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結果論で考えない徐行義務。

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運転レベル向上委員会が判例の意味を理解してないようですが、

左右の見通しが効かない交差点の黄色点滅信号の場合に、徐行義務があるかはわからないという謎解説をしている。

 

なぜこうなるかというと、取り上げた最高裁判例は「事案が違う」し、業務上過失致死傷罪(過失運転致死傷罪)の成立要件を理解してないことが原因で判例を読み間違えているのよね。

 

先に結論

黄色点滅信号の場合でも、左右の見通しが効かない交差点であれば徐行義務(42条1号)がある。
・業務上過失致死傷罪は予見可能性と回避可能性が認められないと成立しないのだから、道路交通法違反があったとしても予見可能性又は回避可能性が否定されれば無罪になる
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最高裁判例の趣旨

今回の事故はこちらです。

大阪府警の巡査(22) 酒気帯び運転容疑などで逮捕 交差点で乗用車に衝突、女性2人けが 広島・福山市|FNNプライムオンライン
酒を飲んで福山市内で車を運転し、事故を起こしたなどとして大阪府警の警察官が逮捕されました。酒気帯び運転と過失運転致傷の疑いで逮捕されたのは、大阪府警・堺警察署の巡査、生藤優太容疑者(22)です。生藤容疑者は22日午前2時すぎ、酒を飲んで軽自...

要するに、酒気帯び運転の巡査は「赤点滅(一時停止)」、被害車両は「黄色点滅(注意進行)」ですが、左右の見通しが効かない交差点だから黄色点滅側には徐行義務がある。

 

さて、最高裁判例の論点ですが、被告人が徐行義務を怠ったのは事実としても、相手方は一時不停止どころか「著しい高速度」で交差点に進入してきたもの。
その状況において、徐行義務を怠った被告人に業務上過失致死傷罪が成立するか?が論点です。

 

①最高裁判所第三小法廷 昭和48年5月22日

事案を整理します。

被告人 相手方
信号 黄点滅 赤点滅(一時停止)
道路交通法の義務 左右の見通しが悪いから徐行 一時停止
実際の速度 50キロ 60キロ

相手は一時停止すべきところ、時速60キロという高速度で進入してきた。
被告人は徐行義務があるところ時速50キロで進入したのだから徐行義務違反があることは明らかですが、この事案は道路交通法違反の裁判ではなく過失運転致死傷罪の判例だから、予見可能性と回避可能性がないと成立しない。

 

