読者様から泥はね運転禁止について質問をいただいたのですが、
第七十一条 車両等の運転者は、次に掲げる事項を守らなければならない。
一 ぬかるみ又は水たまりを通行するときは、泥よけ器を付け、又は徐行する等して、泥土、汚水等を飛散させて他人に迷惑を及ぼすことがないようにすること。
この規定は「泥よけをつけろ」という規定ではありません。

「泥土、汚水等を飛散させて他人に迷惑を及ぼすことがないようにすること」が義務。
そしてその義務の具体的方法として、以下が例示されてます。
②徐行する
③等
要はこれ、手段は何でもいいから泥はねすんなという規定なのでして。
「泥よけ器を付け、又は徐行する等して」とは
泥土、汚水等を飛散させて他人に迷惑を及ぼすことがないようにすることの例示である。その趣旨は他人に迷惑を及ぼさないようにすることであるから、泥よけ器を付け、あるいは徐行等さえすれば足りるということにはならない。たとえば泥よけ器を付けたが、乱暴な走り方をしてその結果泥土、汚水を飛散させれば、本条の規定に違反する。
ぬかるみまたは水たまりに板、むしろの類を敷くとか、通行人がその附近を通り過ぎるまで一時停止する等のことが考えられる(横井・木宮315ページ)。
しかし、泥よけ器の備えつけを義務づけたものではない。東京地方検察庁交通部研究会、最新道路交通法事典、東京法令出版、1974
「泥よけ器をつけたり」「徐行すること」は例示であるから、他の方法によって他人に迷惑をかけることがなければ違反にはならない。他面、泥よけ器をつけたり、徐行しても、故意に泥土、汚水を飛散させて他人に迷惑を及ぼすならば違反になる。
久保哲男、「実務道路交通法 新版」、立花書房、1986
第34回国会 衆議院 地方行政委員会 第30号 昭和35年5月16日
○木村(行)政府委員 お説の通りでありまして、この法案のいわゆる法律上の義務は、「泥土、汚水等を飛散させて他人に迷惑を及ぼすことがないようにすること。」ということに義務があるのでありまして、その前段の文章の「泥よけ器をつけ、又は除行ずる等」というのは、単に例示して手段を尽くすだけでありますので、泥よけ器をつける義務はさらさら法律上ございません。その点はっきり申し上げておきます。
質問内容は「泥よけをつけていて徐行もしていたけど泥はねして迷惑をかけた場合に違反になるのか?」ですが、立法時にこのような説明がある。
第34回国会 衆議院 地方行政委員会 第30号 昭和35年5月16日
○太田委員 七十一条の運転者の遵守事項の中には、泥よけ器をつけ、泥はねを禁止する項がございますが、この第一号の泥はね運転の禁止は、実は道の問題でございますから、道路をよくすることが第一である。これはあらゆる運転者がそう言っておりますし、沿道の者もそういうふうに言っております。しかしとりあえずは、何とかぬかるみや水たまりを通行するときには泥がはねないようにすることも必要でありますが、実際にそういうことができるかということになりますと、御説明では、そこでは許容されておるスピードの半分以下に落とせば徐行になる、そして極力泥をはねまいという努力をしてやったにもかかわらず泥はねをしたということ、そういう手段を尽くしてもなお泥はねをしたというときには、やはり情状酌量をいたしまして免責に相なるものだというようなお話であったと思うのですが、適用の実際はどのようなお考えでございますか。
○木村(行)政府委員 この点につきましては、法案にもございますように、「泥よけ器をつけ、又は徐行する等して」というように、手段の例示をいたしておりますので、かりに結果において泥がはねたという場合においても、手段をいろいろな点において尽くしておるということになりますと、当然情状酌量の問題が出まして、かりに事件になりましても、その情状を十分に付して送致いたすことになりますので、情状酌量の余地は十分にございます。
○太田委員 木村局長、徐行というのをもうちょっと数字的に見解を明らかにしていただけませんか。
○内海説明員 徐行は、この法律で一応定義のところで、徐行という定義を第二条の二十号で、「車両等が直ちに停止することができるような速度で進行することをいう。」と、こういうふうに書いておりまして、しかもこれも先ほどの車間距離等と同じように、それぞれの状態によりまして、運転者の人の経験と良識によって判断さるべきものでございます。しかし今までの現行法におきます徐行というふうなものについての判例あるいは警察側の指導等の基準としましては、今の定義に書いてあるようなことを言いながら、なお具体的には、そこで定められておる速度の大体半分以下というふうなことをめどにして運転をしてもらうというふうに徐行については考えております。従って、この七十一条第一号における徐行ということになりますれば、泥が飛ばない程度にスピードをダウンするということをもって足りるわけでありまして、もし半分以下に下げることによって飛ばなければ、それで十分意を尽くしている、こういうふうに考えます。
