両との関係においてはなお安全配慮義務(同法70条)を負うと解されるから、安全確認や運転操作に過失がある場合は、自転車の運転者は、相当の責任を負わなければならない。
前記認定のとおり、本件事故は、原告が、東西道路に本件横断歩道が存在するにもかかわらず、これを通らずに被告車の左方斜め前方から東西道路に進入して同道路を斜め横断しようとしたために、本件交差点を左折後に本件横断歩道を通過して第2車線に進入して直進しようとしていた被告車の直前を横切ろうとしたことから被告車と衝突したものである。
自転車が道路交通法上車両として取り扱われていることからすれば、本件衝突地点をもって、原告が横断歩道を横断する歩行者と同一の保護範囲内にあるということはできないし、本件衝突地点が横断歩道の直近であるということもできない。また、被告車に設置されていたドライブレコーダーの画像によれば、原告自転車が歩行者と同程度の速度で走行していたとは認められ難く、歩行者の一般的な歩行速度よりは相当速い速度で東西道路に進入したと認められ、一方で、被告車が原告自転車と比較して高速度で走行していたと認めることはできない。しかも、被告車は衝突直前にはすでに本件横断歩道を通過して第2車線に進入し、直線走行への態勢を取っている。本件事故は、その直後に原告自転車が飛行車の直前を横切ったことによって発生しているが、原告が原告自転車の右方方向から、走行してくる車両に注意していた様子は一切うかがわれない。
一方、ドライブレコーダーの画像によると、Bは、主として被告車の右方(本件横断歩道付近)に気を取られていた様子がうかがわれ、自車前方の確認が十分ではなかったことも認められる。
このような事故態様からすれば、本件事故は双方の過失が相まって生じたものというべきであり、その過失割合は、原告が本件事故当時70歳であったことを考慮しても、原告40%、被告60%とみるのが相当である。
神戸地裁 令和元年9月12日
なお、本件は被害者(自転車)が高齢者なため、高齢者修正で5~10%入っていると思われます。
時々、このような左折進行車と歩道→横断歩道進行自転車の関係について、「交差点内は直進優先」という人もいます。
残念ながら、交差点の定義は2以上の車道が交わる部分なため、歩道→横断歩道を進行する自転車については以下の解釈しか取れません。
・車道を横断
大阪高裁 平成30年2月16日(民事)
こちらの判例も同様に、横断歩道の歩行者用信号機に従って横断した自転車の判例です。
控訴人は、本件事故は、同人が横断歩道を横断中に発生したものである旨主張する。
自動車が横断歩道に接近する場合、その運転者には、横断歩道によりその進路の前方を横断する歩行者があるときは、その通行を妨害してはならない義務が生じているが(道路交通法38条)、自転車横断帯ではない横断歩道を通行する自転車について、歩行者と全く同じ扱いをすることはできないと解される。したがって、控訴人が自転車に乗って横断歩道を横断中であったことをもって、本件事故につき控訴人に過失が無いということはできない。
平成30年2月16日 大阪高裁
道路交通法施行令2条は「人の形の記号を有する青色の灯火」について「普通自転車は、横断歩道において直進をし、又は左折することができること。」と規定しています。
あくまでも信号機は可能・不可能(禁止)を規定しており、優先権(38条)とは無関係です。
歩道が「自転車通行可」の場合に、横断歩道の扱いが変わるか?
歩道が「自転車通行可」の場合に、横断歩道を横断する自転車は38条により優先されるという意見を述べる方もいます。
基本的には38条の解釈に影響しません。
仙台地裁 平成29年5月19日(民事)
この判例は双方が青信号、つまり車は交差点を左折、自転車は歩道から横断歩道に直進。
原告は、道交法38条1項が、横断歩道における歩行者及び自転車の優先を定めているから、自転車にとっても横断歩道上は聖域であると主張する。しかし、同条項は、横断歩道を横断する歩行者と自転車横断帯を横断する自転車を保護する規定であると解され、横断歩道上を横断する自転車について、歩行者同等の保護を与える趣旨とは解されない。もっとも、本件歩道は自転車通行が許されているにもかかわらず、本件交差点には横断歩道のみが設けられ、自転車横断帯は設けられていないことからすれば、本件歩道上を走行してきた自転車がそのまま横断歩道を進行しようとすることは自然な成り行きということができ、かかる道路条件に照らすと、本件交差点を左折しようとする車両においても、本件歩道上を走行してきた自転車が本件横断歩道を横断することがあり得ることを想定して、より十分に注意を払うべきであったということができる。
仙台地裁 平成29年5月19日
このような事故の場合、自転車の過失は5~20%程度になっていることが多いような印象はありますが、車がどの程度注意義務を果たしていたか、車からみて歩道の視認性を妨げる要素があったか、自転車の速度がどれくらいかなどにより変わるものと思います。
横断歩道・自転車横断帯が赤信号の場合における38条の適用
横断歩道や自転車横断帯が赤信号の場合に38条の優先権は働くのか?という疑問を持つ人もいるのですが、以下の判例があります。