では最高裁の判断を。

 前記のとおり、Aの対面する信号機は、赤色の燈火の点滅を表示していたというのであるが、この信号は、道路交通法施行令(昭和四六年政令第三四八号による改正前のもの。以下同じ。)二条一項が定めるとおり、車両等につき、「交差点の直前において(中略)一時停止しなければならないこと」を意味するものであり、また道路交通法四条二項により車両等が信号機の表示する信号に従うべきこともちろんであるから、右交差道路から本件交差点に入ろうとする車両の運転者は、すべてその直前において一時停止しなければならなかつたのである。また、この場合、再度発進して交差点に入るにあたつて国道上の交通の安全を確認し、接近してくる車両があるときには衝突の危険を回避するため所要の措置をとるべきことも当然の事理である。
しかるに、被告人の対面する信号機は、黄色の燈火の点滅を表示していたというのであつて、前記施行令二条一項によれば、その意味は、「他の交通に注意して進行することができること」というにとどまり、なんら特殊な運転方法ないし注意義務を課するものではない。そして、被告人が本件交差点に差しかかつた際に、交差道路からすでに交差点に入つた車両や交差点の直前で一時停止し、発進して交差点に入ろうとしている車両があるような場合には、そのまま進行すれば衝突する危険があるから、被告人においてもその動静に注意しつつ、減速徐行あるいは一時停止等、臨機の措置に出て、もつて危険を回避すべき義務があるけれども、そうでなければ、右のとおり交差道路上の車両はすべて信号に従い一時停止およびこれに伴なう措置をとることとなつているのであるから、被告人の車両がそのまま進行しても、交差道路上を接近して来た車両が、被告人の車両に先んじて、もしくはこれと同時に交差点に入るというようなことは考えられず、したがつて衝突の発生する危険もないはずであり、特段の事情の認められない本件において、被告人が、交差道路を進行してくる現認できない車両は当然交差点直前で一時停止するから衝突の危険はないものとして、徐行することなく交差点に進入したとしても、これをもつて不注意であるということはできないのである。
もつとも、本件交差点の前示状況に照らし、被告人がその直前で徐行しなかつたことは道路交通法四二条に違反している疑いがないではなく、かつ、被告人がこの徐行をしていれば本件衝突は起らなかつたかも知れないと考える余地があつて、この意味で、右徐行懈怠と本件の結果発生との間には条件的な因果関係があるといえなくはないけれども、交通法規違反のあることがただちに、刑法上、個別的な業務上の過失があることを意味しないことは多言を要しないのみならず、もしも、道路交通法上、被告人が徐行をしておれば交差道路上の車両は一時停止義務を解除されるようなことになつていたのであれば、被告人は、Aが被告人において徐行するものと考えて一時停止をしないことをも予想すべきであり、徐行することのないまま交差点に進入したことはこの点に思いをいたさなかつたものとして過失の責を問われてもやむをえないであろうけれども、すでに述べたとおり、本件交差点では、Aは、国道上の交通状況如何にかかわらず、必ず一時停止のうえ安全を確認すべく、本件のように、時速約六〇キロメートルという速度のまま、交差点に突入することが道路交通法上許容されることはありえなかつたのであり、かつ、Aにおいてこのように適法な運転をしていさえすれば、被告人の徐行の有無に関係なく、本件衝突の発生するおそれはまつたくなかつたのであるから、被告人の徐行しなかつたことは、本件の具体的状況のもとでは、なんら事故に直結したものといえず、これをもつて不注意ということもできない。
原判示のような注意を被告人においてしなければならないとすれば、一時停止などを定めた道路交通法の趣旨は没却されることになるといわなければならない。
このようにみてくると、本件被告人のように、自車と対面する信号機が黄色の燈火の点滅を表示しており、交差道路上の交通に対面する信号機が赤色の燈火の点滅を表示している交差点に進入しようとする自動車運転者としては、特段の事情がない本件では、交差道路から交差点に接近してくる車両があつても、その運転者において右信号に従い一時停止およびこれに伴なう事故回避のための適切な行動をするものとして信頼して運転すれば足り、それ以上に、本件Aのように、あえて法規に違反して一時停止をすることなく高速度で交差点を突破しようとする車両のありうることまで予想した周到な安全確認をすべき業務上の注意義務を負うものでなく、当時被告人が道路交通法四二条所定の徐行義務を懈怠していたとしても、それはこのことに影響を及ぼさないと解するのが相当である。

最高裁判所第三小法廷 昭和48年5月22日

この判例では、信頼の原則にて「本件Aのように、あえて法規に違反して一時停止をすることなく高速度で交差点を突破しようとする車両のありうることまで予想した周到な安全確認をすべき業務上の注意義務を負うものでない」とし、予見可能性を否定した。
一時不停止の車両はしばしば見かけるにしても、時速60キロという高速度で一時不停止の車両は異常事態なのだから、それは予見できないとした。

 

なお判決文にあるように、徐行義務違反(道路交通法42条1号)には抵触することを示唆してますが、「一時不停止かつ高速度進入」する車両を予見すべき注意義務はないとした以上、徐行義務懈怠との間に因果関係はないとなる。

 

次。

②最高裁判所第二小法廷 平成15年1月24日

事案の概要です。

赤車両は指定最高速度が30キロの道路において、赤点滅(一時停止)を無視し、時速70キロで交差点に進入。
なお赤車両は酒気帯び運転&足元に落とした携帯電話を拾うために前方をみないまま進入。

 

青車両は「左右の見通しがきかない交差点」なので徐行義務(42条1号)があるところ、徐行せずに時速30キロで交差点に進入。
青車両の同乗者が死亡、負傷した事件です。

 

一時不停止で著しい高速度で進入した赤車両の過失は明らかですが、この判例は青車両に業務上過失致死傷罪(現在の過失運転致死傷罪)が成立するかが争点になっている。

 