結果的に泥はねして迷惑をかけたなら違反は成立するけど、情状酌量の余地があるとする。
ただまあ、「泥が飛ばない程度にスピードをダウンするということをもって足りる」とあるのは結局「その状況次第」としか言いようがなく、最徐行しないと厳しい場合には最徐行することになるでしょう。
で。
泥はね運転については昭和30年代にそれなりに問題視されていたようで、要は「未舗装路が多い」ということにも問題があった。
なので現在とは前提が違います。
そしてそのような未舗装路での泥はね運転が問題になっていたのに泥よけ器を義務化しなかった理由についても国会答弁がある。
○松永忠二君 もう一つ、七十一条の泥よけ器の問題です。ここに、「泥よけ器をつけ、又は徐行する等して泥土、汚水等を飛散させて他人に迷惑を及ぼすことがないようにすること。」こういうことがあるのですが、これは、ずいぶんひどく実際問題としては被害をこうむっているわけなんだけれども、泥よけ器を必ずつけなければいけないというふうに規定することについてどういう点が無理なんですか。
○説明員(内海倫君) 必ずつけねばならないようにするという点の困ります点は、一つは、これをつければ泥が飛ばないというりっぱな装置がありますれば、これは義務づけていい、こういうふうに考えております。ところが、現状では、まだそれに至るほどのものが私どもは生産されているとは思っておりません。
それから次に、非常に被害の大きなことはわかるのでございますけれども、極端な言い方を申しますと、ぬかるみまたは水たまりを通行する自動車が泥をはねない、あるいは汚水を飛ばさない方法は、泥よけ器をつけるということ以外にないというのであれば、これは泥よけ器をつけるということを義務づけなければならないと思いますが、ほかに、あるいはそこを避けて通る、あるいはそこを静かに徐行するということをすれば避けられる、こういうのであれば、やはりそういう選択を認めていくべきではないかというふうな考慮をいたしまして手段としてこういうふうな書き方をいたしたわけでございます。○松永忠二君 この規定で、今国民が非常に迷惑をこうむっていることが直っていくと、非常によくなるというふうにお考えですか。
○説明員(内海倫君) 現在も全く同じ規定を設けているわけでございまして、また同時に、泥はねが非常に大きな被害を与えているという非難も、非常に現在も多うございますので、ただこの規定をしたというだけで直ちによくなるということの保証はいたしがたいと思いますが、やはりこの規定ができました以上は、泥よけ器をつける、あるいは徐行する、あるいは、今度の雇用者の義務の方にも罰則は付しておりませんけれども、泥よけ器をつける等必要なる措置をとることというふうな裏打ちの規定もいたしましたので、これらが一環となって、そういう泥はねというものをなくする態勢を整えていく、取り締まりもこれと並行しながら行ならということによって減っていくのではなかろうかと期待しておるわけであります。
○松永忠二君 これは、あなたがたも御存じだと思うのですが、全く一日中——一日中というのですか、雨天のときに泥がひどくて、ほとんど戸をあけないでいるということが、東海道に沿った所では幾らもあるわけです。こういう直接戸もあけられない状態になっているだけじゃなくて、雨の日に歩けば、もうほとんどかさでよけなければ歩けないという状態であることも事実なんです。そういう現状があって、つまりこの道交法あたりを規定するときに、それについて有効な措置をするということが非常に必要なものだと思うのですがね。そういう点から、この規定をしてみたところが、これで一体その状況が改善されるという見通しは私たちは持てないのですがね、こういう規定の仕方では、実際問題として。で、やはりいろいろ検討されたときには、別個なまたいろいろ意見もあったのじゃないかと思うのですが、こういう点については、もう少し積極的に、確かにこれならば非常に迷惑をこうむることも相当助かってくるのではないかというような、そういう規定の仕方というものはできないのですか。
○説明員(内海倫君) 要は、泥をはね飛ばさないということにあるわけでございまして、先ほど申しましたように、泥よけ器をつけておれば泥は飛ばさないという、そういう機械が発明されて現に存するのであれば、私は、それをつけるということによって物理的にも泥をある程度防ぐことができると思いますが、少なくとも現在まで発売されておりますものにつきましては、すべて私どもの方であらゆる状態で実験をいたしましたけれども、私どもがそれによって泥土、汚水というものがよけられるという確信をなお得るに至っておりません。ただ、その場合といえども、相対的には私は有効なものであるという点を認めるにやぶさかではございません。従いまして、そういう泥よけ器をかりにつけることをこの法律で義務づけるといたしました場合には、そういう相対的な意味におきましては、現状よりも泥はねは減るということは考えられると私は思っております。しかし、逆に今度は、おれは泥よけ器をつけなくても泥をはね飛ばすということはしないという人に対して泥よけ器をつけろという義務づけをすることは、やはりこの法律上むずかしいのではなかろうか。こういうふうに私どもは感じております。
