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時速74キロバック走行を危険運転致死傷罪とした判断について、被告人は最高裁に上告。

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時速74キロでバック走行し歩道に突っ込み死傷させた事故について、被告人は高裁判決を不服として最高裁に上告したそうな。

「危険運転致死傷罪の成否で争う」男の被告が上告『飲酒運転バック走行2人死傷』【熊本】(TKUテレビ熊本) - Yahoo!ニュース
去年6月、熊本市中央区で飲酒運転で車をバック走行させ、女性2人を死傷させた罪に問われた男の裁判についての続報です。「危険運転致死傷罪が成立する」として一審、二審ともに懲役12年の判決を受けた被告

この事件は一審(熊本地裁 令和7年5月27日)が危険運転致死傷罪(進行制御困難高速度)を認め懲役12年(なお、事故報告義務違反罪と酒気帯び運転罪の併合罪である)とし、二審(福岡高裁 令和7年12月22日)は一審を支持し控訴棄却。

 

これについて、高裁判決を不服として上告したそうな。

 

正直なところ、この件が最高裁で覆る可能性はほぼないので、上告が被告人の権利とはいえ「やめときゃいいのに」と思ってしまった。

 

というのも、この事件の争点は2つ(一審判決文より)。

① 後退進行という運転方法に伴う諸要素が、「進行を制御することが困難な高速度」の判断要素に含まれるか否か
② 争点①の検討結果を前提として、被告人の運転行為がそのような高速度に達しているか否か

報道によると、控訴審で被告人側は、「事故は危険運転が成立する要件である高速度が原因ではなく、ハンドルの操作ミスが原因だと主張」したとのこと。
つまり一審争点の②。

 

最高裁への上告理由は、憲法違反と判例違反くらいに限定される。
その他、「破棄しなければ著しく正義に反する」(刑訴法411条)として最高裁が職権破棄することもありますが、

 

この件を憲法違反とリンクさせながら上告趣意書を書くのも、なかなかムリがあるのよね…
少なくとも同種判例はないと思うので、無理筋でも憲法違反を主張しながら、実質的には「著反正義破棄」を期待するのでしょうけど、

 

そもそも、判決内容に不合理な点があるのかというと厳しい。

 

では一審判決を見ていきましょう。
まずは争点①「進行制御困難高速度類型にバック走行を含むか?」。

2 争点①について
自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律2条は、生命・身体に対する危険性が類型的に高い運転行為を危険運転行為として規定してお
り、「その進行を制御することが困難な高速度で自動車を走行させる行為」(同条2号)はそのうちの一つの類型である。そして、「進行を制御することが困難な高速度」とは、速度が速すぎるため自車を道路の状況に応じて進行させることが困難な速度をいい、具体的には、そのような速度での走行を続ければ、道路の形状、路面の状況、車両の構造、性能等の客観的事実に照らし、あるいは、ハンドル又はブレーキの操作のわずかなミスによって、自車を進路から逸脱させて事故を発生させる実質的危険性があると認められる速度のことをいうと解されるところ、このような実質的危険性を生じさせる速度は前進であると後退であるとにかかわらず生じ得るものである。また、同号は単に「走行」と規定するところ、国語的な意味においても「走行」には前進と後退の双方が含まれるのが通常であるから、「走行」から後退進行のみを除外する合理的理由は見出せない。そして、後退進行した場合においては、それに伴う前記客観的事実を判断要素に含めて検討すべきことは当然の帰結というべきである。弁護人は、後退進行に伴う諸要素を判断要素に含めた場合、徐行を超える速度であれば制御困難な高速度となりかねず、「後退走行」という新たな危険運転行為の類型を創設するに等しい結果となり罪刑法定主義の観点から許されないと主張するが、後退進行という運転方法に伴う諸要素をも踏まえて検討することが直ちにそのような結果となるものではない。

熊本地裁 令和7年5月27日

これは妥当な判断でしょう。
バックであっても走行であることに変わりない。
なお赤字は弁護人の主張ですが、罪刑法定主義の主張なので憲法31条違反の主張となる。

 

次に争点②。

3 争点②について
⑴ 前提となる事実関係
ア 本件事故現場付近、被告人車両の状況
熊本市 a 区 bc 丁目 d 番地付近道路(以下「本件後退進行開始地点」という。)から同区 be 丁目 k 番地付近道路(以下「本件事故現場」という。)までは、南北に通じる片側一車線の直線道路(以下「本件道路」という。)であり、その間の距離は約350m、幅員は各車線が2.7m、東西の各歩道が1.5m、各歩道と外側線の各道路余地は0.5mである。本件道路の制限速度は時速40kmと定められていた。
被告人車両の左右の幅は147cmである。
イ 被告人車両の走行状況
被告人は、本件後退進行開始地点で追突事故を発生させたが、飲酒運転などが発覚するのを免れるべく逃走しようと考え、アクセルペダルを目いっぱい踏んで、自車線上(西側車線上)の後退走行(南進)を開始した。被告人車両は、本件後退進行開始地点から約242m後退走行した時点で、時速約70.6kmに達しており、その頃センターラインを越えて反対車線(東側車線)にやや逸脱したものの、自車線内に戻り、さらに同区 bh 丁目 i 番地 j付近道路に至って左側車輪を西側歩道上に乗り上げた(以下「西側歩道への逸走」という。)。そして、被告人車両は、別紙のとおり東側に進路を転じ、同区 be 丁目 l 番地付近道路から本件事故現場にかけて、後退進行の状態で本件道路を滑走・横断した末、東側歩道に進入(以下「東側歩道への進入」という。)した。西側歩道上から本件道路上に戻った時点における速度は時速約74.2kmであった。被告人車両は、東側歩道への進入後間もなく、同歩道に設置されていた変圧器に左側前部が衝突するなどした。

