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先日の判例についてちょっと補足。

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先日挙げた判例なんですが、

 

歩道から車道へノールック突入自転車と衝突事故、過失割合はどうなる?判例を元に。
車道を走るロードバイクにとって、歩道から車道にノールックで降りてくる自転車は脅威そのものです。 一体こういう奴らは何を考えているんだ?というのが本音。 仮にこういうケースで事故った場合、過失割合ってどうなるのさ?という疑問があるのですが、類...

 

ちょっと補足。

なぜ車道ロードバイクにも5割の過失が付いたか

まず、事故の前提から。

・原告(ロードバイク)は車道を通行していた。
・被告(自転車)は歩道を通行していた。
・歩道には配電ボックスがあり、被告の身長よりも高かった。
・現場は6叉路交差点近く(片側2車線の幹線道路)。
被告自転車は、自転車横断帯よりも12.4m以上手前で歩道から車道に降りて斜め横断を開始した。

イメージとしてはこういう感じです。

6叉路交差点なので、自転車横断帯と自転車横断帯の距離(概ね交差点の長さ)は37.6mあります。
このように長い交差点なので、車道側には信号機が便宜上2つある。
ちょっとわかりづらい点について質問を受けましたので。

 

一応、このように6叉路交差点で長いので、車道を通行するロードバイクが交差点に進入した際は、青信号だったものと推測されますが、事故現場に近い横断歩道&自転車横断帯を通過する当たりでは、車道の信号は赤だったものと推測されています。
これ自体は信号無視でもなんでもない(交差点に進入する際にどうだったのかなので)。

 

イラストを少し直しました。

で、被告側(歩道自転車)の主張にこういうのがあります。

 

<被告の主張>

道路交通法36条4項の規定の趣旨は、交差点又はその直近で道路を横断する自転車にも適用されると解すべきである。

 

また、原告らは、歩道上に設置された配電ボックスによって見通しが妨げられ、障害物の陰から被告運転の自転車が突然飛び出してきた旨主張するが、車道を走行している者からみれば、被告運転の自転車が横断を開始した地点から車道に進入する者の存在は十分視認することができたはずである。道路交通法36条4項によれば、障害物により歩道の状況の視認が難しいのであれば、むしろ、原告は、歩道から車道に進入する者の有無、動静により注意しなければならず、特に、車道信号A1の表示が赤信号、歩行者用信号Bの表示が青信号である状況の下では、歩行者等が青信号を信頼して横断を開始することが容易に推測できたのであるから、なおさらである。被告運転の自転車が横断を開始した地点は、車道と歩道の進出入のため縁石が低くなっており、しかも、その周辺は人通りの多い場所であり、歩道沿いには駐車場もあることからすると、同地点から二輪車等の車両又は歩行者が車道に進入してくることは、予測不可能ではない。

 

東京地裁 平成20年6月5日

車道のロードバイクが横断歩道を通過するあたりでは、車道が赤、横断歩道等が青信号だったとすると、

歩道の縁石が下がっているところから横断開始する自転車や歩行者にも注意を払うべきというのが被告側の主張です。

その根拠は36条4項で、交差点のみならず交差点付近も同様だとしていることと、信号機の灯火の状態を組み合わせての主張になっている。

(交差点における他の車両等との関係等)
第三十六条
4 車両等は、交差点に入ろうとし、及び交差点内を通行するときは、当該交差点の状況に応じ、交差道路を通行する車両等、反対方向から進行してきて右折する車両等及び当該交差点又はその直近で道路を横断する歩行者に特に注意し、かつ、できる限り安全な速度と方法で進行しなければならない。

黄色の範囲が交差点&交差点の直近だと想定して、さらに横断歩道と自転車横断帯があるのだから、横断する自転車も注意対象として捉えて、36条4項によりロードバイクは交差点の直近を横断しようとする自転車についても注意義務があったと主張しているわけです。

 

