もう何年も前からですが、自転車で指定の違反を3年以内に2回以上すると、自転車違反講習行きという法改正がありました。
自転車の場合は反則金制度が無いので、いきなり赤切符。
まあ、実態としては赤切符以外も存在するのですが。
赤切符って、イコール前科ではないんですが、どうも勘違いする人って多いような。
自転車の赤切符
自転車で道路交通法違反をした場合に、赤切符を切られることがあります。
これ自体は犯罪事実を記しただけのことで、要は検察送りになるというだけのこと。
日本は憲法31条の規定で裁判を受ける権利が保障されているので、不服があるなら争える。
争わずに認めるのも自由。
実際のところ、自転車の交通違反の場合、前歴前科が無く、かなり悪質な違反ではない限り不起訴なんですよね。
信号無視とか無灯火とか、赤切符切られてたとしても不起訴。
きちんと認めて反省しているという態度であれば、ほぼ間違いなく不起訴。
まあ、争ったとしても不起訴が多いとは思うんですが・・・
2回目の違反でも、同種の違反でそこまで日が経っていない場合は罰金の略式命令が出ることもあるでしょうけど。
自転車の違反って、どうしてもこうなっちゃうんですよね。
実際のところ自転車の少額違反金制度の話が出た時にも出てましたが、自転車の交通違反は起訴されるのが1~2%程度。
98%は不起訴。
ただまあ、赤切符ということは検察から出頭命令が来るわけで、平日に時間を作って出頭する義務がある。
出頭しないとタイーホもあります。
自転車違反講習も最近の統計データは見つかりませんが、施行後最初の一年間ではたった24人ですし。

3年以内に指定の違反が2回以上で講習行きなので、最初の一年目の数字はさほどあてにはなりませんが、所詮はこんなもんです。
刑罰というよりも、検察に出頭したり講習を受けさせるという労力でプレッシャーをかけているみたいなもんなのかも。
車でも同じようなもんですが
車の場合は反則金を支払うことで刑事訴追されないシステムですが、反則金の支払いは任意なので争うことも可能。
略式起訴は同意が無いと出来ませんが、略式拒否すると不起訴になる確率って多いみたいですね。
一説には不起訴が99%なんだとか。
例えばですが、耳を掻いていただけなのに運転中の携帯使用で違反を取られた方。

これ、訴え自体は点数を取り消してゴールド免許を交付せよという訴えですが(刑事訴訟ではなく行政訴訟)、本筋の道路交通法違反については不起訴となってます。
要は反則金を納めず、検察に出頭した際も違反事実が無いと争ったんだと思いますが、こういうのって警察官の現認以外には証拠もないんだと思うんですね。
警察官の証言だけで有罪にするわけには行かないんでしょうから、不起訴になる理由ってそういうことなんじゃないかと。
とはいえ、裁判所は警察官は嘘をつかないという立場に立つことが多いですが。
そういうこともあって、自転車の違反講習と言ってもそこまで機能しているとは思えず。
だから少額違反金制度を創設すべきという警察庁有識者会議での提言も出ている。

