なんか今さらこれが炎上していたらしくビックリしたのですが、

この判例は、一審が簡裁なので二審は地裁です。
で。
一審がなぜこの態様で自転車に35%の過失を認めたのかはわかりかねますが、
二審が自転車に10%をつけた理由は、路側帯で自転車が転倒したことについて、自転車に操作不適の過失があった可能性を否定できないからです。
事案の概要です。
現場は片側1車線の道路で、原告はロードバイクに乗っていた。
被告は大型貨物車を走行し、大型車が先行するロードバイクに対して追い抜きをした。
その際に、ロードバイクが転倒してから大型車に接触する事故が起こり、原判決(1審)はロードバイク:大型車=35:65の過失割合を認定。
原告と被告が双方ともに不服を申し立て控訴したという事案です。
文章から画像にしてみました(画像は正確ではありませんのでご注意を)。

左車道幅が3.09m、左側には路側帯、道路右側には歩道がある。
路側帯のところには約6センチの段差(車道外側線から15センチ外側)があり、路側帯の先には蓋がない側溝あり。
センターラインははみ出し規制のイエローラインと、事故現場付近にはセンターライン上にセンターポールあり。
車道外側線の幅が20センチあり、外側線の外側15センチのところに高さ6センチの段差があるので、実質的な路側帯(段差~側溝の縁)までは45センチしかない。
事故現場は緩やかな左カーブで、3%の登り勾配。
曲線描くの苦手なので、直線化しているのでご了承ください。
ロードバイクが5台縦列で走行中に、後ろから大型車が【追い抜き】をしてきたという事案です。

