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「一時不停止」vs「徐行義務違反&逆走」の事故。

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今回取り上げるのは刑事事件の判例ですが、一時不停止の被告人車(普通乗用車)と徐行義務違反&逆走の被害車(オートバイ)という阿鼻叫喚な状況です。

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一時不停止vs徐行義務違反&逆走

判例は東京高裁 昭和53年12月11日。
業務上過失致傷被告事件(現在の過失運転致傷)です。

 

では状況を。

被告人車は一時停止を無視し、漠然10キロで交差点を左折しようとした。
被害車(オートバイ)は徐行義務違反のまま漠然25キロで交差点に進入しようとし衝突。
なお、被害車の道路幅員は4mちょっとで、オートバイは右側通行していた。

 

先に道路交通法の義務を確認します。

被告人車 被害車
一時不停止(43条1項前段)、交差道路の進行妨害禁止(同後段) 見通しが悪い交差点の徐行義務違反(42条1号)、左側通行義務違反(17条4項)

一審は以下の理由から被告人を無罪にしてますが、検察官が発狂して控訴した事件です。

道路交通法18条1項によれば、自動二輪車は道路の左側に寄つて通行しなければならないのにかかわらず、被害者は、法定の除外事由がないのに同法17条3項にも違反して乙道路の右側部分を通行し、しかも、被害車の進路からは本件交差点の右方道路(甲道路)の見とおしがきかず、かつ、法律上、乙道路の通行車両が本件交差点における徐行義務を解除されているわけでもないのに、同法42条1号に違反し、徐行することなく、時速約25キロメートルで本件交差点に進入したのであり、他方被告人は、本件交差点手前で一時停止しなかつたものの、時速約10キロメートルで進行し、交差点の入口のほぼ直前において被害車を発見し直ちに急制動の措置をとつているのであるから、被告人としては本件交差点に進入するにあたり左方道路の交通につき相当注意をしながら進行したものというべきであり、被害車が右のように法規違反の運転方法により本件交差点に進入してくることを被告人において予期しまたはこれを容易に予期し得る特段の事情のあることを認めるに足りる証拠のない本件においては、被告人には、本件交差点を左折進行するにあたり、被害車のような法規違反の通行方法をとる車両のあることを予見し、その有無を確認してこれとの衝突事故の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務まではないと解するのを相当とする旨判示し、本件につきいわゆる信頼の原則を適用して、被告人に、左方道路の交通の安全確認義務を欠いた過失はない

さらに、被告人が本件交差点手前において一時停止を怠つた点についても、被告人は、自車を乙道路の中央から手前の地点に停止させており、被害車が法規に従つて乙道路の左側部分を通行してさえおれば、本件事故は発生しなかつたはずであるから、被告人が交差点手前で一時停止しなかつたことをもつて、ただちに被告人に過失があるということはできない

要は一時停止しなかったものの、注意しながら急制動していた以上、徐行義務違反&逆走してくる車両を予見すべき注意義務はないとしている。
要は信頼の原則を適用したわけです。

 

東京高裁は原判決を破棄して有罪に。

なるほど、本件交差点は交差道路の見とおしがきかないのにかかわらず、被害車が徐行せず、しかも道路の右側部分を通行して本件交差点に進入したことは前記のとおりであつて、これらの点において被害者が道路交通法に違反する運転方法をとつていたことは原判決説示のとおりであり、本件事故につき同人に相当の過失のあつたことはもとより否定できない。

しかし、ひるがえつて考えるに、前記のとおり、被告人車が進行してきた甲道路には一時停止の標識があつたのであるから、乙道路を通行する車両のうちには、甲道路通行車両が右標識に従い本件交差点手前で一時停止するであろうことを予測したうえ、徐行することなく、被害車程度の速度で交差点に進入する車両もあり得ることは、現下の一般的な交通の状況に照らしても十分に予見し得るところである。

また、被害車が進行した乙道路は、前記のとおり、わずか4m前後の狭い道路であるうえ中央線による交通規制も行なわれていなかつたというのであり、しかも被害車は、道路右側部分にはみ出していたとはいえ、衝突時の同車の位置からもうかがえるように、そのはみ出しの程度はさして大きくなかつたのであつて、右のような道路状況のもとにおいては、この程度のはみ出し運転をする車両のあり得ることは、予見可能であると解するのが相当である。ちなみに、乙道路の幅員や、同道路左端に電柱等の障害物があることにかんがみれば、普通乗用自動車等四輪自動車にとつて、道路の右側部分にはみ出さずに乙道路を通行することは事実上非常に困難であるとさえいえるのであり、また、当審において取り調べた検察官作成の実況見分調書によれば、現実に、乙道路を通行する自動二輪車の中には、本件交差点を通過するに際し、被害車同様道路の右側部分にはみ出して通行する車両も相当数あることがうかがわれるのであつて、以上にかんがみても、被害車の通行方法がとくに異常なものであつたともいいきれない。