⑵ 自動車の後退走行等に関する知見
自動車工学等の研究者である証人D(以下「D証人」という。)の供述によれば、自動車の後退走行等に関し、以下の知見が認められる。すなわち、被告人車両は、前輪が駆動輪及び操舵輪であるFF車であるところ、FF車のステアリング特性として、後退走行する際に、ハンドルの操作量を車両の動作量が上回り、旋回が内に切れ込むオーバーステアという現象が生じやすい。そして、後退走行時におけるオーバーステアは、車両の速度が徐行を超えると徐々に出現し始め、速度の増加に応じて旋回がより内に切れ込む。
⑶ 検討
ア 前記⑴のとおり、被告人車両は、西側歩道への逸走後、東側に進路を転じ、後退進行で本件道路を横断していることから、西側歩道への逸走後、ハンドルは右回り(時計回り)に操作されたと考えるほかない。また、被告人の供述によれば、ハンドルは時計でいう「2」と「10」の位置に両手を置いて握り続けており、ハンドルを切った覚えはないというのであるから西側歩道への逸走後、両手で握っていたハンドルをわずかに右回りに動かしたものと推認できる。このように、ハンドルの操作量がわずかであったにもかかわらず、被告人車両は別紙のとおり内側に大きく切れ込んで東側に進路を転じていることからすると、その原因はオーバーステアが生じたことによるものと合理的に認められ、このことは、被告人車両がハンドルの操作のわずかなミスによって、自車を進路から逸脱させて事故を発生させる実質的危険性がある速度であったことを基礎付けるものといえる。さらに、被告人は、後退進行中、逃げるのに必死で焦っており、速度やハンドル操作、車線を細かく確認できていなかったものの(被告人供述)、前記⑴のとおり、センターラインを越えた後、自車線内に戻っていることから、意識の程度の問題はあれ、車線を保持しようとしていたことが見て取れる。本件道路の状況や被告人車両の構造にも鑑み、後退進行の場合であっても、一定程度の速度であれば車線を保持することは十分可能と考えられるが、被告人車両が自車線内に戻って間もなく西側歩道への逸走が生じたことは、ここに至って速度が速すぎて車線を逸脱してしまったものとみざるを得ない
そうすると、本件において被告人が本件道路を後退走行させた時速約70ないし74kmという速度は、速すぎるため自車を道路の状況に応じて進行させることが困難な速度であり、「進行を制御することが困難な高速度」と認められる。
イ 弁護人の主張について
弁護人は、東側歩道への進入の原因について、被告人が西側歩道への逸走後、急制動措置をとったことで、被告人車両のタイヤがロックし、ハンドル操作が不能となった旨を主張する。しかし、西側歩道への逸走の際のタイヤ痕は制動によるものではないし、仮に急制動措置がとられたとしても、右回りにハンドル操作がされることなく東側に大きく進路を転じたとは考え難く、わずかなハンドル操作によってオーバーステアが生じたとの認定を妨げるものとはならない。
弁護人は、時速約70kmであったことで、徐行の場合と比べ、オーバーステアの程度がどれだけ増加したかは不明であることを指摘し、後退走行時にはオーバーステアが生じ、視界も狭くなるし、徐行以上の速度で後退走行をした経験を通常の運転者が有しないこと等に照らすと、本件で被告人車両が制御困難に陥った主たる原因は、後退走行という走行方法にあり、速度が原因とは言い切れない旨主張する。確かに、D証人によっても、被告人車両の速度に応じた後退時のハンドルの操作量とオーバーステアの程度の関係は不明である。しかし、前記説示のとおり、被告人供述を踏まえた被告人車両の走行状況や、後退時の速度の増加に応じてオーバーステアの影響が増加するという知見を考慮すれば、わずかなハンドル操作で被告人車両が東側歩道に逸走したのは、単に後退走行をしたことが原因なのではなく、被告人車両の速度が速すぎたことにより強力にオーバーステアが発生したためであると考えるのが合理的であるから、弁護人の上記主張は採用できない。

要は被告人側は、制御を失った原因は高速度が原因ではないと主張してますが、時速74キロでまっすぐバック走行することが相当困難なのは誰でもわかる話なのよね。
高速度が原因でオーバーステアが発生したのであるとした一審判決は妥当かと。

 

要はこのような事実認定と判断の一審判決、二審判決に対し、最高裁が「憲法違反です!」「破棄しなければ著しく正義に反するんです!」という可能性がどんだけあるのか?という話。
刑事では最高裁が原判決を破棄するのはおおむね0.15%、破棄無罪となると0.02%。
道路交通関係で最高裁が原判決を破棄した事案というと、「ブレスケアひき逃げ事件」がありますが、

「コンビニブレスケアひき逃げ事件」、最高裁が原判決を破棄し有罪確定に。
以前から注目し何度も取り上げてきた「飲酒運転発覚回避のため事故後コンビニにブレスケアを買いに行った事件」。かなり複雑な経緯を経た裁判なので先にまとめておきます。時期出来事2015/3横断歩道で被害者をはねて死亡させた<過失運転致死罪(自動車...

この事件は様々な法学者から「高裁判決に矛盾がある」と指摘されていたように、最高裁が破棄する可能性があるとされていた。
現に無罪判決を破棄し最高裁は有罪としましたが(なお検察官主張の「判例違反」は退けられ、破棄理由は「破棄しなければ著しく正義に反する」)、今回の事案についてはそのような要素は見当たらない。

 

日本の裁判は3審制で上告する権利があるとはいえ、破棄される要素が見当たらないのに最高裁に上告するのはどうなんだと思ってしまった。

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