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川に転落して事故不申告?

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法的な問題と道義的問題は別だと思うのですが、ちょっと気になる件。

6月、長野県天龍村の天竜川に車が転落した事故で、警察は事故発生を報告しなかったとして、運転していた男性を道路交通法違反の疑いで書類送検した。男性は胸の骨を折るなどけがをしたが、車を脱出した後、斜面をよじ登り、空き家になっていた村内の実家に一泊、翌朝、電車で飯田市の自宅に戻ったという。

書類送検されたのは飯田市の会社役員の男性(69)。

男性は6月25日午後8時頃、軽乗用車を運転中、ハンドル操作を誤り、天竜川に転落した。

車を放置して帰宅しており、事故を起こしたのに発生日時や場所を警察に報告しなかった道路交通法違反の疑いが持たれている。

車が川に転落 骨折…斜面よじ登り、空き家に一泊 翌日、電車で帰宅「スマホ落として連絡できなかった」男性を書類送検(FNNプライムオンライン) - Yahoo!ニュース
6月、長野県天龍村の天竜川に車が転落した事故で、警察は事故発生を報告しなかったとして、運転していた男性を道路交通法違反の疑いで書類送検した。男性は胸の骨を折るなどけがをしたが、車を脱出した後、斜面を

事故報告義務(72条1頃後段)は「道路において」事故が起きた場合に警察に報告する義務を定めてますが、天竜川は道路(一般交通の用に供するその他の場所)ではありませんよね。
道路を走っていて川に転落した、つまり事故発生点が道路上だから事故不申告が適用されるという話なのだろうか?

 

ところで、このような事故が安全運転義務違反になるのか?という問題があるのですが、まあまあ勘違いする人が多いけど安全運転義務は前段と後段に分かれてます。

(安全運転の義務)
第七十条 車両等の運転者は、当該車両等のハンドル、ブレーキその他の装置を確実に操作し、かつ、道路、交通及び当該車両等の状況に応じ、他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転しなければならない。

○前段

車両等の運転者は、当該車両等のハンドル、ブレーキその他の装置を確実に操作しなければならない。

○後段

車両等の運転者は、道路、交通及び当該車両等の状況に応じ、他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転しなければならない。

 

前段と後段は別です。
そもそもこの規定は道路交通取締法時代には別の条文に分かれていました。

 

○道路交通取締法

第七条 車馬又は軌道車の操縦者は、無謀な操縦をしてはならない。
2 前項において無謀な操縦とは、左の各号の一に該当する行為をいう。
四 たずな、ハンドルその他の装置による安全な操縦に必要な操作を怠つて車馬又は軌道車を操縦すること。

道路交通取締法7条が現在の70条前段相当。

第八条 車馬又は軌道車の操縦者は、法令に定められた速度の範囲内で、道路、交通及び積載の状況に応じ公衆に危害を及ぼさないような速度と方法で、操縦しなければならない。

8条が現在の70条後段相当。

 

問題なのは70条前段。

車両等の運転者は、当該車両等のハンドル、ブレーキその他の装置を確実に操作しなければならない。

安全運転義務違反って「事故を起こした結果」ではなく、事故に結び付く危険な運転方法を取り締まる趣旨。
事故が起きたから「確実に操作してなかっただろ!」みたいな話はダメなんですよね。

 

70条前段だけで違反を認定した事例はほとんどなくて、そもそも判例はほとんどない。
時速30キロで2輪の軽自動車を運転中に、右手だけを2、3秒離して20m程度進行したことについて、70条前段の罪にはならないとした判例があります(室蘭簡裁 昭和36年9月8日)。

 

次に70条後段。

車両等の運転者は、道路、交通及び当該車両等の状況に応じ、他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転しなければならない。

こちらは人的損害の話なので、物損事故や他人がケガしてない事故は対象外。

起訴状公訴事実中第二の「大型貨物自動車を運転し、大阪市(略)道路を時速30キロ乃至35キロで北進中道路上に約50センチ突出た同人所有ビニール製固定式テントが設置されてあり反対側に駐車中の乗用自動車があつたのを前方約20mに認めた。此のような場合自動車運転者としてはこれら車輛及びテントの間はきわめて狭隘であるから前方特にテント及び前記自動車との間隔に留意して之等を注視し最徐行して進行し危険の発生を未然に防止しなければならない業務上の注意義務があるのにこれを怠り前記自動車のみに気をとられ漫然同一速度で前記自動車とテントの間を通過しようとしたため自車運転台上部右前を同テントに接触させて之を破損し、以て道路交通の状況に応じて他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転しなかつた」という点は事故が物的損害を発生させたのみであり、当時通行人もなかつたようで他人に危害を加えるような虞れはなかつたから道路交通法第70条に該当しない、従つて同法第119条第1項第9号によつて処罰することは出来ない。右第70条は他人に危害を及ぼさないような云々と規定されているので人の生命身体に対して危害を加える場合にのみ限定すべきである。因に同条は他人に危害云々といつており之は人を対象とする言葉であつて物を損壊した場合を含ませることは無理である。物の損壊の場合は損害と規定すべきで、人及び物の双方を対象とするときは損傷という字句がある。しかるに同条は其の表現を採用していないのは他人を人に限り他人の物を含ませない趣旨だからであると思う。

 

大津地裁彦根支部 昭和41年7月20日

事故不申告については、事故発生点を「道路上」と捉える余地がありますが、なんでもかんでも「安全運転義務違反」と語り出す人は不勉強としか。

 

この規定はあくまでも他の条文を補う趣旨なので、他条に抵触するときに安全運転義務違反を取ると違法。

しかしながら、道路交通法70条のいわゆる安全運転義務は、同法の他の各条に定められている運転者の具体的個別的義務を補充する趣旨で設けられたものであり、同法70条違反の罪の規定と右各条の義務違反の罪の規定との関係は、いわゆる法条競合にあたるものと解するのが相当である。したがつて、右各条の義務違反の罪が成立する場合には、その行為が同時に右70条違反の罪の構成要件に該当しても、同条違反の罪は成立しないものと解するのが相当である

 

最高裁判所第二小法廷 昭和46年5月13日

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