最高裁は以下の理由から破棄無罪にしている。

 また,1,2審判決の認定によれば,次の事情が認められる。すなわち,本件事故現場は,被告人運転の車両(以下「被告人車」という。)が進行する幅員約8.7メートルの車道とA運転の車両(以下「A車」という。)が進行する幅員約7.3メートルの車道が交差する交差点であり,各進路には,それぞれ対面信号機が設置されているものの,本件事故当時は,被告人車の対面信号機は,他の交通に注意して進行することができることを意味する黄色灯火の点滅を表示し,A車の対面信号機は,一時停止しなければならないことを意味する赤色灯火の点滅を表示していた。そして,いずれの道路にも,道路標識等による優先道路の指定はなく,それぞれの道路の指定最高速度は時速30キロメートルであり,被告人車の進行方向から見て,左右の交差道路の見通しは困難であった。
このような状況の下で,左右の見通しが利かない交差点に進入するに当たり,何ら徐行することなく,時速約30ないし40キロメートルの速度で進行を続けた被告人の行為は,道路交通法42条1号所定の徐行義務を怠ったものといわざるを得ず,また,業務上過失致死傷罪の観点からも危険な走行であったとみられるのであって,取り分けタクシーの運転手として乗客の安全を確保すべき立場にある被告人が,上記のような態様で走行した点は,それ自体,非難に値するといわなければならない。

しかしながら,他方,本件は,被告人車の左後側部にA車の前部が突っ込む形で衝突した事故であり,本件事故の発生については,A車の特異な走行状況に留意する必要がある。すなわち,1,2審判決の認定及び記録によると,Aは,酒気を帯び,指定最高速度である時速30キロメートルを大幅に超える時速約70キロメートルで,足元に落とした携帯電話を拾うため前方を注視せずに走行し,対面信号機が赤色灯火の点滅を表示しているにもかかわらず,そのまま交差点に進入してきたことが認められるのである。このようなA車の走行状況にかんがみると,被告人において,本件事故を回避することが可能であったか否かについては,慎重な検討が必要である。
この点につき,1,2審判決は,仮に被告人車が本件交差点手前で時速10ないし15キロメートルに減速徐行して交差道路の安全を確認していれば,A車を直接確認することができ,制動の措置を講じてA車との衝突を回避することが可能であったと認定している。上記認定は,司法警察員作成の実況見分調書(第1審検第24号証)に依拠したものである。同実況見分調書は,被告人におけるA車の認識可能性及び事故回避可能性を明らかにするため本件事故現場で実施された実験結果を記録したものであるが,これによれば,①被告人車が時速20キロメートルで走行していた場合については,衝突地点から被告人車が停止するのに必要な距離に相当する6.42メートル手前の地点においては,衝突地点から28.50メートルの地点にいるはずのA車を直接視認することはできなかったこと,②被告人車が時速10キロメートルで走行していた場合については,同じく2.65メートル手前の地点において,衝突地点から22.30メートルの地点にいるはずのA車を直接視認することが可能であったこと,③被告人車が時速15キロメートルで走行していた場合については,同じく4.40メートル手前の地点において,衝突地点から26.24メートルの地点にいるはずのA車を直接視認することが可能であったこと等が示されている。しかし,対面信号機が黄色灯火の点滅を表示している際,交差道路から,一時停止も徐行もせず,時速約70キロメートルという高速で進入してくる車両があり得るとは,通常想定し難いものというべきである。しかも,当時は夜間であったから,たとえ相手方車両を視認したとしても,その速度を一瞬のうちに把握するのは困難であったと考えられる。こうした諸点にかんがみると,被告人車がA車を視認可能な地点に達したとしても,被告人において,現実にA車の存在を確認した上,衝突の危険を察知するまでには,若干の時間を要すると考えられるのであって,急制動の措置を講ずるのが遅れる可能性があることは,否定し難い。
そうすると,上記②あるいは③の場合のように,被告人が時速10ないし15キロメートルに減速して交差点内に進入していたとしても,上記の急制動の措置を講ずるまでの時間を考えると,被告人車が衝突地点の手前で停止することができ,衝突を回避することができたものと断定することは,困難であるといわざるを得ない。
そして,他に特段の証拠がない本件においては,被告人車が本件交差点手前で時速10ないし15キロメートルに減速して交差道路の安全を確認していれば,A車との衝突を回避することが可能であったという事実については,合理的な疑いを容れる余地があるというべきである。
以上のとおり,本件においては,公訴事実の証明が十分でないといわざるを得ず,業務上過失致死傷罪の成立を認めて被告人を罰金40万円に処した第1審判決及びこれを維持した原判決は,事実を誤認して法令の解釈適用を誤ったものとして,いずれも破棄を免れない。

 

最高裁判所第二小法廷 平成15年1月24日

こちらは被告人に徐行義務違反があることを非難しながらも、徐行していたとしても一時不停止かつ時速70キロで進入してきた相手との衝突を避け得たかは疑問が残るとし、回避可能性に疑いがあるから無罪にした。

 

