運転レベル向上委員会のガセネタシリーズは相変わらずですが、
危険運転致死傷罪における未必の故意とは、「事故になっても構わない」、「人が死んでも構わない」だとする。
アルコール態様の危険運転致死傷罪の故意ですが、条文はこちら。
第二条 次に掲げる行為を行い、よって、人を負傷させた者は十五年以下の拘禁刑に処し、人を死亡させた者は一年以上の有期拘禁刑に処する。
一 アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させる行為
2条1号における「故意」とは、「アルコールの影響で正常な運転が困難であることの認識」。
人の死傷については「よって」とあるように、結果の話に過ぎない(他人を死傷させることに確定的故意や未必の故意が必要なわけではないのは条文から明らか)。
次に3条。
3条における故意とは、「アルコールの影響により正常に支障が生じるおそれがあることの認識」で、その認識の元で「よって正常な運転が困難な状態に陥って他人を死傷させたこと」が要件になる。
なぜこれらを分けているか?
理由は以下。
危険運転致死傷罪は、基本犯、具体的には特定の道路交通法違反の罪の刑を、重い結果を生じさせたことを根拠にヨリ重くするために設けられた規定ではない。そうではなくて、当時「交通関係業過」として対処されていた自動車運転行為による死傷事犯の中には、刑の上限が懲役 5年の業務上過失致死傷罪を適用するだけでは適正な科刑を実現できないような悪質な運転行為の事案があり、それらをヨリ重く罰しようとして作られたものである5)。ベースは業過、加重根拠は行為態様の危険性・悪質性である。
(中略)
さて、すでに見たように、危険運転致死傷罪は、自動車運転行為による死傷事犯のうち、死傷結果についての故意がないからといって(業務上)過失致死傷罪に落とすのは忍びない事案を拾い上げることを目的とするわけだが、その目的は、導入当初の規定(刑法 208 条の 2)によっては、必ずしも十分果たされなかった。周知のとおり、前記平成 19 年改正は、自動二輪車による業務上過失致死傷事犯の危険性・悪質性もまた目に余るものがあったことから、危険運転致死傷罪の対象を「自動車」一般に広げる修正を施した。
それでもなお、危険運転致死傷罪の適用上、被害者の立場から考えれば、かなり取り零しがあると目された。とくに飲酒等影響類型の事案で、客観的には「正常な運転が困難な状態で自動車を走行させる行為」により人を死傷させたのに、運転者に「正常な運転が困難な状態」である事実の認識がなく、自動車運転過失致死傷罪といわゆる酒酔い運転罪(道路交通法117 条の 2 第 1 号)の併合罪とするしかない場合については、結局単なる過失犯として取り扱われることに対し、幾ら何でも軽すぎるという批判が向けられた 11)。
この問題は、本罪の故意・責任能力、とりわけ飲酒等影響類型のそれが、行為態様が本来的に異常な心身の状況を前提として作られているため、今一つ明確に詰め切れていない面があることにも起因するが、少なくとも、現に「正常な運転が困難な状態」に陥った時点で真実前後不覚に酔いつぶれていたら、その「どうしようもない」行為を罰することは困難である。遡って、かかる状態に陥ることを予見して運転を開始・継続した行為を罰することは可能だが、故意と認めるべき現実的予見の立証もまた難しさを伴いうる。
同様の悩みが、アルコール・薬物以外の影響、具体的にはてんかん等の病気の影響により「正常な運転が困難な状態」に陥った場合についても当てはまる。もちろん、飲酒等影響類型の影響因子は限定列挙であり、そもそも、自ら摂取するアルコール・薬物と、自ら罹患するわけではない病気を、同列に論ずることは不適切である。だが、やはりかかる状態に陥ることを予見して運転を開始・継続した行為に対しては強い当罰感覚が向けられてしかるべきであり、他方でここでも故意と認めるべき現実的予見は存在しがたい。
そこで生まれたのが、いわゆる準危険運転致死傷罪の新設という発想である 12)。外形的には危険運転致死傷の事実が存在するのに、危険運転致死傷罪により捉えることのできなかった事案を、既存の過失犯に落ちてしまう前にもう一回掬う。そのための、いうなれば二層目の網として、「走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態」の認識を要件とする罪が作り出された。要するに、過失的に「正常な運転が困難な状態」に陥った場合のうち、事前にそのおそれを認識し、しかし「大丈夫」と高を括った場合である 13)。「危険運転致死傷罪およびいわゆる準危険運転致死傷罪について」
古川伸彦(名古屋大学教授)
https://nagoya.repo.nii.ac.jp/record/24777/files/02_Nobuhiko-FURUKAWA.pdf
故意とは認識のことですが、論文中にあるように2条1号の罪は「正常な運転が困難な状態」であることの認識(故意)が必要になる。
しかし「正常な運転が困難な状態」であることの認識がないまま運転を開始し、「結果的に正常な運転が困難な状態に陥って事故を起こした」場合に、危険運転致死傷罪ではなく過失運転致死傷罪になるのは行為の悪質性からみて不適当。
だから「正常な運転が困難な状態」の認識がなくても、「正常な運転に支障が生じるおそれがあることの認識」をもって運転を開始し、結果的に「正常な運転が困難な状態」に陥って事故を起こした場合を過失犯よりも重い故意犯として扱うために3条が存在する。
運転レベル向上委員会がいう未必の故意「事故になっても構わない」、「人が死んでも構わない」というのは、危険運転致死傷罪の話ではなく殺人罪の話。
被告人は被害車両が被告人車両と衝突してもかまわないという気持ちからあえて衝突させたとの主観的な事実を認定し,その衝突によって路上に転倒するなどして被害者が死亡する危険が高かったことから,衝突させた行為は客観的には殺人の実行行為足りうるもので,被告人には,その認識認容があるとして,被告人に殺人の未必の故意があると認定したものである。
大阪高裁 令和元年9月11日
運転レベル向上委員会の人って、故意、過失の意味がわかってないんだなと…
というのも以前、一時不停止(道路交通法43条前段)の「過失犯」とは「一時不停止で事故を起こした場合だ」と解説していてビックリしましたが、

