自転車の「追い抜かれる際にできる限り左側端に寄る」(改正18条4項)について、今さらながら「パブコメで文句つけたる!」と意気込む人(いわゆる道交法界隈)が散見されるんだけど、
そもそもこの規定をきちんと読めてない上に、警察庁が解説していることも見逃しているからちゃんと調べてから騒ごうね、としか言いようがない。
誤解のポイントは「できる限り」にある。
自転車が追い抜かれる際の「できる限り」とは

改正18条4項はこちら。
3 車両(特定小型原動機付自転車等を除く。)は、当該車両と同一の方向に進行している特定小型原動機付自転車等(歩道又は自転車道を通行しているものを除く。)の右側を通過する場合(当該特定小型原動機付自転車等を追い越す場合を除く。)において、当該車両と当該特定小型原動機付自転車等との間に十分な間隔がないときは、当該特定小型原動機付自転車等との間隔に応じた安全な速度で進行しなければならない。
4 前項に規定する場合においては、当該特定小型原動機付自転車等は、できる限り道路の左側端に寄つて通行しなければならない。
問題になるのは「できる限り」とはどういう意味なのか?
一番分かりやすいのは駐停車のルール。
第四十七条 車両は、人の乗降又は貨物の積卸しのため停車するときは、できる限り道路の左側端に沿い、かつ、他の交通の妨害とならないようにしなければならない。
2 車両は、駐車するときは、道路の左側端に沿い、かつ、他の交通の妨害とならないようにしなければならない。
| 停車 | 駐車 |
| できる限り左側端 | 左側端 |
駐車は「左側端」、停車は「できる限り左側端」としてますが、なぜそのように規定したかについては道路交通法を作った宮崎氏が解説してます。
停車の説明
なお、「できる限り」としたのは、本来は左側端にぴったり寄るのが望ましいが、道路工事その他障害物のため左側端に寄ることが不可能な場合を考慮したからである。
宮崎清文、条解道路交通法、立花書房、1961(昭和36年)
駐車の説明
本項においては、停車の場合と異なり、「できる限り」という言葉が用いられていない。したがって、車両は、駐車しようとするときには、かならず道路の左側端に寄らなければならぬことになる
宮崎清文、条解道路交通法、立花書房、1961(昭和36年)
つまり「できる限り」とは、できない場合を除外する意味でしかない。
これは多数の解説書からもうかがえる。
下記は左折時の「できる限り左側端に寄って」の解釈。
「できる限り道路の左側端に寄り」とは
(イ)「できる限り」とは
その場の状況に応じ、他に支障のない範囲で可能な限り、行えばよいとの趣旨である<同旨 法総研125ページ 横井・木宮175ページ>。
左側に車両等が連続していたり、停車中の車両等があって、あらかじめ道路の左側に寄れなかった場合には、たとえ直進の位置から左折進行したとしても、本項の違反とはならないことになる<横井・木宮175ページ>。東京地方検察庁交通部研究会、「最新道路交通法事典」、東京法令出版、1974
つまり「できる限り」というのは「できない場合」を除外する意味でしかない。
けど発狂する人を見ていると「なにがなんでも」みたいな意味に捉えて勘違いしている。
元々は自転車については18条1項で「左側端に寄って」通行する義務を課してますが
第十八条 車両(トロリーバスを除く。)は、車両通行帯の設けられた道路を通行する場合を除き、特定小型原動機付自転車及び軽車両(以下「特定小型原動機付自転車等」という。)にあつては道路の左側端に寄つて、それぞれ当該道路を通行しなければならない。ただし、道路の状況その他の事情によりやむを得ないときは、この限りでない。
※関係ない部分を省略
「できる限り」というのは、「ただし、道路の状況その他の事情によりやむを得ないときは、この限りでない」と同じ意味になる。
なので18条4項は「追い抜かれる場合限定」で18条1項に罰則を設けただけなのね。
18条1項には罰則はありません。
そしてこれについては、既に警察庁が解説している。
第213回国会 参議院 内閣委員会 第14号 令和6年5月16日
○酒井庸行君 いわゆる例外という部分で、これもそういう規定があるんでしょうけれども、これもある意味では大変危険な部分もあるのかなというふうに感じます。
またこれはそれぞれの皆さんからもいろんな形で質問はあるというふうに思いますけれども、次にもう一つ、私がちょっとうんっと思ったのは、今回のその法改正の中で、この十八条にあるんですけれども、当該の特定小型原動付自転車等はできる限り道路の左側端に寄って通行しなきゃならないと書いてあるんです。できる限りという表現が、よく、曖昧のような気がするんです。その辺をまたちょっと、御説明をしていただける時間、大臣に質問する時間がなくなっちゃうので短くお願いしたいと思いますけど、その辺をちょっとまずお伺いしたいと思います。○政府参考人(早川智之君) 自転車の側方を自動車が通過する場合のその義務に関する規定についての御質問でありますが、先ほどお答え申し上げたように、元々自転車は車道の左側端を走行しなければならないというような規定がございます。自動車が側方を通過する際は、自転車は元々車道の左側端、走行しておるんですが、可能であれば、可能な範囲で左側端に走行してくださいということで、本来、もう元々左側端を走行しているのであればそれで十分であるというような規定の趣旨でございます。
だいぶ前から指摘しているけど、


