ちょっと前にこのような事件の判決がありました。
去年6月、熊本市で車を時速70キロ以上でバックさせ、歩行者の女性2人をはねて死傷させた事故が危険運転致死傷の罪にあたるかどうかが争われた裁判で、熊本地方裁判所は危険運転の罪が成立すると判断し、24歳の被告に懲役12年の判決を言い渡しました。
飲酒しバック走行死傷事故で懲役12年 危険運転認める 熊本|NHK 熊本県のニュース【NHK】去年6月、熊本市で車を時速70キロ以上でバックさせ、歩行者の女性2人をはねて死傷させた事故が危険運転致死傷の罪にあたるかどうかが争われた裁…
この事故は酒気帯び運転で追突事故を起こした被告人が、酒気帯び運転の発覚をおそれてその場から逃走。
バックで時速70~74キロで進行し、歩道に乗り上げて通行人を死傷させたもの。
被告人は事故報告義務違反(道路交通法72条1項後段)、危険運転致死傷罪(自動車運転処罰法2条2号、進行制御困難な高速度)、酒気帯び運転罪(道路交通法65条1項)の罪に問われていた。
第二条 次に掲げる行為を行い、よって、人を負傷させた者は十五年以下の拘禁刑に処し、人を死亡させた者は一年以上の有期拘禁刑に処する。
二 その進行を制御することが困難な高速度で自動車を走行させる行為
この裁判の争点は、①後退運転が「その進行を制御することが困難な高速度」に含まれるか?、②含まれるとした場合に被告人の速度が「その進行を制御することが困難な高速度」に達していたか?の二点。
事故報告義務違反罪と酒気帯び運転罪は明らかなので、争点にはなっていない。
争点①後退運転が「その進行を制御することが困難な高速度」に含まれるか?

争点①後退運転が「その進行を制御することが困難な高速度」に含まれるか?については、進行とは停止状態以外全てを指すのだから、直進、右左折、進路変更、横断、転回、後退など全てを含む。
自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律2条は、生命・身体に対する危険性が類型的に高い運転行為を危険運転行為として規定しており、「その進行を制御することが困難な高速度で自動車を走行させる行為」(同条2号)はそのうちの一つの類型である。そして、「進行を制御することが困難な高速度」とは、速度が速すぎるため自車を道路の状況に応じて進行させることが困難な速度をいい、具体的には、そのような速度での走行を続ければ、道路の形状、路面の状況、車両の構造、性能等の客観的事実に照らし、あるいは、ハンドル又はブレーキの操作のわずかなミスによって、自車を進路から逸脱させて事故を発生させる実質的危険性があると認められる速度のことをいうと解されるところ、このような実質的危険性を生じさせる速度は前進であると後退であるとにかかわらず生じ得るものである。また、同号は単に「走行」と規定するところ、国語的な意味においても「走行」には前進と後退の双方が含まれるのが通常であるから、「走行」から後退進行のみを除外する合理的理由は見出せない。そして、後退進行した場合においては、それに伴う前記客観的事実を判断要素に含めて検討すべきことは当然の帰結というべきである。弁護人は、後退進行に伴う諸要素を判断要素に含めた場合、徐行を超える速度であれば制御困難な高速度となりかねず、「後退走行」という新たな危険運転行為の類型を創設するに等しい結果となり罪刑法定主義の観点から許されないと主張するが、後退進行という運転方法に伴う諸要素をも踏まえて検討することが直ちにそのような結果となるものではない。
熊本地裁 令和7年5月27日
若干勘違いしていたのは報道からすると「進行」に後退が含まれるか?なのかと思っていたけど、むしろ「走行」に後退が含まれるか?になっている点。
確かに同号は「走行させる行為」と規定するのだから、そりゃそうだなと。
進行制御困難な「高速度」に達していたか?
