こちらの記事ですが、
ちょっと質問の意味がわからないのですが、未就学児(6歳より下)が乗る自転車は道路交通法上では小児用の車となり、歩行者になります。
ただし、絶対的な基準はありません。
警察庁の通達だとこんな感じです。
○小学校入学前まで(6歳未満)の者が乗車している自転車
○車体が6歳未満の者が乗車する程度の大きさ(車輪がおおむね16インチ)
○走行、制動操作が簡単で、速度が毎時4ないし8キロメートル程度以下のもの
小児用の車
こちらに載せたので、詳しくはこちらを。
概ね16インチ以下で、低速であれば小児用の車(歩行補助車等)となり2条3項1号の規定により道路交通法上は歩行者です。
ついでに書きますと、wikipediaにはこれについては判例の存在を挙げてます。
7歳8ヶ月の子が運転する、タイヤ直径39cmの自転車を小児用の車として認めた例もある。
これ、調べてみると浦和地裁昭和57年3月31日判決なんじゃないかと思うのですが、何回読んでも小児用の車と認めたようには思えなくて。
三 責任原因
4 被害者の無過失
(一) 被害者が乗つていた自転車は、道路交通法2条1項11号の2に規定された「小児用の車」に該当する。すなわち、自転車は、原告が事故時の約2年前(被害者が6歳に満たない時)に買い与えたものであつて、車輪の直径39センチメートル、サドルまでの高さ68センチメートル(サドルは上下動する)の足踏式であり、専ら被害者がこれに乗つていたものである。
仮に自転車が「小児用の車」に該当しないとしても、それはこれと同視することのできる子供用自転車であつて、一般の自転車と同じように論ずるのは相当でない。
(中略)
第三被告らの答弁及び主張
三 責任原因1 請求原因三の1、2の各事実を認めるが、同4、5の各事実を否認する。
浦和地裁 昭和57年3月31日
「小児用の車に該当する」と書いてある部分は、あくまでも原告が無過失の主張の一環として主張した内容に過ぎなくて(被告が否認していることからも)、裁判官は被害者が乗る自転車が小児用の車かどうかについてはうんともすんとも語ってない気がする。
実際のところ、裁判官はあくまでも自転車である立場から過失相殺してますし。
(三) ところで、被害者は、当時7歳8箇月の男であつたから、横断歩道を安全に通行するにはどのような点に注意を払うべきかについて十分に知つていたものと見ることができる。前記のように事故車には左方に死角があつて、運転者にとつては横断歩道付近の通行人を十分に視認し得ないことがあつたのであり、しかも、横断歩道の手前に一時停止していた事故車が発進を開始して横断歩道に進入しつつあつたのであるから、それより瞬時でも遅く横断歩道に進入しようとした被害者としては、右斜め前方で動き出した事故車の動静に注意を払い、横断歩道の手前で止まるか、又は横断歩道に入り事故車の手前で止まるかして、事故車が横断歩道を通過するのを待つべきであつたのであり、目前を走行し続ける事故車の前方(南方)を横切るような行動に出ることはこれを避けるべきであつたのである。
そして、被害者は、乗り慣れた子供用自転車に乗つていたのであるから、横断歩道又は事故車の手前で容易に自転車を止めることができたものと推認することができる。
(四) 横断歩道を青信号に従つて通行する者にとつても、事故の発生を防止するために注意を払い、適切な行動をとる義務があるのであつて、青信号に従つているのであるから、脇目も振らず、ただ真直ぐに横断歩道を突つ走つて行つて何が悪い、ということにはならないのである。
前記認定の事実によれば、被害者は、事故車の動静に対する注意を欠き、事故車の前方(南方)を横切るという適切でない行動に出たことにおいて、事故の発生について過失があつたものというべきである。
浦和地裁 昭和57年3月31日
裁判官は小児用の車かどうかについてうんともすんとも語ってないように思うけど、違う判例なんかな?