違反2回で自転車講習制度が出来た時、事情を分かっていない人が前科2犯になるんだ!とか意味不明なことを書いているのを見たことがありますが、そうはならないことは多くの人が知っていること。
違反2回で前科2犯、講習をサボれば前科3犯!みたいに書いているのを見て、わかってないなぁと思ってました。
そんなことになるケースは、恐らく存在しないレベル。
よほど悪質な違反ではない限り、自転車の交通違反で一発目から罰金になることはマレ。
起訴猶予がせいぜい。
ちょっと前にビックリしたんですが、最近やたらと出てくる横断歩行者妨害の報道。
反則金なんて甘いことしてないで、即罰金で前科持ちにすべきと書いてあるのをどこかで見ました。
恐らくこういう意見を持つ人ってわかってないんだと思うんですが、略式起訴に同意するなら罰金に出来る。
略式拒否されたらかなりの確率で不起訴。
まさか裁判しないで有罪という意味では無いんでしょうけど、いきなり罰金制にしたらむしろ反則金制度よりも取り締まり出来なくなるだけのこと。
不起訴連発マシーンにしかならないので、何の抑止力にもならない。
反則金制度があるからこそ取り締まりしやすいという側面もあるわけで・・・
特に横断歩行者妨害って、本来の法律よりもちょっと広めに違反を取っているのが現状。
横断歩行者妨害について
せっかくなのでちょっと脱線。
横断歩行者妨害ですが、38条ですよね。
第三十八条 車両等は、横断歩道又は自転車横断帯(以下この条において「横断歩道等」という。)に接近する場合には、当該横断歩道等を通過する際に当該横断歩道等によりその進路の前方を横断しようとする歩行者又は自転車(以下この条において「歩行者等」という。)がないことが明らかな場合を除き、当該横断歩道等の直前(道路標識等による停止線が設けられているときは、その停止線の直前。以下この項において同じ。)で停止することができるような速度で進行しなければならない。この場合において、横断歩道等によりその進路の前方を横断し、又は横断しようとする歩行者等があるときは、当該横断歩道等の直前で一時停止し、かつ、その通行を妨げないようにしなければならない。
前段の徐行義務、後段の一時停止義務があるわけですが、問題なのはこの解釈。
【進路の前方】ってどこよ?という話になる。
これ、進路の前方なので、意味としては車幅そのものです。
※イラレが入っているPCが修理中なので、過去画像を無理矢理細工している点に注意w
さらに道交法ではこの規定がある。
第十八条
2 車両は、前項の規定により歩道と車道の区別のない道路を通行する場合その他の場合において、歩行者の側方を通過するときは、これとの間に安全な間隔を保ち、又は徐行しなければならない。
歩行者との間は安全な側方間隔を保つことが求められているので、車幅+α。
執務資料ではこれを1m、警視庁では5mとしている。
要は車両が横断歩道を通過するにあたって、【その進路の前方】を横断している、横断しようとしている歩行者を妨害してはいけない規定。
警視庁基準でいうと、車幅+5mの横断歩道の範囲を【横断しようとしている歩行者】がいれば一時停止して妨害するなという規定。
現実的なところでいうと、車両が横断歩道を通過しきったときに、車幅から5m範囲に歩行者がいるような状況であれば、【横断歩道等によりその進路の前方横断しようとする歩行者がある】という状態になる。
それと同時に、実際に歩行者が立ち止まったかどうかは関係なく妨害行為とみなされる。
要は歩行者の絶対的安全エリアと呼べそうな、車両が横断歩道を通過しきった地点+5mの範囲に歩行者がいれば妨害行為としているわけですね。
判例上ではこのようになっています。
道路交通法三八条一項は、「車両等は、横断歩道に接近する場合には、当該横断歩道を通過する際に当該横断歩道によりその進路の前方を横断しようとする歩行者がないことが明らかな場合を除き、当該横断歩道の直前で停止することができるような速度で進行しなければならない。この場合において、横断歩道によりその進路の前方を横断し、又は横断しようとする歩行者があるときは、当該横断歩道の直前で一時停止し、かつ、その通行を妨げないようにしなければならない。」と規定しているところ、右規定の趣旨、目的が横断歩道における歩行者を保護、優先することにあることは言うまでもなく、右趣旨、目的及び右規定の改正経過並びに同法一条に照らして解釈すれば、右に規定されている「その進路の前方」とは、車両等が当該横断歩道の直前に到着してからその最後尾が横断歩道を通過し終るまでの間において、当該車両等の両側につき歩行者との間に必要な安全間隔をおいた範囲をいうものと解するのが相当であり、右三八条一項後段の規定は、車両等の運転者に対して、当該横断歩道により右の範囲を横断し又は横断しようとする歩行者があるときは、その直前で一時停止するなどの義務を課しているものと解される。そして、右の範囲すなわち歩行者との間に必要な安全間隔であるか否かは、これを固定的、一義的に決定することは困難であり、具体的場合における当該横断歩道付近の道路の状況、幅員、車両等の種類、大きさ、形状及び速度、歩行者の年齢、進行速度などを勘案し、横断歩行者をして危険を感じて横断を躊躇させたり、その進行速度を変えさせたり、あるいは立ち止まらせたりなど、その通行を妨げるおそれがあるかどうかを基準として合理的に判断されるべきである。原審において検察官は「進路の前方」の範囲を約五メートルと陳述しているが、これは、この程度の距離を置かなければ横断歩行者の通行を妨げることが明らかであるとして福岡県警察がその取締り目的のため一応の基準として右の間隔を定めていることを釈明したものと解され、必ずしも「進路前方」の範囲が五メートル以内に限定されるものではないのであつて、この範囲は具体的状況のもとで合理的に判断されるべき事柄である。
福岡高裁 昭和52年9月14日
結局のところ、子供であれば急に駆け出すとかもありうるし、急に駆け出すことは何ら違反ではない。
杖をついたご老人が急に駆け出すというのは一般的に想定しづらい。
なので判例上では、安全間隔を一義的・固定的に決めることは困難だとしている。
なので例えばそれなりに広い道路の横断歩道の場合、反対車線側の歩道から横断開始した歩行者がいたとしても、車両が横断歩道を通過しきったときに安全間隔が保たれていれば一時停止義務もないし、妨害にもならない。
理論上、車両が接近していようと歩行者は横断を開始しても何ら法的には問題が無いので、遠く離れた位置にいる歩行者が自主的に横断開始せずに待っていることが妨害と言えるのかは正直なところ相当微妙。
前段の徐行義務は免れませんが。
けど実務上では、もっと広い範囲で取り締まりされているのも事実。
そういうのに対し、被疑者が違反事実を否認して裁判で争った場合、詳細に実況見分して立証しないと有罪には持ち込めない。
警察の言うことは絶対という雰囲気は裁判所内にはありますが、最近はそこまででもないんですかね。

