読者様から質問を頂きました。

「右折車は直進車の進行妨害したことが明らかなので道交法37条に違反する。なぜこういう判断になるか理解できない」
前から思っていたんだけど、法律の読み方の問題なのよ。
37条は「進行妨害した」という事実で違反が成立すると思っているようですが違います。
「故意」又は「過失」により37条に違反したことを以て初めて違法又は不法行為になる。
なお道路交通法の罰則上は、37条には故意犯の処罰規定しかありません。
さて。
「当該交差点において直進しようとする車両等があるとき」を認識し進行妨害になる可能性を認識しているのに右折したなら故意犯が成立する。
しかし、遠く離れた位置にいる直進車を認識していたけど、客観的に「通常の速度を基準にして」進行妨害にならない距離だと認識しながら右折したなら故意にならない。
では次に過失(不注意)。
信頼の原則では、直進車が制限速度+20キロの可能性を予見して右折する注意義務がある(特別な事情があるときは+20キロ以上にもなりうる)。
しかし、+20キロを予見して「明らかに問題ない距離」だと確認してから右折したのに、+60キロ以上で直進車が突っ込んできたとしたら、「+60キロ以上」を予見せずに右折したことは不注意ですか?
そんなもんは想定できないので、不注意とは解釈できない。
そうすると外見上は右折車が直進車の進行妨害したとしても、そこに故意も過失もなかったことになる。
37条は「進行妨害したという結果」を違法又は不法行為とするのではなくて、「故意又は過失により進行妨害したこと」が違法又は不法行為になる。
福岡高裁の事例は「きちんと安全確認していた」&「時速120キロ以上は予見できない」なのでして、そもそも37条違反にはならない。
そして似て非なる「苫小牧時速118キロ白バイ事故」では右折車に過失が認められてますが、