要はこの規定、
第二条 次に掲げる行為を行い、よって、人を負傷させた者は十五年以下の拘禁刑に処し、人を死亡させた者は一年以上の有期拘禁刑に処する。
二 その進行を制御することが困難な高速度で自動車を走行させる行為
「進行を制御することが困難な高速度」とは、速度が速すぎるため自車を道路の状況に応じて進行させることが困難な速度をいい、具体的には、そのような速度での走行を続ければ、道路の形状、路面の状況、車両の構造、性能等の客観的事実に照らし、あるいは、ハンドル又はブレーキの操作のわずかなミスによって、自車を進路から逸脱させて事故を発生させる実質的危険性があると認められる速度のことだと裁判所が述べてますが、高速度だったから進路を逸脱したのか、それとも高速度に起因しない単なるハンドル操作ミスなのかで危険運転と過失運転が分かれてしまう。
⑵ 自動車の後退走行等に関する知見
自動車工学等の研究者である証人D(以下「D証人」という。)の供述によれば、自動車の後退走行等に関し、以下の知見が認められる。すなわち、被告人車両は、前輪が駆動輪及び操舵輪であるFF車であるところ、FF車のステアリング特性として、後退走行する際に、ハンドルの操作量を車両の動作量が上回り、旋回が内に切れ込むオーバーステアという現象が生じやすい。そして、後退走行時におけるオーバーステアは、車両の速度が徐行を超えると徐々に出現し始め、速度の増加に応じて旋回がより内に切れ込む。⑶ 検討
ア 前記⑴のとおり、被告人車両は、西側歩道への逸走後、東側に進路を転じ、後退進行で本件道路を横断していることから、西側歩道への逸走後、ハンドルは右回り(時計回り)に操作されたと考えるほかない。また、被告人の供述によれば、ハンドルは時計でいう「2」と「10」の位置に両手を置いて握り続けており、ハンドルを切った覚えはないというのであるから西側歩道への逸走後、両手で握っていたハンドルをわずかに右回りに動かしたものと推認できる。このように、ハンドルの操作量がわずかであったにもかかわらず、被告人車両は別紙のとおり内側に大きく切れ込んで東側に進路を転じていることからすると、その原因はオーバーステアが生じたことによるものと合理的に認められ、このことは、被告人車両がハンドルの操作のわずかなミスによって、自車を進路から逸脱させて事故を発生させる実質的危険性がある速度であったことを基礎付けるものといえる。さらに、被告人は、後退進行中、逃げるのに必死で焦っており、速度やハンドル操作、車線を細かく確認できていなかったものの(被告人供述)、前記⑴のとおり、センターラインを越えた後、自車線内に戻っていることから、意識の程度の問題はあれ、車線を保持しようとしていたことが見て取れる。本件道路の状況や被告人車両の構造にも鑑み、後退進行の場合であっても、一定程度の速度であれば車線を保持することは十分可能と考えられるが、被告人車両が自車線内に戻って間もなく西側歩道への逸走が生じたことは、ここに至って速度が速すぎて車線を逸脱してしまったものとみざるを得ない。
そうすると、本件において被告人が本件道路を後退走行させた時速約70ないし74kmという速度は、速すぎるため自車を道路の状況に応じて進行させることが困難な速度であり、「進行を制御することが困難な高速度」と認められる。イ 弁護人の主張について
弁護人は、東側歩道への進入の原因について、被告人が西側歩道への逸走後、急制動措置をとったことで、被告人車両のタイヤがロックし、ハンドル操作が不能となった旨を主張する。しかし、西側歩道への逸走の際のタイヤ痕は制動によるものではないし、仮に急制動措置がとられたとしても、右回りにハンドル操作がされることなく東側に大きく進路を転じたとは考え難く、わずかなハンドル操作によってオーバーステアが生じたとの認定を妨げるものとはならない。
弁護人は、時速約70kmであったことで、徐行の場合と比べ、オーバーステアの程度がどれだけ増加したかは不明であることを指摘し、後退走行時にはオーバーステアが生じ、視界も狭くなるし、徐行以上の速度で後退走行をした経験を通常の運転者が有しないこと等に照らすと、本件で被告人車両が制御困難に陥った主たる原因は、後退走行という走行方法にあり、速度が原因とは言い切れない旨主張する。確かに、D証人によっても、被告人車両の速度に応じた後退時のハンドルの操作量とオーバーステアの程度の関係は不明である。しかし、前記説示のとおり、被告人供述を踏まえた被告人車両の走行状況や、後退時の速度の増加に応じてオーバーステアの影響が増加するという知見を考慮すれば、わずかなハンドル操作で被告人車両が東側歩道に逸走したのは、単に後退走行をしたことが原因なのではなく、被告人車両の速度が速すぎたことにより強力にオーバーステアが発生したためであると考えるのが合理的であるから、弁護人の上記主張は採用できない。熊本地裁 令和7年5月27日