さて。
どちらの判例も、黄色点滅信号かつ左右の見通しが効かない交差点に進入しようとする被告人に徐行義務があることを認めつつも、昭和48年判決は予見可能性の否定(信頼の原則)、平成15年判決は回避可能性の否定により無罪とした。
そもそもこの2つの判例は、相手が単なる一時不停止ではなく、「著しい高速度で一時不停止進入」という特異な事案に対する判断。

 

報道の件は、軽症に終わっていることをみても「一時不停止の巡査が著しい高速度で進入した事案」には思えませんが、最高裁判例とは事案が異なることになる。

 

そしてそもそも、昭和48年最高裁判決が指摘するように道路交通法違反があることと、刑法上の過失があることは別問題なのよ。
徐行していたとしても回避可能性がないなら、徐行義務懈怠と致死傷の間には因果関係がない。

徐行義務懈怠により業務上過失致死傷罪に問われた事案

黄色点滅信号であっても、左右の見通しが効かない交差点であれば徐行義務(42条1号)があることは最高裁判例からも明らかですが、では現実的なケースではどのように徐行義務懈怠が扱われるか?

 

判例は東京高裁 昭和48年7月10日。
被告人はB車、被害者は一時停止を無視して交差点に進入したA車です。
被告人は徐行義務を怠り50~60キロで交差点に進入しています。

 

一審は被告人が徐行義務を怠ったことを認めつつも、信頼の原則を適用して無罪に。
検察官が発狂して控訴した事案です。

本件の具体的な道路および交通の状況においては、被告人は、左方道路から本件交差点に進入する車両が一時停止の道路標識に従い一時停止することを信頼して進行すれば足り、それ以上に、あえて法規に違反して一時停止することなく高速度で交差点を突破しようとする車両のありうることまでも予想し安全確認をすべき業務上の注意義務を負うものではない

