戻らなくても追越しは成立する。

ヤフーに出ていた記事を見て思ったのですが。

追い越しの定義は道路交通法第2条の21「車両が他の車両等に追い付いた場合において、その進路を変えてその追い付いた車両等の側方を通過し、かつ、当該車両等の前方に出ることをいう」とあります。すなわち左車線を使って”追い付いた車両等の側方を通過”しても、そのまま左車線を走り続けていれば”追い越し”には当たりません。再度右に車線変更して”当該車両等の前方に出”ると、”追い越し”になります。

https://news.yahoo.co.jp/articles/0aa37e918b17a67a05c2a65752cf2aa609b3c765

記事本文ではなくコメント欄のことです。
これ、昔から

いろんな人
いろんな人
進路変更して側方を通過して、元の車線に戻った初めて追越しになるんだよ。

こういう意見を言う人って結構います。
けどこれ、どの道路交通法の解説書でも否定されています。

追越しの定義

このように元の位置に戻ることが追越しの成立要件だという意見ですね。

つまりこのように左に進路変更した後、第2車線に戻らない限りは追越しではないという意見なんだと思います。

これ、執務資料道路交通法解説でも、注解道路交通法でも否定されています。
前方に出る=同一車線に戻ることを意味していない。

追越しの定義から入ります。

二十一 追越し 車両が他の車両等に追い付いた場合において、その進路を変えてその追い付いた車両等の側方を通過し、かつ、当該車両等の前方に出ることをいう。

4つの要件が成立して初めて追越しになるとされます。

条文意味
他の車両等に追い付いた場合法26条の車間距離まで迫ること
進路を変えて進行方向に対し鋭角をつけることで、左折と右折を除くもの
車両等の側方を通過横を通る
当該車両等の前方に出る同一道路上で前に出ること全部

まず①から。
追いつくというのは、法26条の車間距離まで迫ることを意味します。
これは前後の車両の衝突を避ける規定なので、進行方向に対し車体の一部でも重なっている必要があります。

例えば時速30キロで走行中であれば、追い付く前、例えば車間距離が100mも空いている状態で進路変更した場合には追越しの定義を満たさないことになります。
最初から違う車線を通行していた場合も同じ。

②の進路を変えるという意味。
これは車線変更だけでなくて、進行方向に対し鋭角が付けば進路変更になります。

ずいぶん前に書いた記事についてメールを頂いたのですが。 関係ない部分もあるので、まとめて書きます。 進路を変える...

③の側方通過は特段の説明は要らないと思うので割愛。
問題の④、当該車両等の前方に出る、という意味。

これ、先行車の進路の前に出ること、つまりは車線を元に戻すことまでは求められていない。

先行車に対し、同一道路上で前に出れば成立するとなっています。
つまりは違う車線上で前に出ても、追越しになる。

条文上は【当該車両等の前方に出る】とあるのですが、これだけを読むと確かに元の車線に戻ることで成立しそうに感じる。
けど調べてみると、判例がある。

昭和45年11月16日福岡高裁の判決で、追越しの意義が記されているそうです。
それによると、元の車線に戻ることまでは求めていないので、違う車線を使って斜め前に出ても、【当該車両等の前方に出る】を満たすという解釈。

事件番号は昭和45年(う)449号です。
ただしこれ、判例検索サイトではなぜか非公開判例扱いされています。
理由は分かりませんが、(う)という事件番号は刑事事件でかつ控訴事件。

あと、昭和48年の判例タイムズ(臨時増刊284号)で、様々な道路交通法の解釈が書いてあるのですが、前方に出るということについても、

追い越しは、前車の「前方に出る」ことによって完了する。後車が前車の進路の前方に出ることは勿論、別の進路を前車よりも前方に出ることも含まれる。(中略)必ずしも前車を抜き去ることは必要としないが、後車の車体のおおむね中央部分以上が前車の前方に出ること、少なくとも後車の後端が前車の運転席より前に出ることが必要だろうと思われる。

判例タイムズ(臨時増刊284号)p167、1973年1月25日、判例タイムズ社

なので例えば第一通行帯で先行車に追いついて、第2通行帯に進路変更してそのまま第2通行帯を走行したとしても、先行車よりも前に出れば【当該車両等の前方に出る】をみたすというのが解釈になるようです。
(執筆者は東京地裁の判事補の方です)

なので道路交通法上の追越しが完了するのは、矢印の付近です(左追越し違反)。

追いついてから進路を変えて、側方を通過し、前方に出たのがちょうど矢印のあたり。
この地点で道交法上の追越しは成立するというのが法解釈。

例えば自転車同士であれば、道路交通法の追越しが完了した地点はこのあたり。

その後元の位置に戻らなくても追越し自体は成立していますが、自転車は左側端通行義務があるので戻らざるを得ません。
車両通行帯の場合ガーというのは既に散々書いてきましたが、一般道で車両通行帯がある場所は交差点付近や専用通行帯などに事実上は限られるので考慮しなくてもいいかと。

