堅苦しい話が続いていますが、一つの参考になるかと思いまして。
自転車の場合、道路交通法27条の【追いつかれた車両の義務】は適用外です。
これは刑事事件として取り締ま利される対象ではないというだけで、民事では認めた判例もあります。
事例
判例は名古屋地裁 令和元年8月2日判決です。
ちょっとわかりづらいですが、地裁ですが控訴審(第2審)。
一審が簡易裁判所だったのでしょう。
事案の概要です。
現場は片側1車線の道路で、原告はロードバイクに乗っていた。
被告は大型貨物車を走行し、大型車が先行するロードバイクに対して追い抜きをした。
その際に、ロードバイクが転倒してから大型車に接触する事故が起こり、原判決(1審)はロードバイク:大型車=35:65の過失割合を認定。
原告と被告が双方ともに不服を申し立て控訴したという事案です。
文章から画像にしてみました(画像は正確ではありませんのでご注意を)。
左車道幅が3.09m、左側には路側帯、道路右側には歩道がある。
路側帯のところには約6センチの段差(車道外側線から15センチ外側)があり、路側帯の先には蓋がない側溝あり。
センターラインははみ出し規制のイエローラインと、事故現場付近にはセンターライン上にセンターポールあり。
車道外側線の幅が20センチあり、外側線の外側15センチのところに高さ6センチの段差があるので、実質的な路側帯(段差~側溝の縁)までは45センチしかない。
事故現場は緩やかな左カーブで、3%の登り勾配。
曲線描くの苦手なので、直線化しているのでご了承ください。
ロードバイクが5台縦列で走行中に、後ろから大型車が【追い抜き】をしてきたという事案です。
ロードバイクが車道外側線から30センチ内側を走行中に、後ろから大型車が追い抜きをしてきた(大型車は時速35キロまで減速)。
併走状態になって危険だったので、ロードバイクが路側帯に退避したが、路側帯の中でバランスを崩して車道側に転倒。
轢かれるところまではいかなかったが、転倒時の怪我と、転倒して大型車に接触したという事案。
この事案ですが、判決文を見る限りでは争点うちの一つに【追いつかれた車両の義務を果たしたかどうか?】があります。
第1審被告は、原告車との間に安全な側方間隔を保持することができない状態で本件追い抜きを開始したのであるから、第1審被告には、安全運転義務違反の過失が認められる。
これに対し、第1審被告らは、被告車に追いつかれた原告車は道交法27条2項に基づいて避譲義務を負うところ、本件においては第1審原告に一時停止義務が課さられていたというべきであるから、第1審原告が一時停止義務に反して走行を続けていた以上は、同行の反対解釈により第1審被告が本件追い抜きを行うことも許され、第1審被告に過失はない旨主張する。
確かに、最高速度が高い車両に追いつかれ、かつ道路の中央との間にその追いついた車両が通行する十分な余地がない場合においては、追いつかれた車両に進路を譲らなければならない。(道交法27条2項)。しかしながら、追いつかれた車両が進路を譲る義務を負うのは、道路の左側部分に進路を譲る余地があることが前提であり、何らかの障害によって道路の左側端に寄ることができない場合には、本件外側線の幅約20cmを含めても80cmしかなく、本件路側帯の幅員から本件外側線の幅(約20cm)及び本件外側線の外側(左側)から本件段差までの幅(約15㎝)を除くと、側溝の縁の部分を含めて約45cmの幅しかないことを考慮すると、本件路側帯は自転車の走行には適さない状況であったと認められる。第1審原告は、前記1認定のとおり、被告車の接近に気付いて本件外側線場まで原告車を寄せており、さらに本来自転車の走行には適さない本件路側帯に進入することにより、被告車に進路を譲る義務を果たしているといえる。また、本件事故現場(上り勾配で、しかも緩やかに左にカーブしており、本件路側帯は本来自転車の走行には適さない状況であった)及び自転車は減速するとふらつく危険性があることなどを考慮すると、本件事故現場付近において、原告車が被告車に進路を譲るため、安全に一時停止することは困難であったと認められる。したがって、第1審原告が、道交法27条2項に基づく避譲義務の一環として一時停止義務を負うとは認められない。