さて、東京高裁は原判決を破棄して有罪にしてます。

もともと、同法42条が、交通整理の行なわれていない左右の見とおしのきかない交差点につき車両等に徐行義務を課したのはいうまでもなく、この交差点での車両同士の出合い頭の衝突を避けようとしたことに主眼があると解されるのであり、そしてことはつねに、単に一般的な道路交通法上の徐行義務の存否という観点だけから論ぜられているのではなく、徐行をしなかつたことが具体的に刑法上の注意義務の違反となるかどうかという観点から考えられているのであつて、近時いわゆる信頼の原則が云々されるのも具体的な事件における刑法上の過失行為として徐行義務が問題とされていることはいうまでもない。ところで、本件行為当時の道路交通法2条20号に、車両が直ちに停止することができるような速度で進行することをいうとある徐行とは、一般に停車の手段を施すときは惰力進行を加算しても優に衝突をさけうる程度の速度すなわち時速約10キロメートル程度ということになるであろう。しかして同法42条が交通整理の行なわれていない左右の見とおしのきかない交差点で車両等に徐行義務を課しているのもかかる場所での道路交通の安全と円滑という矛盾する二つの要請を調整する趣旨のものと解されるから、ことを刑法上の注意義務の観点からみても、徐行とは交差道路からくる車両の有無、動静を確認し機に応じて交差点の直前で直ちに停止しうる程度に予め減速して進行することをいうと解するのが相当で、ここにいう徐行もやはり時速約10キロメートル前後ということになるであろう。ただ、その減速の程度は、通常は、交差点に接近するにともなつて次第に深まつていくが、他面、この接近にともなつて左右の見とおしも好転し、また、自車が交差点を先に通過しうるかどうかの判断も可能となり、安全通過を確認しうるにいたればそのままもしくはむしろ若干加速してでもすみやかにその交差点を通過すればよいことになるであろう(この関係は、交差点の手前に一時停止の道路標識が設けられている側の車両についても、一旦一時停止して交差点の安全を確認したのちにおいては全く同様であるといえる。)。そこで、問題は、われわれの現状認識として、交差点における一時停止の交通規制の順守がどの程度期待できるかということにかかつてくる。われわれの現状認識としては、一時停止の交通規制は、交差点において信号機によつて交通整理が行なわれている場合などとは異なり、本件のように夜間で交通の閑散な道路のような場合は、それほどには順守されていないというのがむしろ通常経験するところであると考えられる。これを原審記録中事故後約20日を経た昭和45年2月6日に撮られた写真撮影報告書によつてみても、交差車両(A車)側には交差点の手前直近になるほど一時停止の標示板は認められるけれども、停止線がひかれていたかどうかも明瞭でなく、原判決がいうように「Aとして一時停止の標識を発見できないような事情もない」とたやすく断定できないものがある(現にAはこの標識を看過している。)。また、一時停止の道路標識はもともと交差道路に関するものであるから、これと交差する道路側の運転者(本件の被告人)において予めその存在を知つていたかどうか、また現実にそれを認めたかどうかによつて被告人の徐行義務の存否に消長をきたす性質のものでないことは業務上過失被告事件についてなされた前掲昭和43年7月16日第三小法廷判決の指摘するとおりであるといわなければならない。次に、原判決が「被告人車が交差点附近に至つた際A車は未だ一時停止の標識附近に達していないものと考えられる」とする判断は、「被告人車が時速50ないし60キロメートルの速度であつたこと」および「A車も明確ではないが被告人車と少くとも同程度の速度で交差点に進入したものと窺える」と認定し、しかも、本件衝突事故が交差点のほぼ中心付近で発生したという疑いのない事実と明らかに矛盾するといわなければならないのであつて、被告人車が交差点付近に至つた際にはA車もまた一時停止の標識付近に達していたことは証拠上明らかである。ただ、A車が一時停止する以上、被告人車が徐行しなくても両車の衝突の危険は避けられたことは原判示のとおりであろうけれども、そのことから、被告人車の方は時速約50ないし60キロメートルの速度のまま、交差点の直前において徐行することも、徐行して左右の安全を確認するという業務上の注意義務を尽くすことなく進入してよいとする道理はないのである。
要するに、原判決は、被告人の交差点直前における速度が毎時50ないし60キロメートルであつたことを認定し、本件交差点が交通整理の行なわれていない左右の見とおしのきかない交差点であることを認定し、したがつて被告人に一般的徐行義務違反があり、これと本件事故との間に条件的因果関係にあることを肯定しながら、交差道路側に一時停止の道路標識があつたのであるからA車が一時停止するであろうことを信頼して進行すれば足り、被告人車としては、一時停止又は減速徐行して事故の発生を未然に防止すべき注意義務があるとは認めがたいとして被告人に業務上の過失行為としての徐行義務違反を否定したやすく無罪を言い渡したのは、道路交通法42条および刑法211条の解釈適用をあやまつた結果業務上の過失あるものを過失なしとしたもので、このあやまりが判決に影響を及ぼすことは明らかであり、かつ、所論が引用する前掲最高裁判所の判例にも違反するといわなければならない。
なお、この点に関し参考となるのは、昭和43年12月17日最高裁判所第三小法廷判決(刑集22巻13号1525頁)である。その要旨は、交通整理が行なわれておらず、しかも左右の見とおしのきかない交差点で、他方の道路からの入口に一時停止の道路標識および停止線の表示があるものに進入しようとする自動車運転者としては、徐行して、その停止線付近に交差点にはいろうとする車両等が存在しないことを確かめた後、すみやかに交差点に進入すれば足り、本件相手方のように、あえて交通法規に違反して、高速度で、交差点を突破しようとする車両のありうることまでも予想して、他方の道路に対する安全を確認し、もつて事故の発生を未然に防止すべき注意義務はないものと解するのが相当である、というのであつて本件のように、自ら徐行して左右の安全を確認することなく時速約50ないし60キロメートルの速度で進入する場合にまで刑法上の過失を否定するのは、判例の不当な拡張であるというべきである。

東京高裁 昭和48年7月10日

次の判例は、徐行義務懈怠はなく最徐行して注意を払っていたとして無罪に。

原判決に示された法律判断によれば、自動車運転者は、本件交差点を西から東へ進行する場合には一時停止又は徐行(最徐行)をして左右道路の安全を確認すべき業務上の注意義務があるとしているところ、本件交差点が前説示のように左右の見通しの困難な、交通整理の行なわれていない交差点であるから、車両の運転者に道路交通法上の徐行義務があることは明らかであるが(道路交通法42条)、さらに進んで一時停止の業務上の注意義務があるかはにわかに断定できず、本件交差点は一時停止の交通規制は行なわれていない場所であるから、業務上の注意義務としても特段の事情なき限り、一時停止義務はないものというべきである。けだし、道路交通法は交通の安全と円滑を調和せしむべく徐行すべき場所或いは一時停止すべき場所を決めているのであって、例えば車の鼻先を出しただけで衝突を免れないような交差点や優先道路との交差点などでは、別に一時停止の交通規制を行つているのが通常であり、規制のない場合には、業務上の注意義務としてのものであつても、一般的には一時停止義務を課することは相当でないというべきである。