徳島地裁 令和2年1月22日(刑事)
この判例は横断歩道と自転車横断帯がある場所について、自転車が赤信号で横断開始した事故(過失運転致死)。
片側三車線(交差点付近は四車線)、夜間の事故。
(1)自動車を運転する者は、自車が信号機により交通整理の行われている交差点を対面信号機の青色表示に従い直進する場合でも、自動車運転者として通常要求される程度に、前方左右を注視し、進路の安全を確認しつつ進行すべき自動車運転上の注意義務があるものと解すべきであり、このことは本件の被告人においても同様である。
(2)これに対し、検察官は、その趣旨は必ずしも判然としないものの、論告において、被告人又は被告人車両には、道路交通法38条1項が適用されることを前提として、先に述べた以上に特に高度の注意義務が課されるかのような主張をしているため、この点について念のため付言しておく。
道路交通法38条1項は、「当該横断歩道等を通過する際に当該横断歩道等によりその進路の前方を横断しようとする歩行者又は自転車(以下この条において「歩行者等」という。)がないことが明らかな場合」を除外しているところ、この「歩行者等が無いことが明らかな場合」には、歩行者等に向けられた信号機の信号が赤色を表示しており、その赤色の現示時間中に車両等が横断歩道等を通過し終わることが明らかな場合が含まれると解される。本件における被告人車両は、この除外事由に該当するといえるから、道路交通法38条1項が適用はない。仮に、検察官の主張するように、被告人車両について道路交通法38条1項が適用されるとしたならば、信号機により交通整理が行われている交差点において、自車の対面信号機が青色を表示しており、横断歩道等の歩行者等に向けられた信号機の信号が赤色を表示している場合であっても、特にその道路幅が広ければ広いほど、自動車の運転者は、常に横断歩道等の直前で停止できるような速度、すなわち、横断歩道等に接近しながら徐々に速度を落とし、横断歩道等の至近のところでは徐行に近い状態の速度で進行しなければならないことになるが、このことが結論において不合理であることは明らかである。
検察官は、この主張をするに際し、札幌高裁昭和50年2月13日判決判例タイムズ325号304頁を引用するが、同裁判例は、当該事案における道路および交通の状況等から、前方の横断歩道上に横断中の歩行者がなお残存する蓋然性が高く、運転者においても対面信号機が青色表示に変わった直後に発進したため前方の横断歩道上に横断中の歩行者等が残存している可能性があることを十分予測できた事案に関するものであって、本件とは事案を異にする。
以上により、被告人又は被告人車両には道路交通法38条1項は適用されず、したがって、その適用を前提として高度な注意義務が課されるかのように述べる検察官の主張は採用できない。
徳島地裁 令和2年1月22日
38条は前段の除外事由として「歩行者等が無いことが明らかな場合」を規定しています。
これには歩行者等に向けられた信号機の信号が赤色を表示しており、その赤色の現示時間中に車両等が横断歩道等を通過し終わることが明らかな場合が含まれるとする判例です。
なお、横断歩道等が赤信号でも、38条による高度な注意義務がないだけで、一般的注意義務は消えませんのでご注意を。
38条が、信号無視した不法横断者には適用しない理由はこちらにまとめました。
昭和42年道路交通法改正時に説明されてます。
札幌高裁 昭和50年2月13日(刑事)
この判例は自転車ではなく歩行者の判例です。
上判例にもある、青信号で横断開始したものの渡り切れなかった残存横断歩行者の判例です。
論旨は要するに、原判決は、本件事故が被告人の前方注視義務および安全確認義務懈怠の過失に基因するものである旨認定するが、被告人は、本件当時前方に対する注視および安全確認を尽していたものであつて、なんらこれに欠けるところはなく、しかも、本件の場合、被害者側の信号は、計算上同人らが横断を開始した直後青色点滅に変つたものと認められるから、同横断歩道の長さ(約31.6m)をも考慮すれば、同人らは当然右横断を断念し元の歩道上に戻るべきであつたのである。青色信号に従い発進した被告人としては、本件被害者らのように、横断開始直後青色点滅信号に変つたにもかかわらずこれを無視し、しかも飲酒酩酊していたため通常より遅い歩行速度で、あえて横断を続行する歩行者のありうることまで予測して前方を注視し低速度で運転する義務はないから、本件には信頼の原則が適用されるべきであり、したがつて、被告人に対し前記のような過失の存在を肯認した原判決には、判決に影響を及ぼすことの明らかな事実誤認、法令解釈適用の誤がある、というのである。
(中略)