ロードバイクが車道外側線から30センチ内側を走行中に、後ろから大型車が追い抜きをしてきた(大型車は時速35キロまで減速)。
併走状態になって危険だったので、ロードバイクが路側帯に退避したが、路側帯の中でバランスを崩して車道側に転倒。
轢かれるところまではいかなかったが、転倒時の怪我と、転倒して大型車に接触したという事案。
この事案ですが、判決文を見る限りでは争点うちの一つに【追いつかれた車両の義務を果たしたかどうか?】があります。
第1審被告は、原告車との間に安全な側方間隔を保持することができない状態で本件追い抜きを開始したのであるから、第1審被告には、安全運転義務違反の過失が認められる。
これに対し、第1審被告らは、被告車に追いつかれた原告車は道交法27条2項に基づいて避譲義務を負うところ、本件においては第1審原告に一時停止義務が課さられていたというべきであるから、第1審原告が一時停止義務に反して走行を続けていた以上は、同行の反対解釈により第1審被告が本件追い抜きを行うことも許され、第1審被告に過失はない旨主張する。
確かに、最高速度が高い車両に追いつかれ、かつ道路の中央との間にその追いついた車両が通行する十分な余地がない場合においては、追いつかれた車両に進路を譲らなければならない。(道交法27条2項)。しかしながら、追いつかれた車両が進路を譲る義務を負うのは、道路の左側部分に進路を譲る余地があることが前提であり、何らかの障害によって道路の左側端に寄ることができない場合には、本件外側線の幅約20cmを含めても80cmしかなく、本件路側帯の幅員から本件外側線の幅(約20cm)及び本件外側線の外側(左側)から本件段差までの幅(約15㎝)を除くと、側溝の縁の部分を含めて約45cmの幅しかないことを考慮すると、本件路側帯は自転車の走行には適さない状況であったと認められる。第1審原告は、前記1認定のとおり、被告車の接近に気付いて本件外側線上まで原告車を寄せており、さらに本来自転車の走行には適さない本件路側帯に進入することにより、被告車に進路を譲る義務を果たしているといえる。また、本件事故現場(上り勾配で、しかも緩やかに左にカーブしており、本件路側帯は本来自転車の走行には適さない状況であった)及び自転車は減速するとふらつく危険性があることなどを考慮すると、本件事故現場付近において、原告車が被告車に進路を譲るため、安全に一時停止することは困難であったと認められる。したがって、第1審原告が、道交法27条2項に基づく避譲義務の一環として一時停止義務を負うとは認められない。
結局のところ、安全に追い抜きするのに必要な側方間隔を維持できないのに追い抜きを開始した後続車の過失となっているのですが、判決文を読んでお分かりになるように、追いつかれた車両の義務を認めていることになります。
1審はロードバイク:車=35:65でしたが、控訴審では10:90になり確定です。
なお10%過失が付いた理由は、ロードバイクが路側帯の中で運転操作を誤った可能性を否定できないこととなっています。
要するに、他のロードバイクは転倒には至らなかったのに一台だけ転倒したことを踏まえると、自転車が転倒したことについて操作ミスがあった可能性があり、それを否定できないから自転車にも10%の過失をつけた。
で。
民事のバイブル的存在「赤い本」によると、自転車と「追いつかれた車両の義務」についてこのように書いている。
四輪車同士の事故においては、道交法27条1項違反が修正要素とされている。
この点、自転車には道交法22条1項の規定に基づく「最高速度」の定めはなく、同法の適用があるかについては疑問があるところであり、同様の修正要素を定めることは妥当ではないと考えた。※37
道交法27条2項は、車両は、車両通行帯の設けられた道路を通行する場合を除き、最高速度が高い車両に追いつかれ、かつ、道路の中央(当該道路が一方通行となつているときは、当該道路の右側端。以下この項において同じ。)との間にその追いついた車両が通行するのに十分な余地がない場合においては、第18条1項の規定にかかわらず、できる限り道路の左側端に寄つてこれに進路を譲らなければならないとし、最高速度が同じであるか又は低い車両に追いつかれ、かつ、道路の中央との間にその追いついた車両が通行するのに十分な余地がない場合において、その追いついた車両の速度よりもおそい速度で引き続き進行しようとするときも、同様とする。
この点、自転車には最高速度の法定はないこと、先行車が後続車を認識できるのは後続車が並走状態に入ってからであることが多いと考えられることからは、避譲措置をとらないことをもって先行車の過失ととらえ、過失を加重することは妥当ではない。
日弁連交通事故センター東京支部編、「民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準」、公益財団法人日弁連交通事故相談センター東京支部、令和5年、下巻p198
日弁連は自転車事故について、27条相当の過失をつけることには否定的。
ただし、判例をみると18条1項「左側端寄り通行義務」に違反しているケースでは自転車に過失をつけているので、結局は左側端寄り通行義務を果たしているかの問題になる。
で。
いろいろごちゃごちゃ言う人が現れるのは今に始まったことじゃないけど、なぜ昭和39年改正で進路避譲義務から軽車両が脱落したかというと、
同改正にて軽車両の並進が禁止されたからなのよ。
昭和39年以前は、軽車両の並進を禁止する法律はなく、進路避譲義務が課されていたのだから、


