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なぜ左折車が優先でも過失割合が大きくなるか?

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こちらについて補足。

 

左折前に「できる限り左側端」に寄せる理由。
たまたま見つけたツイート。 これね、間違いなんですよ。 間違いというよりも中途半端が正解か。 後続自転車をブロックする目的で左側端に寄せる意味で間違いないのですが、要は「ブロックの仕方の問題」。 先に正解から。 ①合図のみならず、行動で左折...

 

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「優先」と過失割合は別

 

優先関係と誤解。なぜ判断できるのやら。
昨日の記事ですが、 結構不思議なのは、「直進優先だ!」と「言い切る人」がいたりすること。 おそらく道路交通法に詳しくないからそうなるのでしょうけど、あの動画だけで判断できることなんてないのですけどね… 直進と左折の関係 これですが、 ・大型...

 

https://twitter.com/4DX4ojQLuEW1waQ/status/1643517544345784320

これについて、どちらが「優先」なのかは動画を見ても判断できないと書きましたが、民事の過失割合を根拠にする人が多い。

 

民事の過失割合って、「過失」割合であって「違反」割合じゃないですよ。
過失(民法709条)は「予見可能な結果を回避しなかったこと」。

 

例えば、こちらの判例(刑事)について左折車優先とした判例は「信頼の原則」を適用しています。

判例 後続車との距離 後続車の速度 優先
最高裁判所S46.6.25 少なくとも60m手前で自転車を追い抜き 左折車
最高裁判所S45.3.31 左側のすぐ後に停止 先行左折車が赤信号で停止直後に発進 左折車
大阪高裁S50.11.13 14m 30キロ 左折車
旭川地裁S44.10.9 20m以上 自転車 左折車
東京高裁S46.2.8 至近距離 後続2輪車
最高裁判所S49.4.6 20m 55キロ 後続2輪車
東京高裁 S50.10.8 30mかそれ以下 45キロ 後続2輪車(ただし道路外左折事例)
福岡高裁宮崎支部S47.12.12 4、5m 30キロ 後続2輪車

信頼の原則とは、以下の法理。

他の交通関与者が交通秩序に従った適切な行動を取ることを信頼するのが相当である場合には、その者の不適切な行動によって生じた交通事故について加害者たる交通関与者は責任を負わない

結局のところ、後続2輪車が合図車妨害(34条6項)を遵守することが期待できる場面なら無罪だし、期待できないもしくは合図車妨害よりも先行左折車に進路変更禁止(26条の2第2項)が適用される場面では有罪。

 

で、民事責任の領域では信頼の原則もかなり限定的にしか働かない上、被害者は弱者である2輪車側になることから左折車の過失割合が高くなるように最初から設定されているだけ。
左折車優先とした判例でも、民事の過失割合にしたら左折車が大きくなるようにしているだけであって、「優先」は別問題になる。

 

要は民事領域では、「34条6項違反(合図車妨害)があることを予見して注意する義務」を課しているとも言えますが、だからといって道路交通法上の「優先」が変わるわけではない。
刑事責任上は信頼の原則を適用しても、民事上はそうはならないだけ。

 

例えばですが、こちらで紹介した福岡高裁平成31年1月18日判決。

 

自転車と横断歩道の関係性。道路交通法38条の判例とケーススタディ。
この記事は過去に書いた判例など、まとめたものになります。 いろんな記事に散らかっている判例をまとめました。 横断歩道と自転車の関係をメインにします。 ○横断歩道を横断する自転車には38条による優先権はない。 ○横断歩道を横断しようとする自転...

 

優先道路を進行したクルマと、横断歩道を横断した自転車の事故。

同法が自転車に乗って横断歩道を通行することを禁止しているとまでは解せないものの、横断歩道を自転車に乗って横断する場合と自転車を押して徒歩で横断する場合とでは道路交通法上の要保護性には明らかな差があるというべきである。
また、道路交通法38条1項は、自転車については、自転車横断帯(自転車の横断の用に供される道路の部分・同法2条1項4号の2)を横断している場合に自転車を優先することを規定したものであって、横断歩道(歩行者の横断の用に供される道路の部分・同法2条1項4号)を横断している場合にまで自転車に優先することを規定しているとまでは解されず、むしろ、本件の場合、Aは、優先道路である本件道路進行車両の進行妨害禁止義務を負う(同法36条2項)ことからすると、過失相殺の判断にあたっては、原判決判示のとおり、自転車が横断歩道上を通行する際は、車両等が他の歩行者と同様に注意を向けてくれるものと期待されることが通常であることの限度で考慮するのが相当である。

