警察は夜間歩く歩行者に対して、反射素材の着用などを促すアナウンスをしていたりします。
まあ、一部には「歩行者に責任を負わせるな!」などという人もいますが。
そこで一つ判例を。
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信頼の原則を適用しなかった判例
判例はちょっと古く、東京高裁 昭和59年3月13日。
業務上過失傷害の控訴審です。
深夜に赤信号を無視して横断歩道からちょっと外れた交差点内を横断した歩行者に、青信号で交差点突入した車が衝突した事件です。
一審は信頼の原則を適用せず有罪判決。
控訴審の東京高裁も、一審の判断を支持し控訴棄却にしています。
本件は、被告人が深夜(略)普通乗用自動車を運転し、車道幅員約12mで片側一車線の歩車道の区別のある道路を時速約40キロメートルで走行中、本件交差点にさしかかり、青色信号に従い右交差点を直進しようとした際、酔余赤色信号を無視して交差点内中央付近を右から左へ横断歩行していた本件被害者2名を約13ないし14m先に初めて発見し制動措置をとることができないまま自車前部を両名に衝突させたことが明らかであり、これに反する証拠は存在しないところ、本件交差点出口南側横断歩道の左側に街路灯があるため、交差点手前の停止線から40m手前(本件衝突地点からは約51.4m)の地点から本件衝突地点付近に佇立する人物を視認できる状態にあり、しかも被害者の服装は、一名が白色上衣、白色ズボン、他の一名が白色ズボンであったから、被告人は通常の注意を払って前方を見ておけば、十分に被害者らを発見することができたと認められる。なるほど、被告人車の進路前方右側は左側に比べて若干暗くなっているけれども、(証拠等)によれば、被告人が最初に被害者らを発見した段階では、すでに被害者らは交差点中心よりも若干左側部分に入っており、しかも同人らは普通の速度で歩行していたと認められるから、前記見通し状況のもとで、被告人が本件の際被害者らを発見する以前に同人らを発見することは十分に可能であったと認められる。
そして、本件が発生したのは深夜であって、交通量も極めて少ない時間であったこと、本件事故時には被告人車に先行する車両や対向してくる車両もなかったし、本件道路が飲食店等の並ぶ商店街を通るものであること、その他前記本件道路状況等に徴すると、交通教育が相当社会に浸透しているとさいえ、未だ本件被害者のように酔余信号に違反して交差点内を横断歩行する行為に出る者が全くないものともいいがたく、したがって、本件において、被告人が本件交差点内に歩行者が存することを予見できなかったとはいえないし、また、車両運転者が歩行者に対し信号表示を看過して横断歩行することはないとまで信頼して走行することは未だ許されないというべきである。
東京高裁 昭和59年3月13日
要は「普通に前を見ていれば、普通に発見可能だしちゃんとやれ」というだけの話。
前方不注視の過失によりブレーキ操作が遅れたから有罪です。
夜間発生の事故については、こんな感じで被害者の服装の色まで検討された上で視認可能距離を検証します。
過去に挙げた判例、例えばこちらの判例も同様。
この判例は自転車ですが、被害者の服装や自転車に装備された反射板やフロントライトの位置なども明らかにし、視認可能距離を検証する。
歩行者の過失
信号を無視するという極めてリスキーな行動を取る歩行者がいたとしても、だからといって衝突していい理由にはならない。
けど法律上、見えないものを見ろというわけでもなく、見えないものは見えないとして評価され、視認可能距離と停止距離を算出し、回避不可能と判断されたら無罪になる。
横断歩行者の事故については、約7割に歩行者側の違反があったとされてますが、違反があったとしても車両運転者は事故回避義務がある。
けれども夜間見えないと判断されたら法律上は回避不可能となりうるし、運転者は何ら罪にならない。
歩行者側にも多数の違反がある以上、違反するならせめて反射素材を身につけてもらえればみたいな感じなんじゃないですかね。
歩行者だから違反が許されるわけではないし。
違反行動の結果については、歩行者側もリスクを負担しなければならない。
車両の運転者は視認可能距離の範囲内で停止できるような速度で進行すべきだと思うけど、法律上は制限速度内で通行している分には何ら違反にならない。
もちろん、制限速度内であっても減速や徐行する義務を課している場所はあるし、そういう場所で義務を果たさないことは違反になる。
けど特別な義務が課されている場所以外では、仮に歩行者が横断開始したことにより事故が発生した場合、視認可能距離、制限速度上限で急制動した場合の停止距離を元に回避可能性が検討される。
「夜間は制限速度マイナス10キロにしなければならない」みたいな法律でもない限り、運転者の良心に委ねるしかないんだよね。
これだけ歩行者側にも違反がある以上、「違反するならせめて反射素材を身につけて」というイメージなのかと捉えてます。
人間の本心として「バレなきゃOK」的な発想の人は普通に存在する。
「違反しているオレ、カッコいい」みたいなクソ人間も普通にいる。
ピストバイクをノーブレーキで乗る人なんて、違反なことはもちろん承知で乗り回すわけですが、まさに「法律に反するプレイがカッコいい」みたいな感覚でしかない人は普通にいるわけね。
こういう感覚の人に「法律を守れ」と言ったところでどれだけ心に響くのかは謎。
強者がより大きな注意義務や責任を負うのは当たり前だけど、かといって弱者が違反したプレイの結果まで強者に全てを負わせるような法律ではない。
けどまあ、反射素材を身につけたほうがいいよとアナウンスしたところで、素直に実行する人ってどんだけいるんですかね。
2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。
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