まず、被告人側の信号が青色に変つた直後における本件横断歩道上の歩行者の存否の可能性についてみると、司法巡査作成の「信号の現示と事故状況について」と題する書面によれば、本件横断歩道の歩行者用信号は、青色39秒、青色点滅4秒、赤色57秒の周期でこれを表示し、被告人側の車両用信号は、右歩行者用信号が赤色に変つてから4秒後に青色を表示すること、すなわち、被害者側信号が青色点滅を表示してから8秒後に被告人側信号が青色に変ることが認められるところ、横断歩行者の通常の歩行速度を秒速約1.5mとすると(交通事件執務提要305頁参照。)、歩行者は右8秒の間に約12m歩行することになるが、本件横断歩道の長さは前記のとおり31.6mであるから、歩行者がたとえ青色信号で横断を開始しても途中で青色点滅信号に変つたとき、渡り終るまでにいまだ12m以上の距離を残している場合、当該歩行者は被告人側の信号が青色に変つた時点において、依然歩道上に残存していることになる。
道路交通法施行令2条は、歩行者用信号が青色点滅を表示したとき、横断中の歩行者は「すみやかに、その横断を終えるか、又は横断をやめて引き返さなければならない。」旨規定するが、本件横断歩道の長さに徴すると、たとえ歩行者が右規定に従つてすみやかに行動するとしても、右残存者がでることは否定し難く、とくに本件交差点付近は前記のとおり札幌市内でも有数の繁華街「すすきの」に位置し、多数の歩行者が存在するばかりか、本件当時はその時刻からいつて歩行速度の遅い酩酊者も少なくないので、右のような残存歩行者がでる蓋然性は一層高いものといわねばならない。
してみると、本件のような道路、交通状況のもとにおいて、対面信号が青色に変つた直後ただちに発進する自動車運転者としては、特段の事情のないかぎり、これと交差する本件横断歩道上にいまだ歩行者が残存し、なお横断を続行している可能性があることは十分に予測できたものとみるのが相当であつて、特段の事情を認めえない本件の場合、被告人に対しても右の予測可能性を肯定するになんらの妨げはない。そして、以上のごとく、被告人が本件交差点を通過するに際し、本件横断歩道上にいまだ横断中の歩行者が残存していることが予測できる場合においては、当該横断歩道により自車の前方を横断しようとする歩行者のいないことが明らかな場合とはいいえないから、たとえ、被告人が青色信号に従つて発進し本件交差点に進入したとしても、本件横断歩道の直前で停止できるような安全な速度で進行すべきことはもとより、同横断歩道により自車の前方を横断し、または横断しようとする歩行者があるときは、その直前で一時停止してその通行を妨害しないようにして歩行者を優先させなければならない(道路交通法38条1項なお同法36条4項参照)のであつて、被告人としては、いつでもこれに対処しうるよう、本件被害者らのような横断歩行者との接触の危険性をも十分予測して前方左右を注視し、交通の安全を確認して進行すべき業務上の注意義務があつたというべきである。
札幌高裁 昭和50年2月13日
すすきのの長い横断歩道を青信号で横断開始したものの、途中で赤に変わり渡り切れなかった残存横断歩行者の判例です。
車道が赤→青に変わったばかりは、残存横断歩行者が予見可能として有罪(業務上過失致死傷)としています。
対面信号が青になったからと言っても、横断歩道に対する注意義務はあります。
ちゃんと見ていればわかると思いますが。
執務資料に掲載された判例
東京地裁 昭和47年8月12日(刑事)
執務資料道路交通法解説(野下文生、道路交通執務研究会、2018、p380、東京法令出版)の38条1項後段の説明に使われている判例です。
自転車の運転者が道路を横断するにあたって横断歩道を利用する場合には、自転車に乗ったまま疾走し、飛び出すような形で横断歩道を通行することは厳にしてはならないというべきであって、自動車運転者はこのような無謀な横断者はないものと信頼して運転すれば足りる。
東京地裁 昭和47年8月12日
業務上過失傷害罪に問われた刑事事件ですが、以下の理由から今の時代にこの考え方はふさわしくないと考えます。
①自転車の歩道通行が一部解禁されたのは昭和45年法律第86号(昭45・5・21)で、本件事故発生は46年1月30日。
公安委員会が認めた一部の歩道のみが自転車通行可能だった時代の判例であること。
②横断歩道を横断する自転車は、自転車を押して渡るよう指導されていた時代の判例であること(交通の方法に関する教則等)
③この判例は車が対面信号に従って左折進行したことにより起きた事故であるが、争点は以下であること。
三、(一) そこで、別紙図面②地点から自動車運転者が発進するに際し、本件交差点の大森方面出口に設けられている横断歩道を歩行しようとする者の有無について確認すべき義務があることは当然であるが、問題はこの場合右の横断歩道およびこれに接する歩道等の外周についてどの範囲まで注視すべきなのか(なお、別紙図面から×までは運転席から死角となるが、この範囲について安全確認義務が認められる以上は助手に指示して安全確認をさせるべきである。)、はたして別紙図面付近までも確認しなければならないのかということであり、そしてまた仮に付近に自転車に乗つて歩道上を走行して来る人を見た場合平均的運転者としては、発進することはさし控え自転車が自車の面前を通過してしまうかあるいは他の方向に進行することが明確となるまで待機すべきなのかということである。
