読者様から質問を頂いたのですが、こちら。
モヤっとする!?『保険支払い額は1億円?』路線バスと正面衝突…自賠責は6,000万円?でも母の取り分は0の理由(混同と相続)#自賠責保険 #人身傷害保険 #交通事故解説バスとも衝突=加害車2台 → 自賠責は上限3,000万円×台数で理論値6,000万円/人。ただし母=加害者かつ相続人のため、自賠責の母の取り分は「混同」で0。人身傷害(5,000万/人の例)は自賠責の既払控除後に差額(計2,915万円)を相...
どのような理屈なのですか。。
そもそもこの動画はいろいろ勘違いが多い。
②裁判基準、任意保険基準、自賠責基準を分けることなく解説しているから支離滅裂です。
③バスの自賠責保険の支払い可否については、バスが無過失の立証(自賠法3条)をする必要はなく、自賠責の機構が判断します。
④共同不法行為責任の意味を理解してない…
⑤民法上の「混同」を混同してます。
ではその前に。
凄まじい印象操作としか
要はこの動画をまとめると、自らの重大な過失で我が子を死亡に至らせながら、一億近くゲットできることにモヤっとするだろ?という内容です。
そもそもこの事案、いくら保険から支給されるか全くわからないところ、単なる妄想なのよね。
なんでこんなしょーもない解説をしようと思ってしまったんだろう。
ところで、損害保険なんてどれも似たようなもので、本人に明らかな責があるとしても支払われるものなんていくらでもあるのよね。
例を挙げるなら、運転レベル向上委員会がプッシュしまくる「人身傷害特約保険」なんかはそうで、本人に明らかな責任がある場合でも過失相殺されずに支払われる。
信号無視して事故に遭ったとしても、人身傷害特約保険に入っていたら全額補償されるとか言ってなかったか?
信号無視しなければ補償の問題、つまり事故は起きていないのに、予め保険に入っていたなら保険金が支払われるとしてやたらプッシュしているけど、
自賠責保険やらの保険料を支払っていたからたまたまこのようなケースでも該当しうるに過ぎない。
本質的には何も変わらないのに、このようなケースを取り上げて「一億近くゲットしてモヤっとする」みたいな話をする精神がわからない。
そもそも、「我が子2名が死亡して一億もらえる」のと「お金はもらえないが我が子2名が生きている」のどちらがいいかなんて言うまでもない話で、命をお金に換算されたところで当事者は満足するわけがないのよね…
他人がごちゃごちゃいう問題ではないわけよ。
では各論へ。
バスの自賠責保険からも支払われる?

自賠責保険の三大無責事故は逆走、信号無視、追突。
今回の事故は、片側一車線道路で、センターラインはイエローで広くない道路で、カーブで十分な見通しがきかず、実質的に車線幅を専有する大きさの路線バス。
いったいこの状況のどこに、バス側に回避可能性や過失があると思ってしまうのだろうか。
自賠責保険の適用可否については自賠責保険の調査機構が判断するので、バス側は無過失の証明(自賠法3条但し書き)をする必要はない。
機構はバスについて、普通に無過失相当と判断するのは容易に想像つくところ、
バスの自賠責保険からも支払われる前提にするのがわからない。
もちろん、機構が無責認定しないこともありうるが、バスの場合はドラレコがあるだろうし、運転レベル向上委員会が誤解釈した福井地裁判決とは意味が違う。
福井地裁判決は、ドラレコがなく警察調書の信用性に疑問がついたことから裁判上は無過失の立証を認めなかった事案ですが、バスならドラレコがあるのが普通だし無過失の立証は難しい話ではない。
裁判基準、任意保険基準、自賠責基準
弁護士基準(裁判基準)は最も慰謝料が高額になりますが、自賠責保険に請求するときは自賠責基準の範囲でしか考慮されない。
自賠責基準で計算した数字が3000万(死亡)を越えるなら3000万がMAXになりますが、例えば自賠責基準で計算した結果が3600万(一人)になる場合でも、自賠責保険の限度額の問題から3000万しか支払われない。
運転レベル向上委員会の前提「共同不法行為責任としてバスの自賠責保険からも支払われる」を前提にした場合、理屈の上では上限が6000万になるのだから、自賠責基準の3600万が支払われることになる。
裁判基準で計算したものを自賠責保険に請求しても意味がないのですが、イマイチ何を言ってるのかわからない解説になっているのよね…
「混同」の混同
民法上の「混同」とはこういう意味。
第五百二十条 債権及び債務が同一人に帰属したときは、その債権は、消滅する。ただし、その債権が第三者の権利の目的であるときは、この限りでない。
これを自賠責保険と関係して考える。
この事故は母親が運転行為により我が子2名を死亡させた。