解説書をみたり調べればわかる話だし、今さら騒ぐ人を見ているとそもそも解釈を誤っている。
「できる限り」としてないと、左側端に穴があっても穴に突入するしかないし、

左側端にウ◯コやガラス片が散乱していても、突入するしかなくなる。
そのように「安全な通行に適さない場合」を除外する意味で「できる限り」としているのに、違う意味に捉えてしまう人がいるからややこしい。
なぜ調べないか疑問

そもそも改正道路交通法自体はだいぶ前に決まっているわけでして、改正道路交通法の議論のときにかなり話題になっていた話なのよね。
今さら騒ぐ人の心理はわからん。
ところで、「左側端に寄って」(18条1項)における左側端とはどの範囲なのか?については、道路状況次第なので一律の判断は困難です。
だから罰則を設けていない。
第1項の規定の違反行為については、罰則が設けられていない。これは、この規定による通行区分は、道路一般についての車両の通行区分の基本的な原則を定めたものであり、また、道路の状況によっては、道路の左側端又は左側といってもそれらの部分がはっきりしない場合もあるので、罰則をもって強制することは必ずしも適当ではないと考えられるからである。(従前の通行区分の基本的原則を定めた旧第19条の規定についても、ほぼ同様の理由により、同じく罰則が設けられていなかった。)。
宮崎清文、注解道路交通法、立花書房、1966
同条1項の「道路の左側に寄って」とは、軽車両の通行分を考慮し、軽車両が道路の左側端に寄って通行するために必要とされる部分を除いた部分の左側に寄ってという意味であり、「道路の左側端に寄って」とは、道路の路肩部分を除いた部分の左端に寄ってという意味である(宮崎注解)。このように自動車及び原動機付自転車と軽車両とで若干異なる通行区分をしたのは、速度その他通行の態様が著しく異なる両者がまったく同じ部分を通行すると、交通の安全と円滑が害われるおそれがあるためである。もっとも軽車両がまったく通行していない場合に自動車または原動機付自転車が道路の左側端まで寄って通行することまで禁止したものではないだろう(同旨、法総研・道交法87頁)。
ところで、キープレフトの原則の本来の趣旨は、通常走行の場合はできるだけ道路の左側端を通行させ、追い越しの場合は道路の中央寄りを通行させることにより種々の速度で通行する車両のうち、低速のものを道路の左側端寄りに、高速のものを道路の中央寄りに分ち、もって交通の安全と円滑を図ることにあるとされている(なお、法27条2項参照)。右のような趣旨ならひに我が国の道路および交通の現状にかんがみると、18条1項の規定をあまり厳格に解釈することは妥当ではなかろう。
判例タイムズ284号(昭和48年1月25日) 大阪高裁判事 青木暢茂
「道路の左側端に寄って」とは、この場合にあっては、路肩部分を除いた道路の左はしに近寄ってという意味である。
宮崎清文、注解道路交通法、立花書房、1966(昭和41年)、105頁
注、「路肩部分を除いて」とするのは路肩が非舗装だった時代の名残で、現在は路肩を自転車が通行しやすいように再整備している場合もある。
なので「路肩だから」という理由で一律排除する解釈にはなっておらず、道路状況をみて「自転車の安全な通行に適しているか」で考えることになる。
これらを総合して考えると、18条4項の違反で青切符の対象するのは
「明らかに左側端とは言えない場所を通行して後続車を妨害する場合で悪質性が認められる場合」
と言える。
これは青切符の運用方針からもうかがえるのよね。
国家公安委員会委員長記者会見要旨
令和5年12月26日(火)11:02~11:09
問 自転車運転の青切符を盛り込んだ報告書が国家公安委員にも報告されたと思います。そこでお伺いしたいのは今後の教育の問題です。特定小型原付でも具体的な教育があまりなされている様子がなくて、今後、警察庁だけではなくて文科省とか総務省とも連携しなければならないと思います。閣僚としてどのように働きかけるおつもりかお願いします。