(二) ところで、自転車は原則として歩道を通つてはならず、車道左端に沿つて通行しなければならないわけで(道路交通法17条1項、3項、17条の3)、本件の場合被害者の自転車が車道を走行していたとすれば、被告人車の後行車となるわけで、同法34条5項の規定により左折車が適式な左折合図をしている場合には、後行車は左折車の左折を妨げてはならないのである。ただ自転車については、道路の横断にあたつては、その安全上むしろ横断歩道を利用し、自転車を押して渡るよう指導されているところであり(交通の方法に関する教則・交通ルールブック警察庁交通局監修11頁)、本来歩行者の歩行や横断の用に供するため設けられた歩道や横断歩道(同法2条1項2号、4号)を利用する以上歩行者と同様の心得が要求されることは当然のことであり、自転車の運転者が道路を横断するにあたつて横断歩道を利用する場合には、自転車に乗つたまま疾走し、飛び出すような型で横断歩道を通行することは厳にしてはならないというべきであつて、自動車運転者はこのような無暴な横断者はないものと信頼して運転すれば足りる。
(三) ひるがえつて本件についてみるに、本件横断歩道を横断しようとする者の有無の確認範囲については、一般にこれをある程度の蓋然性をもつて認め得るところの横断歩道の外周について認めるべきであるが(横断にあたつては通常の歩行状態だけではなく小走りで横断する者もなくないのでそれらの点は考慮に入れるにしても)別紙図面点にいる人については、果して同人が本件横断歩道を横断し始めるものか、歩道に沿い大森方面へ左折するか、はたまた川崎方面への横断歩道を渡るつもりでいるのか不明であり、いずれの可能性が高いというようなこともいい得ない状況にあり、付近の範囲までもみて本件交差点を横断しようとしている人がいるかどうか判断すべき義務あるとまでは認め難いところである。とりわけ本件の場合のように横断歩道左側端より7ないし9メートル余りの地点に自転車に乗つたまま走つて本件横断歩道を横断しようとする者があることまで考慮に入れて付近まで確認すべきであるとすることには自動車運転者と他の交通関与者との危険分配の原則の観点からいつても疑問である。また横断歩道に接近した地点にいて当該横断歩道に向つている者についてはその場所的接近性、歩行者の体勢からいつて横断しようとしている蓋然性がある程度の強さをもつて推測できるので、この場合はこれを打消す要素がうかがえるまでは発進をさし控えるのが通常であろうが、本件のように横断歩道からある程度離れた地点にいていまだ予測が十分できかねるような人については、むしろその明確化を待つというより速やかに発進するのが現下の交通事情のもとでは普通ではなかろうかとも考えられ、発進をさし控えなかつたことをもつて可罰的な不注意であるとはいい得ないと考える。
東京地裁 昭和47年8月12日
被害者は8歳なのですが、横断歩道左側端7~9mにいる自転車に対して(時速9キロ程度)、「自転車に乗つたまま走つて本件横断歩道を横断しようとする者があることまで考慮に入れて付近まで確認すべきであるとすることには自動車運転者と他の交通関与者との危険分配の原則の観点からいつても疑問である」としています。
今の時代に、これを考慮せずに左折進行した車両がいたら、間違いなく過失運転致死傷罪に問われます。
なお、自転車横断帯が出来たのは昭和53年です。
似たような左折進行車と自転車の判例で、東京地裁 平成15年12月15日があります。
こちらの判例は注意義務を果たしても自転車の存在を発見することは不可能として無罪になっていますが、今の時代、自転車が歩道を通行することは認められていること(63条の4)、自転車が横断歩道を横断することは「普通」であり「容易に予見可能」。
時代背景が違いすぎるため、執務資料掲載の判例、「自転車に乗つたまま疾走し、飛び出すような型で横断歩道を通行することは厳にしてはならないというべきであつて、自動車運転者はこのような無暴な横断者はないものと信頼して運転すれば足りる」として注意義務を制限するのはちょっと無理があると思います(私見です)。
自転車にみえて歩行者扱いになる「小児用の車」
自転車から降りて押して歩く者を歩行者とする規定(2条3項2号)は有名ですが、実は「小児用の車」とされる概ね6歳未満、16インチ以下、時速8キロ程度までの自転車は道路交通法上は歩行者になります(2条3項1号)。
歩行者と見なされるため、横断歩道を横断しようとしていれば一時停止義務があります。
同じく自転車の類型に入るものであつても、「小児用の車」にあたれば、これに乗つて進行している者は歩行者とされ
福岡高裁 昭和49年5月29日
小児用の車とみなせるかは判断不可能ですし、子供の自転車なら歩行者とみなして止まることが大人の責務かと。
なお「13歳未満、70歳以上」というのは、自転車の立場で歩道を通行できる要件なので歩行者扱いになるわけではありません。
判例ではこんな感じ。
判例 | 年齢 | 自転車サイズ・速度 | 裁判所の判断 |
東京高裁S52.11.30 | 5才7ヶ月 | ハンドル高80センチ、車輪直径40センチ | 軽車両 |
東京地裁S53.12.14 | 4才11ヶ月 | 補助輪付幼児用自転車(7、8キロ) | 小児用の車(歩行者) |
岐阜地裁H19.3.9 | 6才2ヶ月 | 16インチ | 軽車両 |
