道路交通法上、自転車にはミラーの装備義務はありませんが、ロードバイクに乗る人の中にはミラーを後付けする人もいます。
ところで、自転車にミラー装備義務があったほうがいいのか、無くてもいいのかについては人それぞれ感覚は違います。
そもそもなぜ、自転車にミラー装備義務を定めていないのでしょうか?
自転車のミラー
そもそも私は、ミラー否定派でした。
いろいろ理由はありますが、進路を変更する際には目視が一番だと考えることと、自転車のミラーは「見にくい」(醜いではない笑)ことが理由です。
けどいろんな方から、
ミラーで後方確認の全てをしようとするから失敗する。
とアドバイスを頂きまして、そういう意味でミラーを付けてます。
実際のところ、目視と「音」がミラーよりも優先。
あくまでも進路変更時の確認は目視です。
ところで、なぜミラー装備義務がないのかについてちょっとマニアックな法律改正史を検討してみます。
「追いつかれた車両の義務」
現在の道路交通法27条「追いつかれた車両の義務」は軽車両が対象にはなっていません。
ただし、昭和39年道路交通法改正までは軽車両も対象でした。
まず、昭和35年以前の道路交通取締法から見ていきます。
この時代、追い越しする後車は「クラクションを鳴らす義務」があり、追い越しされる前車は「クラクションを受けたら左側に寄って譲る義務」がありました。
2、前項の場合においては、後車は、警音器、掛声その他の合図をして前車に警戒させ、交通の安全を確認した上で追い越さなければならない。
合図を受けた前車は左側端に寄る義務があった。
3 前項の合図があったことを知った場合において、前車が後車よりも法第16条第1項および第2項の規定による順位が後順位のものであるときは、前車は、後車に進路を譲るために道路の左側によらなければならず、その他のときは、追越を妨げるだけの目的をもって後車の進路を妨げる行為をしてはならない。
イメージはこう。
この時代は軽車両も追いつかれた車両の義務(旧令24条3項)の対象。
クラクションを鳴らす義務があったので、いちいち後方確認しなくても「後続車の追い越し意思」はわかったわけですが、騒音問題からこのルールは廃止されました。
次に昭和35年道路交通法。
この時代、自転車の並走は禁止されておらず、かつ、「追いつかれた車両の義務」の対象でした。
第二十七条 車両(道路運送法第 三条第二項第一号に掲げる一般乗合旅客自動車運送事業又は同条第三項第一号に掲げる特定旅客自動車運送事業の用に供する自動車(以下「乗合自動車」という。)及びトロリー バスを除く。)は、車両通行区分帯の設けられた道路を通行する場合を除き、第十八条に規定する通行の優先順位(以下「優先順位」という。)が先である車両に追いつかれ、かつ、道路の中央との間にその追いついた車両が通行するのに十分な余地がない場合においては、道路の左側に寄つてこれに進路を譲らなければならない。優先順位が同じであるか又は後である車両に追いつかれ、かつ、道路の中央との間にその追いついた車両が通行するのに十分な余地がない場合において、その追いついた車両の速度よりもおそい速度で引き続き進行しようとするときも、同様とする。
第十八条 車両相互の間の通行の 優先順位は、次の順序による。
一 自動車(自動二輪車及び軽 自動車を除く。)及びトロリーバス
二 自動二輪車及び軽自動車
三 原動機付自転車
四 軽車両
つまりこのように並走状態で「追いつかれた」場合には、並走状態を解除しなければならない。
道路交通取締法時代は追い越しする後車には「クラクションを鳴らす義務」があったので、後続車が追い付いたことはわかります。
しかし、「追い越し時のクラクションを鳴らす義務」が廃止された以上、自転車は「追いつかれたことを察知」しなければならない。
ミラーがないと、音と後方確認しか手段がありません。
しかしミラー装備義務が検討されたフシは見当たらない。
ところでさらに歴史を進めます。
昭和39年道路交通法改正時には、ジュネーブ条約に加入したことの影響で様々な改正がありました。
その中には、これがあります。
○追いつかれた車両の義務から軽車両が除外
ジュネーブ条約上は、自転車だろうと追いつかれた車両の義務を免除していないし、並走についても特別な場合を除き2台までは並走を認めている。
しかし日本では、「並走を原則禁止、追いつかれた車両の義務から除外」とすることで、左側端通行している分には追いつかれた車両の義務を果たしているという形を取った。
このあたりの流れをみると、勝手な想像になりますが
○ミラー装備義務を課しても、免許制ではない自転車に後方確認が期待しにくい(使いこなせない)。
○自転車が「追いつかれた車両の義務」を果たすことが期待しにくい。
こういう流れから、ミラー装備義務を課していないのではないかと勝手に推測します。
昭和33年に「自転車荷車税」が廃止されたのは、自転車が大衆的な存在になったことも一つの要因ですが、大衆的になればなるほど雑になりがち。
自転車のノールック横断の判例がまあまあありますが、そのわりにはミラー装備義務が検討されたフシが見当たらない。
そして昭和45年には自転車の歩道通行を正式に解禁したわけですが(解禁以前から警察が超法規的に歩道通行させていた記録も残っている)、歩道通行させたことにより「後方確認」という概念がより薄くなったのかもしれません。
ミラー装備義務は必要か?
自転車にミラー装備義務は必要か?という話になりますが、つけることが目的なのではなく、使いこなして後方確認することが目的です。
たぶん、使いこなせないまま形骸化するだけなんじゃないかと思うのです。
しかも自転車は子供から老人まで乗るわけで、ミラーを注視して前方が疎かになれば本末転倒。
反射板の装備義務は昭和53年に新設していますが、現実問題としては「役に立たないリフレクター問題」がある。
ちょっと気になってテキトーにママチャリのリフレクターを観察してみたのですが、そもそも付いてないとか、壊れたのか明後日の方向を向いているとか、やたら汚れているとかそんなのを見かけました。
結構形骸化することになるので、ミラー装備義務を課しても「使いこなせない」とか「割れて役に立たない」とか頻繁しそうな気がします。
けど、必要性を感じてミラーを付けている自転車も見かけるので、必要性を感じた人が使いこなして役立てるしかないんでしょうね。
あくまでも目的は「使いこなすこと」ですが、目視が基本。
ノールック横断についてはカジュアルにノールック横断をキメられると大変危険としか言えませんが、そもそも目視確認すらしない人にミラーを与えたところで使いこなして後方確認するのだろうか?と考えてしまいました。
そしてミラーよりもまずは前方注視をしっかりすべきですし。
前すらろくに見てない自転車にミラーを与えたところで、お察しな気がします。
まあ、見方によっては「自転車が後方確認をほとんどしなくてもいいような通行方法にしたから」と言えなくもないのかな。
2011年頃からクロスバイクやロードバイクにはまった男子です。今乗っているのはLOOK765。
ひょんなことから訴訟を経験し(本人訴訟)、法律の勉強をする中で道路交通法にやたら詳しくなりました。なので自転車と関係がない道路交通法の解説もしています。なるべく判例や解説書などの見解を取り上げるようにしてます。
現在はちょっと体調不良につき、自転車はお休み中。本当は輪行が好きなのですが。ロードバイクのみならずツーリングバイクにも興味あり。
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