 

平成30年1月18日 福岡高裁

道路交通法上の「優先」でいうならば誰が読んでもクルマになりますが、過失割合はこう。

クルマ 自転車
70 30

過失割合が大きいと、道路交通法上の「優先」までひっくり返すわけではない。
クルマ(特に大型車)と2輪車が衝突したときに、2輪車が怪我をしたり死亡することが確実なので、民事責任上はクルマの過失を大きくし被害者保護にしただけ。
かといって道路交通法上の「優先」までねじ曲げるわけではない。

 

ところでこれ。

https://twitter.com/4DX4ojQLuEW1waQ/status/1643517544345784320

道路交通法上の「優先」については、いつ合図を出したか、合図を出したときに停止していたか、合図を出したときに原付との距離がどうだったのか次第で34条6項なのか26条の2第2項なのかが変わるため、「優先」を判断することは不可能。
なので

管理人
管理人
優先がどちらかはわからんけど、大型車があれだけ右に振って左折する以上は注意義務の大きさは左折車だろ!

が正解。
「過失割合が大きいから優先」みたいに語る人が多くてビックリしますが、優先と過失割合は何の関係もありません。

 

仮に道路交通法上は「左折車優先(合図車妨害)」と判断されたとしても、民事過失は80~85%が左折車。
そりゃ、左折する大型車と直進する2輪車が衝突したときに、大型車のドライバーが死亡するなんて全くあり得ないのだから、民事責任は左折車が大きくなるように決まっている。
ただそれだけの話でしかない。

人間の行動は

以前も書いたように、人々の考え方は道路交通法の義務よりも民事過失割合を重視する傾向にあるように思えます。
優先という考え方よりも、民事責任をいかにゼロにするかに重きを置くのかと。

 

この国では、横断歩道を横断した歩行者にも「過失」があれば過失にしますが、

状況 高齢者等 歩行者過失
広島高裁S60.2.26 横断歩道前で車両の状況を確認し、すぐに横断せずタバコに火をつけ確認せず横断開始 10%
神戸地裁H8.5.23 夜間、小走り 高齢者 5%
大阪地裁R2.9.25 昼間、直前横断 10%
東京地裁S46.4.17 左折時 ※20%
東京地裁S46.1.30 青信号で横断 20%
大阪地裁H28.2.3 死角 高齢者 5%
京都地裁 S48.1.30 夜間、横断歩道で四つん這いで探し物 70%
東京地裁S54.2.1 青色の表示中に本件道路の横断を開始し、センターラインの約3.5m手前付近で青色点滅の表示に変わつたが、極めて遅い歩調で横断し続け、センターライン付近で赤色の表示に変わつたが、なお従前どおりの歩行を続け、センターラインを少し越えた付近で本件車両用信号が青色信号と変わり、その後六秒程度歩行し続けた 40%

※東京地裁昭和46年4月17日判決は、二審で無過失になったかのような要旨あり(判決文不詳)。

 

横断歩道を横断する歩行者と38条の関係。判例を元に。
前回、横断歩道を横断する自転車についての判例をまとめましたが、歩行者についてもまとめておきます。 道路交通法38条1項とは 道路交通法では、横断歩道を横断する歩行者について極めて強い優先権を与えています。 (横断歩道等における歩行者等の優先...

 

「優先」という概念よりも、「過失(予見可能な結果を回避しなかったこと)」に重きを置くことになるのは、そういうこと。

 

どちらが「優先」なのかの議論に、過失割合を持ち出してくる人がいることにビックリしますが、要は「デカイ奴は優先侵害されることを予見してより注意するのは当然だろ!」というのが民事責任です。

 

なお、上で挙げた福岡高裁宮崎支部S47.12.12判決については、この中では唯一「普通乗用車」。
左側端まで寄せることが可能なのにもかかわらず寄せなかったことから直進優先としています。
けど、道路交通法の「優先」と「事故回避義務、注意義務の大小」の違いもわからない人が普通にいるのは勉強不足としか言えないよね。
日本の道路交通における「過失」って、優先侵害されることでも予見可能なら回避する義務を免れないので。


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