母親のクルマに付帯する自賠責保険は、母親の責任の一部を肩代わりするように我が子2名に支払われますが、我が子2名は死亡したのだから法定相続人である母親が受け取ることになる。
つまり債権と債務が母親に帰属する。
最高裁は自賠責保険の被害者請求についても同様に解した。
自動者損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)三条による被害者の保有者に対する損害賠償債権及び保有者の被害者に対する損害賠償債務が同一人に帰したときには、自賠法一六条一項に基づく被害者の保険会社に対する損害賠償額の支払請求権は消滅するものと解するのが相当である。
最高裁判所第一小法廷 平成元年4月20日
つまり母親のクルマから支払われる自賠責保険については、父親はともかくとして母親分は受け取れない。
しかし今回運転レベル向上委員会が立てた前提は、「共同不法行為責任としてバスの自賠責保険からも支払われる」。
つまり母親車とバスの両方が加害者になる前提。
「バスに対する損害賠償請求権」は我が子のところ、死亡したから法定相続人の母親になる。
そして「保有者の被害者に対する損害賠償債務」はバスにあるのだから、それらが同一人に帰属するわけもなく、運転レベル向上委員会の前提においては母親はバスの自賠責保険から受け取れることになる。
なんで全く受け取れないことにしたのだろうか。
まあ、そもそもバスの自賠責保険が適用になる前提も不思議ですが。
例えば、運転レベル向上委員会の前提「バスの自賠責保険からも支払われる」において、被害者一名分の自賠責基準の算定が3600万だと仮定する(数字は根拠があるわけではなく、分かりやすくするための例示。以下一名分のみ)。
3600万を父親、母親の法定相続人2名で割れば1800万ずつになりますが、例えば
・バスの自賠責保険に3000万請求
・母親の自賠責保険に600万請求
とすると、バスの自賠責保険からは3000万が支払われることになり、母親の自賠責保険からは「父親分の300万」は支払われても、「母親分の300万」は混同により消滅する。
つまり実質的に3300万(父親分1800万、母親分1500万)が自賠責保険から支払われることになる。
なんかおかしな計算ばかり見かけますが、何の計算をしてるのかさっぱりわからないのよね…
混同を混同しているように思われる。
ところで、そもそも前提が崩れたならどうなるか?
つまりバスの自賠責保険は「無責」であり、しかもクルマの所有者が父親だったとしたらどうなるか?
第十一条 責任保険の契約は、第三条の規定による保有者の損害賠償の責任が発生した場合において、これによる保有者の損害及び運転者もその被害者に対して損害賠償の責任を負うべきときのこれによる運転者の損害を保険会社がてん補することを約し、保険契約者が保険会社に保険料を支払うことを約することによつて、その効力を生ずる。
第三条 自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によつて他人の生命又は身体を害したときは、これによつて生じた損害を賠償する責に任ずる。ただし、自己及び運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかつたこと、被害者又は運転者以外の第三者に故意又は過失があつたこと並びに自動車に構造上の欠陥又は機能の障害がなかつたことを証明したときは、この限りでない。
第二条
3 この法律で「保有者」とは、自動車の所有者その他自動車を使用する権利を有する者で、自己のために自動車を運行の用に供するものをいう。
クルマの所有者である父親は運行供用者になるし、運転していた母親も共同運行供用者になると考えられますが、念のため書いておくと11条における「第三条の規定による保有者の損害賠償の責任」は、保有者の定義が「いわゆる所有者」に限らないことに注意。
さあ、どうなるでしょうか?
何が言いたいかというと、前提条件が違うなら話がずいぶん変わる可能性があるし、わからないものをムリに評価して世論を煽るのはいかがなものかということなのよね。
解説内容におかしな点があるのはいつも通りとはいえ、この動画からいえる明らかな事実としては、
何か事故が起きたときに、一番あてにならないのは素人解釈なのは明らかだから、プロに一任するのがベター。
民事は刑事よりはるかに複雑だと思うのですが、正直なところド素人にはムリです。
2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。





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