自転車は車両なので、右左折などをするときには手信号を出す義務がありますが、良くも悪くも滅多に見かけない。
そこで今回は、自転車の「合図履行義務」について厳格解釈をしてみます。
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自転車の合図履行義務
自転車が手信号を出す義務については、道路交通法53条1項、施行令21条に規定されています。
第五十三条 車両(自転車以外の軽車両を除く。次項及び第四項において同じ。)の運転者は、左折し、右折し、転回し、徐行し、停止し、後退し、又は同一方向に進行しながら進路を変えるときは、手、方向指示器又は灯火により合図をし、かつ、これらの行為が終わるまで当該合図を継続しなければならない。
では交差点を左折してみましょう。
左折合図を出すのは30m手前から。
さて早速ですがここで重篤なトラブルが発生。
赤信号では「停止」するし、青信号でも左折時は「徐行」となっている。
第三十四条 車両は、左折するときは、あらかじめその前からできる限り道路の左側端に寄り、かつ、できる限り道路の左側端に沿つて(道路標識等により通行すべき部分が指定されているときは、その指定された部分を通行して)徐行しなければならない。
徐行や停止時にも合図履行義務があったよね?
左折合図と徐行(停止)合図を同時に出さなければ53条1項の違反でチャリカス決定です。
仕方ないけど、両方出すか…
ハンドル握れないけど、ブレーキ操作が出来ないけどいいのかな。笑。
仕方ないけど、足裏ブレーキでも使うのかな。
ノーハンド足裏ブレーキを作動させたら容易にしねそうな予感しかしないのですが、53条1項を死守するには仕方ない。
紆余曲折はありましたが、赤信号で停止。
ここで重篤なトラブルが発生。
と、とりあえず左折合図だけ継続すればいいのかな。
マジで早く青信号になってくれ。
信号待ちでも「継続」なんてツラい法律だな…
紆余曲折はありましたが、晴れて青信号に。
さあ左折するぞ!と意気込みを見せたけど、横断歩行者が途切れない。
横断歩行者が途切れたけど、左折完了までは合図継続だったな…
ツラいな…自転車は…
あれ?
左折完了までは徐行だと書いてあるから、徐行合図も継続しながら左折するのかな?
両手で合図しながら左折するなんて、素人には不可能な気がするが…
左折完了とは、道路進行方向に完全に向きを変えたとき。
やっと義務から解放されます。
質疑応答
○質問1
「途中で手を下ろしたら違反ですか?」
53条1項後段には「かつ、これらの行為が終わるまで当該合図を継続しなければならない」と書いてあるじゃないか。
○質問2
「人類には不可能ではないでしょうか?」
甘えたことを言うんじゃない!
なお、53条1項は故意犯のみならず過失犯の処罰規定があるが、いかなる過失を想定しているのかは不明だ。
五十肩の人が手が挙がらないことは故意なのか過失なのかはわからん!
○質問3
「横断歩行者にヒットしませんか?ブレーキ操作を優先したほうが…」
ワシなら法令遵守のために、降りて押して歩いて歩行者化することで横断歩道をケアする。
いいか?
歩行者には合図履行義務がない!
○質問4
「本当に降りて押して歩いてますか?」
法令を遵守するにはそれ以外の方法はない。
○質問5
「ウソをついてませんか?」
○質問6
「本当に左折合図と徐行(停止)合図を同時に出してますか?手が足りない気がします。」
○質問7
「本当のことを教えてください」
ワシはハンドル操作を優先するな。
○質問8
「…赤信号で停止中にも合図を継続していますか?」
もし赤信号で停止中にも左折合図を継続していたら、Twitterに画像をアップされて笑い者にされるのがオチだろ!