また、反則金制度が出来た理由は、交通違反者が増えて検察・警察・裁判所の業務を圧迫して対応できないことも一つの理由なので、現在でも軽微な違反については否認しても不起訴になることも多い。
いきなり罰金制にしても、不起訴と無罪が増えるだけのこと。
略式起訴ならガンガン行けるけど、略式を拒否されて通常裁判になった場合、検察もそんなもんに付き合っていられないほどの量が押し寄せて不起訴を連発しそうな気がする。
略式だろうと通常裁判だろうと、有罪は有罪ですから無駄に争う人が増えそうな。
歩行者が手などを使って、車両に先に行けと促した場合はどうなのか?という問題もあります。
行政処分としては警察が違反を取る事例はそれなりに聞きますが、これについて裁判で争った場合にどうなるのか?というとそれなりに疑問。
まあ、検察も100%に近いレベルで有罪に持ち込める案件以外は不起訴にする傾向もあるので、即罰金制にしたら不起訴が増えるだけで反則金よりも機能しなくなるのは明らかだとしか思いませんが・・・
飲酒運転とかスピード超過は、検査器具での立証が簡単ですが、38条みたいなのは立件して有罪に持ち込むこと自体にかなりエネルギーが必要。
検察や裁判所の処理件数も考えれば、即罰金で前科持ちにするということは、抑止力になるかどうかも怪しい上に、不起訴連発にしかならないと思うんですが。
2020年で38条の違反件数は29万件でしたよね。
反則金制度があるから取り締まり可能なわけで、これを罰金制にしたら機能しなくなるだけのこと。
即罰金にすることが抑止力になるのかも・・・不明。
もし多少の抑止力になったとして、半分の年間14万件程度まで落ちたとしても、起訴して有罪にしてという量をこなせないのは目に見えているので、不起訴製造機になりそうな。
上の判例見てもわかるように、否認されて起訴して裁判をして有罪に持ち込むには、相応の証拠を以って違反事実の立証が必要になる。
警察官の現認程度では話にならないわけですから、下手に即罰金制なんか導入すると警察・検察・裁判所の機能が崩壊する恐れもあり、面倒なことが増えるだけなので取り締まりはむしろ緩くならざるを得なくなるのは容易に予見できること。
ちなみに自転車の件
自転車の違反に対して赤切符以外も存在すると冒頭で書いたわけですが、青切符ではないですが指導警告カードというのがあります。
これは事実上は単なる注意どまりで、罰金も反則金も無いですし、前科になるわけでもなければ検察から呼び出しがかかることもありません。
単に違反事実について警告を出したというだけのことで、警察内部ではリストアップされますがそれ以上の効力はないというシロモノ。
軽微な違反は指導警告カードで、危険な違反は赤切符なのかと思いきや、警察官の気分次第の面もある様子。
軽微な違反で有罪にするのはほかの違法行為との兼ね合いもあるのでなかなか難しい面があるだろうし、横断歩行者妨害を即罰金制にしたらシステムが崩壊するのも容易に予見できる。
けどろくに分かってない人だと、赤切符=前科と決め付けて、有罪2発で自転車違反講習だとかありえないことを語ってみたり、即罰金制にすべき等逆効果になりかねない主張をし出したりする。
反則金は刑罰ではなく行政処分だという前提があるので取り締まりしやすいわけですが、自転車にもそろそろ導入すべきなんですよね。
ということで自転車で赤切符を切られたとしても、よほど悪質だとか前科前歴があるなどの事情を除けば、一発目は原則として不起訴。
それで反省しろ!という意味合いもあるんでしょうけど。
横断歩行者妨害なんて、本来の法の規定を超えて取り締まりしている節もあるので、即罰金制にしたら無罪と不起訴の乱発が起こりそうな。
即罰金制にすべきなんて、所詮は感情論。
それで機能しないのはわかっているから、そういう議論が起こらないことに気が付かなければならない。

2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。
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