一時不停止の「故意犯」とは、一時停止標識があることを「認識」しながら一時停止しなかったこと。
一時不停止の「過失犯」とは、前方不注視等の「過失」により一時停止標識を見落とし、結果的に一時停止しなかったことを指す。
故意と過失をわからなければ、判例読んでも理解できないのは当然。
そして最大の謎は、危険運転致死傷罪の故意は執務資料道路交通法解説(東京法令出版)に書いてあるのでして、本当に持っているのか疑問しかない。
ところで、「正常な運転が困難な状態」は客観的に判断されるとして、その認識があったか否かは自供以外に立証できるのか?という問題がある。
警察の捜査は、例えば直前まで飲酒していた居酒屋にも及ぶ。
店員に事情聴取して様子を聞く、防犯カメラ映像で客観的な様子を見るなども故意の立証に役立ちます。
そもそも、危険運転致死傷罪の故意、未必の故意を理解しないまま危険運転致死傷罪の解説を繰り返しているのも驚きだけど、運転レベル向上委員会の解説がおかしくなる理由は、危険運転致死傷罪の解釈以前に故意、過失という概念を理解してないからなんだと思う。
法における故意、過失の概念はこちらが分かりやすいかも。

検察官は速度標識を見落とした過失により、指定最高速度が40キロなのに67キロで通行したとして「指定最高速度遵守義務違反罪(27キロ超過)」として起訴。
しかし標識が見やすく設置されていなかったために、標識を見落としたことを過失とは評価できず、裁判所は過失による指定最高速度遵守義務違反罪は成立しないとする。
しかし時速60キロ以上で通行していた認識がある以上、被告人には「故意による法定最高速度遵守義務違反罪(7キロ超過)」が成立するとし、7キロ超過は赤切符ではなく青切符だから、反則告知手続きを経ないまま公訴提起はできないとして公訴棄却(裁判の打ち切り)とした。
故意とは認識であり、確定的故意と未必の故意は認識の程度の差。
そして法の条文ごとに、故意として求められる内容は違う。
例えば交差点安全進行義務には過失犯の処罰規定がなく、故意が必要になりますが、
第三十六条
4 車両等は、交差点に入ろうとし、及び交差点内を通行するときは、当該交差点の状況に応じ、交差道路を通行する車両等、反対方向から進行してきて右折する車両等及び当該交差点又はその直近で道路を横断する歩行者に特に注意し、かつ、できる限り安全な速度と方法で進行しなければならない。
この規定における「故意」とは、何を認識していることを指すのか?
答えはまた今度。
2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。

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