・歩道の縁石が低くなっていて車両の進出が予想できる
・36条4項(交差点の直近)
・原告ロードバイクが横断歩道等を通過した際の、車道と横断歩道等の信号機の灯火

もちろん原告側は、車道を対向するような進出方法(いわゆる逆走)についても主張している模様。
自転車横断帯から離れていることから、38条1項の保護対象ではないことも原告は主張している。

 

これらを受けて、原告の過失に関する判示はこちら。

<原告(車道通行のロードバイク)の責任>

道路交通法36条4項は、「車両等は、交差点に入ろうとし、及び交差点内を通行するときは、当該交差点の状況に応じ、交差道路を通行する車両等、反対方向から進行してきて右折する車両等及び当該交差点又はその直近で道路を横断する歩行者に特に注意し、かつ、できる限り安全な速度と方法で進行しなければならない。」と規定し、また同法38条1項は、「車両等は、横断歩道又は自転車横断帯(以下この条において「横断歩道等」という。)に接近する場合には、当該横断歩道等を通過する際に当該横断歩道等によりその進路の前方を横断しようとする歩行者又は自転車(以下この条において「歩行者等」という。)がないことが明らかな場合を除き、当該横断歩道等の直前(道路標識等による停止線が設けられているときは、その停止線の直前。以下この項において同じ。)で停止することができるような速度で進行しなければならない。」と規定している。
自転車は、車両であるから、「道路を横断する歩行者」と同視することはできず、また、被告は、本件横断歩道から約9.35m離れた地点から車道を横断しようとしたのであるから、「横断歩道等によりその進路の前方を横断しようとする歩行者等」と同視することもできないのは、原告らが主張する通りである。
しかしながら、被告が横断しようとした地点は、本件横断歩道からさほど離れていたわけではなく、また、歩道との段差がなく、歩道からの車両の進入が予定されていた箇所であったことに加え、原告運転の自転車が本件横断歩道を通過する際、車道信号A1の表示は赤信号であり、歩行者信号Bの表示は青信号であったのであるから、本件横断歩道上のみならず、被告運転の自転車が車道に進入してきた地点からも、本件道路を横断すべく車道に進入してくる歩行者や自転車があることは想定される状況にあったというべきである。そして被告にとってと同様に、原告にとっても、配電ボックス等の存在により、必ずしも見通しがよくなく、上記の箇所から車道への進入者等の存在は十分確認できない状況にあった。
したがって、原告は、自転車を運転して本件横断歩道を通過させるに際し、被告運転の自転車が車道に進入してきた地点から横断しようとする者がいることを予想して、減速して走行するなど、衝突することを回避する措置を講ずるべきだった義務があったところ、原告がこのような回避措置を講じたことは認められないから、本件事故の発生については原告にも一定の落ち度を認めるのが相当である。

 

東京地裁 平成20年6月5日

ということで50:50という判示です。
といってもロードバイクも時速17キロよりは速いけど、30キロ以上出ていた証拠はないということになってます。

 

36条4項の後半部にこのような記述があります。

当該交差点又はその直近道路を横断する歩行者に特に注意し

道交法は刑罰規定なので、刑罰規定としての取り締まりとしては「交差点の直近で横断する自転車」については保護対象外と取れます。
どうみても「歩行者」とありますし。
判決文でも

自転車は、車両であるから、「道路を横断する歩行者」と同視することはできず

とあるので、36条4項の適用自体は否定しているとも言えますが、それでも注意義務はあるとしている(70条の流用?)。

 

けど民事の注意義務って道交法の規定よりも広くなるので、このケースでは自転車横断帯から10m以上離れた位置から横断開始した自転車も注意すべき義務があるとしているわけです。
この辺は信号機の灯火の状況、自転車横断帯の存在など総合的に見れば、一般的注意義務の範疇だという話なのかもしれません。
(注:自転車については、現実的な実情も踏まえた判例って多い気がします。)

 