追いつかれた並進自転車は並進を解除する必要があった(27条)。
しかし昭和39年改正で軽車両の並進を禁止し、軽車両は左側端寄り通行義務が課されているのだから、
進路避譲義務を課す理由がなくなったのでしょう。
特定小型原付は、並進が禁止されてないけど進路避譲義務(27条)の対象になっているわけで、
これらをみても、並進禁止規定と追いつかれた車両の義務は、兄弟みたいなもんだとわかる。
並進を禁止し、左側端寄り通行義務を課している状況では「常時譲っている」のだから、同じ意味になる27条2項を重ねて適用する必要がない。
例を挙げるならば、例えば「ブリーフを履かなければならない」という義務があるのに、さらに「トランクスを履いてはならない」という規定を作る必要なんてないでしょ。
ところで、改正道路交通法で新設された18条4項は、追い抜かれようとする自転車に「できる限り左側端に寄り」通行することを求めている。
3 車両(特定小型原動機付自転車等を除く。)は、当該車両と同一の方向に進行している特定小型原動機付自転車等(歩道又は自転車道を通行しているものを除く。)の右側を通過する場合(当該特定小型原動機付自転車等を追い越す場合を除く。)において、当該車両と当該特定小型原動機付自転車等との間に十分な間隔がないときは、当該特定小型原動機付自転車等との間隔に応じた安全な速度で進行しなければならない。
4 前項に規定する場合においては、当該特定小型原動機付自転車等は、できる限り道路の左側端に寄つて通行しなければならない。
これの解釈については、1年前に警察庁交通局長が解説している。
第213回国会 参議院 内閣委員会 第14号 令和6年5月16日
○酒井庸行君 いわゆる例外という部分で、これもそういう規定があるんでしょうけれども、これもある意味では大変危険な部分もあるのかなというふうに感じます。
またこれはそれぞれの皆さんからもいろんな形で質問はあるというふうに思いますけれども、次にもう一つ、私がちょっとうんっと思ったのは、今回のその法改正の中で、この十八条にあるんですけれども、当該の特定小型原動付自転車等はできる限り道路の左側端に寄って通行しなきゃならないと書いてあるんです。できる限りという表現が、よく、曖昧のような気がするんです。その辺をまたちょっと、御説明をしていただける時間、大臣に質問する時間がなくなっちゃうので短くお願いしたいと思いますけど、その辺をちょっとまずお伺いしたいと思います。○政府参考人(早川智之君) 自転車の側方を自動車が通過する場合のその義務に関する規定についての御質問でありますが、先ほどお答え申し上げたように、元々自転車は車道の左側端を走行しなければならないというような規定がございます。自動車が側方を通過する際は、自転車は元々車道の左側端、走行しておるんですが、可能であれば、可能な範囲で左側端に走行してくださいということで、本来、もう元々左側端を走行しているのであればそれで十分であるというような規定の趣旨でございます。
なぜこういう解釈になるか?
これは「できる限り」という文言が何を意味するかなのよね。

「できる限り」というのは、道路工事やその他の事情により「できない場合」を除外する意味。
そこを理解してないと、永久にわからない。
「宿題をしなければならない」と「できる限り宿題をしなければならない」、「給食は残さず食べなければならない」と「給食はできる限り残さず食べなければならない」では、どっちのほうが強い意味か?
できない事情がある場合を除外する目的で「できる限り」としているのよね。
けど「左側端に寄って」よりも「できる限り左側端に寄って」のほうがさらに左側だと勘違いする人が絶えない。
そしてAIに聞く人が多いのをみると、人間が堕落するのはよくわかるわ。
本当に大事なことはインターネット上にはない。
2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。


コメント
反論はないのですが、別解釈が発生する思考も分かります。
以前、野菜にたとえておられたと思いますが、
「野菜を食べなければならない」と「野菜をできる限り食べなければならない」だと
「野菜を食べなければならない」これをキャベツの千切り1切れでも食べたことになると考える屁理屈派や、
「野菜をできる限り食べなければならない」これを山盛りの野菜を何杯もおかわりして吐く寸前まで食べなければならないと考えるパワハラ系が生まれるのだと思います。
「食べなさい!」「これ食べたもん!」の応酬と
「もう限界です…」「まだ行けるだろ!」の応酬のパターンですね。
自転車は土手から転げ落ちても良いからもっと避けろ派が存在するのだと思います。
引用するとしたら全部マイルドに変えてください。
コメントありがとうございます。
確かに日本語は難しいのですが、法律解釈の話なので迷うくらいなら解説書をいくつか漁れという話なんですよね笑。
最近はそれをAIに聞く人が増えていてウンザリしてます。
いや~、大変面白かったです。誠に感謝。
コメントありがとうございます。
ある意味面白いですよね笑