むしろ自転車として判断しているようにも見えますが。
小児用の車の判例まとめ
適当に判例をピックアップしました。
ぶっちゃけた話、そもそも6歳を越えている判例ばかりなのであんまり意味がない。
判例 | 年齢 | 自転車サイズ・速度 | 法区分 | 事故態様 |
東京高裁S52.11.30
(民事) |
5才7ヶ月 | ハンドル高80センチ、車輪直径40センチ | 軽車両 | 信号がある十字路、加害車両左折、被害者は横断歩道を横断。被害者過失5% |
東京地裁S53.12.14 (民事) |
4才11ヶ月 | 補助輪付幼児用自転車(7、8キロ) | 小児用の車 | 見通しが悪い交差点での出会い頭。被害者過失25% |
岐阜地裁H19.3.9 (民事) |
6才2ヶ月 | 16インチ | 軽車両 | 見通しが悪い交差点事故。被害者過失25% |
東京高裁H26.12.24 (民事) |
6才 | 18インチ | 軽車両 | 信号がない交差点。加害車両が優先道路。バスの陰から自転車が飛び出し。被害者過失50% |
福岡高裁S49.5.29 (刑事) |
9歳8か月 | 22インチ | 軽車両 | ※ |
浦和地裁S57.3.31
(民事) |
7才8ヶ月 | 16インチ | 上参照 | 交差点左折車と横断歩道を横断する自転車の事故。被害者過失10% |
※下記参照。
実際のところ、自転車自体の性能と年齢などから判断しているようにも見えますが、明確な基準はありません。
勘違いする人もいるかもしれないけど、行政通知・行政通達は裁判所を拘束しないので、警察庁の通達は警察内部での判断基準に過ぎず、裁判でどのように判断されるかは別かと。
「小児用の車」と判断された判例では、道路交通法上では歩行者だから43条による一時停止義務は負わないとしています。
まあ、16インチの自転車は概ね軽車両扱いされているようにも見えますが、自転車自体の性能と年齢的な運動能力など加味して決めているのかもしれないし、明確な基準はありません。
結局のところ、「小児用の車である」とした判例はあんまり見かけない上に「小児用の車ではなく軽車両」とした判例のほとんどは6歳を越えているし。
明確な基準が確立されているとも言えません。
実際のところ
例えば横断歩道で横断待ちしている自転車(子供)がいたとして、
あの自転車は18インチだから小児用の車ではなく軽車両だ!
譲る必要はない!
あの自転車は補助輪がないから軽車両の可能性が高く、譲る必要はない!
なんて考えるなら、申し訳ないけどキチガイです。
グダグダ言わなくていいから子供は守れと。
16インチか18インチかを遠くから見抜ける特殊能力をお持ちとか、5才と6才の違いを見抜く特殊能力をお持ちなら、もっとマシな方向に活かしてください。
この件もそうだけど、
「手信号を出せ」と言い方もいらっしゃる。
仮に歩行者扱いの「小児用の車」なら、歩行者に手信号を要求していることになるわけ。
最終的に軽車両なのか、小児用の車なのかは裁判しない限りわからないのですが、どちらにせよ子供は守りましょ。
なのでこの件。
小児用の車なら自転車ではなく歩行者なので38条1項後段の違反も成立します。
未就学児が乗る自転車を小児用の車として歩行者とみなす理由は、弱者保護の概念と他害性が限りなく歩行者に近いからなんじゃないかと思います。
あと、未就学児に車両としての行動を強いること自体に無理があるし。
仮に小児用の車として歩行者なら、例えば路側帯は左側通行義務すらない。
今後を見据えて教育の一環として教えるならまだしも、見知らぬ第三者が叱りつけたりするのはちょっと違うと思う。
とりあえず、冒頭の質問の意味がちょっとよくわからないのですが、概ね未就学児が乗る自転車は道路交通法上では歩行者です。
ただし民事では未就学児の自転車は軽車両とするものもあります。
当たり前だけど、赤ちゃんプレイが趣味の人が乗る自転車は、道路交通法上は自転車(軽車両)。
実年齢が優先しますので、仮想空間と現実の違いを認識しましょう。
ついでに
仮に未就学児の自転車が軽車両ではなく歩行者になるなら、例えば自転車道(サイクリングロードじゃないほう)を通行すると通行区分違反になるという不可解なことも起こります。
もちろん警察はそんなことをうるさく言わないだろうけど、仮に自転車道の中で事故が起きたときに、「小児用の車(歩行者)」が通行区分違反していたとして過失になる可能性すらあるわけ。
幼児を保護するための「小児用の車」という規定も、どこか整合性が取れてないような気がする。
ちなみにサイクリングロード(川沿いなど)は道路交通法上は道路(車道と歩道の区別がない)なので関係ありません。
自転車保険によっては、「自転車の事故のみカバー」するものもあります。
まさか「小児用の車=歩行者だから対象外」と突っぱねる保険屋がいるのかはわからんけど。
曖昧な規定は、いつか重大なトラブルに繋がるとしか思わないのですが、何十年とこのルールのままなので警察的にもどうでもいいのかもしれません。
2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。
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