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聴覚障害と遺失利益。健常者と比べ減額することは妥当か?

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ちょっと前にこのような報道がありましたよね。

聴覚障害女児 事故死で「逸失利益」健常者と同様に算定と判断 | NHK
【NHK】7年前に交通事故で亡くなった聴覚障害のある女の子が、将来得られるはずだった収入をどう算定するかが争われた裁判で、2審の大…

聴覚障害を持った小学生が事故死した件について、遺失利益の算定が争点となった事案。
一審は以下の判断をした。

本件では、先天性の聴覚障害を有していた児童であるAが死亡しなければ将来得られたであろう逸失利益の算定が原審以来の最大の争点となっている。
原審は、Aには年齢相応の学力や思考力を身に付けていく蓋然性があり、将来様々な就労可能性があったといえるとする一方、Aには感音性難聴があり、聴力障害によって就労の上で他者とのコミュニケーションが制限され、聴力障害が労働能力を制限し得る事実であること自体は否定することができないとした上で、平成30年度障害者雇用実態調査における聴覚障害者の平均収入(以下「平成30年の聴覚障害者平均収入」という。)等を参照し、Aの死亡時において、聴覚障害者の収入が全労働者の平均賃金と同程度であったとはいえず、聴覚障害者が必要かつ合理的な配慮を得られれば、障害のない者と同程度の収入を得ることができるとも直ちに認めることはできないが、他方、Aが将来就労したであろう時期においては、障害者法制の整備を前提とする就労機会等の拡大やテクノロジーの発達によるコミュニケーション手段の充実により聴力障害が就労に及ぼす影響が小さくなり、聴覚障害者の平均収入は増加すると予測できるとともに、Aも、将来において自ら様々な手段や技術を利用して聴力障害によるコミュニケーションへの影響を小さくすることができるといえるなどとし、これらの事情を総合すると、Aの基礎収入は、賃金センサス平成30年第1巻第1表・企業規模計・男女計・学歴計・全年齢の年収額(以下「平成30年の全労働者平均賃金」という。)の85%とするのが相当であると判断した。

これについて原告が不服として控訴。

 

報道レベルで見ていた限り、どういう理由付けで裁判所が判断したのか疑問があったのですが、判決文が公開されている。
かなりのボリュームになる判決文なので気になる方は読んでみたほうがいいかと。

 

個人的な感想としては、きちんと事実認定した上で正当な評価をした判決と捉えました。

以上の検討の結果、Aが就労可能年齢に達した時点において、まず、前記イのとおり、Aの中枢系能力は、平均的なレベルの健聴者の能力と遜色ない程度に備わり、聴力に関しても、性能が飛躍的に進歩した補聴器装用に併せて、一定程度不足する聴力の不足部分を手話や文字等の聴力の補助的手段で適切に補うことにより、支障なくコミュニケーションができたと見込まれるから、Aは、聴覚に関して、基礎収入を当然に減額するべき程度に労働能力の制限があるとはいえない状態にあるものと評価することができる。また、前記ウのとおり、本件事故当時においても、将来、障害者法制の整備、テクノロジーの目覚ましい進歩、さらには聴覚障害者に対する教育、就労環境等の変化等、聴覚障害者をめぐる社会情勢や社会意識が著しく前進していく状況は予測可能であった。そして、現に、Aが就労可能年齢に達した現時点においては、障害の「社会モデル」の考え方が浸透し、事業主の法的義務となった社会的障壁を除去するためのささやかな合理的配慮の提供として、聴覚障害者に対し様々な補助的手段の併用が認められ、聴覚障害者がそれらを駆使して、健聴者とともに同じ条件で働く職場環境が少なからず構築されているといった、聴覚障害者をめぐる就労現場の実態があり、このような労働実態は、本件事故当時においても蓋然性をもって合理的に予測可能であったといってよい。さらに、前記エのとおり、Aは、就労可能な年齢に達した時点において、本件支援学校等の教育によって社会的障壁を除去する意識や行動力を身に付け、聴力の補助的手段としてAが選択した方法を認めて協力してもらうなど、決して過重とはいえない合理的配慮がされる就労環境を獲得し、健聴者と同じ職場で同じ条件で働くことができたであろうことが、本件事故当時においても、これまた、蓋然性をもって合理的に予測することができたといえる。

そうすると、Aは、就労可能年齢に達した時点において、生来の聴覚障害を自分自身及び職場(社会)全体で調整し、対応することができると合理的に予測できるから、損害の公平な分担の理念に照らして、全労働者平均賃金を基礎収入として認めることにつき顕著な妨げとなる事由はなく、健聴者と比べて、基礎収入を当然に減額するべき程度に労働能力の制限があるということはできない。
このように、Aは、一般就労、即ち、障害の有無にかかわらず、健聴者と同じ職場で同じ勤務条件や労働環境のもとで同等に働くことが十分可能であったと考えられる。そうすると、Aの逸失利益を算定する際の基礎収入については、平成30年の全労働者平均賃金を用いるのが相当であって、Aの基礎収入につき、この平均賃金から何らかの減額をする理由はないといわなければならない。

大阪高裁 令和7年1月20日

かなり踏み込んだ事実認定を元に、被害者は将来、健聴者と同じ条件で同等に働くことが十分可能と判断。
その事実認定の元では、平均賃金から減額する理由はない。
この事案、「結果」については報道で知っていましたが、個人的には理由付けがどうなっていたのか気になってました。
同種事案のリーディングケースになるかもしれないけど、あくまでも被害者の状況をベースにした事案だから他の事案でも必ず当てはまるわけではないと思うけど、わりと大事なところに踏み込んだ判例かと。

 

気になる方は裁判所ホームページからどうぞ。

裁判例結果詳細 | 裁判所 - Courts in Japan

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