○松永忠二君 どうもちょっとそのあとの方の説明が少しわからないのですが、こういう泥よけ器をほとんど全部義務的につけたときがあるわけです。そのときの方が今よりもずっとよかったということは、現実にお互い経験をしているわけです。しかも、その泥よけ器をつけることを相当強く規定をしていない中で、泥よけ器の発達などというものはあり得ないわけです。つけている中から泥よけ器が改良され、改造されていくということだと思うのですがね。これについて現状は非常にひどいので、ただ、泥をはねないで徐行する運転をする技能があるだろうと、こう言ってみたところで、これは全く、そういうことを言うならば、道交法のいろいろな点についてそんな理屈を通すなら、こんなことを規定せぬでもいいことが幾つも私はあると思うのです。さっきの話もそうだと思うのです。私は正常な運転をする、安全な運転をするという自信があるから、そんなものをやらぬでもいいというふうな、要らぬものがたくさんあると思うのです。やはり今の御説明のように、完全な泥よけ器がないから規定をしないのであって完全というか、有効な泥よけ器があったらこれを規定するということは悪いことではないというふうにお考えになっておられるのですか。
○説明員(内海倫君) 私どもの立場から、いやに行政事務の配分について責めをのがれるような言い方でございますが、元来自動車に装着する装置というものは、車両法の方で定めるわけでございます。車両法が、まあやっぱり泥よけ器というものを法律上きめないというのは、先ほど私が申し上げましたような理由に基づくものでございます。
そこで、今度は道交法の方では、泥を飛ばしてはいけないという形の規定をいたしておるわけでございますから、そのところにわれわれが取り込みまして、泥をはね飛ばさないという義務を課することにおいて、その義務を遂行する手段として、具体的に「泥よけ器をつけ、又は徐行する等して、」と書いて、まあ一歩前進をさした。さらに、それは運転者に義務づけるだけでは実行されにくいであろうということで、先ほど申しましたように、七十四条の「雇用者の義務」のところにも、「泥よけ器を備える等の必要な措置をとらなければならない。」という規定をいたしまして、私どもとしましては、道交法の規定としては、やはりこれが一応現状におきまする点では限界ではなかろうかと考えるわけでございます。○松永忠二君 説明はよくわかりました。
まあこの泥と一緒に石もはね飛ばされたりする。泥よけ器をつけてさえいれば、そういう点について被害も比較的少ないと思うんで、まあこの点については、警察庁あたりでは、この泥よけ器が完全につけられておらないことによる住民の非常に迷惑をこうむっている実際の実情というものは非常に大きなもんだということについては、やはり一応の調査等は済んでおるのでございますか。○説明員(内海倫君) 泥をはね飛ばしておる実態、あるいは石等がはね飛んで起こっておる被害の実態というものにつきましては、私どもの方も、各県にこの規定事項に関しましてしばしば通牒を出し、また、各県からもこういう実情について具体的に種々報告をよこしておる。現にそれに基づきまして、たとえば、兵庫県あるいは愛知県というふうな県におきましては、積極的にそういうことに対する道交上の取り締まりも実施しておるという例もございます。またしばしば、ラジオ等においても、こういう声が伝えられておりますので、われわれも慎重にそういうものについては耳を傾けております。
○松永忠二君 長官にお聞きしたいのですが、この条項を規定するについて、運輸省あたりと話し合いを持ったとか、あるいは対策本部等でこの問題について話が出たとか、そういう経過を踏んでこういう規定をされたのか。その点はいかがですか。