東京高裁H26.12.24 | 6才 | 18インチ | 軽車両 |
福岡高裁S49.5.29 | 9歳8か月 | 22インチ | 軽車両※ |
浦和地裁S57.3.31 | 7才8ヶ月 | 16インチ | 自転車 |
※一審は「小児用の車」としたものの、二審は軽車両と認定。
横断歩道・自転車横断帯がある場所で、横断歩道を横断した自転車に対する38条の優先権
最高裁判所第二小法廷 平成18年7月21日(行政)
この判例は行政事件で、運転免許取消処分取消請求事件です。
信号機がなく、横断歩道と自転車横断帯が併設されている交差点において、横断歩道を横断した自転車と交差道路を進行した車が衝突した事故です。
大阪高裁は原告の主張を認め運転免許取消処分を取消にしましたが、最高裁は破棄自判しました。
3 原審は,上記事実関係の下において,次のとおり判断して,本件処分を取り消した。
(1) 被上告人は,本件交差点に進入して通過する際に,交差道路の歩道上を通行する自転車があるかもしれないことを前提に,その通行の有無及び動静を確認するとともに,本件交差点に接近してくる自転車等がないことを明確に確認しているのでない限り,自転車等が本件交差点を横断することを予見し,横断歩道等の直前で停止することができる安全な速度で進行しなければならないところ,わずかな注意を払いさえすれば,被害自転車が本件交差点に接近してくるのを発見することが十分可能な状況にあったにもかかわらず,これを発見しないまま加速して進行を続け,被害自転車に気付いた時には時速約15㎞に達していたため,急制動の措置を講じたが間に合わず,被害自転車に衝突したものである。したがって,本件事故につき被上告人に交差点安全進行義務違反がある。
(2) 被害者は,被上告人車の進行してくる方向を注視していれば,被上告人車が本件交差点を進行して被害自転車の進路前方を通過することを予見し,本件交差点の手前で停止するなどして本件事故の発生を避けることが可能であった上,本件交差点内において被上告人車は比較的低速度となっており,被害者において衝突回避措置を執ることができる余裕が十分にあった。そうすると,被上告人の不注意以外に本件事故の原因となるべき事由があり,その事由がその有無によって本件事故の未然防止及び被害拡大に影響がないほど軽微である場合であるとはいえない。このことは,被上告人車より被害自転車の方が通行の優先度が高く,横断歩道等の安全を確保する義務や交差点内における安全進行義務が自動車運転者の基本的な義務であることによって,左右されるものではない。したがって,本件事故が専ら被上告人の不注意によって発生したとはいえない。
大阪高裁では被上告人(原告、加害者)には安全運転義務違反があったけど、自転車(被害者)にも注意義務があったとして点数が15点には満たないので運転免許取消処分は違法であると認定している。
次に最高裁の判断です。
4 しかしながら,原審の上記3(2),(3)の判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
(1) 前記事実関係によれば,本件事故の際,被害自転車が進行してきた方向から被上告人車の進行してくる方向への見通しを妨げるものは特にないのに,被害者は,死角となっている進路右方の安全に気を取られて,被上告人車の進行してくる方向を注視することなく本件交差点に進入したというのである。
(2) しかし,前記事実関係によれば,本件交差点においては信号機等による交通整理が行われていなかったところ,被上告人側道路に一時停止の規制があったのであるから,被上告人側道路の車両の通行よりも交差道路の車両の通行が優先する関係にあったということができる。さらに,車両等は,自転車横断帯に接近する場合には,当該自転車横断帯を通過する際に当該自転車横断帯によりその進路の前方を横断しようとする自転車がないことが明らかな場合除き,当該自転車横断帯の直前で停止することができるような速度で進行しなければならず,この場合において,自転車横断帯によりその進路の前方を横断し,又は横断しようとする自転車があるときは,当該自転車横断帯の直前で一時停止し,かつ,その通行を妨げないようにしなければならない(道路交通法38条1項)。前記事実関係によれば,被害者は,本件事故の際,自転車横断帯に接する横断歩道上を自転車に乗ったまま横断していたものであるが,その横断していた所は,自転車横断帯の北側表示線の中心からわずかに約0.8m離れた所で,かつ,横断歩道上であることからすれば,被上告人において被害自転車の通行を優先させて安全を確保すべき前記義務を免れるものではないというべきである。また,被上告人は,本件交差点に入ろうとし,及び本件交差点内を通行するときは,本件交差点の状況に応じ,交差道路を通行する車両等に特に注意し,かつ,できる限り安全な速度と方法で進行しなければならない(道路交通法36条4項)。これらの自転車横断帯等における自転車の安全を確保する義務や交差点安全進行義務は,自動車運転者にとって交通事故を防止する上で基本的なものであるということができるから,被害者としては,被上告人がこれらの義務を遵守することを十分に信頼することができる立場にあったというべきである。そして,前記事実関係によれば,被上告人車が進行してきた方向から被害自転車の進行してくる方向への見通しを妨げるものは特になかったというのであるから,被上告人は,被害自転車を発見し,衝突を回避することが十分可能であったにもかかわらず,上記義務を怠り,本件事故を発生させたというべきである。
