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自賠責保険はこんな事例にも。ガレージ内で一酸化炭素中毒事故。

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ちょっと前に書いたこちらの続き。

「自賠責保険は道路上だけ」という運転レベル向上委員会の解説は真実か?
間違い解説でお馴染みの運転レベル向上委員会が「自賠責保険は道路上事故だけ」と解説してますが、運転レベル向上委員会から引用自賠責保険は道路交通法上の道路に限定していないので間違い。なぜか起きる「自賠責保険は道路のみ」という勘違い「自賠責保険 ...

自賠責保険は「運行によって」他人を死傷させたときに支払い対象になるので、道路交通法上の道路であるかは関係がない。
自賠責保険会社と争った判例を挙げておきます。

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ガレージ内で一酸化炭素中毒

事案の概要です。
エンジンをつけたままガレージ内に駐車していたところ、クルマの運転者Xと同乗者Yが死亡。
一酸化炭素中毒と考えられた。

平成9年(略)ころ、大阪府豊中警察署に、市立豊中病院の職員から、病院の南側の家で非常ベルが鳴っている旨の通報があり、警察官である藤原薫(以下「藤原」という。)が部下とともに、豊中市(略)所在のX方に赴いた。X方に外観上異常は認められなかったものの、非常ベルのような音は鳴り続けており、敷地内にも入れなかったので、藤原らは、Xの父X1に電話で連絡を取った。そして、藤原らは、Xとともに駆け付けた同人の妻にX方一階にあるガレージ(以下「本件ガレージ」という。)の表シャッターを開けてもらい、同日午前2時ころ、X1らと一緒に本件ガレージ内に入った。

(二)  そこで、藤原らは、本件ガレージ内に駐車されていた自動車(以下「本件自動車」という。)内に、XとYを発見した。二人は眠っているような状態であり、異常を感じたX1は、直ちにXの人工呼吸を開始した。その後、XとYは、市立豊中病院に搬送され、蘇生術が試みられたものの、Xは、平成9年6月21日午前3時15分、Yは、同日午前4時18分、それぞれ死亡が確認された。同月23日、大阪大学医学部法医学教室の医師により司法解剖が行われ、XとYの死因は、いずれも酸素欠乏による窒息と判断された。Yの死体検案書の死亡の原因欄中には「急性死の所見 血液一酸化炭素ヘモグロビン濃度9%」との記載がある。

(三)(1)  平成9年6月21日、本件自動車内で発見された時、Xは、リクライニングシートを半分ほど傾けた運転席に座っており、頭は仰向けで手をだらりと下げていた。Yは、リクライニングシートを全部倒した助手席に仰向けに横たわっていたが、外傷は認められず、着衣の乱れもなかった。

(2)  右発見時、本件自動車は、ドアが閉められており密閉状態であった。エンジンキーが差し込まれた状態であったが、エンジンは停止していた。車内灯は消えており、エアコンは「ON」の状態で外気を取り入れる位置にセットされていた。助手席側のドアは施錠されていなかった。

(3)  右発見時、本件ガレージ東側にある鉄製片開き戸(二階の台所に階段で通じている。)は施錠されていた(本件ガレージには、この片開き戸と前面シャッター部以外に出入口はない。)。本件ガレージ内は、照明が消されており、排気ガスの臭いがかすかに漂っていた。

これについてYの相続人がXの相続人に対し、民法709条による損害賠償請求したもの。

 

一審(大阪地裁 平成11年2月19日)は、以下の理由から原告の請求を棄却。

右1で認定した事実を総合すると、本件自動車のエンジンがかけられたままであったため、そのうち密閉された本件ガレージ内に排気ガスが充満し、それが本件自動車内にも入り込んで、XとYは一酸化炭素中毒に罹って死亡に至ったと推認することができる。

しかし、XとYが、密閉された本件ガレージ内において、本件自動車のエンジンをかけたままの状態で留まっていた理由については、本件全証拠によっても特定することはできない。また、Xが運転席に座っていたことから、直ちに、Xの意思により本件自動車のエンジンをかけたままの状態で本件ガレージ内に留まっていたと推認することもできず(なお、Yも運転免許を持っている。)、結局、本件自動車のエンジンをかけたままの状態で本件ガレージ内に留まっていたことがXの過失行為に基づくものであると認定し得る具体的事情が明らかでないというほかない。