気になる方は判例の全文を読んでもらったほうが分かると思います。
双方ともにきちんと主張しているし、裁判官も被告側の主張のうち否定するところは否定している。
自転車横断帯から10m離れているので38条1項の保護対象ではないというところは明確にしていますし。
原告側も、歩道から対抗するように車道に飛び出す自転車を予見する義務はないみたいな主張もしてますし。

 

刑事罰としての道交法の規定通りに見ると、被告の違反ってこれだけあると思われます。

違反内容 条文
逆走 17条4項
横断による妨害 25条の2第1項(車両は、歩行者又は他の車両等の正常な交通を妨害するおそれがあるときは、道路外の施設若しくは場所に出入するための左折若しくは右折をし、横断し、転回し、又は後退してはならない。)
自転車横断帯通行義務違反 63条の7第1項

対する原告ロードバイク側に明確な道交法違反は見当たらないと思っていいと思いますが、それでも横断歩道等の直近と言える範囲について注意義務を認めています。
民事での注意義務とか、刑事でも過失運転致死傷だと、道交法違反=過失とは限らない。

 

横断歩道の自転車通行と、38条の関係性。
こちらにまとめ直しました。 以後、追加は下記にしていきます。 先日このような記事を書いたのですが、 記事でも書いたように、横断歩道=歩行者のためのもの、自転車横断帯=自転車のものなので、基本的には横断歩道を通行する自転車に対しては適用外です...

 

ぶっちゃけて言いますが

横断歩道&自転車横断帯から外れた位置から斜め横断してきて、しかも車道を逆走するような形。
これで50:50は正直なところ厳しいです。
ロード乗りは、このような場面では歩道の情勢に注視して、横断歩道&自転車横断帯から離れた位置から逆走斜め横断を開始する自転車にも注意せよという判決ですので・・・

 

お気の毒なことに、ロード乗りの方は身体障害者1級認定になるほどの大怪我。
主に頭部を損傷しているので、言語障害と右上下肢の全廃だそうです。

 

民事の注意義務ってどうしても道路交通法の刑事罰規定よりも大きくなるのが常ですが、個人的にゴリ押しするとしたら、中央分離帯もあるような幹線道路で、逆走斜め横断を開始すること自体が重過失とでも主張する・・・かな。
歩道の縁石が低くなっているところからの車道での進出は想定できるとしても、それは通常、順走方向への進出であって、逆走を開始する自転車まで予想しするのはちょっと無理があると思う。
36条4項の趣旨も、「当該交差点又はその直近で道路を横断する歩行者に特に注意し」であって、交差点付近で横断する自転車に向けたものではない上に、歩行者よりも高速度で交差点付近を横断しようとする自転車に対して高度な予見義務を負うとも考えづらい。
さらに車道を走るロードバイクも時速17キロよりは速い程度ということで、「交差点付近を横断しようとする歩行者に対して対処できる程度の速度」で進行していたから最低限の注意義務は果たしていたとも取れる。

 

けどあらゆる自転車に厳守してもらいたいのは、ノールック車道進入プレイは本当に脅威ですし、それが順走方向ならまだしも、逆走であればなおさら回避は無理に近い。
この判例は交差点付近という点で、一般的なノールック車道降臨プレイと同一に見ることは出来ませんが、

一番は、横断歩道なり自転車横断帯まで行ってから渡るという道路交通法の大原則の厳守。
それ以外で歩道から車道に降りるのであれば、車両の運転者として一時停止と確認は必須にしてもらいたいところです。

 

なおこの判例、控訴はしていない様子。
請求額が2億2千万を超えているので、控訴するにしても訴訟費用で100万超えます。
ひっくり返すのが難しいとの判断なのかもしれません。

 

車道を通行するロード乗りは、歩道の情勢もきちんと確認し、車道に降りてくる自転車の動静も注視する義務がある。
これについては刑罰規定としてはないにせよ、民事上では義務になるわけです。




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