最高裁判所第二小法廷 平成18年7月21日
長々と引用しましたが、大事なところはここ。
車両等は,自転車横断帯に接近する場合には,当該自転車横断帯を通過する際に当該自転車横断帯によりその進路の前方を横断しようとする自転車がないことが明らかな場合除き,当該自転車横断帯の直前で停止することができるような速度で進行しなければならず,この場合において,自転車横断帯によりその進路の前方を横断し,又は横断しようとする自転車があるときは,当該自転車横断帯の直前で一時停止し,かつ,その通行を妨げないようにしなければならない(道路交通法38条1項)。前記事実関係によれば,被害者は,本件事故の際,自転車横断帯に接する横断歩道上を自転車に乗ったまま横断していたものであるが,その横断していた所は,自転車横断帯の北側表示線の中心からわずかに約0.8m離れた所で,かつ,横断歩道上であることからすれば,被上告人において被害自転車の通行を優先させて安全を確保すべき前記義務を免れるものではない
38条1項は横断歩道を横断する歩行者、自転車横断帯を横断する自転車を優先する規定。
自転車横断帯からわずか0.8m離れた所を横断する自転車についても、自転車横断帯を横断中とみなし38条1項の優先権はあるという判例です。
神戸地裁伊丹支部 平成30年11月27日
自転車横断帯と横断歩道が併設された横断歩道上を通行した自転車と、交差点を左折したクルマの衝突事故です。
3つの視点から過失相殺を認めていません。
① | ② | ③ | |
内容 | 自転車は先行車両と加害車両の間を縫うように横断 | 自転車横断帯ではなく横断歩道上を進行 | 加害車両は時速20キロで進行 |
法条 | 70条 | 38条1項の趣旨 | 38条1項前段 |
原告過失 | +10% | -5% | -5% |
②については、このように併設された場所で横断歩道上であっても自転車横断帯を進行したのと同視すべきとしています。
自転車の落ち度を10%と認めつつも、加害車両の速度が38条1項前段の「停止できるような速度」とは認められないとしてトータルで過失相殺を認めていません。
自転車横断帯を通行する自転車の注意義務
大阪地裁 平成27年9月4日(民事)
自転車横断帯を通行する自転車についても、車両である以上は安全運転義務を負うとしている判例があります。
双方青信号です。
認定した事実によれば、原告X1も、自転車横断帯を横断する際には、安全運転義務(道路交通法70条)を負っており、南から北に向けて対向進行してきて東に向けて右折する車両の有無等を確認する義務を負っていたが、これを怠ったといえる。そして、原告X1の対面歩行者・自転車専用信号も、被告の対面信号も、いずれも青色であり、原告X1は、自転車横断帯を走行していたことに照らすと、原告X1についても5%の割合で過失相殺するのが相当である。
大阪地裁 平成27年9月4日
横断歩道を横断する自転車に課された注意義務
横断歩道を横断する歩行者には道路交通法上、注意義務がありません(信号無視を除く)。
横断歩道を横断する自転車は38条による優先権がなく、左右を確認してから横断する義務があると考えられます。
名古屋地裁 平成21年12月15日(民事)
横断歩道を横断する自転車の注意義務について触れています。
車両等は、交差点に入ろうとし、及び交差点内を通行するときは、当該交差点の状況に応じ、交差道路を通行する車両等及び当該交差点又はその直近で道路を横断する自転車等に注意し、かつ、できる限り安全な速度と方法で進行する義務があるところ(道路交通法36条4項)、被告は、本件交差点に直進進入するに当たり、本件交差点又はその直近で道路を横断する自転車等に注意し、できる限り安全な速度と方法で進行する義務があり、また、最高速度である時速40キロを遵守する義務があったにもかかわらず、これらの義務を怠り、注意を欠いたまま、制限速度を約20キロも超過した時速約60キロの速度で進行し、本件交差点の約15m手前でようやく原告車を発見したものであり、過失が認められる。
また、原告は、自転車に乗って本件横断歩道上を横断するに当たり、左右を確認し、南北道路を通行する車両の有無、動静に注意して横断すべきだった(同法25条の2第1項)にもかかわらず、これを怠り、左方への注意及び安全確認が不十分なまま本件横断歩道上を横断したものであり、過失が認められる。
平成21年12月15日 名古屋地裁
横断歩道を横断する自転車の注意義務については、民事の判例であればどれでも書いてありますが、上で紹介した神戸地裁判決では安全配慮義務(70条)とありますし、25条の2第1項を適用している判例もあります。
自転車は乗ったまま横断歩道を横断してもいいのか?