大阪地裁 平成11年2月19日

民法709条による請求なので、請求する側がXの過失を立証しなければならない。
しかし一酸化炭素中毒で両者が死亡したのは事実としても、それがXの不法行為だと認定しうる根拠がないので「わからない」わけ。

 

当然Y側は控訴しますが、予備的請求として自賠法3条による運行供用者責任を追加。
運行供用者は運転者&所有者であるXになる。
そして予備的請求が追加されたことから自賠責保険会社が補助参加人となっている。

 

主張の概要は、「複数人で飲食後にYを送るためにXが運転し、なぜかYの自宅に向かわずX自宅ガレージ内にエンジンをかけたままシャッターを閉めた。その後Yの自宅に向かうためにXは運転席にいたのだから、運行にあたる」。

 

補助参加した自賠責保険会社の主張は「運行」に該当しないという主張のほか、「時機に後れた攻撃防禦」を主張。

一  まず、補助参加人は、右は時機に後れた攻撃防禦方法であると主張するところ、右は単なる攻撃防禦方法ではなく、予備的請求であるから、この点において補助参加人の主張は理由がない。なお、本件追加的訴えの変更については、請求の基礎に変更はなく、また、新たな証拠調を必要とするものではないので、著しく訴訟手続を遅滞させることにもならないから、右訴えの変更は許されるべきものである。補助参加人は、自賠責保険制度の特殊性を根拠に異議を述べるが、補助参加人が自賠責保険会社であって実質的な被告であるとしても、民事訴訟法上は、被控訴人らの補助参加人として民事訴訟法の適用を受ける以上、右異議は理由がない。

二  控訴人らの予備的請求原因1の(一)(1)ないし(3)、(5)、(6)の事実及びXが本件自動車の所有者であり本件事故当時運転席に座っていたことは当事者間に争いがない。

右事実に、前記認定事実(付加のうえ引用した原判決認定の事実)を総合すると、Xは、自己所有の本件自動車の助手席にYを同乗させ、Yをその自宅へ送っていく途中、一時的に休息をとるため、自宅ガレージ内に本件自動車を入れ、ガレージのシャッターを閉めた(これによりガレージは密室状態となった。)後、両名とも降車することもなく、Xにおいて車内エアコンのスイッチをオンにしエンジンを稼働させたままYとともに車内で時間を過ごすうち、排気ガスが車内に流入し、これを吸入したため、両名とも一酸化炭素中毒により死亡したものと認められる。

よって、Yの死亡は、いわば走行の延長としての一時駐車中における、X所有、運転の本件自動車のエアコン装置使用のためのエンジン稼働によって生じたものであって、運行供用者であるXの本件自動車の「運行によって」生じたものというべきである。

被控訴人らは、Xは、本件自動車の所有者で本件事故当時運転席に座っていたことは認めるが、運行供用者でなく、本件は交通事故ではないというが、前記認定事実によれば、Xが運行供用者であることは明らかであり(運行供用者性を阻却する特段の事情の主張、立証はない。)、また、自動車の運行によって他人の生命を害した以上、Xは自賠法3条の責任を負うべきものである。なお、Xが無過失であったとはいえないことは前記認定のとおりであり、その他、同法同条但書の事実についての主張、立証はない。
補助参加人は、その主張にかかる「運行」概念に照らし、自動車排気ガスによる危険性は自賠法が保護範囲としている自動車の危険性の範囲に該当しないというが、理由がない。補助参加人はまた、Xが自宅のガレージに車を入れたことにより、Yを自宅に送るという目的が変化したというが、直ちにそのようにいうことはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

大阪高裁 平成12年8月9日

以上から運行供用者責任を認めている。
実質的な訴訟相手(被告、被控訴人)は自賠責保険会社になりますが、以上から自賠責保険による支払いが確定している。

そもそも

自賠法は「運行によって」他人を死傷させたときに賠償責任があるとし、自賠責保険はその賠償責任の一部又は全部を補填するものですが、道路交通法上の道路に限定せず要件は「運行」かどうかのみ。

 

道路交通法上の道路じゃないと適用されないなんてことはない。

 

ところで、以前取り上げた福井地裁判決もそうだけど、ほとんどの人はこれらの判例をみても、いまいち意味がわからないと思う。
民事は運転者かなり複雑なのでして、民法上の賠償責任が否定されても自賠法上の賠償責任は肯定されるなんてことはあるのでして。

 

素人解説は残念ながら的外れになるし、むしろ誤解の原因にすらなりますが、

 

不勉強の人が解説することは社会の混乱にしかならないわけよ。。。

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