○質問9
「…つまり、管理人は53条1項を遵守してないと?」
自転車が53条1項を遵守するには、手が2本では足りないことがわかりました。
人類には不可能な法令ですが、法令遵守するには降りて押して歩いて歩行者化する以外には無さそうです。
つまり、私はチャリカスなんだと立証されました。
真面目な話
古い判例で原付がモノを持ち片手運転していたことについて「安全運転義務違反(70条)」に問われた判例があるのですが、
すくなくとも判示交差点にさしかかるまでは人車の往来もさして頻繁でなかつたのであるから、かかる状況のもとでは、被告人の右行為をもつて他人に危害を及ぼす虞れがあつたとすることはできない。
ところが被告人はそのまま走行を続け、遠軽町大通り南四丁目附近の交差点を右折して、ここで当時交通違反者公開取締中の警察官の指示をうけ停止したのであるが、この交差点は、北見方面と紋別方面を結ぶ幹線と岩見通りと西町とを接続する道路とが変則的に交差する四叉路で、車の往来も頻繁であり、またこの交差点の附近には、信号機の設置されていない横断歩道が設けられていて、人の往来も頻繁である。被告人はこの交差点を判示のような状態で、約20キロの速度をもつて通過したのであるが、かような交通繁雑な路上では、同一方向の車両等、対向車両等および横断中の歩行者との近接の度合も一段と高くなるから、これら人車との接触回避を要する事態も容易に生じうべき状況にある。このような場合被告人としては、いつでも両ハンドルを把握できるような体勢をもつて進行しなければならない安全運転上の義務があつたのに、判示のような状態で原動機付自転車を運転したところに法70条の違反があつた。
遠軽簡裁 昭和40年11月27日
交差点に至るまでに片手運転だったことは安全運転義務違反にならないとし、交差点で人の往来も頻繁なところでは安全運転義務違反で有罪。
交差点で右左折するときには合図を出せと言いながらも、一方では交差点で往来が激しいところでは片手運転すんなと言っているわけで、人類には不可能なんですよ。
手信号出さなくても警察が注意することすらないけど、根本的に矛盾を抱えているだけだと思いません?
片手運転すんな!片手で合図出せ!継続しろ!と支離滅裂な指令を出すジャパン。
やっぱ、法律から直さない限りは無理でしょ。
とりあえず、
ダブル合図はやめましょう。
いくらジャパンの道路交通法53条1項が合図を義務付けしていても、義務を果たすとしんでしまいます。
まさか、ヘルメットの努力義務化とはダブル合図を徹底させるためのモノなのでしょうか?
ダブル合図でノーハンド左折する際に、転倒してもヘルメットがあれば安心ですね笑。
自転車乗りで53条1項を厳守している人は、相当なバイクコントロールテクニックの持ち主と言わざるを得ません。
2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。
コメント
先日交差点右側の自転車横断帯についてコメントした者です。
私のコメントに対して、制定当時の背景や警察庁の解説なども踏まえたわかりやすい記事を書いていただき、本当にありがとうございました。
自転車の合図についての質問です。
これまでも合図履行義務を最大限守るため、交差点を右左折する際は曲がり終わるまで合図を継続するほか、停止中などは両手で合図を行ってきました。しかし人の腕は通常2本しかないのに最大で3種類の合図を同時に出さなければならない(*1)ため、合図履行義務を完全に守っているとは言い難いでしょう。そこで、同時に合図に使用する腕を最大1本に減らすために自転車用のウインカーを制作しているのですが、自転車に設けられた方向指示器は右左折等の合図として有効でしょうか?
制動灯や後退灯とは異なり、方向指示器については「車両の保安基準に関する規定に定める」ものに限るような条文は見当たりませんでしたので、自転車用に制作したウインカーも有効な合図になりうると考えていますが、これを肯定・否定するような情報があればご教授いただけると幸いです。
(ちなみに方向指示器は最低でも一般原付の保安基準を満たすようなものを設けるつもりです)
*1: 例えば、交差点を右折するときに
右折: 右折の合図
交差点の側端に沿う: 左進路変更の合図
徐行: 徐行の合図
の3種類
コメントありがとうございます。
これ、正直なところあまり自信がないのですが、おっしゃる通り方向指示器については規定がないように読み取れます。
そのため方向指示器を自作して使っても、正規の合図と認められるのかなと思われます。
なお、道路運送車両法によると二輪の自転車は道路運送車両法上は軽車両ではないため(令1条)、保安基準は無関係です。
第一条 道路運送車両法(以下「法」という。)第二条第四項の軽車両は、馬車、牛車、馬そり、荷車、人力車、三輪自転車(側車付の二輪自転車を含む。)及びリヤカーをいう。
従って道路交通法に自転車の方向指示器についての規定がない以上、おそらく「社会通念上方向指示器と認められるなら」正規の合図と認められる気がしますが、ちょっと自信がないので断言はできません。