結局のところ、安全に追い抜きするのに必要な側方間隔を維持できないのに追い抜きを開始した後続車の過失となっているのですが、判決文を読んでお分かりになるように、追いつかれた車両の義務を認めていることになります。
1審はロードバイク:車=35:65でしたが、控訴審では10:90になり確定です。
なお10%過失が付いた理由は、ロードバイクが路側帯の中で運転操作を誤った可能性を否定できないこととなっています。
ただしロードバイクが路側帯に行かざるを得ない状況に追い込んだことが大きな原因なので、それも加味して10:90という判決です。
<追記>
この判例についてやたらと質問を受けるので、こちらに追記しておきます。
なぜこういう判決が出るのか?ということを考えれば、答えは民事だからです。
民事で争っているのは道路交通法違反ではありませんので。
そもそも論ですが、道路交通法違反(刑事)としては27条が自転車に適用されることはありません。
その理由について推測すると、自転車は原則として左側端通行なので、常時譲っているからではないかと。
<さらに追記>
この判例、ちょっと誤解を生んでいるような気がするのでもうちょっと書きます。
1審で自転車:車=35:65になった後、双方が控訴した事件です。
1審での双方の主張、および判決理由が不明なのであえて書かなかったことですが、2審(地裁)では双方ともに27条の適用を主張している点に注意。
長くなるのでまとめます。(以下、控訴審判決文の双方の主張から引用)
・一審原告(自転車の主張)
第1審原告は、被告車に追いつかれた際、被告車との接触を避けるため、原告車を本件外側線上(車道の左端)に寄せて被告車に進路を譲ることにより(道交法27条2項)、結果回避義務を尽くしたのであるから、過失はない。
・一審被告(後続車の主張)
最高速度が高い被告車に追いつかれた原告車は、できる限り本件道路の左側端に寄って被告車に進路を譲らなければならない(道交法27条2項)。本件道路の左側端に溝や段差があるために自転車である原告車が被告車と並走することが困難な状況の下では、第1審原告は、被告車に進路を譲るためできる限り左側端に寄って一時停止すべき義務があった。
少なくとも控訴審では、双方が27条の成立自体を認めている。
その上で1審原告は義務を果たしたという主張。
1審被告は一時停止すべきだったという主張。
これ、民事ではそれなりに多いと思うのですが、道交法の刑罰規定としての違反にかかわらず、民事では過失とみなされることはよくあることです。
例えば道交法38条は、横断歩道を通行しようとする自転車に対しての保護規定ではないので、横断歩道を渡ろうとしている自転車に対して一時停止しなくても違反にはなりません。
けど民事では過失として評価されることはよくある。
本来、信号機が無い横断歩道を渡ろうとしている自転車には優先権が無く、むしろ25条の横断禁止の規定があるので車道を通行する車が優先します。
けど民事の判例を見ていると、横断歩道を渡ろうとする自転車に対しても38条を流用している判例もある。
このあたりは双方がどのような主張をしたのかでも話が変わるのですが、刑事上の処罰対象にはならなくても民事では概念を流用した注意義務を認定されることはあるということです。
次に、車両通行帯ではない片側2車線道路の第2車線を通行していた原付に、ただ真っすぐ走っていただけにも関わらず2割の過失を付けた判例もあります。
なぜこういうことが起こるのかというと、そもそも、民事での過失というのは民法709条に基づく過失なので、事故回避義務が含まれるからです。
道交法違反が無くても、民事では過失になりうる。
それを踏まえて。
1審判決の内容が不明なので何とも言えない部分はありますが、1審では自転車に35%の過失が付くという、自転車には不利な内容になっています。
それを踏まえて、控訴審ではあえて27条の義務を持ち出して、27条の概念に基づいてできる限り左側端に寄るという事故回避義務を果たしたという主張をしたんじゃないかという可能性もあります。
要は道交法の義務ではなくても、27条の概念を流用して事故回避義務を果たしたという主張の可能性。
実際のところ、1審原告の控訴審での主張はこうなっています。
・一審原告(自転車の主張)