こちらはほぼノールックで右折した結果、至近距離79mに迫っていた白バイを見落とし、衝突したらたまたま白バイが時速118キロだったという事故。
| 福岡高裁 | 札幌高裁 | |
| 種別 | 民事 | 刑事 |
| 直進バイクの速度 | 時速120キロ以上 | 時速118キロ |
| 右折車の挙動 | 本件交差点に進入させて一旦停止させ、対向車線を車両等が進行してきていないことを確認した上、時速10キロメートル程度の速度で被控訴人車を右折進行させた | 右折6秒前(95m手前)で対向車を確認し、右折直前には対向車確認をしなかった(既に直進バイクが近距離に迫っていた) |
| 判決 | 右折車は無過失 | 右折車は有罪 |
同じ120キロ直進車であっても、内容は全然違う。
しかも苫小牧の事故は右折車が大型車なので、対向直進車の進路を横切るのに時間がかかる。
それは民事でいう「大型車修正」として注意義務が加重される意味でもある。
ところで道路交通法の各規定を違反と評価するには、37条に限らず故意又は過失が必要。
例えば一時不停止については、一時停止標識があるのを知りながらあえて突破したなら「故意の一時不停止」だし、一時停止標識を見落として突破したなら「前方不注視の過失による一時不停止」になる。
では一時停止標識を視認不可能だったならどうなるか?
形式的には一時不停止になるけど、視認不可能なんだから故意犯にはならないし、視認不可能なものを頑張っても見えないのだから過失(不注意)もなかったことになる。
つまり一時不停止に至った過程に故意も過失もないのだから、一時不停止を違法として評価することはできない。
条文の読み方の問題なのよね。。。
大分の時速194キロ事故にしても、刑事の判決によると「右折車に過失はない」、つまり安全確認して十分な距離があるのを確認してから右折した。
十分な距離があるのを確認していたのに、想定外の時速194キロで突っ込んできたならば、右折車は直進車を進行妨害したけどそこに故意も過失もないことになる。
故意も過失もないなら、それを違法又は不法行為とは言えないのよね。
例えば17条4項は左側通行義務を定めている。
右側通行したら違反ですが、左側通行していたときに路外から進入してきた車両に衝突されて右側にはみ出した。
右側通行したことは事実ですが、そこに故意も過失もないのは明らか。
形式的に右側通行したのは事実でも、それを違法又は不法行為とは言えない。
安全運転義務には過失犯の処罰規定がありますが、「他人に危害を及ぼす速度か方法で運転したこと」が過失なのではなくて、何らかの不注意の結果として他人に危害を及ぼす速度か方法で運転したことを「過失による安全運転義務違反」という(最高裁 昭和46年10月14日)。
典型的なのは、前方不注意で対象を見落とし漠然進行したようなケース。
逆にいえば、他人に危害を及ぼす速度か方法で運転したことについて故意も過失もないなら、安全運転義務違反にはならない。
この観点がないと、条文に該当したら直ちに違反が成立すると勘違いする。
横断歩行者妨害にしても、昭和46年までは過失犯の処罰規定がなく、「横断しようとする歩行者を見落とした過失」で一時停止しなかったなら罰則がなかった。
しかしそれが事故になったなら、業務上「過失」致死傷罪で処断すれば済むから過失犯の処罰規定がなかった。
けど事故に至らなかったけど歩行者妨害した事案が減らないから、過失処罰規定を設けた。
車両等が横断歩道に接近する場合の義務に違反した場合には、それだけで第38条第1項の違反となる。また、横断歩道の直前で停止できるような速度で進行してきた車両等が、横断歩道の直前で一時停止し、かつ、歩行者の通行を妨げないようにする義務に違反した場合も同様である。
今回の改正により、横断歩道における歩行者保護のための車両等の義務の違反については、新たに過失をも罰することとした。
横断歩道における歩行者の事故において、車両等の運転者が横断歩道あるいは歩行者に気がつかなかったと弁解する場合が多いが、この種の違反については過失をも罰することにより、歩行者保護の徹底を図ることとしたのである。
車両等が横断歩道に接近する場合において、十分確認しないでその進路の前方を横断しようとする歩行者がないと軽信したり、横断歩道の直前で停止することができないような速度で進行した場合には、過失により、第38条第1項前段の横断歩道に接近する場合の義務に違反することになる。また、車両等が横断歩道の直前で停止できるような速度で横断歩道に接近した場合において、その進路の前方を横断し、または横断しようとする歩行者がいることに気がつかなかったため、横断歩道の直前で一時停止せず、歩行者の通行を妨げたときは、過失により、第38条第1項後段の横断歩道の直前の一時停止等の義務に違反することになる。道路交通法の一部を改正する法律(警察庁交通企画課)、月刊交通、道路交通法研究会、東京法令出版、昭和46年8月
横断しようとする歩行者に気づかなかったというのは、前方不注視の過失。
横断しようとする歩行者がいないだろうと軽信するのも不注意(過失)。
まあそもそも、民事でいう過失は道路交通法違反の話とイコールではありませんが、道路交通法の条文にしても「進行妨害したという結果」を以て違反になるわけではなくて、そこに故意又は過失がないと違法又は不法行為にはならないんですね。
大分の時速194キロ直進車と右折車の事故にしても、刑事判例をみると「右折車に過失はない」としている。
つまり右折車は通常要求される「制限速度+20キロ」に対する注視を怠らずに右折したことになりますが、結果的に直進車の進行妨害したとしても、そこには故意も過失もないので37条違反が成立する余地がない。
間違っても「どっちが悪いか?」という観点で違反の成立が変わるわけでもない。
右直事故は右折車のほうが悪いというのは一般原則ですが、一般原則に当てはまらない事案が起きてしまう。
そもそも必ず右折車のほうが過失が大きくなるわけではないので、典型的事故と非典型的事故があることを知ってないと、非典型的事故なのに典型例の基本過失割合を主張する保険会社の主張を鵜呑みにしてしまい不利益に繋がる。
で。