それからまた、条例によってこれを義務づけられているというところで、まあ成績を上げているという状況もあるのを御承知だと思うんですがへそういうことになると、そういうむしろ効果の上がるものを取り上げて、全国的に規制をしていくという方向にも考えていくべき性質のものだと私は思うんですが、この二つの点はどうですか。○政府委員(柏村信雄君) この問題につきましては、運輸省とは協議をいたしておるわけでございます。ただ、先ほど来交通課長が申しましたように、相当有効であるということは一般的に言えますが、これを強制する、特にこの道交法等で強制するということに踏み切るだけの気持になれない。これは、一つには、完全なものがないということを交通課長も申しましたが、その問題もあると思いますが、たとえば、舗装を主とした都会地等において、雨のあと部分的にぬかるみが出るというような所で、これを義務づけるということにいたした場合に、普通は、もう舗装の所ならばまあそれは要らない、ところが、たまたま走ってみると、天気にはなったけれども、ぬかるみが一部あって、そこを通るときに泥よけ器をつけていなかったために直ちに違反と、そういうことで、しゃくし定木でやるわけではございませんが、そういう場合もあると思います。しかし、全面的にこれを強制的に直ちにやることがいいかどうかという点は、検討を要する問題じゃないかと思います。条例で定めておりますのは、岡山初め中国各県、それから四国四県において、泥よけ器をつけることを条例で定めているわけでございます。
○松永忠二君 そうなると、やはり相当な広範囲でそういう条例を作っているわけですね。条例の制定の効果というものは相当上がっているんですか、課長。
○説明員(内海倫君) この法律で「泥よけ器をつけ、又は徐行する等」と書いておりますので、条例の範囲も、泥よけ器を条例によって完全な義務規定にはいたしておりませんので、従いまして、条例に基づいてそれからの県が一斉につけているというものではございません。そういう点で、各県における効果は必ずしも上がっているという断言は私いたしません。なぜかといいますとたとえばかりに四国四県は大部分、たしか四県とも何らかの形で泥はねをそこの条例で規定いたしておりますが、たとえば、そのうちの一県が規定していないといたしますと、その県の車がよその県に入っていきましても、泥はね、泥よけ器をつけるとかというような点は守られないという結果になりますので、どうしてもそういうものを義務づけるということになりますれば、その県単位の条例ではなしで、やはり全国的に規制できる政令または法律にようない限りは、ほんとうの意味の効果は上がらないものと、こういうふうに私ども考えて、おそらく各県、たとえば「泥よけ器をつける等」というふうな形で書いております県におきましても、そういう意味で、特に大きな成績を上げているということは私まだ聞いておりません。ただ、条例でそういう精神を強くうたっておられますから、県民として大きな自覚があるということは否定できないと思います。
泥よけ器の義務化についてかなり食い下がるように質問してますが(なおこの議論はまだまだ続いていて一部抜粋に過ぎないので、詳しくは国会議事録参照)、これだけ泥よけ器義務化を求める様子から推測されるのは、現に「泥はね被害者」が多かったのではなかろうか。
そして結局のところ、道路交通法は刑法でもある。
泥よけ器を装備してないけど徐行するなどしてきちんと配慮する運転者に対し、刑罰を課すような規定を作ることを躊躇ってますが、
逆にいえば「泥よけ器さえつけていればそれ以上の配慮は不要」と勘違いする人が出てくることを牽制する狙いもあるのではなかろうか。
泥よけ器が完全ではないことを警察庁は実験していて、泥よけ器をつけていても徐行しなければ泥はねになりうる。
そのような状況で「泥よけさえつけていればOK」と規定したら、本来の目的が達成されない。
第七十一条 車両等の運転者は、次に掲げる事項を守らなければならない。
一 ぬかるみ又は水たまりを通行するときは、泥よけ器を付け、又は徐行する等して、泥土、汚水等を飛散させて他人に迷惑を及ぼすことがないようにすること。
この規定は「泥よけ器を付け、又は徐行する等して」という例示をあえて挿入してありますが、立法者なりには「泥よけを義務化するのは躊躇うが、推奨事項にしたかった」のかと。
ところで車両に泥よけ器を義務化していたら、軽車両である馬はどうなるのだろうか笑。
2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。


コメント
こちらが歩行者で車に水たまりの水をぶっかけられたことがあるのですが、向こうは気づいてないのか、そのまま走り去ってしまいました。
前触れなくぶっかけられるので、その場で驚いて車の確認などはできないわけですが、何か対応できることはあるのでしょうか?
コメントありがとうございます。
結局、現場に警察がいなければ無意味なんです。。。
水溜りはそもそも自分に巻き上げるので(泥除けあれば防げますが)基本的に減速するか水溜りを避けるのと、歩道が無い歩行者傍を通る時はそもそも徐行や減速するので、泥跳ねの事はあまり意識してないですね。気を付けなきゃいけないですが。
コメントありがとうございます。
国会でこれだけ議論になっていたことを考えると、当時は深刻な問題だったのでしょうね。