第1審原告は、被告車に追いつかれた際、被告車との接触を避けるため、原告車を本件外側線上(車道の左端)に寄せて被告車に進路を譲ることにより(道交法27条2項)、結果回避義務を尽くしたのであるから、過失はない。
【結果回避義務を果たした】というのは民法709条に基づく事故回避義務のことになるわけで、道交法違反だったのかという話にはなっていない。
なのでここを混同しないほうがいいんじゃないかと考えます。
勝手な予想として書きますと、1審では不利な判決になったので、道交法の義務を超えて事故回避義務を行ったけど事故が発生した、だから自転車には過失が無いという主張なんじゃないかと思うのですが、1審判決文が無いので断定できません。
実際のところ、控訴審では10:90に変更されているので、自転車側の主張は功を奏しているわけですし。
刑事と民事の差
警察が違反として取り締まる場合には、自転車に対して27条を適用することはあり得ません。
しかし事故の民事訴訟では、このように27条の譲る義務を認めて、義務を果たしたかが争点になることもあるということです。
判決文を見ればわかると思いますが、争点の一つとして、追いつかれた車両の義務が成立するとしている。
その上で、道路状況からこれ以上退避する余裕なんてないよね?ということで義務を果たしたことになっている。
前に横断歩道と自転車の関係も書いてますが、
刑事事件・行政処分としては成立しない件でも、事故が起きたときの過失としては見られることもあるということです。
前にこういう記事を書いていますが、
私の基本的な概念ですが、まずは法律上の正しい解釈をきちんと押さえます。
その上で安全に走行するにはどうしたらいいのかを考えるので、基本は譲る方向性を推奨してます。
まあ、あのツイッターの方だと、むしろこういうケースではブロックする方向なんでしょうけど、ブロックを強引に突破するように追越しされたときに、接触があれば先行車にも過失が大きくなる要素は当然あります。
過失割合というのは、事故った後の話。
事故らないようにどうするかを考えるべきですが、万が一事故ったときにどうなるのか?という観点では法律解釈も知っておいたほうがいいかと。
2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。
コメント
道路交通法第27条の判例があるとの事で、拝見させていただきましたが、
実際に引用されているのは判例ではなく、あくまでも地裁の判決"裁判例"ですよね。
日本では、三審制が採用されており、覆されない最終判断である最高裁の判決のみを『判例』
それ以外の下級審の判決は「裁判例」と区別されていますが、
一体、どこに最高裁の判決"判例"が記載されているのでしょうか?
"判例がある"などというとの非常に悪質なデマをら釣りワードに使い、アクセス数を稼ぐ問題のあるサイトですね。
関係、各所に通報しておきますので、
あしからず、ご了承ください。
>日本では、三審制が採用されており、覆されない最終判断である最高裁の判決のみを『判例』
それ以外の下級審の判決は「裁判例」と区別されていますが、
…
これは実務上の区分でしかなく法律上の区分ではありませんし、あなたにとっては例えば「判例タイムズ」に下級審の判例が掲載されたら同じく発狂するのでしょうか?
なお、法律上の話になりますが、高裁判例も「判例」と書いてあります。
民事訴訟法
第三百十八条 上告をすべき裁判所が最高裁判所である場合には、最高裁判所は、原判決に最高裁判所の判例(これがない場合にあっては、大審院又は上告裁判所若しくは控訴裁判所である高等裁判所の判例)と相反する判断がある事件その他の法令の解釈に関する重要な事項を含むものと認められる事件について、申立てにより、決定で、上告審として事件を受理することができる。
刑事訴訟法
一 憲法の違反があること又は憲法の解釈に誤があること。
二 最高裁判所の判例と相反する判断をしたこと。
三 最高裁判所の判例がない場合に、大審院若しくは上告裁判所たる高等裁判所の判例又はこの法律施行後の控訴裁判所たる高等裁判所の判例と相反する判断をしたこと。
>関係、各所に通報しておきますので、
あしからず、ご了承ください。
脅迫かなんかですか?
なお、当該判例についてはなぜそうなったかの解説を載せてますから、意味を理解できる人ならわかるはずですが、意味を理解できずに発狂するのはお止めください。