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横断「歩行者」がいなくても、横断歩行者妨害等は成立する。

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先日のこちらの事故について、ちょっと補足。

 

自転車事故について、双方の義務を見ていく。自転車が悪いと言い切れますか?
自転車とクルマの衝突事故があったようですが。 ちょっと気になる点について、「双方の義務」から確認してみます。 事故現場と双方の義務 事故現場はこちら。 イラスト化してみました。 報道から読み取れる事故態様はこうかと。 自転車には一時停止規制...

 

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事故の態様とそれぞれの義務

事故現場はこちら。

事故態様はこちら。

普通に考えると、自転車の以下の違反が濃厚になります。

・一時停止違反(43条)
・優先道路の進行妨害(36条2項)

で。
事故報道があった際に結果論からいろいろ言う人が当然増えますが、「双方にどのような義務が課されていたのか?」を考えないと事故防止には繋がらない。

 

なのでクルマの立場からみて、クルマにいかなる義務が課されていたのかを考えます。

 

横断歩道がありますが、

道路交通法38条1項前段は、こうなってます。

 

「横断しようとする歩行者が明らかにいない場合を除いて停止できるような速度で進行しろ」

 

(横断歩道等における歩行者等の優先)
第三十八条 車両等は、横断歩道に接近する場合には、当該横断歩道を通過する際に当該横断歩道によりその進路の前方を横断しようとする歩行者がないことが明らかな場合を除き、当該横断歩道の直前で停止することができるような速度で進行しなければならない。この場合において、横断歩道によりその進路の前方を横断し、又は横断しようとする歩行者があるときは、当該横断歩道の直前で一時停止し、かつ、その通行を妨げないようにしなければならない。

※分かりやすくするために自転車横断帯と自転車を省略。

 

この場合、横断歩道左側の視認性がかなり悪い。
歩行者の小走り(時速10キロ程度)まで想定したとしても、横断歩道直前ではかなり減速していないと38条1項前段の違反が成立します。
これについては、「現に横断しようとする歩行者がいたかどうか」は関係ない。

最終的に横断しようとする歩行者がいなかったとしても、減速してなければ38条1項前段の違反が成立する。

 

この事故って、疑われる態様としては自転車が一時停止違反、もしくは優先道路の進行妨害により飛び出してきた形じゃないですか。
そこは誰でもわかること。

 

けど、「横断歩道」がある以上、ドライバーには「歩行者に向けた減速接近義務」があり、減速接近義務については自転車の飛び出しとは無関係に課された義務。

クルマの破損具合を見るに、そこそこのスピードが出ていたのでは?と疑われてしまいます。
「減速接近義務」を果たしていたのかがまず問題になる。

 

そして、「歩行者に向けた」減速接近義務を果たしていたなら、仮に自転車が飛び出してきても事故回避可能性がある。

もちろん、自転車の飛び出してきたタイミングと速度次第では、ドライバーが「歩行者に向けた」減速接近義務を果たしていたとしても回避不可能。
減速接近義務を果たしていたとしても回避不可能だと判断された場合のみが「クルマは悪くない」と言い切れる状態になります。

 

これを理解してないと、「過失運転傷害罪」で有罪喰らいますよ。
過失とは「横断歩道があり見通しが悪いにも関わらず、十分な減速を怠った過失」になる。

 

報道ではこのようにありますが、

現場は、片側1車線の見通しの良い道路で、近くに横断歩道がありますが、自転車は横断歩道がない場所を渡っていたということです。

 

Yahoo!ニュース
Yahoo!ニュースは、新聞・通信社が配信するニュースのほか、映像、雑誌や個人の書き手が執筆する記事など多種多様なニュースを掲載しています。

横断歩道のすぐ近くだというところがポイント。
横断歩道を横断する自転車は38条1項の優先対象にはならないけど、

・歩行者に向けた減速接近義務(38条1項前段)
・事故回避義務(70条)

これらにより、一定の保護対象になるのだから。
「一時停止違反した自転車が悪い!」と言ったところで、ドライバー側に課された減速接近義務は免除されないのですよ…

双方の義務から考える

やるべき義務を完璧にこなした上でも防げない事故だったときに、初めて「しょうがない」と言えるもの。
実際のところ、横断歩道(付近含む)を横断した自転車との事故判例って、こういうロジックで有罪にしてます。

