自転車を追い越し・追い抜きする際の側方間隔が近すぎだろ!というトラブルは絶えないニッポンですが、そもそも、法に規定がないからおかしくなるのだと思っています。
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法に規定がないニッポン
自転車を「追い越し」する際のルールはこれ。
第二十八条
4 前三項の場合においては、追越しをしようとする車両(次条において「後車」という。)は、反対の方向又は後方からの交通及び前車又は路面電車の前方の交通にも十分に注意し、かつ、前車又は路面電車の速度及び進路並びに道路の状況に応じて、できる限り安全な速度と方法で進行しなければならない。
自転車を「追い抜き」する際のルールはこれ。
第七十条 車両等の運転者は、当該車両等のハンドル、ブレーキその他の装置を確実に操作し、かつ、道路、交通及び当該車両等の状況に応じ、他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転しなければならない。
何ら具体性がない規定なので、事故にならない限りは取締りすらされない。
そもそも70条安全運転義務については、こういう趣旨。
安全運転義務は具体的義務規定でまかないきれないところを補充する意味で設けられたものである
昭和42年1月15日 いわき簡裁
2輪車のような不安定な車両に対して、追い越し・追い抜きで側方通過する際の側方間隔が「具体的義務規定」になってないことが問題なのであって、本当に謎。
昭和の時代から多数の「側方間隔問題」が事故判例では指摘されているのに。
具体的義務規定ではまかない切れない部分を補う趣旨の安全運転義務な上、安全運転義務違反って事故にならない限りは滅多に違反にならない。
そもそも2輪車への側方間隔については具体的に定めるべきでしかないと思うのですが…
古い判例で、自転車を「追い越し」する際にこういう説示をしたものがあります。
安全確認とは運転者の主観と客観的事実とが相俟つて絶対に交通事故発生の虞がない場合を指すものであると解せらるる
行橋簡裁 昭和33年6月21日
自転車を追い越しする場合の安全確認とは、主観と客観から「絶対に」事故発生のおそれがない場合を指すんだという説示をしてます。
まあ、事故が起きたわりには無罪なんですが笑。
「絶対」なんて強い言葉を使いながらちょっと矛盾した内容になるのが嘆かわしい。
とりあえず言えるのは、2輪車を追い越し・追い抜きする際の側方間隔は具体的に定めるべきということです。
海外では定めがある国もチラホラありますけどね。
判例から見る側方間隔
判例から見るとこんな感じです。
○刑事責任
裁判所 | 自転車の動静 | 車の速度 | 側方間隔 | 判決 |
広島高裁S43.7.19 | 安定 | 40キロ | 約1m | 無罪 |
東京高裁S45.3.5 | 安定 | 30キロ | 1~1.5m | 無罪 |
最高裁S60.4.30 | 不安定 | 約5キロ | 60~70センチ | 有罪 |
高松高裁S42.12.22 | 傘さし | 50キロ | 1m | 有罪 |
東京高裁 S48.2.5 | 原付二種 | 65キロ | 0.3m | 有罪 |
仙台高裁S29.4.15 | 酒酔い | 20キロ | 1.3m | 有罪 |
札幌高裁S36.12.21 | 安定 | 35キロ | 1.5m | 無罪 |
高松高裁S38.6.19 | 子供載せ | – | 約42センチ | 有罪 |
※これらは側方間隔のみで有罪にしたわけではない。
○民事責任
裁判所 | 自転車の状況 | 車の速度 | 側方間隔 | 車の過失 |
東京地裁H26.1.16 | 路側帯から中央線へ進路変更 | 20キロ | 推定2m以上? | 70% |
東京地裁H27.10.6 | 非接触 | 40キロ | 1.2m | 60% |
大阪高裁R1.7.3 | 非接触 | 30キロ | 0.6m | 0% |
※過失割合は様々な状況で変わるため、側方間隔が全てではありません。
なお、原判決の認定によると、被告人は、大型貨物自動車を運転して本件道路を走行中、先行する被害者運転の自転車を追い抜こうとして警笛を吹鳴したのに対し被害者が道路左側の有蓋側溝上に避譲して走行したので、同人を追い抜くことができるものと思つて追い抜きを始め、自車左側端と被害者の自転車の右ハンドルグリツプとの間に60ないし70センチメートルの間隔をあけて、その右側を徐行し、かつ、被害者の動向をサイドミラー等で確認しつつ、右自転車と並進したところ、被害者は、自転車走行の安定を失い自転車もろとも転倒して、被告人車左後輪に轢圧されたというのであるが、本件道路は大型貨物自動車の通行が禁止されている幅員4m弱の狭隘な道路であり、被害者走行の有蓋側溝に接して民家のブロツク塀が設置されていて、道路左端からブロツク塀までは約90センチメートルの間隔しかなかつたこと、側溝上は、蓋と蓋の間や側溝縁と蓋の間に隙間や高低差があつて自転車の安全走行に適さない状況であつたこと、被害者は72歳の老人であつたことなど原判決の判示する本件の状況下においては、被告人車が追い抜く際に被害者が走行の安定を失い転倒して事故に至る危険が大きいと認められるのであるから、たとえ、同人が被告人車の警笛に応じ避譲して走行していた場合であつても、大型貨物自動車の運転者たる被告人としては、被害者転倒による事故発生の危険を予測して、その追い抜きを差し控えるべき業務上の注意義務があつたというべきであり、これと同旨の見解に立つて被告人の過失を肯認した原判断は正当である。
昭和60年4月30日 最高裁判所第一小法廷
古い判例だと昭和29年仙台高裁などがありますが、約70年前には既に問題視されていた「自転車を追い越し・追い抜きする際の側方間隔」が、いまだにルールとして明確な定めがないことが不思議。
ニッポンが得意とする曖昧規定のせいなんじゃね?
自転車よりも不安定と噂される電動キックボードは、至近距離追い越しされたら一発アウトになりそうな気がする。
なお、手持ちの資料では2輪車を追い越しする際の側方間隔として、
おおむね1.5mないし2mの間隔があれば十分といえるであろう。
「追越し」(東京地裁判事補 小林氏)、判例タイムズ284号
としてますが、この書籍は1973年。
東京高裁S45.3.5判決にて「1~1.5m」で無罪、仙台高裁S29.4.15判決で酒酔い自転車に対し1.3mで有罪とした点から広めに解釈しています。
よく言われる「1.5m」にしても、おそらくは東京高裁S45.3.5判決を意識しているのかなと思いますが。
2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。
コメント
最低2m以上等の参考距離は必要だと思います。
コメントありがとうございます。
法に明記すればいいのに、なぜか曖昧ですよね。
右手を伸ばして触らない距離があればよいですね。余裕みて1メートル。
法律で制定してほしいですね。
コメントありがとうございます。
国はなぜか動く気配がないですが…