答 まずご指摘の自転車につきましては、近年、対歩行者との事故が増加傾向にあるとこういうふうにまず認識をしております。そのことを踏まえまして、警察庁においては、本年の8月以降、有識者検討会を開催してきたところでございます。お尋ねのとおり、このたび、有識者検討会においては、安全教育、違反の処理、交通規制の3点に関して、今後の取組の方向性について提言をする中間報告書が取りまとめられ、提言いただいたところでございます。
このうち、交通安全教育につきましては、官民の知見により、それぞれの年齢層、ライフステージに応じた安全教育に係るガイドラインの策定をいたしまして、安全教育の質の担保をすることが提案されているところでございます。これを実現するためには、教育現場や自治体との連携が非常に重要であるため、関係省庁に対して必要な働き掛けを行っていくよう、警察庁を指導してまいりたいと考えております。
そのようにしっかりと連携をいたしまして、やってまいりたいと思っておりますが、違反の処理につきましては、自転車利用者による交通違反を交通反則通告制度の対象とすることが提言をされておりますが、制度の運用に当たっては、指導警告をまず原則といたします。これに従わないなどの特に悪質、あるいは危険な違反に限っては青切符による取締りを行うことにより、目的である違反者の行動改善を促すこと、こういった取組をしっかりとやってまいりたいと考えております。問 取締りについては、まず切符を切るということではないということですね。
答 申し上げたとおり、まずはやはり指導警告これを原則といたしておりますので、報道等では即青切符というイメージが残っておりますが、やはり交通ルールを守っていただき、結果的に事故が起こらないことが私どもの目的でございますから、その点については、申し上げたとおりでございます。
国家公安委員会委員長記者会見要旨
実効性のある指導警告
運転に免許を必要としない自転車利用者に対して交通ルールを認識させる機会でもあることから、違反者自らの違反行為の危険性や交通ルールを遵守することの重要性について理解できるよう実効性のある指導警告を行う。
取り締まりの推進
警察官の警告に従わずに違反行為を継続したときや、違反行為により通行車両や歩行者に具体的危険を生じさせたときなどには、積極的に取締りを行う。
https://www.npa.go.jp/koutsuu/kikaku/bicycle/kentokai/04/chuukanhoukokusyo-honbun.pdf
パブコメ以前に既に警察庁は解釈を示しているし、この規定が目的とすることを考えればわかるんだけど、なんでろくに調べもせずに騒いでおかしな風潮を作るのか理解し難い。
要は「追い抜き車」に罰則付き義務を課したのに、18条1項には罰則がないのだから自転車がわざと左側端とは言えない場所を通行して妨害してきたときに注意指導しかできない。
それはアンバランスだから自転車にも罰則を設けただけのこと。
そもそも
①「給食は残さず食べなければならない」
②「給食はできる限り残さず食べなければならない」
②のほうが緩やかなのは言うまでもない。
体調が悪けりゃ残していい余地があるのだから。
ちなみに誤解を招くかもしれないけど、18条4項は故意犯の処罰規定しかありません(過失処罰の規定はない)。
18条4項の故意とは「追い抜かれようとしていることの認識」なのだから、「後続車に気づかなかった過失」により違反しても処罰対象ではない。
つまり、後続車がいることが客観的に明らかな状況で左側端とは言えない場所を通行してわざと妨害するような話を想定しているのは条文からわかるのよね。
左側端とは言えない場所を通行して、後続車がノロノロと何百メートルも追従していたら「後続車が追い抜きしようとしていることの認識」があるのは明らかでしょ(気づかなかったという言い訳はムリがある)。
そういう場合を想定しているわけで、過失処罰の規定がないことからもうかがえるわけよ。
おかしな騒ぎ方をする暇があるなら、正しい解釈を啓蒙する方が賢明。
2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。



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