自転車は乗ったまま横断歩道を横断してもいいのか?と疑問を持つ人もいますが、歩行者の横断妨害をする恐れがないときは乗ったまま横断して構いません。
少なくとも昭和後期の刑事事件について、自転車が横断歩道を横断することは禁止されていないと判示されていますし、現在も同様。
ただし、38条の優先権はありません。
附近に自転車横断帯がない場所で自転車に乗ったまま道路横断のために横断歩道を進行することについては、これを容認又は禁止する明文の規定は置かれていない
昭和56年6月10日 東京高裁
同法が自転車に乗って横断歩道を通行することを禁止しているとまでは解せない
平成30年1月18日 福岡高裁
ただし、昭和の古い民事の判例の中には、横断歩道を自転車に乗ったまま横断することを禁止していると解釈しているものもあります。
平成20年道路交通法施行令改正以降は、その解釈は取れなくなったと見ていいかと。
しかし、歩行者の横断を妨害するおそれがあるときは降りて歩行者にクラスチェンジ(2条3項2号)することになっています。
第二十五条の二 車両は、歩行者又は他の車両等の正常な交通を妨害するおそれがあるときは、道路外の施設若しくは場所に出入するための左折若しくは右折をし、横断し、転回し、又は後退してはならない。
交通の方法に関する教則(道路交通法108条の28)
この規定は、本来は「妨害するおそれ」だけで違反が成立しますが、実態としては現に横断歩行者の妨害をしたときくらいしか問題視されていないようです。
なお、車道を走行する自転車も38条による規制が掛かるため、横断歩道に接近する際には38条(減速義務、一時停止義務)を守る必要があります。
例えば、この動画の1:20あたりから横断歩道に向かってダンシングでアタックしてますが、38条1項前段の違反になります。
横断歩道に接近する際には減速しろという法律の中、加速するようなロードバイクがいることは、ロードバイク乗りの評判が下がる原因としか言えません。
横断歩道に向かって立ち上がる時点でお察しですが、本来は着座してブレーキ操作を確実にしながらゆっくり通行する場所です。
38条とその他の関係性
横断歩道を横断する自転車には38条の優先権はないため、仮に車が一時停止しなかったとしても「道路交通法38条の違反」は成立しません。
ただし、38条1項前段の減速義務については、「横断歩道を横断しようとする歩行者が明らかにいない場合以外は全て減速義務あり」なので、自転車の存在がどうのこうの関係なく減速義務が発生します。
また、自転車が横断歩道を横断開始した場合、車と衝突すると自転車が怪我もしくは死亡します。
過失運転致死傷罪における「過失」とは、予見可能なことを回避しなかったことを意味します。
従って、横断歩道を横断しようとする自転車が予見可能な場合には、事故回避義務があります。
事故回避義務を怠れば有罪です。
民事の過失割合としては38条の優先権がない以上、自転車側の過失として評価されています。
原告は、横断歩道における車両の一時停止義務違反及び通行妨害禁止義務(道路交通法38条後段)を理由に、横断歩道上を横断する者には横断歩道上に接近してくる車両の動向を十分確認して横断を続行するか否かを決すべき注意義務はないなどと主張するが、自転車に乗って横断歩道を横断する者には道路交通法38条1項後段は適用されないと解すべきであり、原告自転車に横断歩道を横断する者と同様の保護を与えることはできないから、原告の上記主張は採用できない。
平成23年10月24日 東京地裁
自転車側もきちんと優先権を理解する必要があるし、車両には事故回避義務があるため、事故を起こせば罪に問われます。
これらの意味をきちんと理解しておくことが大切です。
道路交通法の優先権がないから事故を起こしてもいい理由にはなりません。
しかし、横断歩道事故について優先道路の概念から自転車に大きな過失をつけた判例もあるため、自転車側も優先権がないことは理解すべきと考えます。
特に福岡高裁判決のように、高齢者修正込みで自転車:車=30:70、高齢者修正無しだと40:60とみなす判例もあるので、歩行者気分で自転車に乗ると大変な結果になりかねません。
・しかし横断歩道を横断する自転車は予見可能なため、事故を起こせば過失運転致死傷罪に問われる。
・横断歩道を横断する自転車には38条の優先権がない以上、民事では過失になる。
・優者危険負担の原則により、民事では交通強者の過失が大きくなる。
・横断歩道や自転車横断帯を横断する自転車にも、安全運転義務(70条)は課されている以上、左右の確認義務がある。
・38条は横断歩道等が赤信号の場合には関係しないが、残存横断歩行者がいる可能性がある場合には注意義務がある。
なお、警察官が間違って取り締まりする事例は多々あります。
その場合、その場できちんと警察本部に法律の適用を確認するよう伝えれば違反取り消しになりますが、前段の減速義務については「歩行者がいないことが明らかなのか確かめたの?」というのが基本的概念。
