非接触の驚愕事故というのがありますが、横断歩行者の直近を通過して歩行者が転倒したという事故があります。
横断歩行者の直近を通過して歩行者が転倒
判例は東京高裁 昭和59年7月31日、業務上過失致死。
事故の概要から。
・被告人はオートバイに乗り、第1車線を走行
・風が強い日で、瞬間最大風速16.3m/sを記録
・歩行者は中央分離帯を越えて横断した
・強風で砂ぼこりが立つため前かがみの姿勢で目を下にしたまま運転
・左方への横断者が前方やや右方約7.2mの地点にいることを発見し、衝突を避けるためハンドルを右に切り、体を右に寝かせるようにして横断者の背後を回り込むようにして通過(約1mの間隔)
・歩行者は最初普通の歩行速度で歩いていたが、第1車線を被告人車の接近に気がついて第2車線から急に急ぎ足になり、そのすぐ後に物凄い勢いで足を滑らせ、両足を上にあげて右を下にして頭から路上に転倒
原判決は以下の理由から無罪。
②サンダル履きの足を自ら滑らせて路上に転倒して致命傷を負ったと認めうる余地が十分にあり、被告人の運転行為によって被害者を狼狽転倒させたという因果関係の証明がない
これをどのように捉えるかの問題になります。
被害者は、最初自動車が左方100m位の間にはいなかったところから、そのすきに上り線を横断しようとして中央分離帯の草むらから上り線の車線内に進出した後、第2車線と第1車線の境界線近くまで進んだ時、被告人運転の自動二輪車が第1車線を進行して来るのを数m左方向の近距離に認め、あわてて右斜め方向に走って衝突を回避しようとしたが、被告人車をかわした直後にサンダル履の足を滑らせて後方にもんどり打つようにして転倒し、結局、左後頭部を路面に強打して死亡するに至ったものと認めるのが相当である。そうすると、被害者が足を滑らせて転倒したのは、明らかに被告人車との衝突を避けようとしてあわてて急な行動を採ったためと認められるのであり、しかも、そのような急な行動を採るに至ったのは、被告人において大型の自動二輪車を運転して進行中、進路の安全確認を怠り被害者の発見が遅れた結果、同人に衝突の危険を感じさせる至近距離に自車を進出させたためと認められるのであって、その転倒は被告人の過失行為に起因するものというほかはない。
(中略)
以上の次第であって、被害者は、被告人の不注意な運転行為の結果、被告人車との接触の危険を感じ、狼狽のあまり採った行動によって転倒したと認めるのが相当であり、被告人がこうした被害者の行動を予見してあらかじめ安全な運転方法を採ることは十分に可能であったのであるから、被告人の運転行為と被害者の転倒との因果関係を認めず、結局被告人の過失行為を否定した原判決には事実誤認があることになる。
東京高裁 昭和59年7月31日
要は被告人が強風と砂ぼこりを気にして前方不注視のまま進行したことを過失とし、被告人の過失により横断歩行者の発見が遅れ、歩行者が身の危険を感じて狼狽して急ぎ足になり転倒したという判断。
かなりの強風の中で2輪車に乗ることは危険ですが、前方不注視になることは許されない。
ロードバイクに乗る上で
かなりの強風の中でロードバイクに乗る人はあまりいないと思いますが(余裕で吹っ飛ぶ)、一つ言えるとしたらアイウェアってかなり大事なのよね。
アイウェアをしていても強風の中では砂ぼこりが気になる可能性はあるでしょうけど、強風ではない場合でも目に異物が入れば前方不注視になって何が起きるかわからなくなるし。
前方不注視になってギリギリで横断歩行者との衝突を回避できたとしても、驚愕事故になれば「ギリギリで回避した」というよりも「それ以前の前方不注視」が過失になります。
まあ、前方不注視になってしまうなら停止するとか減速するのが筋なのですが。
瞬間最大風速が10m/s以上ならそもそも乗らないかなあ…
視界が遮られた状態で運転したら偶然に頼ることになるし、そういう意味ではアイウェアってロードバイク乗りにはかなりの機能部品なんですよね。
ただまあ、あえて書いておきますと仮に2輪車が転倒して怪我や死亡に至ると、歩行者が過失致死傷罪に問われます。
若干事例は違いますが、歩行者を重過失致死罪で有罪にした事例もあるので、紙一重なのよ。
2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。
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