普段使っている判例検索サイトで自転車の安全運転義務違反について調べていたのですが、よーく見たらこれはあの有名な自転車あおり運転の判決文ですね。
判決文自体に特別驚きもないのですが、そもそもですがこれ、裁判所のHPにも掲載されていました。
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自転車の煽り運転
確かあれって、自転車に対する妨害運転罪、初の適用事例でしたよね。
全国的に注目を浴びたアレです。
自転車に乗って突如センターライン超えしたりして妨害していたように記憶していますが、妨害運転罪は以下の項目に限定されています。
イ 第十七条(通行区分)第四項の規定の違反となるような行為
ロ 第二十四条(急ブレーキの禁止)の規定に違反する行為
ハ 第二十六条(車間距離の保持)の規定の違反となるような行為
ニ 第二十六条の二(進路の変更の禁止)第二項の規定の違反となるような行為
ホ 第二十八条(追越しの方法)第一項又は第四項の規定の違反となるような行為
ヘ 第五十二条(車両等の灯火)第二項の規定に違反する行為
ト 第五十四条(警音器の使用等)第二項の規定に違反する行為
チ 第七十条(安全運転の義務)の規定に違反する行為
リ 第七十五条の四(最低速度)の規定の違反となるような行為
ヌ 第七十五条の八(停車及び駐車の禁止)第一項の規定の違反となるような行為
いや私、あの事件についてなんですが、てっきり17条4項による妨害運転罪なんだと思ってました。
いわゆる逆走。
確かセンターラインを越えていたように思ったので。
けどそもそも、報道で出た映像の件が立件されたのかどうかもわからない(ドラレコの画像なんていくらでもあるんでしょうから・・・)。
判決文を見ると、全て70条の安全運転義務違反と、それの妨害運転罪(117条の2の2第11号チ)で立件されていたみたい。
第七十条 車両等の運転者は、当該車両等のハンドル、ブレーキその他の装置を確実に操作し、かつ、道路、交通及び当該車両等の状況に応じ、他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転しなければならない。
気になって動画をチェックしてみたら、確かにセンターラインを越えていないかな?みたいなのが結構あるので、逆走とまでは言えない。
そうすると逆走するかのように見せかけて妨害したというところで安全運転義務違反なのか。
普通乗用自動車の通行を妨害する目的で,同道路対向車線上を時速約39ないし43キロメートルで対向進行してきた同車に対し,その直前で右に急転把して時速約19ないし20キロメートルで同道路中央線上に進出し,前記D運転車両に自車を接近させ,他人に危害を及ぼすような速度と方法で運転し,もって同人運転車両に道路における交通の危険を生じさせるおそれのある方法により運転し
令和3年5月17日 さいたま地方裁判所
安全運転義務違反罪は、①具体的な状況、②その状況において客観的に他人に危害を及ぼす恐れがある速度と方法、この2点を認定することで成立する。
なので
①具体的な状況⇒対向車線上を時速約39ないし43キロメートルで対向進行してきた同車に対し
②客観的に危害を及ぼす速度と方法⇒その直前で右に急転把して時速約19ないし20キロメートルで同道路中央線上に進出し
この2点で70条違反を認定。
さらに妨害意思は動画を見れば明らか(急転把&反復性)なので妨害運転罪(安全運転義務違反罪)が成立するという流れ。
(量刑の事情)
まず,自転車による妨害運転の各犯行についてみると,被告人は,自転車を運転中,自動車の通行を妨害する目的で,急転把して後続車両の直前に自車を進出させたり,車道の中央線上に進出して対向車両に自車を接近させたりしたもので,重大な交通事故を引き起こしかねない危険で悪質な犯行である。犯行の動機は,自動車の運転者に嫌がらせをすることによる快感を味わいたいなどというもので,身勝手極まりない。
令和3年5月17日 さいたま地方裁判所
なるほど、勉強になりますね。
まあ、こんな乗り方する人は滅多にいないでしょうけど、安全運転義務違反って安易に認定する人多いので。
なかなか不思議な
時々自転車乗りに対する謎の安全運転義務違反罪を認定してくる人がいるのですが、
当然こんなものが犯罪になるわけではなくて、安易に使われ過ぎる傾向にあると思う。
こんなもん屁理屈レベル。
ただし警察は違反ではない行為でも注意だけなら出来るので、それこそ手信号を出しただけでパトカーから注意されたという話も聞いたことがありますが・・・
法条競合時は他条優先の原則もあるので、70条以外で違反が成立する場合は併科出来ません。
急転把してセンターライン付近に飛び出た行為が、ほかの条文では明確に当てはまるものはないけど、安全運転義務違反罪は成立する。
具体的な状況と、その状況において他人に危害を及ぼす恐れがある速度と方法を認定すればいいということです。
なので70条における速度というのも、状況次第では10キロだろうと成立する。
妨害運転罪には26条の2(進路の変更)も含まれますが、
第二十六条の二
2 車両は、進路を変更した場合にその変更した後の進路と同一の進路を後方から進行してくる車両等の速度又は方向を急に変更させることとなるおそれがあるときは、進路を変更してはならない。
後続車への妨害禁止の規定なので成立しない。
まあ、対向車を妨害するような具体的規定というと、25条の2(横断)があるにはありますが、横断はしてませんしね。
25条の2は妨害運転罪には含まれません。
自転車と言えど車両なので、ルールは守って乗りましょう。
2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。
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