こちらの件。

ちょっと前に取り上げましたが、事故時にてんかん発作を起こして意識喪失していたものと考えられ、過失運転致傷罪、救護義務違反罪ともに無罪となった。
さて、この事件は1月28日に追突事故を起こして逃走したことに対し、検察官は過失運転致傷罪と救護義務違反罪(いわゆるひき逃げ)として起訴した。
問題なのは、この事故を起こしたときに被告人は「自身がてんかん持ちであること」を全く知らなかった。
検察官は2月に起訴したものの、4月の初公判の直前に被告人が駐車場で自損事故を起こした。
その後病院を受診し、側頭葉てんかんと診断され、被告人は初めててんかん持ちだと認識した。
起訴された事故については、事故を起こした認識がない以上、救護義務違反罪は成立しない。
そして問題になるのは過失運転致傷罪。
仮に「てんかんの影響により、その走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で、自動車を運転し、よって、その病気の影響により正常な運転が困難な状態に陥った」、つまりてんかんの影響で正常な運転に支障が生じるおそれがあることの認識があったなら、準危険運転致傷罪(処罰法3条2項)が成立するものの、てんかん発作だと知らなかったのだから危険運転致傷罪には問えない。
てんかん持ちだと知りながら、正常な運転に支障が生じるおそれがないと軽信して運転したのであれば、運転避止義務違反の過失を問える可能性があるけど、てんかん持ちだと知らなかったのだから問えない。
そうすると、てんかん発作に陥っていた被告人には事故を起こす可能性について予見できないし、ましてや回避可能性もないことになる。
そうすると、てんかん発作が起きてなかったのだと検察官が立証できない限り、過失運転致傷罪は成立しない。
さて。
刑罰というのは様々な側面があり、被告人に反省を促す目的でもあれば、被害者の処罰感情の問題もある。
てんかん持ちだと知らなかった人がてんかん発作を起こしたと考えられる事故について、被告人に「反省せよ」と言っても意味がないのよね。
なぜなら、全く知らないうちに事故を起こしたのだから。
何を反省するのかわからない。
なおてんかん発作で事故を起こしたと考えられる以上、免許は取消になります。
一定期間てんかん発作がなく安定した状態なら再取得は可能ですが、てんかん発作で事故を二回起こした以上、再取得する気があるとも考えにくい。
そしてこのような場合に、民事責任はどうなるか。
というのも民法713条により免責になるのではないかという疑問がある。
第七百十三条 精神上の障害により自己の行為の責任を弁識する能力を欠く状態にある間に他人に損害を加えた者は、その賠償の責任を負わない。ただし、故意又は過失によって一時的にその状態を招いたときは、この限りでない。
以下判例がある。
自賠法3条は、自動車の運行に伴う危険性等に鑑み、被害者の保護及び運行の利益を得る運行供用者との損害の公平な分担を図るため、自動車の運行によって人の生命又は身体が害された場合における損害賠償責任に関し、過失責任主義を修正して,運行を支配する運行供用者に対し、人的損害に係る損害賠償義務を負わせるなどして、民法709条の特則を定めたものであるから,このような同条の趣旨に照らすと、行為者の保護を目的とする民法713条は、自賠法3条の運行供用者責任には適用されないものと解するのが相当である。
東京地裁 平成25年3月7日
同種判断は大阪地裁や釧路地裁などがあり、意識不明に陥って起こした事故でも自賠法による賠償責任があるというのが通説的見解かと。
少なくとも自賠法にによる人身損害の賠償責任を逃れるには、無過失の証明が必要になる。
第三条 自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によつて他人の生命又は身体を害したときは、これによつて生じた損害を賠償する責に任ずる。ただし、自己及び運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかつたこと、被害者又は運転者以外の第三者に故意又は過失があつたこと並びに自動車に構造上の欠陥又は機能の障害がなかつたことを証明したときは、この限りでない。
まあ「除外するときは条文に書くんです!」と力説する人からすれば、民法に従うと書いてあり(自賠法4条)、しかも民法713条を適用しないとも書いてないのに納得いかないのかもしれませんが、
第四条 自己のために自動車を運行の用に供する者の損害賠償の責任については、前条の規定によるほか、民法(明治二十九年法律第八十九号)の規定による。
自賠法3条の趣旨からすれば、この解釈は当然かと。
条文上は民法713条に従うはずが、解釈上は違うことになる。
ところで、ちょっと前に公用車が都内で信号無視して暴走した事故がありましたが、

一部報道では気を失っていたかのような記述もありますが、
②政令で定めた病気であることを自覚し、正常な運転に支障が生じるおそれがあることの認識があり、結果的に正常な運転ができなかったとして危険運転致死傷罪(3条2項)
③何らかの病気による影響で結果的に信号無視したが、その病気を持っていることの認識がなかった(無罪)
④赤信号であることを認識しながらあえて高速度で突破した危険運転致死傷罪(2条7号)
これらはどれも結果的に信号無視したことになりますが、結果について非難する法律ではなく、結果に至る過程を非難するのが法律。
結果は刑罰の軽重に関係するものの、結果に至る過程がどうだったのかは今後の捜査で明らかになるでしょう。
なお、公用車なので運行供用者は「国」、運転していた人は自賠法でいう「運転者」(2条4項)になるため運転していた人は運行供用者ではないと考えられる。
誰が運行供用者なのかはこの場合、どうでもいい問題ですが。
2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。


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