こちらの記事についていくつか質問を頂いたので、ちょっと解説。

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新潟地裁長岡支部判決との差


新潟地裁長岡支部平成29年12月27日判決ですが、クルマは10キロの速度超過、夜間です。
中央分離帯を越えて横断してきた歩行者との衝突事故ですが、この判例の特異性はここ。
・対向にあるガソリンスタンドの光が明るく、中央分離帯上が逆光のような状態
中央分離帯上で被害者が横断待ちしていても、被害者の背丈と同程度の街路樹があることと、ガソリンスタンドの逆光により「人間がいると視認できない」と判断されたからです。
あらゆる視点から検討しても、中央分離帯上で横断待ちしている歩行者を視認できない。
なので運転者からすると「存在しないものが突如現れた」にしかならず、運転者から視認可能になった地点では法定速度内でも回避可能性がないことから請求棄却です。
対するこちらの事案。
こちらについては余裕で視認可能な上、明らかに横断する予兆が見てとれる。
しかも道路左側を注視しているけど、右側を見ていない。
この場合、運転者の注意義務は「横断しようとしている子供を現認した時点」で発生するので、適宜警音器で注意喚起しながら減速する注意義務があることになります。
判例をみても、このようなケースは昔でいう業務上過失傷害罪で有罪にしている。

過失運転致死傷って、「道路交通法違反の結果、死傷」ではなく「運転に必要な注意を怠った結果、死傷」です。
第五条 自動車の運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、七年以下の懲役若しくは禁錮又は百万円以下の罰金に処する。ただし、その傷害が軽いときは、情状により、その刑を免除することができる。
道路交通法の義務違反がなくても、運転上必要な注意を怠り死傷に至れば有罪。
71条2号?

第七十一条
二 身体障害者用の車が通行しているとき、目が見えない者が第十四条第一項の規定に基づく政令で定めるつえを携え、若しくは同項の規定に基づく政令で定める盲導犬を連れて通行しているとき、耳が聞こえない者若しくは同条第二項の規定に基づく政令で定める程度の身体の障害のある者が同項の規定に基づく政令で定めるつえを携えて通行しているとき、又は監護者が付き添わない児童若しくは幼児が歩行しているときは、一時停止し、又は徐行して、その通行又は歩行を妨げないようにすること。
この規定ですが、そもそもは14条3項に対応する特別規定です。
要は判断力に乏しい弱者を保護する意味合いですが、まず、歩車道が分離されている道路の歩道を児童が通行していても、車道を通行する車両に一時停止や徐行義務が生じないのは理解できると思います。
その上で、歩行者にとって直前直後横断は禁止なわけで、違法に通行する児童に対してこの義務がすぐに生じるとは解釈できないでしょう。
不可能な事態でも違反が成立することになってしまうので。
この規定って昭和35年からありますが、
昭和35年
第七十一条
二 目が見えない者若しくは耳がきこえない者が白色に塗つたつえを携えて通行しているとき、又は監護者が付き添わない児童若しくは幼児が歩行しているときは、一時停止し、又は徐行して、その通行又は歩行を妨げないようにすること。
この規定を問題にした判例を見たこともないですが、あくまでも「適法に通行する児童等に対して強く保護しよう」という趣旨と解釈するしかないので、Twitter動画のケースは直接関わるモノではないかと。
なので「横断する予兆」、「子供」、「道路左側のみ注視している」という点から、必要に応じてクラクションを使い、減速すべき注意義務と考えるしかない。
直前横断は
こんな直前横断されたら回避不可能、と考える気持ちはわかるのですが、「横断する予兆が明らかな子供を発見した時点」で強く注意義務が課されているわけ。
あくまでも注意義務の発生地点は「発見した時点」であって「横断開始した時点」ではない。
全く横断する予兆がなかったならともかく、下手すると刑事責任になる事案だと考えたほうがいいですよ。
判例 | 歩行者の様子 | 結果 |
仙台高裁S46.12.6 | 交通の頻繁な道路にて、横断しようと佇立していた歩行者(62歳)を前方約17.4m先に発見し警音器を一度吹鳴したものの、直前横断し衝突。 | 有罪(漠然進行した過失) |
大阪高裁S47.7.26 | 幹線道路の路側帯左側を車両と同方向に歩行する歩行者が、衝突地点8m手前で突如小走りで斜め横断 | 無罪 |
大阪高裁S48.10.30 | 中央分離帯の切れ目から被告人車の方向を向いて横断しようとしていた老人が、被告人車の前方約2.8mの地点で横断し衝突 | 有罪(中央分離帯の切れ目で発見時に警音器を吹鳴し直ちに減速して注意しながら進行すべき注意義務違反) |
東京高裁S39.3.18 | 時速40キロで進行中、対面歩行してくる8歳(下を向いて歩行)を発見。被告人車の約4.6m手前で横断 | 有罪(54条2項但し書き「危険を防止するためやむを得ない場合」に該当する) |
東京高裁S45.5.25 | 幅員25mの車道を横断するために、ガードレールの切れ目(街路樹の陰)から小走りで横断。夜間、雨天、酔っぱらい | 無罪(横断開始するまでに発見不可能) |
東京高裁S45.12.23 | 電柱の傍に佇立し道路左側を見ていた歩行者が、突如直前横断。バス停の付近。 | 無罪(横断しようとしていた事実が認められない) |

2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。
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