以上によつて明らかな、本件交差点における各道路及び交通の諸状況にかんがみれば、被告人としては、本件交差点を左折進行するにあたり、他車(ことに左方道路から交差点に進入してくる車両)との衝突等不測の事故を回避すべくとくに慎重な運転をなすべき注意義務があることはいうまでもなく、これを具体的にいえば、道路標識に従い交差点手前で一時停止することはもちろん、被害車のような速度と方法により交差点に進入してくる車両もあり得ることを予見したうえ、左右道路(ことに左方道路)の状況に絶えず注意しながら徐々に発進し、その時時の見とおしの程度等に即応して、場合によつては発進停止を繰り返えす小きざみ運転をし、警笛を鳴らすなどして、左右道路の安全を確認しながら進行すべき注意義務があるというべきである。被告人として、被害車のごとき法規違反の通行方法をとる車両のあり得ることを予見すべき義務はないとの原判決の見解には到底賛同できない。

しかるに、被告人は、本件交差点の手前で一時停止することなく、しかも時速約10キロメートルという、本件交差点の道路状況に相応しない速度でこれに進入左折しようとし、被害車を発見してただちに急制動したが及ばず、本件事故に至つたというのであるから、被告人に、前記認定の業務上の注意義務を怠つた過失があるといわなければならない。

東京高裁 昭和53年12月11日

そもそも一審が信頼の原則を適用したことにも疑問ですが、昭和40年代~50年代あたりはやたら信頼の原則を適用させようとした雰囲気がある。
で、東京高裁の判断自体には疑問はないし、一時停止側が高度に注意するのは当たり前。

 

一方、このような判例もあります。

・優先道路は無し
・東西道路に一時停止規制
・交差点の全方向にブロック塀があり見通しは悪い
・南北道路の制限速度は40キロ
・道路幅は同程度

被告人車(青)は一時停止規制に従い一時停止した後、左方道路の見通しが悪いため徐行前進。
左方道路から進行してくる車との距離が約37mだったことから進行したところ、北進する車の速度が速く衝突した事故です。

これに対し、最高裁は信頼の原則から破棄差戻し。

 ところで、右交差点は、交通整理の行なわれていない、左右の見とおしの悪い交差点であり、東西道路と南北道路の幅員はほほ等しく、かつ、南北道路は優先道路ではないから、A車のように南北道路を北進して交差点に進入しようとする車両は、東西道路に一時停止の標識があつたとしても、本件当時施行の道路交通法42条に従い、交差点において徐行しなければならないのである(最高裁昭和43年7月16日第三小法廷判決・刑集22巻7号813頁参照。)。
しかるに、原判決の確定した事実によれば、Aは、制限速度を超えた時速約50キロメートルで進行し、交差点手前約20. 5メートルに至り、初めて被告人車を発見し、急制動の措置をとつたが間にあわず、交差点内で被告人車に衝突したというものであつて、本件事故は、主としてAの法規違反による重大な過失によつて生じたものというべきであり、このことは、原判決も認めているところである。
しかし、進んで、原判決が説示しているように、被告人にも過失があつたかどうかを検討してみると、本件のように交通整理の行なわれていない、見とおしの悪い交差点で、交差する双方の道路の幅員がほぼ等しいような場合において、一時停止の標識に従つて停止線上で一時停止した車両が発進進行しようとする際には、自動車運転者としては、特別な事情がないかぎり、これと交差する道路から交差点に進入しようとする他の車両が交通法規を守り、交差点で徐行することを信頼して運転すれば足りるのであつて、本件A車のように、あえて交通法規に違反し、高速度で交差点に進入しようとする車両のありうることまでも予想してこれと交差する道路の交通の安全を確認し、もつて事故の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務はないものと解するのが相当である。

最高裁判所第三小法廷  昭和48年12月25日

両者の違いは、東京高裁判決は「一時不停止のまま漠然進行」、最高裁判決は「一時停止して安全確認した」。
やるべきことをせずに事故を起こしたのと、やるべきことをしたけど相手方が著しい高速度で突っ込んできた場合では意味が違う。

相手の問題よりもまずは自分を

要は、自分がやるべき注意を果たしていても防げなかった事故についてまで、司法は残酷に有罪にするワケじゃないのよね。
そしてやるべきことを怠って「被害者の異常な運転ガー!」と主張しても、それは通らない。

 

そもそも刑事事件は「どっちが悪いか?」を決めるモノではなく、「被告人に過失があり、過失と事故に因果関係があるか」が問題になりますが、ちょっと前に起きたこれ。

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報道だけを見ると札幌地裁の判断理由に疑問がありますが、要は被害者が異常な高速度であったとしても、被告人に過失があるなら有罪なのよね。
「どっちが悪いか?」なんて基準で判決する仕組みではない。
なぜか「どっちが悪いか?」だと勘違いしている人がいるけど、刑事と民事を混同しているとしか。

 

やるべき注意を果たしていても防げない事故だったのか、そもそもやるべき注意を果たしていなかったのかではだいぶ差がありますが、他人がどうこういう前に自分がやるべきことをするしかないのよね。

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