(中略)

そこでさらに進んで被告人の徐行の注意義務違反の有無について考察すると、道路交通法上徐行とは車両が直ちに停止することができるような速度で進行することをいうと定義されている(道路交通法2条1項20号)が、具体的に時速何キロメートルをいうかは明らかではないとしても、前記認定の時速5キロメートル程度であれば勿論、時速10キロメートルであつても徐行にあたるものというべく、本件において業務上の注意義務としての徐行としても、時速5キロメートル程度のものであれば、これにあたると解するのが相当である。原判決は本件のような交差点に進入する車両には単なる徐行より一段ときびしい最徐行義務があるかの如き説示をしているのであるが、最徐行とは具体的にいかなる速度をいうのかの点は暫らくこれを措くとしても、前記のように被告人が時速5キロメートル程度の速度で進行していたとするならば、被告人において徐行(最徐行を含めて)の注意義務はつくしているものと認めるのが相当である。従つて、被告人には公訴事実にいう徐行の注意義務を怠つた過失はないというべきである。

 

大阪高裁 昭和59年7月27日

ところで、交通整理が行われてない左右の見通しが効かない交差点で徐行義務を課す理由は以下。

 

①横断歩行者優先(38条の2)を担保する
②優先関係を確認するには道路の幅員差などを確認させる必要があるが、それらを確認するには交差点直近にならないと判断できない。予め徐行させて幅員差などを確認させる。

 

運転レベル向上委員会は結果論でしか考えない人だから、このケースも第三者目線での結果について論じている。
しかし実際の運転では運転者目線なのだから、その観点で考えないと意味がない。

 

徐行義務により、優先関係がどうなのかを確認させているのよね。
左右の見通しが効かない交差点なのだから、たまたま横断歩行者が現れるかもしれないし、たまたま左方から進入する車両があるかもしれないし、交差点直近にたどり着いたら「たまたま」交差道路の幅員のほうが明らかに広いかもしれない。
見通しが効かないのだから、何が現れるかは不明だという前提に立たないと、何の意味もない。

 

それらを確認させるために徐行義務を課すのですが、最高裁判例のように「たまたま一時不停止かつ異常な高速度」で相手が進入してきたなら、徐行義務懈怠があったとしても無罪になりうる。
しかしそれはたまたまの結果に過ぎなくて、相手がもっと低速で進入してきた事案であれば「徐行していれば回避可能だった」として有罪なのよ。
これも「道路交通法違反と過失は別問題」だと理解してないと、永久にわからない。

 

左右の見通しが効かないのだから、相手が著しい高速度なのか、低速で進入なのかは結果論に過ぎない。

 

運転レベル向上委員会は「取り上げた判例が不適切(事案を異にする)」と考えられるし、そもそも「道路交通法違反と過失は別」という業務上過失致死傷罪(過失運転致死傷罪)の成立要件を理解してないことが原因なのよね。
黄色点滅信号であっても、左右の見通しが効かない交差点なら徐行義務があるのは最高裁判例から明らかですが、判決文を全文読まず、業務上過失致死傷罪の成立要件を理解してなければ判例の意味を取り違えてしまうのは必然なのかもしれません。

 

しかし、明らかに徐行義務があるのに断言できないのは事故予備軍だし、執務資料等を「切り抜きせずに理解」すれば、徐行義務があることは明らかだと断言できるはずですが…

 

そしてこの事故は、赤点滅側に過失運転致傷罪が成立するとは思いますが、黄色点滅側に過失運転致傷罪(同乗者を負傷させた罪)が成立するか?
報道によると軽症らしいので、他に悪質な違反を伴ってなければ処罰法5条但し書きにより不起訴になると思われる。
赤点滅側は酒気帯び運転を伴っているから起訴濃厚ですが。

 

で。
結果的に一時不停止車両と衝突してますが、見通しが悪いのだから横断歩行者と衝突していたかもしれない。
あらゆる事態に備えて確認させる目的で徐行義務を課していることを考えれば、赤点滅側は一時停止、黄色点滅側は徐行とそれぞれの注意義務を果たしましょう。
著しい高速度で進入した特異な判例をベースに考えるから、事案の本質を見失うのよね。
それと、運転レベル向上委員会が判例を紹介するときに、取り上げた論点とは事案が違う判例ばかり取り上げているのが気になった。


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