 

○東京高裁 平成22年5月25日(過失運転致死)

制限速度40キロの道路を時速約55キロで進行。
横断歩道を横断した自転車と衝突した事故です。

進行道路の制限速度が時速約40キロメートルであることや本件交差点に横断歩道が設置されていることを以前から知っていたものの、交通が閑散であったので気を許し、ぼんやりと遠方を見ており、前方左右を十分に確認しないまま時速約55キロメートルで進行した、というのである。(A)進路前方を横断歩道により横断しようとする歩行者がないことを確認していた訳ではないから、道路交通法38条1項により、横断歩道手前にある停止線の直前で停止することができるような速度で進行するべき義務があったことは明らかである。
(B)結果的に、たまたま横断歩道の周辺に歩行者がいなかったからといって、遡って前記義務を免れるものではない。もちろん、(C)同条項による徐行義務は、本件のように自転車横断帯の設置されていない横断歩道を自転車に乗ったまま横断する者に直接向けられたものではない。

便宜的にAからCに分けました。
38条は「横断しようとする歩行者がいたら減速」ではなく、「横断しようとする歩行者がいないことが明らかな場合以外は全て減速」。
横断歩道左側が見通しが悪い道路なので、

見通しが悪い=横断しようとする歩行者が明らかにいないとは「わからん」。
なので自転車の存在は関係なしに、38条1項前段の減速義務があるとしている。
なのでこれ。

(A)進路前方を横断歩道により横断しようとする歩行者がないことを確認していた訳ではないから、道路交通法38条1項により、横断歩道手前にある停止線の直前で停止することができるような速度で進行するべき義務があった

時速約55キロで、見通しが悪い道路なのに確認できるわけがないとしている。
そしてこれ。

(B)結果的に、たまたま横断歩道の周辺に歩行者がいなかったからといって、遡って前記義務を免れるものではない

前段の免除になるのは、「いないことが明らかな場合」。
いないことが明らかだと言えるまでは減速するルールであり、最終的に歩行者がいたかいなかったかは関係ないとしてます。

 

そしてC。

(C)同条項による徐行義務は、本件のように自転車横断帯の設置されていない横断歩道を自転車に乗ったまま横断する者に直接向けられたものではない

38条は横断歩道を横断しようとする自転車には適用できないから、「歩行者がいないことが明らかかどうか?」という攻め方しかできないわけです。

自動車運転者としては、同法70条による安全運転義務があるのはもちろん、交通の実情を踏まえた注意義務が求められるのは当然である(所論は、道路交通法上の義務と自動車運転過失致死罪における注意義務を同一のものと理解している点で相当でない。すなわち、信頼の原則が働くような場合はともかく、前者がないからといって、直ちに後者までないということにはならない。)

 

・横断歩道の見通しが悪い

・横断しようとする「歩行者」が明らかにいないとは言えない

・38条1項前段により、大幅に減速する義務がある

・しかし「歩行者に向けた」減速接近義務を怠った結果、飛び出してきた自転車との衝突を回避できなかった

・有罪

一時停止違反もしくは優先道路の進行妨害が強く疑われる自転車に過失があるのは当然ですが、「歩行者に向けた減速接近義務」を理解してないと普通に起訴されて有罪になってビックリするかと。

 

やるべき義務を全てやっていても回避不可能なら、もちろん刑事責任を問われることはありません。
そこまで法律は理不尽ではない。

 

「小学生の自転車飛び出しを回避なんて無理だろ」ではなくて、この場合は横断歩道があるところがポイント。
「減速接近義務を果たしていたなら、回避可能性がある」になるし、「減速接近義務を果たしていたけど、防げないタイミングと速度で自転車が飛び出してきた」じゃない限りは責任があるのは当然。

 

自転車の過失は量刑判断で考慮されますが、やるべき義務を果たしていたけどダメだったのか、やるべき義務を果たしていなかったからダメだったのかでは全然意味が違うことになります。

 

自転車に違反が強く疑われる以上、一時停止違反が問題と考えるのは当然ですが、それだと普通に有罪になってビックリする結果になるわけで、他人の違反の前に自分の義務を果たすことを考えるべきかと。

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