福岡高裁 令和5年3月16日の事例。
まずは事故の概要から。
・片側二車線(交差点付近は右折レーンを含め三車線)の信号交差点、中央分離帯あり
・夜間、双方ともに信号無視はない
・原告はオートバイに乗り、時速120キロ以上で第二通行帯を直進(指定最高速度は50キロ)
・被告は4輪車で、対向車を2台やり過ごした後に時速10キロで右折開始
・原告車と被告車が衝突
・原告が契約していた保険会社(原告会社)は、被告車の損害について支払いをした
・原告は被告に対し民法709条又は自賠法3条による損害賠償請求訴訟を提起(第一事件)
・原告会社は被告に支払った損害賠償について代位取得し、原告を相手に求償請求訴訟を提起(第二事件)
要は過失割合がどうなるのか?が争点です。
ざっくり言うと、過失割合はこうなります。
| 速度超過直進オートバイ | 右折車 |
| 100 | 0 |
控訴人は、衝突時の控訴人車の速度は時速100キロメートル程度である旨の陳述及び供述をする。
しかしながら、○県警察が、控訴人車の走行状況を撮影した防犯カメラの記録等を解析して、本件事故直前の控訴人車の速度を時速122ないし179キロメートルと算出していること(上記撮影地点から、控訴人が急制動の措置を講ずるまでの間に、控訴人車が減速したことを認めるに足りる証拠はない。)、控訴人自身、警察が120キロメートル以上は出ていたというのであれば、間違いないと思う旨の陳述及び供述ををすることに照らすと、上記速度は120キロメートル以上と認めるのが相当である。
車両は交差点に入ろうとするときは、当該交差点の状況に応じ、反対方向から進行してきて右折する車両等に特に注意し、かつ、できる限り安全な速度と方法で進行しなければならないところ(道路交通法36条4項)、控訴人は、夜間、最高速度の2.4倍以上の速度で控訴人車を進行させ、同車を、本件交差点を右折進行してきた被控訴人車の左側面後端に衝突させたのであって、控訴人に過失があるのは明らかである。
これに対し、被控訴人は、被控訴人車を本件交差点に進入させて一旦停止させ、対向車線を車両等が進行してきていないことを確認した上、時速10キロメートル程度の速度で被控訴人車を右折進行させたにすぎない。被控訴人に、夜間、最高速度の2.4倍以上の速度で本件交差点に進入してくる車両等を予見し、運転操作をすべき注意義務があったとするのは困難であるし、加えて、控訴人は、原判決別紙1の①地点から約75.9m手前で、被控訴人車が本件交差点を右折進行してくるのに気付いたというのであり、控訴人が時速50キロメートル程度の速度で走行していた場合、その停止距離(28m)や、被控訴人車の速度を考慮すると、本件事故の発生を回避し得た可能性が高いことに照らすと、本件事故は専ら控訴人の過失によるもので、被控訴人に過失はないというべきである。福岡高裁 令和5年3月16日
一審は原告の請求を棄却し、原告会社が原告に請求した第二事件は認容。
控訴審も一審を支持して棄却。
一審、二審ともに右折車無過失ですが、画期的判決ではなく普通です。
ほかにも類似事例はあるのでして。
例えばこちら。

判例は名古屋地裁 令和4年9月28日。
事故の態様はこう。

青車両(原告)は一時停止後、優先道路に向かい左折。
赤車両(被告)は優先道路(法定速度60キロ)を時速114キロで直進し衝突。
青車両の後部座席に座っていた同乗者が車外に投げ出され死亡した事故です。
なお青車両が第二車線に左折したのは、直後の交差点で右折するため。
双方の主張は対立してます。
○優先道路側の主張
優先道路対非優先道路の基本過失割合が10:90だから、「+30キロ以上の速度超過修正20%」をすれば30:70。
つまり自身の過失割合は30%である。
○非優先道路側の主張
十分確認して優先道路に進入したところ、優先道路通行車が著しい高速度で追突した形なのだから、自身は無過失である。
さて裁判所の判断はこちら。
| 原告(非優先道路) | 被告(優先道路) |
| 5 | 95 |
基本過失割合に修正要素を加えると非優先道路側は70%になりますが、名古屋地裁は非優先道路側を5%と認定。
民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準として公にされている基本過失割合は、各事故において典型的な事案を想定したものであって、特異な事情がある個別の事案についても常に当てはまるというものではない。本件事故についてみると、被告車が法定最高速度を時速54キロメートルも上回る時速約114キロメートルという異常な高速度で走行していたという特異性があり、劣後道路からの左折進行車の運転者においてこのような高速度で直進車が走行していることを認識するのは容易なことではないし、他方、このような高速度で走行する車両の運転者は、周囲の交通の状況に応じた変化に対応し事故を回避することを自ら極めて困難にしているものといえる。そうすると、本件事故は、基本過失割合が当てはまる典型的な事案とはおおよそ言い難く
名古屋地裁 令和4年9月28日
無過失までは認めなかったものの、ほぼ無過失。
こういう基本過失割合が適用されない非典型例があることを理解せず、全て基本過失割合が適用されると考えるのは間違いなんですよ。
なお名古屋地裁の事故については、優先道路通行車が過失運転致死傷罪に問われ有罪が確定している。
要は制限速度を遵守していれば容易に回避できたという判断ですが、刑事判決文では「非優先道路側に過失はない」としている。
非優先道路側は、優先道路通行車が「制限速度+20キロ」の可能性を予測して優先道路に進入したか?が問われますが(信頼の原則)、それを確認して優先道路に進入したところに想定外の高速度で突っ込まれたのだから、刑事責任上「非優先道路側に過失はない」になるのは当たり前。
けど、優先側は著しい高速度でも優先なんだと勘違いする人が一定数いる。
条文の読み方が悪いのよ。。。
そしてこういう事例をみていくと、相手がどうのこうのの前に自分がきちんとしたか?が問題なんだとわかるし、一方で自分がきちんと確認したとしても、相手が著しい高速度なら事故を回避できないこともわかる。
いわゆる自衛って限界があるのよね。
2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。


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