結果論で歩行者がいなかったから違反にならないわけではありません。
理屈の上では前段の減速義務違反のみでも切符の対象です。
※余談ですが、交通事故統計における「第一当事者、第二当事者」というのは、過失の大小と必ずしも関係ありません。
某警察本部では、「全く関係ない」と言ってました。
2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。
コメント
ここを読ませて頂きまして、「道路交通法38条1項」の
「横断歩道又は自転車横断帯 / 歩行者又は自転車」
というあいまいな表現、つまり
A 横断歩道の歩行者 + 自転車横断帯の自転車
B 横断歩道の歩行者と自転車 + 自転車横断帯の自転車
C 横断歩道の歩行者 + 自転車横断帯の歩行者と自転車
D 横断歩道の歩行者と自転車 + 自転車横断帯の歩行者と自転車
のA〜Dのどれとでも読めるものを、ズバリ「A」の解釈だと知れたのはこのサイトのおかげです。
まとめるのは本当に大変だったことでしょう。
感謝しております。
ところで、
3.2.1 東京高裁 昭和56年5月10日(刑事)
ですが、インデックスと見出しは「5月」となっておりますが、判決文では「6月」のようです。
恐れ忍ばせながら申し上げます。
↑なお、改行が使えないとはつゆ知らず、読みにくい書き方を失礼いたしました。
すみません、ご指摘ありがとうございます。
長くなるので、結論だけ書きます
この文中に記載あるように、道交法施行令が改正になり、「横断歩行者用信号機の意味」が平成20年に改正になりました。「横断歩道を走行する自転車は、歩行者用の青信号で直進または左折ができる」とされました。この改正により、全国警察では自転車横断帯をなくし、また歩行者用信号灯器の脇の「歩行者・自転車専用」を廃止することとしています。結果、他の歩行者の妨げにならない場合には横断歩道を通行することができるという解釈に変わりました。そして、判例等においても自転車に対する横断歩行者等妨害の規定が適用されるようになってきています。
法律の改正により、また法解釈の変更により、取締りや判例が変わってきます。
平成20年以前の判例はあまり参考にならないかもしれませんね
最も裁判官がどこまで法改正の内容を理解しているかの問題ですが・・・・
コメントありがとうございます。
昭和56年6月10日東京高裁判決にもあるように、平成20年施行令改正以前から自転車が横断歩道を横断することを禁ずる法律はありません。
20年施行令改正時の警察庁パブコメでも明らかにされていますが、施行令改正は単に従うべき信号機を変えただけであり、改正以前から横断歩道を自転車が渡ることは何ら禁止していません。
警察庁パブコメより引用。
従って、20年施行令改正は38条の解釈に影響を及ぼす可能性は皆無です。
このあたり、平成22年5月25日東京高裁判決が掲載されている「よくわかる交通事故・事件捜査 : 過失認定と実況見分(立花書房)」にも同旨で説明されていますし、「交通の方法に関する教則」も平成20年施行令改正で記載内容(自転車の横断方法)は変更されていません。
38条は歩行者には横断歩道を使う義務(12条1項)、自転車には自転車横断帯を使う義務(63条の6、7)を定めたことによる照応として優先権を与えたと解釈されていますので、横断歩道を使う義務が課されていない自転車には38条による優先権はありません。
施行令改正は、「横断歩道を使う場合」において、「従うべき信号機を歩行者用にする」だけの話です。
思い違いされているようですので、きちんと歴史と立法趣旨からご確認ください。
https://roadbike-navi.xyz/archives/29110/
https://roadbike-navi.xyz/archives/30965/
なので、自転車が横断歩道を横断しようとすることに対して、車が一時停止しなくても38条違反にはなりません。
間違って取り締まりした事例は聞きますが、抗議すれば即座に取消です。
自転車に乗って歩道を渡ってトラックに引かれる痛ましい事故が起きたのですが、コメントを見ると自転車を一歩的に避難するコメントがあります、たぶん職業ドライバーの方なのでしょうが…
https://m.youtube.com/watch?v=68Y2mYPfEpA
事故の詳細は分かりませんが左折巻込み事故を防ぐためにも歩行者分離信号をお増やすことは出来ないのでしょうか?
その方がお互いに良いとおもうのですが
コメントありがとうございます。
報道内容をみてもイマイチ詳細がわかりませんが、歩車分離式信号は警察庁が導入の指針を通達で出しています。
歩車分離式信号にしたことで著しい渋滞を巻き起こした事例もあるので、あまり積極的な運用はしてないように思います。