この判断は妥当。
後退走行+時速70キロでは、わずかなハンドル操作でコースから逸脱するのは当たり前と言える。
速度が速すぎたことに起因してオーバーステアが発生したことになるので、「進行制御困難な高速度」と認められるのは当然。
ただしこの事件は、被告人側が控訴したため確定判決ではない。
控訴理由もイマイチわからなくて、危険運転致死傷罪の成否を争うのか、量刑不当の主張なのかは定かでらない。
ちなみにこの事故、事故報告義務違反、危険運転致死、危険運転致傷(二週間)、酒気帯び運転の各犯罪として懲役12年。
求刑12年に対し懲役12年なのをみても、量刑相場よりはやや長めになっている。
これについて裁判所は以下理由を述べている。
量刑の中心となる判示第2の罪についてみると、被告人は、直線道路を時速約70ないし74kmもの高速度で約350mにわたり後退逆走する無謀な運転に及んでおり、被告人の運転行為の危険性は高い。
このような無謀かつ危険な運転の結果、将来ある命を突然絶たれた被害者の無念は察するに余りある。かけがえのない家族を突然亡くしたことによる遺族の悲しみは深く、厳しい処罰感情を抱くのは至極当然である。また、傷害を負った被害者の受傷の程度は、辛うじて加療約2週間程度のものにとどまったが、目の前で発生した凄惨な事故で同僚を亡くしたことによる精神的苦痛は大きい。
ホストとして勤務していた被告人は、自動車で通勤することは禁じられていたにもかかわらず自動車で出勤し、飲酒を断ることができたにもかかわらずその場の雰囲気に流されて飲酒し、飲酒後、代行運転に依頼するなどして運転を回避できたにもかかわらず軽い気持ちで運転を開始し、各犯行に及んだ。このように、被告人が正しい選択をしていれば事故発生を回避できたはずの機会が何度もあったのであるから、判示第2の死傷結果は、被告人の身勝手な考えが積み重なった結果、発生したものといえる。殊に、追突事故や飲酒運転等の発覚を免れようとして無謀な運転に及んだ意思決定は強い非難に値する。
以上によれば、本件は、歩行者を被害者とする危険運転致死傷罪の中でも比較的重い部類に属する事案というべきである。
更に一般情状についてみると、被告人に前科はなく、被告人は、死亡した被害者の遺族に宛てて謝罪文を送り、本件直後は、飲酒の有無や経緯について虚偽の供述をしていたものの、当公判廷においては概ね自己の記憶に従って供述し、反省の弁や、被害者ら及びその遺族に対する謝罪の言葉を述べている。なお、死亡した被害者の遺族に対しては、被告人車両に付された対人賠償無制限の任意保険によって適正な賠償がなされることが見込まれるが、同保険は被告人が契約したものではなく、被告人のために酌むべき事情とはいえない。
「被告人が正しい選択をしていれば事故発生を回避できたはずの機会が何度もあったのである」としてますが、
②禁止されていたクルマ通勤をしたにもかかわらず飲酒した
③飲酒したのなら運転代行という手段もあった
何回も自制が効くポイントがあったのにいずれも甘く見たことや、その結果起こした追突事故により飲酒発覚をおそれて無謀なバック走行をしたことを、危険運転致死傷の中で比較的重い部類と評価した。
そもそも必要ない
この事故はある意味特殊で、時速70キロでバック走行する人自体がいない。
そもそもバックなんて時速10キロも出れば事足りるモノだし、例外的措置ですよね。
バックについてはスピードリミッターがついているべきなんじゃないかと思うけど、要は時速70キロでバックする人がいるとは考えてないから、リミッター制御するという考え方もない。
最近よくある踏み間違え事故も含めたら、バック走行にスピードリミッターがついているべきなんじゃないかと思う。
なお本件の危険運転致死傷罪の成立については、控訴審でも変わらないでしょう。
もちろんこの判決はバック走行における進行制御困難な高速度を示したもので、通常走行時に当てはまるものではない。
2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。



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