追い越し車線2キロまでOK理論

追い越し車線を通行するのは2キロまでならOKとよく言われますが、これは都市伝説です。
実際、第3通行帯を約1100m通行して通行帯違反だとしている判例もあります。

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/379/080379_hanrei.pdf

横浜地裁、平成21年12月14日判決です。
この判決、地裁判決なのですが差し戻し審です。
要は違反事実を認めず優良運転者免許を交付せよという訴えに対し、1審(横浜地裁)が却下、控訴審(東京高裁)が横浜地裁に差し戻し。
その間最高裁に上告があったようで上告棄却。
ちょっと経緯がややこしい。

まあ、自転車は追い越し車線を走ることは出来ませんので関係ないです。

そもそも車両通行帯の件

その第20条第1項において、「車両は、車両通行帯の設けられた道路においては、道路の左側端から数えて一番目の車両通行帯を通行しなければならない。」と規定されている。

つまり、二車線以上の道路においては、高速道路であろうが、一般道だろうが、左側車線を走行しなければいけないのだ。キープレフトは一般道でも守るべき交通ルールの基本だ。

https://news.yahoo.co.jp/articles/0aa37e918b17a67a05c2a65752cf2aa609b3c765

これ、結論についてはキープレフトで間違いないのですが、何度も書いている通り、複数車線と車両通行帯は別物。
片側2車線でも車両通行帯ではない場所は多々あるのが一般道。

車両通行帯は道路交通法4条の規定により公安委員会が指定しないと効力が無い。

さいたま簡易裁判所は,平成23年4月21日,「被告人は,平成20年11月18日午後4時35分頃,埼玉県三郷市栄1丁目386番地2東京外環自動車道内回り31.7キロポスト付近道路において,普通乗用自動車(軽四)を運転して,法定の車両通行帯以外の車両通行帯を通行した。」旨の事実を認定した上,道路交通法120条1項3号,20条1項本文,4条1項,同法施行令1条の2,刑法66条,71条,68条4号,18条,刑訴法348条を適用して,被告人を罰金6000円に処する旨の略式命令を発付し,同略式命令は,平成23年5月7日確定した。
しかしながら,一件記録によると,本件道路は,埼玉県公安委員会による車両通行帯とすることの意思決定がされておらず,道路交通法20条1項の「車両通行帯の設けられた道路」に該当しない。したがって,被告人が法定の車両通行帯以外の車両通行帯を通行したとはいえず,前記略式命令の認定事実は,罪とならなかったものといわなければならない。

最高裁判所第二小法廷 平成27年6月8日

車の場合、車両通行帯であろうとなかろうと、走り方のルールって大差ないんですよ。

車両通行帯の場合のルール。

(車両通行帯)
第二十条 車両は、車両通行帯の設けられた道路においては道路の左側端から数えて一番目の車両通行帯を通行しなければならない。ただし、自動車(小型特殊自動車及び道路標識等によつて指定された自動車を除く。)は、当該道路の左側部分(当該道路が一方通行となつているときは、当該道路)に三以上の車両通行帯が設けられているときは、政令で定めるところにより、その速度に応じ、その最も右側の車両通行帯以外の車両通行帯を通行することができる。

車両通行帯ではない複数車線道路の場合。

(左側寄り通行等)
第十八条 車両(トロリーバスを除く。)は、車両通行帯の設けられた道路を通行する場合を除き自動車及び原動機付自転車にあつては道路の左側に寄つて、軽車両にあつては道路の左側端に寄つて、それぞれ当該道路を通行しなければならない。ただし、追越しをするとき、第二十五条第二項若しくは第三十四条第二項若しくは第四項の規定により道路の中央若しくは右側端に寄るとき、又は道路の状況その他の事情によりやむを得ないときは、この限りでない。

(ただし18条1項には罰則がありません)

一般道における車両通行帯は、交差点手前の進行方向別通行区分とか、専用通行帯などにほぼ限られます。

ここまで何度も、一般道の場合は車両通行帯は限られた場所にしかないよという話を書いているのですが、警察庁が車両通行帯を設ける場所の基準を一応出...

交差点手前のイエロー規制されているところだけが車両通行帯で、それ以外は車線境界線(標識令102)なんてことは普通。
一般道に車両通行帯を全線に渡って作ると、走りづらくてしょうがない。

なのでキープレフトの概念に従って第1車線を通行するのはその通りですが、一般道で第2車線をずっと走っても取り締まりされない理由は、そもそも車両通行帯ではないからというだけのこと。

こういうのもそれなりに調べないとわからないと思いますが、道路交通法の難しさって、謎解釈が横行しているからなんじゃないかと思ったりもします。

判例タイムズの内容ですが、かなり古いとはいえ道交法の解釈についてまとめてあるので、なかなか面白い。
興味がある方はネットで買えるのと、恐らく大きな図書館に行けば閲覧できるかもしれないので興味ある方はどうぞ。
ついでに道路交通法解釈だと、執務資料道路交通法解説がオススメです。